捨てたこだわりが強さを生む。J1第13節 コンサドーレ札幌 VS ガンバ大阪

日時 2018年5月5日(土)14:03
試合会場 札幌厚別公園競技場
試合結果 2-0 コンサドーレ札幌勝利

ガンバはJ1第13節、アウェーで札幌と対戦。
シーズン序盤は6節まで勝利無しと苦しんでいたガンバだったが、9節の大阪ダービー以降は3勝1敗と持ち直してきた。特に失点が減少傾向にあり、9節から12節までの4試合で喫したのは1失点のみ。また、シーズン序盤から怪我で戦列を離れていたボランチ今野が戻ってきたことも明るい材料である。
一方の札幌は、今シーズン、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督を招聘。昨季チームを残留に導いた四方田監督を続投させず、コーチに戻すという驚きの人事だったが、今のところ監督交代は成功していて、12節終了時点でACL圏内となる3位につけている。

昨季まで浦和を率いていたペトロヴィッチ監督は、3バックを変化させながら戦うサッカー、いわゆる「ミシャサッカー」でおなじみの監督だが、そのサッカーを初めて完成させたのは、J2時代の広島を率いていた時。つまり、後にJリーグを席巻することになるミシャサッカーの洗礼を、日本で最初に受けたのは当時J2だったチームの面々であり、2008年シーズンにJ2でセレッソを率いていた、現ガンバ大阪のクルピ監督もその一人である。
同シーズンにセレッソで昇格に失敗したクルピ監督をセレッソのフロント陣が続投させたのは、J2に落ちた広島がペトロヴィッチ監督を続投させ、スタイルを確立したことに影響を受けたからだと言われており、また、翌2009年シーズンにはクルピ監督自身がセレッソで3バックを採用していて、そういう意味でペトロヴィッチ監督とクルピ監督は、縁浅からぬ関係である。
お互い攻撃的なサッカーを好み、テクニシャンを好む監督だが、思い描くサッカーが頭の中にはっきりとあるペトロヴィッチ監督に比べて、クルピ監督は白紙の状態から作り上げていくタイプの監督。そういう意味では正反対なのだが、好々爺に見えて激情家でもある、というようなキャラクター面では似ている。
似ているようで似ていない、しかしやはりどこか似ている。そういう監督同士の対戦である。

コンサドーレ札幌フォーメーション
9
都倉
18
チャナティップ
41
三好
38
8
深井
10
宮澤
14
駒井
5
福森
20
ミンテ
35
進藤
25
ソンユン

この試合の札幌のフォーメーションは、1トップに都倉、2シャドーにチャナティップと三好、3バックに福森、ミンテ、進藤を並べる3-4-2-1。広島でも、浦和でもペトロヴィッチ監督が取り入れてきた、おなじみのフォーメーションである。そして、試合が始まればこのフォーメーションが大きく変化することも、我々Jリーグファンは良く知っている。

ガンバ大阪フォーメーション
11
ウィジョ
10
倉田
7
遠藤
25
藤本
8
マテウス
15
今野
4
藤春
3
ファビオ
5
三浦
14
米倉
23

一方のガンバは、ファンウィジョを1トップ、遠藤をトップ下に置く4-2-3-1のフォーメーション。レヴィー・クルピ監督は大阪ダービーでは19歳の高江麗央とマテウスの2ボランチ、遠藤のトップ下という布陣で勝利を収め、続く湘南戦にも同じ形で臨んだのだが、その試合では敗北。続く鳥栖戦、仙台戦は従来のマテウス、遠藤のボランチコンビに戻し、この2試合には勝利。よって、同じ形を続けるかと思われたが、この試合では、怪我からの復帰以降はベンチスタートだった今野を、初めてスタメン起用。ボランチがマテウスと今野のコンビとなり、遠藤は再びトップ下に入る形となった。

さて試合が始まると、札幌は当然のことながら、「ミシャサッカー」に基づいた動きを開始する。
札幌はボールを持つと、3バックの左右のCBである福森と進藤がサイドに開き、3バックの中央のCBミンテと開いたCBの間にボランチ宮澤が下りて来て、福森、ミンテ、宮澤、進藤の4バックのような形になる。この形で両WBを高い位置に押し上げ、1トップ2シャドーに両WBを加えた5トップ的な攻撃で、相手のDF陣に対して数的同数、または数的有利を作り出して戦うのがミシャサッカーの基本である。
一方のガンバは、札幌の最終ラインがボールを持つと、中央にいるミンテと宮澤に遠藤とウィジョが2トップ的にプレス。札幌のもう一枚のボランチ深井は、マテウスが見る。そこから札幌のサイドに開いたCBの方へボールを誘導したら、今度はパスコースを縦に限定、最終的にはロングボールを蹴らせてボールを回収する。
回収した後のガンバの最初の狙いは札幌陣内、サイドの深いスペースへのロングボール。ボールを失った瞬間の札幌は下がったボランチとミンテの2バック状態で、そこから、開いていた左右のCBをスタートポジションに戻して3バックになり、更に押し込まれると両WBも落として5バックに、という形で変化していくので、5バック化するまではサイドの深い位置にスペースがある。よって、そこに1トップのウィジョやSHを走らせて前線に起点を作るのが、ガンバのファーストチョイスだった。

