ペップ流、守備的4-1-2-3の崩し方。プレミアリーグ第12節 レスターシティ VS マンチェスターシティ

日時 2017年11月18日(土)24:00 ※日本時間
試合会場 キングパワー・スタジアム
試合結果 0-2 マンチェスターシティ勝利

11節を終えて10勝1分け無敗、失った勝ち点は僅かに2。その間、奪った得点は38、失点は7。ジョゼップ・グアルディオラ監督就任2シーズン目のマンチェスターシティは、他を圧するパフォーマンスでプレミアリーグのトップをひた走っている。
今節は岡崎慎司の所属するレスターシティとの対戦。レスターはシーズン序盤の成績不振からシェイクスピア監督を解任し、新たにクロード・ピュエル監督を招聘したが、この試合は新監督の元で迎える、3試合目のリーグ戦となる。

マンチェスターシティ フォーメーション
33
ジェズス
19
サネ
7
スターリング
21
シルバ
17
デブライネ
25
フェルナンジーニョ
18
デルフ
4
コンパニ
5
ストーンズ
2
ウォーカー
31
エデルソン

この試合のマンチェスターシティは、ジェズスの1トップ、両ワイドにサネとスターリング、IH(インサイドハーフ)にシルバとデブライネ、アンカーにフェルナンジーニョを置く4-1-2-3の布陣。グアルディオラ就任以降、既におなじみの形で、前節アーセナル戦からの変更点は、トップがアグエロからジェズスに、CBがオタメンディからコンパニに変わったのみ。

レスターシティ フォーメーション
9
ヴァーディ
7
グレイ
26
マフレズ
21
イボーラ
11
オルブライトン
25
ヌディディ
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

一方のレスターも、ヴァーディの1トップ、グレイとマフレズを両ワイド、IHにオルブライトンとイボーラ、アンカーにヌディディを置く4-1-2-3でスタート。岡崎はベンチスタートとなった。

この試合、レスターのIHに入ったオルブライトンは本来SHの選手で、現地の予想フォーメーションでも左SHがオルブライトン、右SHがグレイ、トップ下がマフレズ、となっていたのだが、試合が始まってみると、上記のようなフォーメーションになっていた。
わざわざ本職でない選手をIHにしたピュエル監督の意図は分からないが、試合中の選手の振る舞いなどを見る限り、レスターの当初のプランはシティに対して前からボールを奪いに行く、ということだったようで、プレスの開始位置としてはセンターラインを少し越えたあたりに設定されていた。ただ、このプランは殆ど遂行されることなく、試合は開始当初から、シティの方がコントロールする展開になっていく。

そもそも、シティの方は4-1-2-3の守備を迂回する方法論がきっちりできていた。レスターの1トップのヴァーディはシティのアンカー、フェルナンジーニョを見ているので、中央から動けない。つまり、その脇のスペースが使える。シティはそのスペースを使う形が3つあり、1つは単純にCBのコンパニとストーンズのいずれかが上がって使う。2つ目はIHのデブライネとシルバのいずれかが下がってきて使う。そして3つ目が、SBのウォーカーとデルフのいずれかが中に絞ってきて使う。3つ目の方法、SBがポゼッション時にサイドに張るのではなく中に入ってくる、という動きは、バイエルン・ミュンヘン時代からグアルディオラ監督の率いるチームが見せる特徴的な動きで、現地ではInverted Fullback(インバーティッド・フルバック)と呼ばれている。
シティの方が上記いずれかの形でヴァーディの脇のスペースでボールを持つと、レスターの方はIHが前に出て対応するのだが、そうなるとアンカーのヌディディの脇のスペースが空く。シティはそのスペースを、IHのシルバとデブライネが使う、または、上述のようにIHが下がってスペースを作った場合には、両ウィングのサネとスターリングのいずれかが中に入って使う、という具合になっていて、つまり、ヴァーディの脇のスペースでボールを持つ→レスターのIHを引き出す→レスターのアンカーを孤立させてその脇のスペースを使う→そこを起点にフィニッシュまで、という形が確立されていた。

