セレッソ大阪のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が今シーズン一杯で契約満了となり、来シーズンはセレッソの指揮を執らないことが発表された。
弊クラブでは、ロティーナ監督との契約について今シーズンをもって満了とし、来シーズンの契約を更新しないことで合意いたしましたので、以下のとおりお知らせいたします。
なお、ロティーナ監督のコメントは最終戦終了後にあらためて発表いたします。
後任につきましては、決まり次第お知らせいたします。
退任がロティーナ監督側の要望でないことは既にインタビューで明らかになっているので、セレッソ側が契約を更新しなかった、ということになる。
セレッソのJ1におけるシーズン最高順位は3位で、1回目はレヴィー・クルピ監督が指揮を執った2010年。この時の1試合平均勝ち点は1.79だった。また、2017年にもユン・ジョンファン監督の下で3位になっているが、この時は1.85。そして今シーズンは30試合消化時点で勝ち点55なので、1試合あたりの平均勝ち点は1.83である。また、現在のセレッソの順位は5位だが、4位の鹿島とは勝ち点で並んでおり、3位の名古屋とは勝ち点1差、2位のガンバとは勝ち点4差である。しかも鹿島は2試合、名古屋とガンバは1試合、セレッソより消化試合数が多い。つまりセレッソは今シーズン、歴代最高レベルのペースで勝ち点を重ねており、シーズン最高順位を塗り替える可能性もあるわけだが、にもかかわらずロティーナ監督との契約を更新しないということは、ネガティブなものであれポジティブなものであれ、強い理由が存在していると考えられる。
一番大きな理由は、今シーズンはリーグ優勝を目標として戦ってきて、それが果たせなかったからだと思うが、来シーズンもチームを預けてもう一度頂点を狙おうという話にならなかったのは、今のサッカーでは来シーズンも優勝は無理だと判断されたか、もしくは、来シーズンは優勝以外の目標があり、その目標に対して別の監督の方が適任だと判断されたか、いずれかと言うことになる。
では、今のセレッソに足りないものは何なのか。そこを今回考えてみることにしたい。
失点は少ない、しかし得点も少ない
まずセレッソの現状なのだが、上述の通り30試合消化時点で勝ち点55の5位。成績は17勝4分9敗で、得点数は41、失点数は33である。この失点数33という数字はリーグでは川崎、名古屋に次いで3番目に少ない数字だが、その一方で得点数41は上から13番目。リーグ17位の清水よりも少ない。つまりここにまず目が行く。得点数が少ないということは、チャンスを作れていないか、選手の得点力が低いか、もしくはその両方である。
ボールを持てているか
まずチャンスを作れているか、と言う所から考えてみたいが、それにはセレッソのサッカースタイルというものをまず定義する必要がある。ロティーナ監督は対戦相手によって戦い方を柔軟に変える監督で、ハイプレスのサッカーをすることもあれば、引いて守ってカウンターを狙うサッカーをすることもある。ただ大枠で言えば、ポゼッションサッカーを志向している。セレッソの指揮を執り始めた時も、まずボール保持の形を落とし込むことから始めたし、「自分たちがボールを持っている限り失点することは無い」という言葉もインタビューで口にしている。セレッソにとって、ロティーナ監督にとって、ボール保持は相手からゴールを奪うために行うものであると同時に、自分たちのゴールを守るために行うものでもある。つまりこれが出来ているかどうかがセレッソのサッカーの一つのバロメータになるのだが、それを表すのが以下に示す今シーズンのボール保持率である。
日付 | 節 | 対戦相手 | 結果 | 保持率(前半15分) |
---|---|---|---|---|
08/19 | 11 | 川崎 | 2-5● | 47.8%(46.0%) |
08/23 | 12 | 仙台 | 2-1〇 | 50.3%(50.0%) |
08/30 | 13 | 横FC | 2-1〇 | 39.7%(35.3%) |
09/05 | 14 | 浦和 | 3-0〇 | 46.3%(44.3%) |
09/09 | 15 | 札幌 | 2-0〇 | 38.7%(32.9%) |
09/13 | 16 | 横FM | 2-1〇 | 42.7%(36.2%) |
09/16 | 25 | 神戸 | 1-0〇 | 31.7%(34.4%) |
