典型的な、外国人とのコミュニケーション齟齬。ハリルホジッチ前監督の会見を見て

ハリルホジッチ前日本代表監督の記者会見を見たので、その感想を。

会見の内容については一応、テキストに起こしたが、かなり長い。
ハリルホジッチ前日本代表監督 記者会見内容
この会見はスカパーで放送されたのだが、その放送に呼ばれたゲスト陣、河治良幸・小澤一郎・岩政大樹の三方が、会見後、ほぼ完璧な要約をしてくれたので、時間がない人はそちらを見られたほうが良いのではないかと思う。

各ゲストの会見についての感想を簡単にまとめると、下記のような主旨だった(実際にはもっと詳しく話してくれているので、興味のある人はスカパーオンデマンドで見てほしい)。

河治良幸 日本人と外国人の文化の違いによるコミュニケーション祖語。はっきり言わないことで意思疎通に失敗している。
小澤一郎 サッカーの内容による解任でないことが、監督・協会、両方の会見からはっきりした。逆に言うとサッカーの内容そのものの問題意識については曖昧なまま。
岩政大樹 監督と選手の架け橋となる技術委員長とコーチ陣の役割が不明なまま。クラブチームならGMが方針を決め、コーチ陣が選手と監督の架け橋となるが、代表では誰がどの役目なのかが分からない。

結局のところ、日本人と外国人がコミュニケーションを取る時にありがちな、意思疎通の齟齬が問題の元凶だったのかなと。
ハリルホジッチ監督は会見内で、選手とのコミュニケーションに問題は無かった、と言っているが、表向きは監督に従っているように見えても、それは代表に選ばれたいからであったり、監督という役職を尊重してのもので、内心では疑心暗鬼になっていた、という選手もいたはずであり、その辺は意思表示をはっきりと示す欧米と日本の、文化の違いでもある。
また、解任が決まった後も大勢の選手から励ましのメッセージを貰った、とも言っているが、全力で仕事に取り組んでくれたことに謝意を表す、ということと、仕事内容をどう評価しているか、ということとは別であり、日本人の礼儀を重んじる行動と、仕事に対する評価を混同するのは危険である。

そして、そうした意思疎通の齟齬を埋めたり、抜き差しならない状況になる前に監督に対してアラートを上げたりする役割が、技術委員長、会長を含む日本サッカー協会と、日本人コーチたちの役割だったはずだが、岩政が言っている通り、役割分担が曖昧だったし、ハリルホジッチ監督が会見の中で「技術委員長がマリ戦の後に問題点を伝えてきたが、深刻なものという認識は無かった」と言っているところからも、その役割がしっかりと果たされていたとは言い難い。
「曖昧な中でも何となく意識の共有は出来ているはず」。そういう日本人的なコミュニケーションをハリルホジッチ監督にも求めてしまった、そういう甘い考えで惰性的に組織運営を進めてしまった、というのは、会長、技術委員長を含めた、日本サッカー協会の怠慢である。

ハリルホジッチ監督からすれば、表立って自分に異を唱える選手は少なく、いても数人であり、それはどこのチームでも起こり得ることであり、そして何より、自身を解雇する権利を持っている日本サッカー協会は、自分に対して特にアラートを上げていない。よって何ら問題は無い、と考えていたのだと思う。それは当然のことである。

このサイトでは、「大事なのはハリルホジッチ監督そのものではなく、代表の強化理念」だと書いたが、今の協会の現状だと、強化理念を追求し、大会後にそれを客観的に評価する、ということも難しい気がする。木澤氏の言っている通り、コミュニケーションの問題にばかり終始し、肝心のサッカーの内容に関してはどのような検証がなされているのかも不明な状態なので。出来れば大会後には、サッカーの内容というよりも、組織運営というもっと根本的なところから、第三者に評価してもらった方が良いのではないかと思う。

最後に、筆者が過去に読んだ書籍の一文を取り上げたい。

日本人の場合、たとえば「のどが渇いた」と子どもが言うと、「私は牛乳を飲みたい」ということを言わなくても、「はい、牛乳だよ」とお母さんが何か飲み物を出すでしょう。こうしたコミュニケーションの形式は、了解可能な相手とのやり取りに限定するなら、大変に優れた関係を構成しているといえます。
 日本の家庭の中で「あうんの呼吸」があってよいし、たとえばの話、「おい、ビール」と言ったとき、妻に「ビールをどうしたいの?飲みたいの?」なんて聞かれたら、味も素っ気もなくなるから、そういうことまですべて排除しようというわけではありません。
 しかし、いかに日本のコミュニケーションが島国の中で、自分たちの文化だけを共有して培われてきたのかということを、よく考えたほうがよい。とりわけ、ボーダーレスになって選手が海外に出て行くにあたっては、「あうんの呼吸」だけでは通用しないのです。
(中略)
それを具体的にことばにして伝えない限り、飲み物は目の前に出てこない。それが、ドイツをはじめとする欧米型のコミュニケーションなのです。

著作名は、「言語技術が日本のサッカーを変える」。
著者は、田嶋幸三。現日本サッカー協会会長であり、ハリルホジッチ監督を「コミュニケーション不足」として解任したご本人である。会長は、ご自身の著作を、今一度、穴が開くまで、見つめ直してみるべきなのではないだろうか。

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