今のガンバの、そして近年のガンバの問題点は、一言で言えば「攻撃的でなければならない」という哲学と、現有戦力が持っている能力の乖離だと思う。
昨シーズンは片野坂監督の下、ボールを支配するサッカーに取り組んだが上手く行かず、シーズン終盤に松田浩監督への交代を行って何とか残留を果たしたものの、最終順位は15位。今シーズンは徳島を率いていたスペイン人監督ダニエル・ポヤトス氏を招聘したが、現在のところ最下位。
なぜ監督を変えてもいつも同じ結果になるかと言うと、それは守備力が足りないからであり、もう少し細かく言うと、守備的に戦って守り切れるレベルの力はあっても、攻撃的に戦いながら守備も成立させるレベルの力はないからである。特にボランチとCBの守備力が弱くて、また1列目2列目の守備力もそれをカバーできるほどには高くない。だから攻撃的なサッカーをしようとすると勝てなくなり、現実的なサッカーで守備のバランスを取り直す、という繰り返しになる。それは宮本監督、片野坂監督の時からずっと変わっていない。
今シーズンのガンバ、そしてポヤトス監督も、昨年と同様攻撃的なサッカーを志向しているが、攻撃的に戦おうとするとやはり勝てない。今シーズンのガンバのデータ(14節終了時点)を見ると、1試合平均の被ゴール期待値1.35に対して実際の被ゴールは2.14と、迎えたピンチの割合以上に失点しており、そこに端的に守備力の低さが表れている。
出典:https://www.football-lab.jp/g-os/?year=2023
ここ最近でガンバの成績が最も良かったのは、2位でフィニッシュした2020年だが、この時も1試合平均の被シュートは14.9でリーグ14位、被チャンス構築率も12.6%でリーグ13位と、決してピンチの少ないサッカーでは無かった。しかし、この年は1試合平均の被ゴール期待値1.675に対して被ゴールは1.2。これは守備的に戦っていたから、そしてGK東口が決定的ピンチを何度も防いでいたからである。
出典:https://www.football-lab.jp/g-os/?year=2020
今のガンバは攻撃的に戦っている分少ない人数で守ることが多く、また東口の後継者である谷晃生、そして東口自身も、2020年の東口ほどはシュートを止められていない。少ない人数で守ることを強いられればそれは結局GKのセーブにも影響を及ぼすので、今のガンバの失点が多いのは、要するに具備している守備力以上に攻撃的に戦おうとしているからだと言える。
下記は今シーズンのリーグ戦でガンバが獲得したFKと与えたFKの比較だが、獲得したFKが与えたFKを上回った試合は14試合のうち4試合のみ。守備力が不足している結果、相手の攻撃をファウルで止めることが多くなっている。
節 | 対戦相手 | 獲得したFK | 与えたFK |
---|---|---|---|
1 | 柏レイソル | 14 | 12 |
2 | サガン鳥栖 | 8 | 9 |
3 | ヴィッセル神戸 | 8 | 16 |
4 | サンフレッチェ広島 | 11 | 13 |
5 | コンサドーレ札幌 | 21 | 12 |
6 | 湘南ベルマーレ | 9 | 11 |
7 | 川崎フロンターレ | 10 | 15 |
8 | 京都サンガ | 10 | 15 |
9 | 横浜FC | 9 | 8 |
10 | 鹿島アントラーズ | 15 | 13 |
11 | セレッソ大阪 | 7 | 14 |
12 | 名古屋グランパス | 11 | 21 |
13 | 浦和レッズ | 4 | 8 |
14 | 横浜Fマリノス | 11 | 18 |
また、守備には大きく分けて、立ち位置で行う守備(スペースを埋めたりパスコースを切ったりする守備)と、対人的な守備(いわゆるデュエル)があるわけだが、ガンバは後者の方が弱いように感じる。
ガンバは宮本監督の時も片野坂監督の時も立ち位置で優位に立つというサッカーを目指していたし、現在のポヤトス監督もそうなので、そこは既にある程度できている。しかしそれ以外のところで負けている。
セットプレーの時や攻守の切り替えの瞬間は、立ち位置どうこうよりも個人のデュエルの強さが問われるが、ガンバはそこで相手をフリーにしてしまったり、混戦で入れ替わられてしまったり、つまりデュエルで負けてしまうことが多い。