09/19 | 17 | 鹿島 | 1-2● | 54.1%(58.1%) |
09/23 | 18 | FC東 | 0-2● | 65.1%(66.1%) |
09/27 | 19 | 仙台 | 3-2〇 | 58.8%(59.6%) |
平均47.52%(前半15分平均46.29%) |
(データ引用元:https://www.football-lab.jp/c-os/match/?year=2020)
まず、今シーズンのセレッソの11節からの10試合(11節から19節の9試合と前倒し開催された25節の神戸戦)をシーズン中盤と定義する。19節終了時点でのセレッソの順位は2位、10試合の平均勝ち点は2.1。つまり好調だった時期である。上記はその期間のセレッソのボール保持率である。データはfootball-labのシーズンサマリーを使用している。以下、データは全て本稿執筆時点のものである。
これを見ると、シーズン中盤のセレッソのボール保持率の平均は47.52%となっている。
次に、20節から上述の25節を除いた30節までの10試合をシーズン終盤と定義し、この期間のボール保持率を見てみる。
日付 | 節 | 対戦相手 | 結果 | 保持率(前半15分) |
---|---|---|---|---|
10/03 | 20 | 川崎 | 1-3● | 44.0%(48.1%) |
10/10 | 21 | 名古 | 0-1● | 44.2%(57.5%) |
10/14 | 22 | 湘南 | 1-0〇 | 54.3%(54.8%) |
10/17 | 23 | 横FM | 4-1〇 | 42.3%(36.4%) |
10/24 | 24 | 浦和 | 1-3● | 57.6%(55.6%) |
11/03 | 26 | ガ大 | 1-1△ | 53.4%(62.2%) |
11/14 | 27 | 清水 | 1-3● | 56.1%(49.1%) |
11/21 | 28 | 広島 | 0-1● | 59.4%(35.9%) |
11/25 | 29 | 大分 | 1-0〇 | 35.2%(40.4%) |
11/29 | 30 | 横FC | 1-0〇 | 48.6%(53.3%) |
平均49.51%(前半15分平均49.33%) |
シーズン終盤の10試合のセレッソの平均勝ち点は1.3。つまり不調だった時期だが、この期間のセレッソのボール保持率の平均は49.51%。好調だった中盤戦より寧ろ増えている。ただ、サッカーは基本的に負けているチームの方がボールを持とうとするので、シーズン終盤は負けが込んだので保持率が上がったのではないか、と考えることも出来る。そこで前半15分(表のカッコ内の数字)に限定して比較してみると、シーズン中盤は46.29%、終盤は49.33%とやはり増えている。
2019年シーズンとも比較してみる。以下は2019年シーズンの最後の10試合のボール保持率である。
日付 | 節 | 対戦相手 | 結果 | 保持率(前半15分) |
---|---|---|---|---|
09/01 | 25 | 川崎 | 2-1〇 | 39.7%(37.5%) |
09/13 | 26 | 浦和 | 2-1〇 | 51.7%(49.4%) |
09/28 | 27 | ガ大 | 3-1〇 | 43.2%(43.5%) |
10/06 | 28 | 鹿島 | 0-1● | 63.8%(62.2%) |
10/18 | 29 | 札幌 | 1-0〇 | 48.6%(59.5%) |
11/02 | 30 | 松本 | 1-1△ | 67.1%(61.5%) |
11/09 | 31 | 湘南 | 1-0〇 | 56.2%(59.1%) |
11/23 | 32 | 神戸 | 0-1● | 43.1%(35.9%) |
11/30 | 33 | 清水 | 2-1〇 | 62.3%(61.7%) |
12/07 | 34 | 大分 | 2-0〇 | 49.9%(51.0%) |
平均52.56%(前半15分平均52.13%) |
(データ引用元:https://www.football-lab.jp/c-os/match/?year=2019)
