敗因は3つ。AFCアジアカップ2019 日本代表 VS カタール代表

日時 2019年2月1日(金)23:00※日本時間
試合会場 ザイードスポーツシティスタジアム
試合結果 1-3 カタール代表勝利

AFCアジアカップ2019の決勝のカードは、日本代表とカタール代表の対戦。両チームとも、グループリーグは勿論、決勝トーナメント3試合も全て90分以内で勝利。敗北も引き分けもない、文字通り全勝で勝ち上がってきたチーム同士である。
ただ、カタール代表の現時点でのFIFAランキングは93位、つまり50位の日本より大幅に下、ということで、下馬評では日本有利、という見方だったのだが、試合結果はカタールの勝利。日本は2011年以来の優勝を逃し、カタールは初優勝、という結果で、この大会は幕を閉じることとなった。

日本代表フォーメーション
15
大迫
8
原口
9
南野
21
堂安
7
柴崎
18
塩谷
5
長友
22
吉田
16
冨安
19
酒井
12
権田

この試合の日本代表のフォーメーションは、大迫勇也を1トップに置く4-2-3-1。準決勝のイラン戦でボランチのレギュラー遠藤航が太腿を負傷したため、この試合では塩谷が先発。それ以外のメンバーはイラン戦と変わっていない。

カタール代表フォーメーション
11
アフィフ
19
アリ
6
ハティム
10
アルハイドス
3
ハサン
23
マディボ
2
コレイア
4
サルマン
16
フーヒ
15
アルラウィ
1
アルシーブ

一方のカタール代表は、アルモエズ・アリとアクラム・アフィフを2トップに置く5-3-2。
カタールは2022年の自国開催のワールドカップに向けた強化の途上にあるチームで、その強化策の中心には、「アスパイアアカデミー」と呼ばれるアスリート育成機関がある。ここで育成される選手には、そのスポーツの技術指導は勿論のこと、語学であったり、生活習慣に関するレッスンであったりと、あらゆる教育が施される。カタール代表を率いるのは、このアカデミーに所属し、U15からU19まで、各年代別代表を持ち上がりで指揮してきたスペイン人監督、フェリックス・サンチェス。カタールは2014年にはこの監督の元、アジアU19選手権で優勝しているが、その時のメンバーは全てアスパイアアカデミーの出身者である。この大会にも、合計で8名のアカデミー出身者が招集されている。
カタールのキープレーヤーは11番のアクラム・アフィフ。カタールの攻撃時には彼がボール付近にポジションを取って数的優位を作る。逆に日本ボールになって押し込まれた時は、彼が前残りのポジションを取って味方がクリアしたボールを拾い、カウンターに繋げる。また、試合の序盤は柴崎をマンマーク気味に見る、という役割も担っていた(これは途中でやめて、該当サイドのIHが見る形に変わったが)。個人的には、アフィフが前残りのポジションを取っている時の、ボールが来る位置の予測の的確さに驚かされた。味方が彼を見ずにクリアしたようなボールでも、ここに来るだろう、という感じで待っていて、そこから始まるカウンターに日本は苦しめられた。

さて、この試合の流れとしては、日本が前半に2点を奪われ、後半には南野拓実のゴールで1点差に迫ったが、その後、CB吉田麻也のハンドがVARでPKとジャッジされて再度2点差になり、最終スコア1-3でカタールの勝利、というものだった。この戦評ではそれを時系列で追うのではなく、試合の結果を左右した部分を、テーマ別に分けて考えてみたい。テーマは下記の3つである。

  1. 両チームのフォーメーション上のマッチアップ
  2. 審判のジャッジ
  3. 日本のセットプレーからの攻撃

まず1について。この試合の序盤の流れを決定づけた要因は、両チームのフォーメーション上のマッチアップだった。両チームのフォーメーションは既に上で紹介したが、これを重ね合わせると下記のようになる。カッコ付で表示しているのがカタール側の選手である。

日本とカタールのマッチアップ
15 16 4
15
大迫
9
南野
8
原口
23 21
堂安
2 10 6 3
7
柴崎
18
塩谷
5
長友
19 11 19
酒井
22
吉田
16
冨安