ただし、前半のなかばぐらいまでは、シティの選手たちのプレーに少し雑さがあり、丁寧に剥がしていくべきところを早めに裏に蹴ってしまったり、クロスやサイドチェンジのパスが合わなかったりと、代表ウィーク明けの強豪チーム特有の難しさ、というものが出ていた。更に、前半27分にはCBのストーンズが右足太もも裏を痛めて下がってしまい、CBのコンビが怪我明けのコンパニと途中出場のマンガラ、という組み合わせになり、しかもその時点でコンパニは既にイエローを貰っていたので、これはレスターにもチャンスが、と思ったのだが、全くそんなことにはならなかった。

この時間以降、シティの方は攻守の切り替え、特に守から攻への切り替えがどんどん速くなっていく。逆にレスターの方は、両ウィングのマフレズとグレイが攻撃の時には高い位置を取る割に、攻から守への切り替えが遅いので、どうしてもサイドのスペースが空く。そのスペースにシティの選手が入ってくると、最終ラインは下がるしかないので、レスターの方はどんどん間延びした守備になっていった。

そして前半44分、ついにレスターは失点してしまったのだが、このシーンのシティは、まず左SBのデルフが前述のInverted Fullbackの動きで中央でボールを受けた。これに対して、レスターは右IHのオルブライトンが前に出て対応したのだが、そうなるとアンカーのヌディディの脇のスペースが空く。シルバがこのスペースでデルフからのパスを受ける。レスターは右SBのシンプソンがDFラインから前に出て対応する。シルバがワンタッチで斜め後ろのスターリングに落とす。そして、スターリングが今度はヌディディの逆側の脇のスペースにいるデブライネへ。レスターの方は、このスペースは逆側のIHであるイボーラが埋めておきたいところなのだが、イボーラは前方にいるヴァーディと自分との間にフェルナンジーニョが立っているので、そこも見なければならず、スペースを埋められない。デブライネがボールを受け、スターリングに戻す。同時に、シンプソンがDFラインから出たことによって出来たギャップのスペースにシルバが走りこむ。シルバはシンプソンの背後、レスターのDFラインの裏で完全にフリーになってボールを受け、ここでシュートを打つことも出来たのだが、より確率の高い選択を、ということで逆サイドからDFラインの裏に入ってきたジェズスに横パス。これでレスターはGKシュマイケルも完全に外された。
レスターのIHを、アンカーのフェルナンジーニョと中央に絞ったSBでおびき出す→アンカーを孤立させてその脇のスペースでシルバとデブライネがボールを受ける→レスターのDFを最終ラインから誘い出す→空いたスペースからDFラインの裏へ。シティは試合開始当初からやろうとしていた形で、レスターの守備を完全に崩し切り、最後はジェズスが誰もいないゴールマウスにボールを転がしてゴールを挙げた。

後半、レスターは前半のままのメンバーでスタート。もう一度、試合前からのプランの通りに、ということで、前から積極的に守備をするサッカーで後半に入り、その流れで後半2分にイボーラがファウルを受けて、レスターから見てシティ陣内左寄りからのFKを得た。
このFKをマフレズが右サイドに張っていたオルブライトンに合わせ、オルブライトンがクロス、これをヴァーディがヘディングで折り返し、これはシティのGKエデルソンがパンチングでクリアしたのだが、詰めてきたマグワイアがこのボールをダイレクトでシュートした。しかし、ボールはゴールポストに跳ね返り、フェルナンジーニョの足元へ。これに反応してシティの選手たちが一気に走りだし、デブライネ、スターリング、ジェズス、サネが前線へ。デブライネがセンターサークルあたりでフェルナンジーニョからのロングフィードを受けて、左サイドを駆け上がったサネに更にロングパス。サネはサイドをえぐってクロス、と見せかけて、追い掛けて上がってきたデブライネにリターン。デブライネはボールを一つ左に持ち出し、左足を一閃。ボールがレスターゴール、ニア側のネットに突き刺さった。

マグワイアのボールがポストに跳ね返らず、そのまま決まっていればカウンターは無かった、同点だった、ということなので、運が無かった、という言い方もできるが、レスターは前半もシティの攻守の切り替えに付いていけていなかったので、その状態で前から積極的に守備をする、インテンシティの勝負に持ち込む、というのはちょっと無謀だったのかなと。

