奇数と偶数の戦い。J1第1節 セレッソ大阪 VS 横浜F・マリノス

日時 2018年2月25日(日)16:00
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-1 引き分け

2018年シーズンのセレッソのリーグ開幕戦の相手は、昨シーズンの最後、天皇杯ファイナルの相手だった横浜F・マリノス。
マリノスは上記の試合を最後に、チームを天皇杯決勝、そしてリーグ5位の順位に導いたモンバエルツ監督が去り、代わってオーストラリア代表を率いていたアンジェ・ポステコグルー監督が就任。
この試合は、新監督であるポステコグルー監督のサッカー、そして、マリノスが資本提携しているマンチェスターシティFCのホールディング会社、シティ・フットボール・グループのサッカーメソッドが、色濃く出た試合になった。

セレッソ大阪フォーメーション
9
杉本
17
福満
8
柿谷
16
水沼
24
山村
6
山口
14
丸橋
15
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、柿谷、杉本を2トップに置く4-4-2。レギュラークラスでスタメンを外れたのは、左SH清武と、ボランチのソウザの2名。前者は右腓腹筋筋損傷で6週間の離脱。後者はリーグ開幕前に行われたAFCチャンピオンズリーグ広州恒大戦でスタメンだったため、疲労を考慮してのターンオーバーだと考えられる。清武のポジションには福満が、ソウザのポジションには山村が入った。

横浜F・マリノス フォーメーション
7
ヴィエイラ
25
イルロク
11
遠藤
14
天野
8
中町
5
喜田
24
山中
2
デゲネク
22
中澤
27
松原
21
飯倉

マリノスの方は、天皇杯では怪我の影響で途中出場となったウーゴ・ヴィエイラがこの試合では先発。彼をワントップに置く4-1-2-3でスタートした。4-1-2-3というフォーメーションは、天皇杯決勝のマリノスのフォーメーションと同じだが、この試合でのマリノスの戦い方は、天皇杯決勝とは全く異なるものだった。

この試合のマリノスのサッカーは、一言で言うと、プレミアリーグ、マンチェスターシティのそれだった。
今シーズンのプレミアリーグは、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスターシティが首位を独走しているが、そのサッカーメソッドは独特のもので、「5レーン理論」と呼ばれている。
理論としてはシンプルで、ピッチを縦方向に5分割し、それぞれを1レーンと考えた時、ボールを持っている選手の1列前の選手は、1列後ろの選手と同じレーンに「いてはいけない」、逆に、ボールを持っている選手の2列前の選手は、2列後ろの選手と同じレーンに「いなければいけない」、ということになっている。この決めごとにより、ボールを持った選手の斜め前に必ずパスコースが出来る、逆にボールを持った選手の斜め後ろには必ずサポートの選手がいる、ということになる。
シティの選手、そしてこの試合でのマリノスの選手たちは、状況に応じて自由にポジションを変える。CBがSBのポジションにいることもあるし、SBがボランチのポジションにいることもある。しかし、基本は全て、上記の「5レーン理論」に則ったシンプルなもので、CBがSBの位置に開いた場合は、SBは同じレーンに「いてはいけない」ので、中に入ってボランチのようなポジションを取る、ということに過ぎない。そして、CBが開いた時にはアンカーの選手が最終ラインに下りてくるので、結果的に、最終ラインはCB、アンカー、CBという並び、その前には中に入ったSBがいる、というMの形になる。

この試合の先制点はマリノス。前半16分に左SBの山中が中盤の位置からミドルシュートを放ってゴール、というものだった。通常のサッカーでは、SBが攻撃時に中盤中央にいる、そこからシュートを放つ、ということはまず起こらない。しかし5レーン理論に則れば、CBが開いた時にはSBは中に絞ってくるので、ポジション的にはボランチと同じような役割、つまり、守備面では奪われた後のカウンターのケア、そして攻撃面ではミドルシュートを狙う、ということになる。よって、マリノスが行っているサッカーの中では、左SBの山中がボランチの位置からシュートを放ってスコアラーになる、ということも十分に起こり得る。
セレッソの方としては、遠目からのグラウンダーのシュートだったので、GKジンヒョンにストップしてもらいたかったところだが、ヨニッチの股の間を抜けてきたのと、小雨が降っていてスリッピーだったことで、ジンヒョンの反応が遅れてしまった。スローで見るとジンヒョンのステップが一つ多かったので、ヨニッチの足に当たった場合の準備をしたのかもしれない。結果的には当たらずに抜けてきたので、ステップを多くした分、間に合わずにゴールを割られてしまった。

前半はこの1点のみでスコアは動かず、後半はマリノスボールでキックオフ。
マリノスはDF3人以外を全員ハーフウェーライン際に立たせ、キックオフ直後からセレッソ陣内で5+2の形を作って、セレッソの陣形が整う前にボールを運ぶ、というサインプレーで後半に入ってきた。左サイドを上がった山中へのボールがわずかに合わず、ボールがタッチラインを割ってしまい、この作戦は失敗したのだが、前半のマリノスの組織戦術、そして後半の入り方を見ると、ポステコグルー監督がこのチームにあらゆることを落とし込もうとしている、ということは伝わってきた。

そして後半15分ぐらいからは、徐々にセレッソが押し込む展開に。セレッソは前から奪いに行くので、必然的に、マンツーマン気味な守備になって行く。逆にマリノスの方は、前半のような流動的なポジショニングでは守れない、押し込まれれば結局ポジションを決めて守らざるを得ない、ということで、ゾーンで守るサッカーに収束していく。マリノスは前で守る時はIHが前に出てくる4-4-2、引いて守る時は4-1-4-1、という形で守っていた。