上記を見ると分かる通り、カタールのアンカー、23番のマディボの所が浮いている。日本の2トップが図のように横並びになるとマディボがフリーになる。そして南野が下がってマディボを見る縦関係になると、今度は3バックの両脇がフリーになる。また、日本の2ボランチ、塩谷と柴崎は相手のIH(インサイドハーフ)である10番アルハイドスと6番ハティムを見ていて、ここは一見マッチアップが合っているように見えるのだが、実際には、ここに11番のアフィフが引いてくる。カタールの方は、アフィフが引いてくる動きとIHが裏に抜ける動きがセットになっていて、IHがボランチを引き連れて縦に抜けることでアフィフがフリーになる。カタールは、この「誰かが抜けて、別の誰かをフリーにする」という動きが非常に徹底されていた。
上記のように、カタールのポジショニングは日本の4-4-2に嵌め込まれないよう設計されていて、日本の前半の1失点目と2失点目は、このマークのズレが原因で生まれている。
まず1失点目は、浮いている23番のマディボを気にした塩谷が中央に寄ったことで10番のIHアルハイドスにボールが通り、それと同時にもう一枚のIH、6番のハティムが縦に抜けて、左サイドを上がるアフィフをフリーにして、アルハイドスからアフィフにパス、アフィフが日本のペナルティエリア角あたりから19番、アルモエズ・アリにクロスを上げて、ゴールに背を向けたアリがボールを1トラップ、次のタッチでボールを空中に上げてオーバヘッドでゴールに運んだ、と言う流れだった。
そして2失点目は、前からのプレスが嵌まらないことで日本の方は自陣に4-4のブロックを作って対応、と言う形を取ったのだが、誰が誰を見るのか曖昧なままのブロックだったため、4-4の左の四角形、原口、長友、吉田、塩谷の4人の中間のスペースで6番のハティムがボールを受け、同時に19番アリが吉田と富安の間から裏に抜ける動きで冨安を引っ張ってハティムのカットインするコースを空け、このスペースを使って中央に切れ込んだハティムが左足で巻くようにシュートしてゴール、と言う流れだった。
1失点目、2失点目とも、日本は選手の間、間でボールを受けられていて、一方でカタールの方は、ただ間で受けるだけでなく、誰かが受ける時には、誰かが抜ける動きをして日本の選手を引っ張り、受け手をフリーにする、と言う形が徹底されていた。

さて、日本はどうすればマークのズレを防げたのか、ということになるのだが、まず、2失点目の時のように、引いて守るのであれば下記のような形にすべきだったと思う。

日本とカタールのマッチアップ(引いて守る場合)
15 16 4
9
南野
21
堂安
23
10 15
大迫
6
2 7
柴崎
18
塩谷
3
8
原口
19 11 19
酒井
5
長友
22
吉田
16
冨安

日本が引いて守る場合、カタールの両WBは当然高い位置を取るので、左の原口は落としてしまって、5バックのようにする。そして大迫に相手のアンカー、23番のマディボを見させて、南野と堂安が高い位置を取って相手の3バックを2枚で見る。相手がCBも上げてくる場合は2枚のうちいずれかが付いて行く。この形だと、アフィフが引いていく動きに最終ラインから誰かが付いて行っても最終ラインは数的優位のままになる。そしてボールを奪ったら、大迫に当ててボランチや原口に落とし、南野と堂安を相手の3バックの脇のスペースに飛び出させてそこに展開する。

また、引かずに前から守備に行く場合は下記の形が良い。

日本とカタールのマッチアップ(前から行く場合)
15 16 4
8
原口
15
大迫
21
堂安
23
2 10 9
南野
6 3
5
長友
7
柴崎
18
塩谷
19
酒井
19 11
22
吉田
16
冨安

守備時には日本の両SHはサイドに落ちるのではなく前に出て、大迫と共に相手の3バックにプレスを掛ける。そして南野が下がってアンカーを見れば、マッチアップのズレは無くなる。ただこの場合、後ろは数的同数になるし、アフィフの引いて行く動きに対しては受け渡しながら守るのか、どこまでも付いて行くのか、決める必要があるので、引いて守る場合と比較するとリスキーなやり方にはなる。

結論から言うと、日本は試合の途中で守備のやり方を変えた。
前半の35分、プレーが止まったタイミングで森保監督が大迫を呼び、彼に指示を与えた。大迫がピッチに戻って堂安と南野に何やら伝え、そこから日本は、大迫と堂安と原口の3枚で相手の3バックを見て、アンカーを南野が見るようになった。つまり上述の「前からプレスに行く時」の形に変えた。そしてこの変更により、後半は日本が一方的に押し込む展開になった。変更の時点で日本は2失点していたわけだが、変更がもう少し早ければ、もしくは2失点どちらかを防げていれば、試合の結果は逆になっていたのではないだろうか。
そして、ここからは完全に想像なのだが、森保監督の頭の中には、最初から、それこそ試合が始まる前から答えがあったのではないだろうか。にも関わらずそれを選手に伝えなかったのは、選手にピッチの中で答えを見つけてほしかったからではないだろうか。逆に言うと、そこがどうだったのかで監督への評価も180度変わる。何しろ、カタールは準決勝のUAE戦の終盤、まさに5-3-2の形で戦っていたので、何の対策もなくこの試合に臨んだのであれば無策に過ぎるし、それはないと思いたい。
ただ恐らく、選手たちが答えを見つける、もしくは自分から答えを与える前に、日本が早い時間帯で2失点してしまう、と言うのは想定外だったのではないだろうか。選手を成長させ、その上でタイトルも獲る、というシナリオが、この2失点で崩れた、という気がする。

