日本代表、ハリルホジッチ監督解任の理由を考えてみる

サッカー日本代表、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督が解任された。
4月9日の16時に田嶋幸三JFA会長が記者会見を行い、4月7日付で契約を解除したことを発表。詳しい内容については様々なサイトでテキストや動画が上がっているのでそちらを参照していただきたいのだが、解任の決め手になった事象については明確には示されなかった。というより、意図的に言及を避けたような感じだった。
ただし、

  • 最終的なきっかけはコミュニケーション、信頼関係のところの問題が、マリ戦、ウクライナ戦の後に出てきてしまったこと。
  • 選手、スタッフとの摩擦が少なからずあるのは分かっているが、ボーダーラインを越えてしまった。

という言及はあったので、やはり、代表チーム内部の信頼関係が崩れてしまった、ということなのだと考えられる。会見内で、解任理由について言葉を濁すような部分が多かったのも、そのあたりをはっきり説明しようとすると、選手・監督間、もしくはスタッフ・監督間の具体的なやり取りに言及せざるを得ない、それは出来ない、ということなのかなと。

信頼関係が築けなかったのは、監督の人間的な部分、性格的な部分が理由だったのか、それとも監督の戦術的な選択や、そもそもの能力の部分について選手やスタッフが疑いを持ってしまったからなのか、出来れば記者会見ではそのあたりを突っ込んで欲しかったが、集まったメディアの質疑は「どう思うか」「どう考えているか」などのボンヤリしたものが多く、YES/NOでの答えを突き付けるような質問は少なかったので、その点は残念だった。

人間的な部分、性格的な部分が理由だった場合、これは当事者にしか分からないので、この記事では、監督の戦術的な選択や、そもそもの能力の部分について、これまでのこのサイトの記事を引用する形で考えてみたい。

まず、日本がアジア最終予選の突破を決めた時には、下記のような記事を書いた。

Gagner!! ワールドカップアジア最終予選 日本代表 VS オーストラリア代表

結局オーストラリアは、最後までロングボールは使わず、「繋ぐサッカー」を変えることはなかった。また、日本の1トップに対して3CBである優位性を活かしてCBの1枚を高く上げるとか、日本のIHのプレスに対してボランチをDFラインまで落としてプレスに来させないようにするとか、そういう日本のプレスをズラすメソッドも、余り持っていなかった。日本は最後まで、試合前から準備してきた形を行い続ければ良く、それが、この試合が日本の完勝で終わった一番の要因だったと思う。
(中略)
ただ、日本がワールドカップに行けば、「そうではないチーム」との戦いが待っている。
(中略)
そういう国々相手に、日本がどれだけのサッカーができるか、というのは未知の部分であり、そしてそれは、アジア予選と本大会のレベル差という、これまでも、そしてこれからも存在し続ける問題なので、本大会までにそこをどうやって埋めていくか、というのが今後の日本の課題になると思う。

日本は予選突破のかかったオーストラリア戦を快勝し、守備の時にはマンツーマンで前からハメに行く、そして奪ったら手数を掛けずにフィニッシュまで、という一つの形を手に入れたわけだが、それがワールドカップ本戦で当たる相手にも有効なのか、という部分は未知数だった。
そしてそれを確認する場が、2017年11月のブラジル戦、ベルギー戦という親善試合であり、この試合の終了後には、下記のような記事を書いた。

強豪相手にマンツーマンで戦うリスク。国際親善試合 日本代表 VS ベルギー代表

ネガティブなことばかり書いたが、全然ダメだった、ということではなく、チャンスもそれなりに作れたし、親善試合でリスクも洗い出せた、という意味で、有意義なチャレンジだったと思う。ただ、この戦いを強豪に対して90分間行うのは無理、ある程度の時間帯は、相手に回させて危険なゾーンだけ埋めるという守備が必要、というのが結論になると思う。

ブラジル戦では前からハメに行く守備を剥がされて疑似カウンターを受けるシーンが多く、ベルギー戦ではマンツーマンの守備が災いして、相手のポジションチェンジに対応できずに失点した。ただ、通用していた部分もあり、何より、ハリルホジッチ監督のチームはポゼッション型ではないため、前から奪いに行く、相手ゴールに近い位置でボールを奪う、ということを行う時間帯は絶対に必要、ということで、後はそれをどれぐらいの時間行うか、そして、それ以外の時間をどうやって過ごすかが問題、というのが個人的な認識だった。