札幌の方は、ガンバが前からプレスに来ると、結構早めにロングボールを蹴ってしまう。ペトロヴィッチ監督が昨シーズンまで率いていた浦和は、相手が前からプレスに来ても、GKをボール回しに参加させて繋ぐ、というスタイルで一貫していたが、代表クラスの選手を揃えていた浦和では出来ても、札幌ではそこまでは要求できない、ということなのか、もしくは、そもそも札幌の前線にはハイボールに強い都倉がいるので、蹴ってしまっても収めてくれる可能性はある、ということなのか、浦和の時ほどは繋ぐスタイルにこだわらない、という感じだった。

前半のガンバの守備で気になったのは、札幌のシャドーの選手を誰が掴まえるのかが曖昧、という点と、セットプレーの守り方だった。

例えば前半5分には、上がってきた福森をマーカーの遠藤が放してしまい、福森の対応に今野が出たことで、中央のスペースがマテウス一枚になり、引いてきた三好がフリーになる、というシーンがあった。ミシャサッカーの中での左右のCBは、攻撃時には4バックのSBと同じような役割になるので、前線まで上がって行く可能性がある。ガンバの前線の遠藤とウィジョがそれをどこまでも追うのか、それともどこかで受け渡すのか、ということは予め明確に決めておかないと、このシーンのように順番にマークがズレて行ってフリーの選手を作られてしまう。3バックから4バックに変化する、というのは、そもそもそうしたズレを誘うことを狙ってのものなので、ある意味当然である。
その流れから米倉がガンバ陣内、ガンバから見て右コーナー付近で菅を倒してしまって札幌のFK。ガンバはFKやCKはゾーンで守る、かつクルピ監督はセットプレーでの守備でも基本フォーメーションを余り崩さずに守りたがる監督なので、ガンバの左サイド(ボールが蹴られる位置から見てファーサイド側)には藤春が立つことになる。ここに都倉が走り込んでヘディング。藤春は全く競っておらず、都倉は完全にフリーだった。

そして前半9分にも、ガンバの左サイド、倉田・マテウス・藤春の3者の中間のスペースに三好が下りてきて、ミンテからのパスを受けて前を向く、というシーンがあり、ここでもガンバは三好を掴まえられていなかった。三好は川崎から札幌にレンタルで加入した選手だが、川崎出身の選手らしく、こうした間で受けるプレーが非常に上手い。
その流れから、ガンバは一度ボールを下げさせることが出来たのだが、今度は左サイドに開いた福森から三好にロングボールが出て、これを三好がダイレクトで折り返し、このボールに都倉が突っ込んだところ、ガンバのGK林と交錯して、林が額を負傷してしまった。都倉はタイミング的には林をジャンプして避けることも出来たと思うが、多分、林がボールをこぼすことを期待してボールに行ってしまったのかなと。林は頭の位置でボールをキャッチし、こぼさないように抱え込んだので、結果的に都倉の足が頭部に当たってしまった。逆に、ボールで頭部を守るようにキャッチングしていたら、そのボールを都倉につつかれていたかもしれないので、勇気あるプレーだったと思う。
寧ろこのシーンでは、ガンバの選手たちが都倉や審判に何ら抗議をしなかった、ということの方が気になった。都倉に悪気があったかどうかは関係なく、自チームのGK、ひいては自分たちのゴールを守るために、意思表示はすべきだったと思う。
ガンバは既に、大阪ダービーで負傷した第一GKの東口が離脱中なので、林を下げることになると第三GKの谷がゴールマウスに立つことも有り得たが、林は出血した頭部にテーピングを巻いてプレーを続行。GKの交代は避けられた。

また、前半20分には、前半5分と同じような位置から今度はCKがあり、都倉は前半5分の時と同じようにファー側にポジションしていたのだが、キッカーの福森はニア側を狙ってクリアされてしまった。福森が蹴った後に都倉が「俺に上げろよ」というジェスチャーをしていたが、自分としても同意見で、福森は都倉を狙うべきだったし、もっと言うと、ガンバから見て右からのCKを左利きの福森が蹴るとアウトスイングのボールになり、ファーに届く前にGKにキャッチされてしまう可能性があるので、右利きの選手が蹴ったほうが良かったのかなと。