次に2の部分、審判のジャッジについて。
上述の戦術変更によりプレスが嵌まるようになり、後半には1点を返して、これで試合はかなり日本が押せ押せの状況になったのだが、後半34分、VARによって試合が止められ、直前にあったカタールのCKの際、吉田にハンドがあったとしてPKのジャッジが下された。このジャッジは正しかったのか。
サッカーのルールでは、手にボールが当たれば必ずハンドではなく、ジャッジの際には「故意に手をボールに当てたかどうか」が加味される。そして、この「故意」の定義には、いわゆる「未必の故意」も含まれる。つまり、自分からボールに手を出したわけではないが、手に向かってきたボールを避けなかったとか、相手のクロスに対して足だけでなく手も伸ばして飛び込んで、あわよくば手に当たってボールが逸れることを期待するとか、そう言うプレーである。よって、ハンドかどうかをジャッジする際には、「避けるのに十分な時間や距離があったか」や「手が不自然な位置になかったか」「手に当たったことによってそのプレーヤーが利益を得たか」などが考慮される。このことを踏まえて、ハンドのシーンを見てみる。
アジアカップ 日本対カタール 吉田のハンドのシーン1
上記はカタールのCKが蹴られた時の画像で、吉田は相手の3番、ハサンと競り合っている。画像を見ると、ハサンのヘディングしたボールが確かに吉田の腕に当たっている。そして、腕に当たったことでボールは吉田から少し離れた位置に落ちた。周りに相手チームの選手がいる状況でボールが足元に落ちるよりも、少し離れた位置に落ちるほうが守備側から見れば安全なので、日本側は「手に当たったことで利益を得た」ことにはなる。ただ、「避けるのに十分な時間や距離があったか」を考えると、相手の至近距離からのヘディングで、ましてや吉田は空中にいる状態なので、避ける余裕は全くなかった。また、「手が不自然な位置になかったか」と言う点については、相手と競り合いながら空中に高く飛ぶ際に、腕を広げて飛ぶ、と言うのはサッカーでは普通に行われる行為なので、不自然さもない。
続いて、上記の画像の直後を見てみる。
アジアカップ 日本対カタール 吉田のハンドのシーン2
吉田が曲げていた腕を伸ばしたことでボールが離れた位置に落ちた。これを見ると、「吉田が腕を伸ばしてボールを弾き飛ばした」ように見えなくもない。ただ、上で述べたように、ジャンプの際に腕を広げるのは普通だし、その際、腕を曲げて空中に上がり、ジャンプの頂点に到達するあたりで腕を広げる、と言う順番になるので、画像の順番で腕が動いたのであれば全く不自然ではない。逆なら明らかに不自然だが。
そもそも1枚目の画像と2枚目の画像の間と言うのは一瞬であり、その間に、最初はヘディングでボールに触ろうとしていた選手が腕でボールをコントロールするほうに意識を切り替えるのは不可能なのだが、VARの場合、審判はスロー再生で見るので、「意図的だったのではないか」と言う意識で見るとそう見えてしまう、と言うことなのかもしれない。いずれにせよ、このジャッジは誤審だったと考えている。
また、このハンドの判定以外にもおかしなところはあった。後半のアディショナルタイムの計算である。
この試合では後半11分、日本のCKのシーンで、吉田と相手のCB、16番のフーヒの頭が接触し、審判が試合を止める、と言うシーンがあった。止めたのが大体11分37秒ぐらい、再開されたのが15分45秒ぐらいだったので、4分強止まっていたことになる。
また当然ながら、上述のVARのシーンでも試合を止めている。ビデオを確認するために試合を止め、そこからPKが蹴られるまでの間、そしてPKが決まってカタールの選手たちがゴールを喜んで、その後ボールがもう一度センターサークルにセットされるまでの間、プレーとしては切れた状態にあった。VARの確認が入る直前、主審がプレーを止めたのが後半34分45秒。PKが蹴られたのが後半37分ちょうどぐらい。ここで2分以上止まっている。そしてPKが決まって試合が再開されたのが後半38分24秒ぐらい。つまりVARの確認のために試合を止めてから、得点が決まって試合が再開されるまで、3分半ぐらいは試合が止まっていたことになる。上述のフーヒの負傷で止まっていた時間と合わせると7分半。
日本のゴールが決まったり、両チームの選手交代があったり、ファウルやセットプレーがあったり、と言う時間とは別に7分半もプレーが止まっていた時間があったのに、提示されたアディショナルタイムは僅か5分だった。どう考えても少ない。
審判が止まっている時間を正確に把握していないと、勝っている側のチームは痛んだ振りをしたり、抗議をしたり、再開に時間をかけたりして、プレー以外のところで時間を使うようになる。結果、見ていてつまらない試合になる。この試合のカタールはそういう行為はしなかったが、「この審判はアディショナルタイムを正確に取らない」と言うことを選手側が把握すれば、今後はそういうことが起こり得る。
この試合を裁いたのは、ラフシャン・イルマトフ主審、アブドゥハミドゥロ・ラスロフ副審、およびジャホンギル・サイドフ副審の3名からなるユニットで、彼らは日本の決勝トーナメント初戦、サウジアラビア戦でも笛を吹いている。そのサウジ戦は、原口いわく「取りに行ったら全部ファールになる」ぐらいのおかしなジャッジ基準だったし、この試合では上記の2点でおかしなレフェリングがあったし、正直なところ、審判の手腕には大きな疑念を抱いてしまった。