試合終了後、セレッソ柿谷コメント

「(相手のやり方については)分かっていましたし、映像も何度も見ましたけど、どこまでのものか、ということはやってみないと分からない上で、多少は手こずりましたけど、押せ押せになってからは相手のフォーメーションは気にせずできたかなと思います」

試合終了後、マリノス中町コメント

「リーグ戦でこのスタイルでやるのは初めてですが、ある程度の手応えは感じました。1-0で進んでいれば相手が主導権を握る場面も増えてくるので、その守り方を突き詰めなければならない」

セレッソは後半31分に木本と水沼を下げて高木とソウザを投入し、山村をCBに。フォーメーションは山口をアンカーに、その前にソウザと高木を置く4-3-2-1に変わった。

セレッソ大阪フォーメーション(後半31分以降)
9
杉本
8
柿谷
17
福満
13
高木
11
ソウザ
6
山口
14
丸橋
22
ヨニッチ
24
山村
2
松田
21
ジンヒョン

同じメンバーで4-4-2、つまり柿谷と杉本の2トップ、左に高木、右に福満、ソウザと山口の2ボランチ、という形にも出来たわけだが、あえてそうせず、4-3-2-1にした、このユンジョンファン監督の采配は、マリノスのサッカーをどうやって封じるか、という意図がはっきりと表れた采配だった。

サッカーには偶数系と奇数系、という考え方がある。
ピッチの横幅を構成する人数は「4」が一番バランスが良い。それより少ないと守備の時に横幅をカバーしきれないし、それより多いと余剰になって、他のエリアで人数が不足する。よって、4-4-2や(守備時には実質4-4-2になる)4-2-3-1は、バランスを重視した「偶数系」と分類できる。
「奇数系」というのは偶数系に対抗するための手段で、横幅を構成する人数を1枚多くすることで、偶数系の相手に対して数的優位を得られるようにしたり、逆にあえて1枚少なくすることで、偶数系の相手の間のスペースに入りやすいようにするものである。5-4-1や3-4-1-2、そしてこの日のマリノスの4-1-2-3は「奇数系」に分類される。

上述の通り、マリノスの選手のポジショニングは流動的で、CBが2枚、その前にSBとアンカーの3人がいる、という2-3-2-3(Wを縦に並べた形)になることもあるし、CBの間にアンカーが下りて、SBが中に絞ってボランチのようなポジションを取る、という3-2-3-2(Mを縦に並べた形)になることもある。しかし共通している考え方は「奇数系」だということで、自分たちが「3」になっているところでセレッソの「2」のエリアに対しては数的優位を、「4」のエリアに対しては間で受けられるポジションを取れるようになっている。
偶数系のチームがこれに対抗する手段は大きく2つあって、一つは前後左右をコンパクトにして間のスペースを無くすという方法、そしてもう一つは、自分たちも奇数系にする、という方法である。上述のユンジョンファン監督の交代采配と布陣変更は、後者を選択した、ということであり、4-4-2から4-3-2-1に変更する事で、自分たちの方も奇数系になるようにした、ということである。
また、ビハインドということもあり、4-4-2で戦っていた段階から、セレッソの方は徐々にマンツーマン気味に前からボールを追いかける形になっていたので、それだったらフレッシュなソウザと高木に前からボールを追わせて、その背後を山口にカバーさせるほうが良い、という判断でもあったと思う。

そして後半40分、セレッソが同点に追いつく。
右サイドを上がったソウザが右足アウトサイドでゴール前にクロス、これを中澤がクリアミスしてしまい、後ろにこぼれたボールを柿谷がシュート、GK飯倉が触ってコースが少し変わったが、ボールはそのままゴールに吸い込まれた。

このゴールの後、セレッソは後半43分に福満を下げてFWヤン・ドンヒョンを投入。柿谷がトップ下、杉本が左のFW、ドンヒョンが右のFW、という4-3-1-2の形に。

セレッソ大阪フォーメーション(後半43分以降)
9
杉本
18
ドンヒョン
8
柿谷
13
高木
11
ソウザ
6
山口
14
丸橋
22
ヨニッチ
24
山村
2
松田
21
ジンヒョン

ただ、引いて守る時は柿谷を残して、右ウィングがドンヒョン、左ウィングが杉本、ワントップが柿谷、という4-1-4-1の形で守っていた。逆転ゴールを狙いたいのでFWを投入する、しかし同点になったことで相手も前に出てくるので、引かされてしまった時には柿谷に裏を狙わせたい、という2つの狙いが見えた采配だった。

しかし、この後両チームともにゴールは生まれず、試合は1-1、引き分けでタイムアップとなった。

この試合のマリノスは、ラインが少し高すぎて、セレッソに裏を狙われるシーンが何度もあった。前半5分には柿谷がマリノスDF裏で福満からパスを受け、完全にフリーでゴールしたがオフサイド、という判定があった。パスが出た瞬間には柿谷、福満ともマリノスの最終ラインの裏にいたので、オフサイドラインはボールのライン、そして柿谷はボールより明らかに後ろからスタートしていたので、完全に誤審だった。その他にも、この日はセレッソの選手がマリノスのDFラインの背後でチャンスを迎えるシーンが何回もあり、そうしたチャンスをセレッソが決められていれば、という試合だった。

しかし、そうした危うさを孕んだライン設定も含め、この日のマリノスのサッカーは正にマンチェスターシティの、ジョゼップ・グァルディオラのサッカーだった。シティのサッカーをJリーグに持ち込んだ場合、どういう結果になるのか。バルサやバイエルン、シティのような選手を揃えていなくても、グアルディオラのサッカーは再現可能なのか。それを今シーズンのマリノスは試行していると言える。マリノスの試合を見に行ける人は、是非見に行ってほしい。

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