個々のデュエルが弱いチームが攻撃的に戦おうとするとどうなるかと言うと、相手陣に攻め込んだ結果カウンターでやられてしまったり、ビルドアップでミスが出て少人数で守る必要が出た時に守れなかったり、セットプレーひとつでやられてしまったりする。そして先に失点すると相手側が守備を固めるので、結局攻撃でも点が取れなくなる。
ガンバの試合を見ていると内容は悪くなかったのに、もしくは試合の入りは悪くなかったのに、終わってみれば負けている、という試合が多い。それは結局、先に失点してしまうことが多いからで、リーグ戦でガンバが先制した試合は13試合中4試合しかない。
節 | 対戦相手 | 最終スコア(左がガンバ) | スコアの動き |
---|---|---|---|
1 | 柏レイソル | 2-2 | 先に失点 |
2 | サガン鳥栖 | 1-1 | 先制 |
3 | ヴィッセル神戸 | 0-4 | 先に失点 |
4 | サンフレッチェ広島 | 1-2 | 先に失点 |
5 | コンサドーレ札幌 | 2-2 | 先に失点 |
6 | 湘南ベルマーレ | 1-4 | 先に失点 |
7 | 川崎フロンターレ | 2-0 | 先制 |
8 | 京都サンガ | 1-2 | 先に失点 |
9 | 横浜FC | 1-1 | 先制 |
10 | 鹿島アントラーズ | 0-4 | 先に失点 |
11 | セレッソ大阪 | 1-2 | 先に失点 |
12 | 名古屋グランパス | 0-1 | 先に失点 |
13 | 浦和レッズ | 1-3 | 先制 |
14 | 横浜Fマリノス | 0-2 | 先に失点 |
先に失点すれば相手は引いて守るのでガンバの方はボールを回せるようになり、支配率は上がる。しかし相手が守っている分点は取りにくくなり、結果的には負ける。先に失点した試合でどれだけボールを支配できたか、という点にあまり意味はなく、大事なのは浦和戦のように、先に点が取れた試合で何が出来たか、という点になる。
ガンバの方が先制すれば相手は当然積極的にプレスをかけてくる。するとデュエルの数は多くなるし、低い位置でボールを失ってしまう可能性も増える。そういう試合で、それでもボールを守れるか、そしてボールを失ってしまってもゴールを守れるか、そこが攻撃的なサッカーができたかできなかったかの評価基準になる。
浦和戦の3失点は1失点目がPK、2失点目は浦和のCKが3回続いた流れで最後はPA内にふわっとしたボールを入れられてはじき出せずゴールに流し込まれる、3失点目はガンバのビルドアップ時にGKからアンカーへのボールを引っ掛けられてそのまま失点、というもの。いずれも崩されたわけではないのに失点しているという今シーズンのガンバに良くある形である。
1失点目のPKを取られたのはCB福岡だったが、相手のクロスを防ごうとスライディングした際に自身の足に当たったボールが手に当たる、という少し不運な形ではあったものの、手を上に上げてしまっていたし、PA内で滑ること自体がリスクのある行為だった。
2失点目に関してはCKが連続した流れで跳ね返しきれなかったという意味では結局デュエルに対する弱さだと言えるし、それプラス、ガンバはセットプレーの守備の後にラインで守る守備に切り替えるのが早すぎる気がする。
6節の湘南戦でも、湘南のFKのシーンでガンバのGK谷が飛び出して弾いたボールを湘南のFW町野がフリーで拾ったのにガンバの方はラインを揃えようとして、町野に無人のゴールに蹴り込まれる、と言うことがあった。この浦和戦の2失点目の時も、CKを跳ね返した後、最終ラインを揃えようとし過ぎてラインの裏に斜めに走りこんだ浦和の大久保を捕まえられておらず、シュートを許してしまった。
ゴール前でシュートを撃たれそうならラインどうこうよりまずシューターに当たりに行くとか、ゴールカバーに入るとかを優先すべきなのだが、ガンバはラインを揃えようとする意識が強すぎて、それもセットプレーの弱さにつながっている気がする。
(そもそも湘南戦のシーンでは飛び出した谷の代わりに誰かがゴールカバーに入ってもオフサイドラインはそのひとつ前の選手になるので、ラインで守るとしてもゴールカバーに入るのが正解なのだが)