2019年シーズン最後の10試合のボール保持率は試合全体の平均で52.56%、前半15分の平均で52.13%だったので、その頃と比べれば今シーズンのボール保持率は減っている。これに関しては、相手チームがセレッソのボール保持の形を研究してきたことと共に、今シーズンは選手交代が5枚まで可能になったことが大きいと思われる。選手交代枠が5枚に増えたのは、新型コロナウィルス感染拡大によるリーグ中断期間を過密日程でリカバーする必要があったためだが、フィールドプレーヤーのうち半分を交代できるということは、それだけ前線からのプレスを維持できるということである。
以上からセレッソのボール保持率についてまとめると、今シーズンに関しては中盤戦と終盤戦で大きな差は無い、ただ昨シーズンと比べると、5枚替えが可能になった影響もあり保持率は落ちた、ということが出来る。
ボールを相手ゴール前に運べているか
では保持したボールを相手ゴールに運べていたのか、という点について。この点についてはAGI値とチャンス構築率を見ることにする。AGI値は以下の場合に評価が高くなる指標である。
- 攻撃時間のうち、相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間の割合が高い
- 攻撃が始まってから、敵陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が短い
ボール保持率と同様、football-labのシーズンサマリーを見ると、セレッソのAGI値の平均はシーズン中盤の10試合は43、シーズン終盤の10試合では52.3なので、勝ち点を落としたシーズン終盤の方が寧ろ数値は高い。ただセレッソは基本的に遅攻が多く、無理に攻めるよりは自陣で回すことを選択するチームなので、好調時であれ不調時であれ、AGI値は低くなりがちである。下記は本稿時点での各チームのAGI値の平均だが、セレッソは上から14番目である。
順序 | チーム | AGI値平均 |
---|---|---|
1 | 川崎 | 62.8 |
2 | 横FM | 59.4 |
3 | 鹿島 | 57.9 |
4 | 広島 | 57.4 |
5 | FC東 | 53.8 |
6 | ガ大 | 53.4 |
7 | 札幌 | 52.9 |
8 | 清水 | 50.9 |
9 | 柏レ | 49.7 |
10 | 浦和 | 49.0 |
11 | 鳥栖 | 48.6 |
12 | 仙台 | 48.1 |
13 | 名古 | 47.6 |
14 | セ大 | 47.0 |
15 | 横FC | 46.5 |
16 | 湘南 | 46.0 |
17 | 神戸 | 45.9 |
18 | 大分 | 36.6 |
(データ引用元:https://www.football-lab.jp/summary/team_ranking/j1/?year=2020&data=kagi)
次にチャンス構築率を見てみる。
チャンス構築率とは、簡単に言えば自分たちのボール保持の形からどれだけの割合でシュートに持って行けたかを表す数値である。ボールを保持してから相手チームに渡るかプレーが切れるまでの間を1回の攻撃として攻撃回数をカウントし、この攻撃回数でシュート数を割った値がチャンス構築率となる。
上述のシーズンサマリーからチャンス構築率を見てみると、中盤戦でのチャンス構築率の平均は12.28%。一方、終盤戦でのチャンス構築率の平均は11.70%なので僅かに落ちてはいるが、大きな落ち込みではない。ちなみにセレッソの今シーズンのチャンス構築率の平均は、本稿時点でリーグで上から8番目(柏レイソルと同値)である。セレッソは低い位置でボールを動かして時間を使ったり相手の疲労を誘ったりする「ポゼッションのためのポゼッション」をすることも多いチームなので、AGI値と同様、チャンス構築率もあまり高くならない傾向にある。
(データ引用元:https://www.football-lab.jp/summary/team_ranking/j1/?year=2020&data=chance)
ここまでをまとめると、ボール保持率においても、AGI値においても、チャンス構築率においても、セレッソは好調だったシーズン中盤と不調だったシーズン終盤にそれ程大きな差は無い、ということが出来る。言い方を変えれば、好調時ですらセレッソは他を圧するようなサッカーをしていたわけではなく、基本的には少ないチャンスを決めきるサッカーをしてきたと言える。
選手の得点力を測る