最後に3つ目、日本のセットプレーからの攻撃について。
この試合、日本には13本のCKと9本のFKが与えられたが、1つも得点に結びつけることが出来なかった。
まず、カタールのCKの守備のやり方なのだが、ゾーンとマンツーマンの併用、と言う意味では日本とやり方は同じなのだが、少し変わった設計になっていた。
アジアカップ 日本対カタール カタールのCKの守備
カタールはCKの守備のとき、キッカーの前に1枚、10番のアルハイドスが立つ。そして、日本はCKの時に1人、堂安か南野がボールサイドに寄るので、ショートコーナー対策として23番のマディボを近くに立たせる。11番のアフィフはこぼれ球とカウンターの準備のためペナルティアーク上にポジションを取る。そして、これ以外の選手はペナルティエリア内で守備をするのだが、この時、15番のアルラウィ、19番のアリ、16番のフーヒは特定のマークを持たない。前者2人はニアポスト付近に立っていたので、いわゆるストーン役だと思うが、フーヒに関しては、どうもフリーマンのような感じで、マークを持たずにボールを跳ね返す役割に集中する、と言う感じだった。ポジショニングも固定ではなく、日本側の、味方のマンマークが付いていない選手のところが危険なので、その選手が中央にいる場合は中央に、ファーサイドにいる場合はファー側にポジションを取っていた。つまり、日本の方から見ると、マンマークが付いていなくてフリーに見えても、実はそこはフーヒが狙っている、と言うことになる。
日本のキッカーは柴崎だったが、この「フーヒが狙っている選手」に蹴ってフーヒに跳ね返される、と言うシーンが多かった。特に後半、日本がボールを支配して日本のCKが増えた時間帯、カタールの方は冨安にマンマークを付けていなかったので、柴崎からは簡単に合わせられそうに見えたのかもしれない。そこも含めて罠だったのかもしれないが。
ちなみに、フーヒが頭を負傷して下がった後、カタールは14番のアルハジリを代わりに投入したが、彼は普通に冨安をマンマークで見ていたので、フーヒがいる時限定のやり方なのかもしれない。

一方、直接FKについてだが、この試合は日本に対してカタールのゴール付近、斜め前方でFKを与えられたシーンが都合4回あった。下の画像はそのシーンを集めたものである。
アジアカップ 日本対カタール 日本のFK
上記を見ると、走りこむ日本の選手に合わせて下がるカタールの選手の手前で、必ず1人もしくは複数の日本の選手がフリーになっている。1回はここを使っても良かったのかなと。

さて上記をまとめると、この試合の日本の敗因は下記3つになる。

  • マッチアップが嵌まる前に2失点してしまった。
  • 審判のジャッジが日本の不利に働いた。
  • セットプレーの狙いが悪く、得点に繋げられなかった。

3つのうち、2つ目については自力ではどうしようもないので、修正すべきは1つ目と3つ目ということになる。
特に1つ目については、選手がピッチ内で判断できるようになる、と言うのが重要である。この試合ではカタールの5-3-2は事前に情報があったし、日本が対応した後に、カタール側の次の策、と言うものもなかったが、ワールドカップのレベルになると、事前に情報がない形を相手チームが取ってくる、もしくは、日本が対策すると、別の形を取ってくる、と言うことは十分に有り得るので、その都度監督が指示を出して、それに選手が合わせて、と言うことでは間に合わない。ロシアワールドカップのベルギー戦でも、ベルギーが後半の途中で3-4-3から3-1-4-2に形を変えて、日本が逆転されたのはそこからだった。強豪国の選手は、そう言うピッチ上の判断や、その判断をチーム全体で共有する、と言う点で優れている。日本もそこに近づいて行って欲しい。