勇躍する前線、引き続き残る守備の課題。国際親善試合 日本代表 VS ウルグアイ代表

日時 2018年10月16日(火)19:35
試合会場 埼玉スタジアム2002
試合結果 4-3 日本代表勝利

日本代表が、南米の強豪相手にここまで躍動感のあるサッカーを見せる、というのは多くの日本代表サポーターにとって嬉しい驚きだったのではないだろうか。
森保ジャパン発足3戦目の相手は、FIFAランキング5位のウルグアイ。この試合、日本は1トップの大迫、そして2列目の中島、南野、堂安が出色の働きを見せ、ロシアワールドカップベスト8のチームを相手に4得点を奪取。また、ただ単に得点を多く奪っただけでなく、この日の前線の4人は、今まで日本人のアタッカーにあった、悪い意味でのステレオタイプなイメージを覆すプレーを見せていて、そこに、より大きな価値があったと言える。
一方、守備については大きな綻びは見られなかったものの、結果的には3失点。こちらについては、いまだに日本の弱点と言うものが根強く残っていて、この記事ではその点についても取り上げたい。

日本代表フォーメーション
15
大迫
10
中島
9
南野
21
堂安
7
柴崎
6
遠藤
5
長友
22
吉田
2
三浦
19
酒井
1
東口

この試合の日本代表のフォーメーションは、冒頭の4名を前線に置く4-2-3-1。スターティングメンバーは直前のパナマ戦から大きく入れ替わっており、2戦連続のスタメンとなったのはトップ下の南野、1トップの大迫のみである。

ウルグアイ代表フォーメーション
21
カバーニ
4
サラッキ
10
アラスカエタ
16
ペレイロ
14
トレイラ
6
ベンタンクール
17
ラクサール
3
ゴディン
19
コアテス
22
カセレス
1
ムスレラ

一方のウルグアイ代表は1トップにカバーニ、トップ下にアラスカエタを置く4-2-3-1。エースストライカーのルイス・スアレスは右膝の故障により今回の遠征には帯同していないが、それ以外の大半のメンバーは、ロシアワールドカップにも出場した主力メンバーである。

ウルグアイから見ると、日本はワールドカップでのグループリーグ、もしくは決勝トーナメント1回戦ぐらいのレベルの相手と言う想定のはずで、つまり、ある程度自分たちでボールを支配できる、支配して崩していくサッカーをする必要がある、と言うコンセプトで試合に臨んできたはずである。しかし、結果的には中盤の攻防で日本に対して後手を踏むことになった。

前半9分、先制したのは日本だった。左サイドに張った中島から、ウルグアイのCBの間に走りこんだ南野に突き刺すようなパス。南野は奥に走りこみながら、このパスを自身の背後にトラップして反転。ゴディンのマークを外すと、一つ持ち出してシュートコースを作り、右足でファーサイドにシュート。ボールはGKムスレラの脚を掠めてゴールマウスに収まった。奥に走りこんで手前にトラップ、右に持ち出して左にシュート。身体のキレとベクトルの変化でウルグアイ守備陣を引きちぎってのゴールだった。
中島のパスの瞬間には、堂安も右サイドから中央に向けて抜ける動きを見せていて、堂安のこの動きにウルグアイの左SBのラクサールが引っ張られて南野のシュートコースが空いた。そこの連動性も大きかったと思う。
一方ウルグアイの方から見ると、中島のパスの瞬間のトップ下のアラスカエタと右ボランチのベンタンクールの位置関係が悪く、中島からバイタルへのパスを右SHとトップ下の2枚で阻害するのか、右SHと右ボランチで阻害するのか、中途半端な状態だった。左に流れた大迫にベンタンクールが引っ張られたことによって中央へのパスコースが空いたにも関わらず、アラスカエタのポジションが高いままだったので、結果的に南野、堂安、両方に対するパスコースを残してしまった。