そして直近のウクライナ戦。

いつか来た道。国際親善試合 日本代表 VS ウクライナ代表

ここまで書いてきたことを簡単にまとめると、現在の日本代表は、前から積極的に奪いに行く、ということに傾倒し過ぎていて、結果的に相手の攻撃を加速させ、守備のミスが起こりやすい状況に自らを導いてしまっている。そしてそれに伴って、スタミナの消耗も併発している。

ブラジル戦、ベルギー戦で得た教訓は、マンツーマンで前からハメに行く守備をずっと行うのは無理、ということだったはずだが、ウクライナ戦では寧ろその傾向がより強まってしまっていた。
また、もう一つ気になったのは試合後の長谷部のコメントで、下記のような内容だった。

ウクライナ戦後の選手コメント

例えば3トップの右の選手がかなり中へ引いてきて、そこで中盤で数的優位を作られて、うちのディフェンスが相手ひとりに対して3人で付いているような、(相手にとって)数的優位になってしまって、中盤で簡単にパンパンと繋がれるシーンが結構ありました。

このコメントは、相手ウィングが中に入ってきたことで、日本の方はウィングの選手をボランチ、SB、ボールサイドのCBの3枚で見てしまい、その分相手のインサイドハーフがフリーになって簡単に繋がれてしまった、ということだと思われる。その点についてはウクライナ戦の戦評でも述べた。長谷部は更に下記のようにも述べている。

ウクライナ戦後の選手コメント

基本的に、戦術どうこうというのは、今日もグラウンドで、相手がかなり分析とは違うやり方をしてきた中で、選手がどうフレキシブルに対応できるかということだと思うんですね。それが前半のうちに話してはいたけども、それを上手く改善できるところまではいかなかった。

相手は分析と違うことをしてきた。つまりそれは、ウクライナが日本対策を持ってこの試合に臨んできた、ということであり、その試合に内容・結果、両面で敗れた、ということは、日本の前からハメに行く守備の完成度が上がるスピードよりも、相手の対策のスピードの方が速い、ということを意味している。言い換えれば、前からハメに行く守備の強度や運動量を今以上に上げようとしても、その先は袋小路、ということである。

ただし、あくまでも親善試合だったので、このサイトでは下記のようにも書いた。

いつか来た道。国際親善試合 日本代表 VS ウクライナ代表

ただ、ハリルホジッチ監督の日本代表は、アジア最終予選のオーストラリア代表との試合では、ブロックを落として守る状態と前から奪いに行く状態を使い分け出来ていたし、その前のイラク代表戦では、引いてカウンター、という戦い方も出来ていたので、今の戦い方はあくまでも、親善試合でどこまで出来るか試したい、ということでやっている可能性もある。と言うか、そうであってほしい。

親善試合はあくまでも、ハリルホジッチ監督のサッカーに対する適性を見る場であり、本大会では勝利に最適化したプランを監督は用意している、というのが最後の期待だった。しかし、日本サッカー協会が解任という結論を出したということは、そのプランは用意されていなかった、もしくは、用意されていたとしても(信頼関係の問題か、プランそのものの問題なのかは分からないが)、実行は不可能だと判断された、ということなのだと思われる。

しかし心情的には、最後まで指揮を執ってほしかった。
多分ハリルホジッチ監督自身は、自分が日本のメディアやサッカー関係者、そして選手から好かれていない、という自覚はあったと思う。にもかかわらず、日本のサッカーの問題点について発信し続けていた。また、選手には出場機会であったり、体脂肪率であったり、監督に対する態度であったりを口やかましく言いつつ、それでも招集はして、期待している所は見せる、という人間臭さもあった。
日本人が他国の代表を率いて同じことが出来るか、ということを考えた場合、ハリルホジッチ監督の根底に、この国のサッカーをより良くしたい、という切実な気持ちがあったことは絶対に間違いない。
日本代表のロシアワールドカップの結果がどのようなものになるのかは分からないが、選手には、そのことに対する感謝の気持ちを持って戦う、ということを強く望みたい。