更に前半28分には、今度はガンバから見て左サイドから札幌のCKがあり、上述のシーンとは逆サイドなので、今度はファー側に米倉が立つことになった。
ここで札幌はショートコーナーから最後は都倉が米倉と競ったが、合わずにボールがラインを割った。米倉は都倉にしっかり身体を付けていたので、対応としては悪くなかったが、やはり相手チームで一番ヘディングが強い選手とSBの選手が一対一で競り合うというのは危ない。
ガンバは自チームから見て右サイドからのCKの場合、ウィジョとマテウスがニアサイドのストーン、中央が三浦・ファビオ・今野の3枚、ファーサイドが藤春、ニアポストに遠藤、ペナルティアーク付近に藤本と米倉を立てる、倉田は前線に残る、という配置。左サイドからのCKの場合は藤春と米倉の役割が逆になるのだが、いずれにせよファーサイドはSBの選手が単独で守ることになる。相手にヘディングの強い選手がいる場合は、今野をマンツーマンで付けるか、もしくは倉田を前線に残さずにマンツーマンで付ける、という形にした方が良いように思う。

クルピ監督はセレッソにいた2010年シーズンも、基本フォーメーションを余り崩さずにCKを守る、というやり方をしていて、確かにその時は、CKからのカウンターが多かった。ただその時は、高橋大輔というヘディングの強いSBがいて、カウンターに出て行くのもアドリアーノ、乾、清武、家長という非常にスピードのある選手たちだった。ウィジョ、遠藤、藤本、倉田で同じことを期待するのは少し難しいのかなと。あえて前線に一人残す場合は、遠藤を残して、遠藤がボールを納めてウィジョや倉田が追い越していく、という形にした方が、まだ成功率は高いのではないだろうか。

試合の流れに戻ると、前半の中盤ぐらいから、ガンバは引いてゾーンで守るようになって行く。ガンバは試合の当初はマンツーマン的に前からハメに行く守備をしようとしていたのだが、上述のように札幌の2シャドーを捕まえられないことでプレスがハマらず、逆に裏返されて背走することが多くなっていたため、そうせざるを得なかったのかなと。

ゾーンで守るガンバは遠藤が下がってきてウィジョを前線に残す4-5-1のような形で守っていて、それなりに安定はしていたと思うのだが、前半38分に札幌のボランチ、深井のシュートで失点してしまう。
失点シーンはガンバから見て右サイド、深い位置でボールを持った札幌の左WB菅が後ろの福森にボールを落とし、福森がクロスを上げて、このボールをゴール前に詰めていたチャナティップが先に触ったのだが、ボールはガンバのCB三浦に当たって、最終的にゴールを決めた深井の前に浮き球が落ちてきた、という流れだった。身長183cmの三浦が160cmのチャナティップに先にボールを触られたのは、177cmの深井、187cmの都倉がゴール前にいる中、まさかそっちに合わせてくるとは、ということで意表を突かれたのかなと。多分福森はチャナティップに合わせたのではないと思うし、跳ね返りが深井の方に飛んでしまった、ということも含めて、ガンバにとっては少し不運な失点だった。

前半は1-0の札幌リードで終了。
そして後半開始から、ガンバはボランチ今野を下げてFW長沢を投入、遠藤を下ろしてマテウスとの2ボランチとし、前線は長沢とウィジョの2トップとなった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半開始時点)
20
長沢
11
ウィジョ
10
倉田
25
藤本
8
マテウス
7
遠藤
4
藤春
3
ファビオ
5
三浦
14
米倉
23

後半のガンバは右SHの藤本が自由に、かつ中央寄りにポジションを取るようになり、その分右SBの米倉が積極的に前に上がるようになった。また、トップが2枚になったことで、前線に起点が出来るようになり、シンプルにFWに当てて、それをSHやSBに落とす、という形で、後半はガンバが徐々に札幌ゴール前に迫るようになって行く。

これに対し、札幌は後半11分に三好を下げて荒野を投入。
札幌のフォーメーションは、荒野がトップ下に入り、前線に都倉とチャナティップを置く5-2-1-2のような布陣に。

コンサドーレ札幌フォーメーション(後半11分時点)
9
都倉
18
チャナティップ
27
荒野
8
深井
10
宮澤
38
14
駒井
5
福森
20
ミンテ
35
進藤
25
ソンユン