0-2になったことで、レスターはこれまで以上に前へ、というサッカーになったのだが、殴りかかろうとするとそれ以上のカウンターパンチが飛んでくる、という状態で、シティは前がかりになったレスターのボールを奪って更に危険なシーンを増やして行く。そしてレスターの方は、恐らく監督からの指示ではなくピッチ上の判断で、ということだと思うが、後半10分以降ぐらいから、前残りすることが多いマフレズに対して、右IHのオルブライトンが右サイドのスペースを、左ウィングのグレイが左サイドのスペースを埋める、という形になって行き、形としてはヴァーディの1トップにマフレズのトップ下、左SHがグレイ、右SHがオルブライトン、という形になって行った。

レスターシティ フォーメーション(後半10分以降)
9
ヴァーディ
26
マフレズ
7
グレイ
21
イボーラ
25
ヌディディ
11
オルブライトン
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

そして、後半22分、レスターのピュエル監督はオルブライトンに代えてケレチ・イヘアナチョを投入。グレイを右サイドに回し、イヘアナチョが左SHのポジションに入った。

レスターシティ フォーメーション(後半22分以降)
9
ヴァーディ
26
マフレズ
8
イヘアナチョ
21
イボーラ
25
ヌディディ
7
グレイ
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

この采配については、IHとしてこの試合に入ったオルブライトンが、上述の通りSHとしてプレーせざるを得ない状態になっていたので、であればイヘアナチョにSHとしてのタスクを与えて、人自体を変えたほうが良い、というのがピュエル監督の判断だったのかなと。ピッチ上での選手の判断を監督が追認したような采配だった。
ただ、布陣を4-4-2に変えると、レスターはトップ下のマフレズが、自分の裏にボールが入った時にプレスバックする動きをしないので、今度はレスターのFWと2列目の間のスペースで、フェルナンジーニョがフリーになることが多くなり、結局守備が機能しない。

そして後半38分、レスターはマフレズとイボーラを下げ、FW2人を投入。一人はスリマニ、もう一人は岡崎だった。フォーメーションはもう一度4-1-2-3に戻り、トップがスリマニ、ヴァーディが右ウィング、そしてなんと、IHが岡崎とグレイ、という組み合わせになった。

レスターシティ フォーメーション(後半38分以降)
19
スリマニ
8
イヘアナチョ
9
ヴァーディ
20
岡崎
7
グレイ
25
ヌディディ
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

この采配については、もう半分ヤケクソだったのかなと。
マフレズのインテンシティが低すぎてボールを奪い返せないので、そこを岡崎に代えたかった、得点を取りに行かないといけないのでスリマニも入れたかった、スリマニは中盤は出来ないので前に入れるしかない、岡崎にボランチをやらせるわけにはいかないのでとりあえずIHに、ぐらいの考えだったのかなと。もちろん機能しなかった。
試合はそのまま0-2で終了したが、岡崎とスリマニ、そしてその2人よりもさらに前から投入されていたイヘアナチョについても、ボールタッチは5回あったかどうか、ぐらいで、殆ど存在感を発揮することなく終わった。

正直、この日の2チームのレベル差は、選手の並びや交代采配でどうにかなる範囲を遥かに超えていた。
料理で言うと、素材は勿論、下ごしらえや仕込みのレベルが全く違う。
ピュエル監督としては、SHとボランチの間のスペース、いわゆるハーフゾーンをシティに使わせないために、4-1-2-3で戦う、IHでハーフゾーンを埋める、という考えで試合に臨んだと思うのだが、グアルディオラ監督とシティの選手たちは、そうした相手を攻略する手立てを2シーズンかけて構築してきており、監督が代わったばかりのレスターとは、組織の成熟度が雲泥の差にあった。

また、今のレスターは、中盤をコンパクトにして、ゾーンディフェンスで組織的に守る、という意識が中途半端に働いていて、以前よりも逆に難しい状態になっている、と感じた。以前であれば、この日のシティのような相手の場合は、ペナルティエリアの中まで引きこもってひたすらボールを跳ね返す、という割り切ったサッカーをしていたはずで、実際、そのサッカーの方が抵抗できたと思う。