そして浦和戦の3失点目については、直接の原因はGK東口の選択ミスなのだが、パスを付けられたアンカーの山本理仁が相手のプレスに負けて倒れてしまったのも失点の間接的な要因だったと思う。倒れず踏ん張っていればボールを失ったとしても次の守備に移れたし、また奪われ方も、スパッと奪われるのではなく多少なりとも抵抗した上で奪われると言う形であれば、味方の守備が間に合ったり、相手がすぐにシュート態勢を取れなかったり、ということが起こり得たと思う。
ガンバの失点はこういう、個人の守備対応のまずさやデュエルの弱さに起因しているものが多いので、戦術どうこうよりも、まずは人選段階でそうした要素を減らさないと失点は減らないように思う。特に、アンカーのところは現状、ネタ・ラヴィや山本理仁と言うプレーメーカータイプを置いているが、出来ればもう少し守備強度が高くてデュエルに強い選手をアンカーにおいて、プレーメーカータイプの選手は1列前に上げたい。
ただ、今のガンバにはそうしたタイプがいないので、そういう選手を取って来るか、もしくは誰かが割り切ってその役割に徹するしかない。それも無理な場合は3バックにするのが現実的な選択肢になるが、それは結局、宮本監督時代や片野坂監督時代にやったことと同じである。根本的な部分が変わっていないので同じところに立ち戻るのはある意味必然だが、またもう一度同じところをやり直すのか、それとも違う方法で解決を試みるのかが今のガンバとポヤトス監督には問われている。
なお、3バックにする場合は宇佐美をどうするか、という問題が浮上する。宇佐美は現状4-3-3の左IHに入ることが多いが、ゴール数はダワンと並んでチーム1位、ラストパス数はアラーノに次いで2位。攻撃では最も違いを作っており、チームのキャプテンでもある。守備面を酷評されることが多いが、以前と比べると向上はしている。
量が向上したというより質が向上していて、ガンバに帰って来た当初は守備の時の立ち位置が悪くて殆ど効いていなかったが、今はそう言うことはなくなっていて、当たり前のことを当たり前にやる、というレベルにはなっている。
もちろん、ガンバの3列目4列目の守備力から逆算すると、前線や2列目の選手ももっと守備をしなければいけない、ということも出来るわけだが、それを宇佐美に求めすぎて攻撃のエネルギーがなくなるよりは、アンカーのところにもう少し守備を求めるか、3バックにして宇佐美はサブに回し、点が欲しい時に投入するか、いずれかの方が良い気がする。
少なくとも、4-3-3の中盤3枚を宇佐美、ネタ・ラヴィ、ダワンで構成するのは、今シーズンここまでを見る限り厳しい。攻撃で違いを作っているのもこの3人なので、ポヤトス監督としては動かしたくないのだと思うが、この3人で行くのであれば、CBには凄く守備力のある選手が必要になる。しかしCBはもう既に右が三浦と福岡、左がクォン・ギョンウォンと江川で2枚ずついるので、新しい選手を取って来ると言うのも難しい。
つまり、宇佐美、ネタ・ラヴィ、ダワンの3センターを続けるのであれば、この3人が守備の個人能力を向上させるか、CBが凄く成長する以外にバランスを取る方法がない。それを待てる余裕は正直ないので、アンカーに日本代表の遠藤航のようなタイプを取ってきて、インサイドハーフは宇佐美、ネタ・ラヴィ、ダワンのうちから2人選ぶ、という風に変えるのが現実的ではないだろうか。
最初に書いた通り、ガンバの問題点は、「攻撃的でなければならない」という哲学と、現有戦力が持っている能力の乖離であり、哲学の方を変えるか、哲学に合わせた戦力を用意するか、いずれかが必要になる。そして哲学に合わせた戦力を用意すると言うのは何もテクニックや攻撃力に優れた選手を取ってくると言うだけではない。そう言う選手は昔も今もガンバには揃っている。
ガンバがタイトルを獲っていた時はそう言う選手に加えてシジクレイや明神、今野と言った選手がいた。言い方を変えれば、そう言う選手がスカッドにいない時のガンバは昔から不安定だった。
つまり、今のガンバが悩まされている問題は過去のガンバが悩まされてきたそれと同種であり、したがって、解決策もその歴史上に転がっていると言える。