日本対ウルグアイ 1点目直前のシーン

失点後のウルグアイは、より自分たちが能動的にボールを運ばないといけないということで、組み立ての時には左ボランチのトレイラが左SBのポジションに落ちてビルドアップを行うようになった。しかしこの時にも、トップ下のアラスカエタが高い位置を取ったままなので、中央に付けるパスコースが無く、なかなかボールが回らない。一方の日本の方は、ビルドアップの時には中島が左サイドの低い位置に下りてくるのだが、その時にはトップ下の南野がウルグアイのSH、SB、ボランチのちょうど中間ぐらいの位置に下りてきて起点になる動きをする。更に、中島の方が間のポジションに入る時は南野が裏に走って相手最終ラインを引っ張り、中盤にスペースを作る。
つまり、ウルグアイが中盤の攻防で後手を踏んだのは、アラスカエタが攻撃、守備両方の局面で2トップ的なポジションを取って、あまり中盤を助けなかったのに対して、日本の方は南野が攻守両方の局面で中盤を助けていたから、というのが大きかった。

前半はこの後、ウルグアイがFKから同点に追いつき、その後日本が中島のミドルからこぼれ球を大迫が押し込んで再度突き放す、という流れで推移していったのだが、その間もウルグアイのトップ下のポジショニングの曖昧さというのはずっとあり、2トップ的に日本のCBからボランチへのパスコースに制限を掛けて行くわけでもなく、かと言って中盤に下りてボランチやSHと連動してスペースを埋めるというわけでもなく、という感じだった。そして、前線のところで日本のボランチへのパスに制限が掛からないせいで、ウルグアイのボランチが日本のボランチへの守備に引っ張られて、ライン間が空いてしまう、というシーンが散見された。このあたりは選手の個人判断の不味さなのか、監督の指示なのか、というのは気になるところだったが、アラスカエタが前半だけで下がったところを見ると、前者だったのかなと。

後半に入るとウルグアイは、上述のアラスカエタに代えてロドリゲスを、ベンタンクールに代えてバルベルデを投入。バルベルデは左のボランチに入り、前半は左に入っていたトレイラが右ボランチに回った。

ウルグアイ代表フォーメーション(後半)
21
カバーニ
9
ロドリゲス
4
サラッキ
16
ペレイロ
5
バルベルデ
14
トレイラ
17
ラクサール
3
ゴディン
19
コアテス
22
カセレス
1
ムスレラ

後半からのウルグアイは、カバーニと、交代で入ったロドリゲスが2トップ的に、日本のCBに対して積極的に守備をするように。また、日本の左サイドで中島がボールを持った時は、SHが開き、右に回ったトレイラがSHの横、ハーフスペースを埋めるようなポジションを取るようになった。つまり、明確に4-4-2で守る、という形で整理されていた。

試合は後半12分、日本のCB三浦が背後にカバーニがいることに気づかずGKにバックパスしてしまい、ボールをカバーニに奪われて日本が失点。これで2-2の同点になったが、その直後の後半14分には、日本のCKからウルグアイのカウンターになりそうだった所を、堂安がボールコントロールが大きくなったカバーニからボールを逆に奪い返し、ゴール前にいた酒井に預け、リターンを受けてシュート、これが堂安のフル代表初ゴールとなって、日本が再度リードを奪った。

堂安のゴールの後、ウルグアイは徐々にロングボールを多用する攻撃になって行った。守備を整理した後も中盤の攻防では日本に分があったため、中盤での攻防を少なくした方が良い、長いボールを使ってフィジカル勝負、もしくはセカンドボール狙いのインテンシティ勝負に持ち込んだほうが良い、という判断だったのかなと。上で書いたように、ウルグアイとしてはこの試合、ある程度ボールは支配できる前提でプランを練っていたと思うのだが、思ったような展開にはならなかったので、勝敗優先のサッカーに切り替えた、という感じだった。

しかし、堂安のゴールの時がそうだったように、ウルグアイの方は既に攻守の切り替えのところでも日本に対して後手を踏むことが多くなっていた。ウルグアイは直前に韓国代表とも親善試合を行っており、韓国までの移動+日本までの移動+前半の攻防の中での消耗、これらによって、フィジカルやインテンシティ面でも日本には分があった。
後半20分、日本が中盤で奪われたボールを、柴崎が逆に奪い返して南野にパス、これは上手く南野が収められなかったが、南野とウルグアイのDF陣との間でルーズボールになったところを堂安がそのままミドルシュート、GKムスレラが弾いたところに南野が走り込んで、日本が4点目。ここでも日本のインテンシティがウルグアイを上回った。