では、その少ないチャンスを決めきる選手の得点力についてはどうか。これについてはゴール期待値と、実際に決まったゴール数との差分を見てみることにする。ゴール期待値とは、簡単に言うとシュートチャンスの得点確率を数値化したもので、得点になる可能性の高いチャンスなら1、可能性の低いチャンスならゼロに近くなる。つまり、ゴール期待値に対して実際のゴール数が多い場合は選手の決定力が高い、少ない場合は低い、ということになる。
(参考:football-lab:ゴール期待値とは)
チーム | 期待値平均 | 得点平均 | 差分 |
---|---|---|---|
川崎 | 2.399 | 2.6 | +0.201 |
横FM | 1.754 | 1.9 | +0.146 |
鹿島 | 1.730 | 1.5 | -0.230 |
札幌 | 1.585 | 1.4 | -0.185 |
神戸 | 1.550 | 1.5 | -0.050 |
FC東 | 1.504 | 1.4 | -0.104 |
浦和 | 1.489 | 1.3 | -0.189 |
ガ大 | 1.430 | 1.3 | -0.130 |
柏レ | 1.428 | 1.9 | +0.472 |
広島 | 1.408 | 1.5 | +0.092 |
清水 | 1.312 | 1.4 | +0.088 |
仙台 | 1.236 | 1.0 | -0.236 |
セ大 | 1.220 | 1.3 | +0.080 |
名古 | 1.205 | 1.3 | +0.095 |
大分 | 1.195 | 1.0 | -0.195 |
鳥栖 | 1.190 | 1.0 | -0.190 |
横FC | 1.052 | 1.1 | +0.048 |
湘南 | 0.903 | 0.9 | -0.003 |
(データ引用元:https://www.football-lab.jp/summary/team_ranking/j1/?year=2020&data=expected)
上記を見ると、セレッソのゴール期待値の平均はリーグで13番目である。一方、期待値と比較した実際の得点数の上振れ幅で言うと、セレッソは上から7番目。有意な差があるのは川崎、マリノス、レイソルぐらいである。目を引くのはやはり川崎で、期待値は断トツで1位、そして実際のゴール数の上振れ幅は柏に次いで2位、つまり多くのチャンスを作ることができ、しかもチャンスの数以上に決めることができるチームであることが分かる。ここと比べるとセレッソは(というかJリーグの殆どのチームは)見劣りせざるを得ないが、その一方、2位を争っているガンバや鹿島、名古屋と比べた場合は、決定力が極端に落ちるわけではない。
しかし、中盤戦と終盤戦で分けて見てみると様相が変わる。下記は節ごとの期待値及び得点との差、そしてシュート決定率(得点÷シュート数)である。
日付 | 節 | 対戦相手 | 得点 | 期待値(得点との差) | 決定率 |
---|---|---|---|---|---|
08/19 | 11 | 川崎 | 2 | 1.421(+0.579) | 16.7% |
08/23 | 12 | 仙台 | 2 | 0.651(+1.349) | 20.0% |
08/30 | 13 | 横FC | 2 | 0.964(+1.036) | 18.2% |
09/05 | 14 | 浦和 | 3 | 0.845(+2.155) | 16.7% |
09/09 | 15 | 札幌 | 2 | 1.318(+0.682) | 22.2% |
09/13 | 16 | 横FM | 2 | 1.832(+0.168) | 14.3% |
09/16 | 25 | 神戸 | 1 | 0.721(+0.279) | 8.3% |
09/19 | 17 | 鹿島 | 1 | 1.667(-0.667) | 7.7% |
09/23 | 18 | FC東 | 0 | 1.699(-1.699) | 0.0% |
09/27 | 19 | 仙台 | 3 | 2.270(+0.730) | 15.8% |
期待値と得点との差の平均:+0.461 決定率の平均:13.99% |
シーズン中盤戦では期待値と得点との差の平均は+0.461、シュート決定率の平均は13.99%だった。これをシーズン終盤戦と比較してみる。
日付 | 節 | 対戦相手 | 得点 | 期待値(得点との差) | 決定率 |
---|---|---|---|---|---|
10/03 | 20 | 川崎 | 1 | 1.046(-0.046) | 7.7% |