正直、この交代采配の意図は良く分からなかった。
後半の序盤にガンバが押し込んでいたのは、前線の起点が増えたことと、それによってSBが高いポジションを取れるようになったこと。特に、ガンバのFWがサイドに流れてきて、SBが高い位置を取ると、ガンバの方はFW、SH、SBの3枚がサイドにいるのに対して、札幌の方はWB一枚なので、札幌側から見ると完全な数的不利になる。そして、数的不利になったサイドにボランチが引っ張られると、今度はバイタルが空く。交代の意図は、それを嫌って、3ボランチ的な布陣にして、サイドのボランチにサイドの守備をさせるのかな、と思ったのだが、交代後もボランチは2枚のまま。そうなるとガンバの攻勢も変わらない、という結果だった。

一方のガンバの方は、後半19分に肋骨を痛めた右SBの米倉を下げ、オジェソクを投入。サイドで数的優位を保てている中、攻撃的なSBである米倉はピッチに置いておきたい選手だったと思うので、痛い誤算だった。
そしてこの時間帯あたりから、ガンバの方は、後半序盤ほどは決定的なシーンを作れなくなって行く。ジェソクは米倉ほど高い位置に張ったプレーが得意ではないし、逆に札幌の方は、トップ下に入った荒野が守備を頑張っていて、サイドの方まで出て行ったり、逆に味方ボランチがサイドの守備に出た時はバイタルを埋めたりと奮闘していて、徐々にサイドでのガンバの優位性というのが無くなって行った。

そして後半26分、札幌に2点目が生まれる。
得点の流れとしては、札幌のボランチ宮澤がヘディングで前線に送った浮き球のボールを都倉がファビオとの競り合いに勝って収め、右WBの駒井に落として、駒井が対応に出てきたマテウスを抜き去ってトップ下の荒井に預け、荒井がバイタルのチャナティップにパス、チャナティップが軸足の裏を通してガンバDFラインの裏にボールを送り、ワンツー気味にこのボールを受けた荒井が藤春と競り合いながら駒井に落として、駒井がシュート。これはガンバのGK林がゴールマウスから飛び出してセーブしたが、ボールが再度駒井の前にこぼれて、今度は駒井がファーサイドにクロス、オジェソクが触ろうとしたが果たせず、都倉がオーバーヘッドで林の飛び出したゴールマウスに運んでゴール、という流れだった。
ガンバの方は、流れの中でファビオ、マテウス、藤春、オジェソクがデュエルに負けており、自陣ゴール前でそういうことが起こると、例え崩されていなくても失点は生まれてしまう。
逆に札幌から見ると、綺麗に崩したわけではないが、個々の局面でしっかりとデュエルに勝ってゴールまで繋げたわけで、偶発的な面があった1得点目と比べて、より意味のあるゴールだったと思う。

札幌は31分に左WB菅を下げて石川を投入。石川はそのまま左WBのポジションに入った。
ガンバは後半36分にファンウィジョを下げて中村敬斗を投入。前線は中村と長沢の2トップに。

そして札幌は後半37分にボランチ深井を下げて兵藤を投入。都倉とチャナティップの2トップの下に兵藤と荒野、アンカーに宮澤、と言う並びになった。

コンサドーレ札幌フォーメーション(後半37分時点)
9
都倉
18
チャナティップ
6
兵藤
27
荒野
10
宮澤
32
石川
14
駒井
5
福森
20
ミンテ
35
進藤
25
ソンユン

この布陣で札幌が試合をクローズ。リーグ戦2連勝でこの試合に臨んだガンバだったが、3連勝はならず、という結果だった。
後半の攻勢に出ていた時間帯に得点を奪っていればあるいは、という感じはあるが、札幌の交代采配が当たらなかった、そしてその交代時に、前半札幌のチャンスを生んでいた三好が下がった、という他力的な面もあった攻勢だったので、現時点での結果としては妥当なのかなと。

一方の札幌についてだが、繋ぎにこだわらず、場合によっては早めに蹴ってしまう、ということが寧ろ強さを生んでいると感じた。ペトロヴィッチ監督としては、繋がない、ということについてはもしかすると妥協している面もあるのかもしれないが、浦和の時はそこに拘泥して失点してしまったり、相手から見て予想しやすいサッカーになってしまっていたので、今の札幌のように、蹴る、繋ぐがその時々で変わるサッカーの方が、相手にとっては戦いづらい。
また、今の札幌には広島の時の佐藤寿人、浦和の時の興梠慎三とは全くタイプの異なる、都倉、ジェイというハイボール、ロングボールに強いセンターFWがいるので、そういう意味でも今のサッカーは札幌に適している。
今の順位を維持し、ACL出場となれば、クラブ始まって以来の快挙となるが、果たして。

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