試合はその後、後半30分にウルグアイが、交替で入ったロドリゲスのゴールで1点差に迫ったが、同点に追いつくまでには至らず、試合結果は4-3で日本の勝利となった。

まず、この試合で凄く良かったのは、冒頭で述べたように、大迫、中島、南野、堂安の4人が、今までの日本人のアタッカーにあった、悪い意味でのステレオタイプなイメージを覆すプレーを見せていた、というところ。
このブログでは過去に「海外サッカーを見ていて、日本人選手と外国人選手の違いを感じる部分」という記事を書いたことがある。その記事の中では、(1)「ボールをキープする時の姿勢」(2)「インサイドキックで撃つシュートの威力」の2点を違いとして挙げた。
(1)について言うと、まず上述の4人はフィジカルが非常に強い。そして、ただ強いだけでなく、ボールキープの時のボールの置き所が良い。更には、常に相手に対して入れ替わるプレーを狙っている。相手からすると、押しても体幹がブレず、ボールも遠くに置かれているので、なかなか取りに行けない。無理に取りに行こうとして深く行ってしまうと、逆に入れ替わられる恐れがある、ということで、結果的にボールを収められてしまう。

海外サッカーを見ていて、日本人選手と外国人選手の違いを感じる部分

アグエロの場合は半身になっているので、相手から押されてもそれは横からの力、ということで容易に倒れないし、ボールは相手から遠いところに置いているので、相手が足を出して来ても、ボールに触れなければファウルになる。そして、相手から遠いほうの足はボールの近くにあるので、相手がボールを取りに来たタイミングでボールを動かしてファウルを貰うことも出来るし、逆に相手がボールを取ろうとして懐に入ってきたタイミングで入れ替わることも出来る。
相手からすると、取りに行こうとするとファウルになってしまうかもしれない、入れ替わられるかもしれない、ということになり、結果的にボールを取りに行けない。つまりフィジカル的な勝負の前に、精神的な駆け引きで優位に立っている。

また、(2)について言うと、この試合前半36分の大迫のゴールは中島のミドルシュートのこぼれ球を押し込んだものだったが、この時の中島のシュートはインサイドで蹴られていて、そのシュートに威力と精度があったことがゴールにつながった。また、この試合は中島だけでなく、大迫、南野、堂安もシュートに積極的で、日本の4点目も、堂安のミドルシュートがきっかけで生まれている。
この点については、森保監督が前日会見の中で「シュートで終わる」ということを強調していたので、選手がそれに応えたと言える。

森保監督 ウルグアイ戦前日会見

あとウルグアイは守備が強いので、その中でもわれわれは攻撃を仕掛けて、シュートまで、チャンスと思える形にまで完結して攻撃ができるということを意識してやっていきたい、ということを伝えました。途中で分かることが多ければ多いほど、われわれにとってピンチが増えるということ。先程も言いましたが、ウルグアイはカウンターから決め切る力、それだけのクオリティーを持った選手がいるので、まずは攻撃を完結させるということ。

一方、この試合では悪い面も少なからず出た。一つ目はセットプレーの守備。そしてもう一つはボランチのスペースを埋める守備である。いずれも、日本がずっと抱えている弱点であり、この点についてはいまだ克服されていないと言える。

まずセットプレーについて。この試合のウルグアイの最初のCKは前半16分。この時、日本は吉田がゴール前、堂安がペナルティアーク左側、長友が右側のゾーンにそれぞれ立ち、南野がニアサイドのストーン、それ以外はマンツーマン、という形で守っていた。そしてマンツーマンのマッチアップは、遠藤がカバーニ、三浦がペレイロ、大迫がゴディン、酒井がコアテス、柴崎がカセレス、という組み合わせになっていた。