10/10 | 21 | 名古 | 0 | 0.384(-0.384) | 0.0% |
10/14 | 22 | 湘南 | 1 | 0.917(+0.083) | 7.7% |
10/17 | 23 | 横FM | 4 | 1.990(+2.010) | 22.2% |
10/24 | 24 | 浦和 | 1 | 1.005(-0.005) | 7.1% |
11/03 | 26 | ガ大 | 1 | 2.139(-1.139) | 6.7% |
11/14 | 27 | 清水 | 1 | 1.291(-0.291) | 5.3% |
11/21 | 28 | 広島 | 0 | 1.584(-1.584) | 0.0% |
11/25 | 29 | 大分 | 1 | 0.777(+0.223) | 11.1% |
11/29 | 30 | 横FC | 1 | 1.217(-0.217) | 9.1% |
期待値と得点との差の平均:-0.135 決定率の平均:7.69% |
シーズン終盤戦では期待値と得点との差の平均は-0.135、シュート決定率の平均は7.69%となり、明らかに落ちている。
既に見て来た通り、セレッソは多くのチャンスを作るチームではないので、選手の決定力が下がってしまうと難しくなる。ただ、昨シーズンのセレッソのゴール期待値と実際の得点の差分は-0.407だったので、これと比較すると、今シーズンは中盤戦は勿論、終盤戦の数値で見てもセレッソの決定力は向上している。
セレッソの得点者の分布
次に、セレッソの得点者の分布を見てみる。下記はセレッソで2得点以上取っている選手の一覧である。
ポジション | 選手 | 出場時間 | 得点数 |
---|---|---|---|
FW | メンデス | 1334分 | 7 |
MF | 奥埜 | 2148分 | 7 |
MF | 清武 | 2182分 | 7 |
FW | 豊川 | 598分 | 4 |
MF | 坂元 | 2431分 | 2 |
DF | ヨニッチ | 2700分 | 2 |
チーム内で最も得点を取っているのはメンデス、奥埜、清武の3名で各々7得点だが、このうちメンデスの出場時間が少ない。言い方を変えれば出場時間が多ければもっと得点を挙げていた可能性があるのだが、今シーズンのメンデスはコロナウィルスによる中断期間が空けた後、明らかにコンディションが悪くて、そこからシーズン中盤にかけて少しずつ戻してきて、しかしまた少し悪くなり、という状態でなかなか安定しなかった。
また、豊川は598分で4得点と短い時間で結果を出しており、チーム全体が下り坂の時に調子を上げて来てくれた、という意味でも頼もしい存在となった。しかしその一方で、豊川のプレースタイルはレスターのヴァーディのような感じで、前線に置くとどうしてもセレッソ全体がカウンター主体のサッカーになるので、そう言うサッカーをしたい時は良いが、したくない時は前線の軸を豊川にするのは難しい、という問題がある。
一方、FW以外に目を移すと、清武以外の中盤の選手の得点が少ない。奥埜はFWもボランチもこなす選手だが、7得点は全てFW出場時のものである。右SHのレギュラーである坂元はシュート本数こそ36本と多いが、決定率が低い(清武は41本)。昨シーズンの右SHのレギュラーだった水沼は2282分の出場で7得点2アシストだったので、そこと比べると坂元はアシストでは秀でている一方、得点力では改善の余地がある。またボランチのレギュラーである藤田とデサバトは、藤田が2100分の出場で得点1、デサバトが2068分の出場で得点ゼロである。ちなみに2位を争う他チームを見てみると、ガンバは井手口陽介と山本悠樹のボランチ2人で6点。名古屋は米本拓司と稲垣祥のボランチ2人で4点。鹿島はレオシルバと三竿健斗のボランチ2人で2点取っている。セレッソは昨シーズン、ボランチのソウザが1500分の出場で3ゴール2アシストだったので、昨シーズンと比べると、ボランチの得点力(もしくは得点パターン)が不足している。
守備面について
守備面についても少し触れたい。
最初に書いた通りセレッソの失点数は川崎、名古屋に次いで少ないので守備は決して悪くはない。ただ、最近の試合では失点が増えているのも事実である。守備組織が崩れているわけではないのだが、マンツーマンではなくゾーンで守るので、スクランブルな状況が起こった時に、陣形を整える暇もなくやられてしまったり、混乱が生じてミスをしてしまったり、ということが時々起こる。そして、このスクランブルな状況が起こるパターンとして多いのが、ひとつはボール保持時に相手の前からのプレスに引っかかり、ボールを低い位置で失ってしまう、というもの。そしてもうひとつは、相手がCBの裏やSBの裏に長いボールを入れてきて、それを撥ね返すが、セカンドボールを拾われて高い位置で相手に前を向かれる、というもの。
前者はボール保持の精度を高めるしかないし、またそもそも上述したように今シーズンは5枚替えが可能なので、仕方がない部分もある。一方、ロングボールに対するセカンド回収能力というのは選手の特性によって得意、不得意が決まるところがあり、今のセレッソはメンバー構成的にそこが弱い。ガンバ戦のレビューでも書いたとおり、ボランチのレギュラーがデサバト、藤田というどちらもファーストボランチ的な選手なので、ロングボールが蹴られて一時的に陣形が間延びした時に、その間延びしたスペースを幅広く動いてボールを拾うというプレーを両者とも得意としていない。よって、相手がロングボールを狙ってくることが分かっている場合は、セレッソの方はそういうプレーへの対応が得意な選手、つまりセカンドボランチ的な選手を置きたいのだが、今のセレッソにはそのタイプがあまりいない。昨シーズン開始前に山口、今シーズン開始前にソウザを放出したからである。
直近の大分戦、横浜FC戦のセレッソはこれまで右SHだった坂元をFWに上げ、右SHに片山、そしてボランチの一角に奥埜を置いているが、これも、チームの中で最もセカンドボランチ的な選手が奥埜だから、そして、ロングボールを跳ね返す力やセカンドを拾う運動量を片山に期待しているから、ではないだろうか。
まとめ
ここまで書いてきたことをまとめると、下記のようになる。
- 好調だったシーズン中盤と不調だった終盤に、チャンス構築数の差はそれほどない(ただし元々少ない)
- 順位を落としたのは決定力が足りなかったから
- 特に中盤の選手は清武以外の得点力が低い
- 守備面ではロングボールのセカンド回収力が弱く、失点の間接要因になっている
つまりセレッソに足りないものは、攻撃面では得点力のある中盤の選手、守備面では相手のロングボールに対して広いスペースを動いてボールを回収する能力のある選手、ということになる。そしてそれは結局のところ、運動量と得点力のあるセカンドボランチ的な選手ということであり、ソウザや山口蛍のような選手ということであり、今のセレッソは放出した選手の幻影に苦しんでいるとも言える。
また、セレッソが今より上のステージに行くことを考えた時、少ないチャンスを確実に決める、というスタンスに限界があるのも事実で、チャンス構築数を増やすためには、必然的にもっと高い位置でのプレーを増やす必要がある。今シーズンのセレッソの負けている時のプレーを見ていると、試合終盤にロングボールをどんどん蹴って行くことが多いのだが、ロングボールが行き交って陣形が間延びする展開は寧ろセレッソが苦手とする状況を生みやすく、殆どチャンスが生まれない割にピンチの数は増える。17節の鹿島戦、27節の清水戦などはまさにそうした展開だった。そうならないためには、ロングボールを蹴るのではなくプレスの位置を上げて、前にどんどん人を送り込んで、相手を押し込んでしまう、というサッカーをする必要があり、その為にも自らどんどん前に飛び出して行くセカンドボランチ的な選手が必要である。
セレッソがロティーナ監督との契約を更新しなかったのは、もしかすると、そう言う相手を押し込むようなサッカーをするにあたってサッカー観の違いというものがあったのかもしれない。また、ソウザをあまり重用しなかったり、ソウザと似たタイプの中島を新潟にレンタルに出したりと、ロティーナ監督はセカンドボランチ的な選手を起用しない傾向にあったので、もしかするとその点にもフロントとの間で方針の違いがあったのかもしれない。
最後になったが、ロティーナ監督と契約を更新しないということに対して反対か賛成かを言うと、現時点では自分は反対である。ただ監督交代というのは結局後任との比較論になるので、誰を連れてくるのかが分からない以上は結論も出ない。後任にはいくつかの名前が挙がっているが、個人的には、イヴァンコーチを昇格させるのではないかという気がしている。普通は監督との契約満了を発表する時にはお抱えのコーチについても同様に発表するものだが、今回はそれが無かったからである。