日本対ウルグアイ 前半の日本のCKの守備

しかし、この形でいきなりゴディンにヘディングシュートを許し、これはGK東口が辛くもゴールマウス外に弾いたが、続く前半27分には日本から見て左サイドからのFKを押し込まれて失点してしまった。このFKの時も、日本はCKと同様、吉田がゴール前、堂安がペナルティアーク左側、長友が右側、南野がニアサイドのストーン、それ以外はマンツーマン、という形で守っていたのだが、ファー側へのボールをコアテスにヘディングで折り返され、この時に三浦がマークに付いていたペレイロを放してしまって、フリーでシュートを撃たれて失点、という流れだった。
そしてその後、前半31分のCKでは、長友がペナルティスポット付近に下がるようにポジションを取っていて、ヘディングでボールを跳ね返している。セットプレーで何度もやられていることから、長友が自発的にポジションを調節したのだと考えられる。
更にその次のウルグアイのCKは後半開始直後。このシーンではハーフタイムを挟んだことで、日本の守り方が大きく変わっていた。変更箇所としては、前半吉田が入っていたゴール前のポジションに大迫が入り、前半はゾーンを埋めていた長友がカセレスをマンツーマンで見るようになっていた。更に、長友がマンツーマンに参加したことによって日本は選手が一人余るので、吉田、三浦、酒井、柴崎の4人でゴディン、コアテス、そして後半から入ったロドリゲスの3人を見る、という形になっていた。

日本対ウルグアイ 後半の日本のCKの守備

しかし、これは完全に失敗で、4人で3人を見たことで逆にマークが曖昧になってしまい、ゴディンにニアでボールを中央に擦らされ、そのボールに飛び込んだコアテスもフリーにしてしまっていた。コアテスのシュートが枠外に外れたため失点に至らなかったが、完全にやられていた。
恐らく、4人で3人を見る、というような適当な決めごとではなく、もう少し詳細な決めごとがあったのだと思うが、このシーンでは上手く行かず、その後はCKのシーンが無かったので、結局、この試合の日本のセットプレーの守備は、終始ウルグアイに対して後手を踏む形で終わってしまった。
日本のCKの守備の時、中島は映っていなかったので、恐らく前残りしていたのだと思うが、この日のメンバー構成であれば、中島を堂安のところに入れ、堂安をマンツーマンなりストーンなりに参加させた方が良かったのではないだろうか。失点シーンでは中島はFKの壁に入っていたので、そこの結果は変えられなかったとは思うが。

最後にボランチの守備についてだが、この試合の日本の最後の失点、後半30分のウルグアイの3点目は、その直前に投入されたボランチ青山の守備対応に一因があった。
このシーンは日本が堂安と遠藤のパス交換でボールを奪われてしまったところからウルグアイのカウンターが始まったのだが、ここで青山が中央のスペースからサイドに出て行ってしまった。

日本対ウルグアイ 後半30分の青山の守備対応1

その結果、空けた中央のスペースを運ばれてしまい、そこから右サイドのカバーニ、逆サイドの裏に走ったロドリゲスと左右に振られて、シュートを決められてしまった。

日本対ウルグアイ 後半30分の青山の守備対応2

この青山にせよ、青山と交代で下がった柴崎にせよ、そして今回は招集されていないが山口や井手口にせよ、日本のボランチは、ハードワークは間違いなくしてくれるのだが、我慢してスペースに留まる、相手を遅らせる、というプレーが全般的に不得意で、ロシアワールドカップのベルギー戦でも、それが敗戦の一因となった。
ただし、この部分については光明が見えたシーンもあって、前半21分のシーンでは、遠藤が同じような場面で非常に良い守備を見せていた。

日本対ウルグアイ 後半21分の遠藤の守備対応

このシーンでは日本とウルグアイの選手が4対4、遠藤の周りは1対3の状況で、ウルグアイのカウンターになりそうなシーンだったのだが、遠藤が中央2つのパスコースを消しながら下がり、サイドのカバーニにボールを誘導したことで、カウンターを未然に防ぐことが出来た。こうしたプレーがもっと増えてくれば、日本のボランチの守備は更に良くなると思う。

色々書いたが、全体的には収穫と課題、両方が出た有意義な親善試合だったと思う。特に本田、香川、乾が不在となった2列目は日本の不安材料だったのだが、寧ろそれをチャンスと捉えて、新しい時代の主役を競い合うような選手たちが、早くも現れてくれたことは素直にうれしい。日本の直近の目標は来年1月のアジアカップだが、出来ればそこまで、攻撃陣は今の好調を維持してほしい。