シュート、被シュートの数と位置から考える、各チームのサッカーの傾向

表題の通り、今回はJリーグの1~20節のシュート、被シュートの数と位置の集計結果から、Jリーグの幾つかのチームのサッカーの傾向を考えてみようかと思う。
ピックアップしたのは、セレッソ大阪、ガンバ大阪、FC東京、名古屋グランパス、鹿島アントラーズの5チームである。
元々これを調べ出したのは、「セレッソの得点が少ないのはチャンスの数が少ないのか、それとも決定力が低いのか」を確認したかったからで、確認する上での比較対象として、その時(11~12節あたりだったと思う)上位だったFC東京、名古屋、鹿島、そして同じ大阪のガンバをピックアップしたのだが、数字を見ていくと、セレッソ以外のチームにも色々傾向が見て取れたので、セレッソの結果と合わせて記事にしてみることにした。
調査した項目はシュート数、被シュート数、得点数、失点数、ボール支配率の4項目である。シュート数、被シュート数についてはシュートが撃たれた位置についても調べ、ペナルティエリア(PA)外からのものとPA内からのものにまず仕分け、さらに、PA内からのものについてはゴールエリアの幅よりサイド側から撃たれたものと、ゴールエリアの幅より中央側から打たれたものとに仕分けた。同じシュートでも、PA外よりPA内から、PA内サイド側より中央側からの方が、チャンスとしてより大きいはずだからである。
なお、調査の数字は下記サイトの試合結果のページを元にしている。
https://www.football-lab.jp/

セレッソ大阪

ではまずセレッソから見て行こう。20節終了時点での順位は6位である(ただし、勝ち点2差で8位の広島が1試合未消化のため、暫定順位である)。
攻撃面での集計結果は下記の通りだった。

シュート数 264
 PA外 102(38.64%)
 PA内サイド 46(17.42%)
 PA内中央 116(43.94%)
得点数 20
1点に必要なシュート数 13.20
平均ボール支配率 50.89%

総シュート数は5チームの中で名古屋に次いで多かった。しかし得点は最も少なく、1点に必要なシュート数が13.20と、集計した5チームの中で最も多い。確率の低いエリアからしか撃てていない、と言うことも無く、PA内中央からのシュート数は116本で、こちらも名古屋に次いで多い数字である。これを見る限り、セレッソの得点力が低い原因は、チャンス構築の少なさではなく決定力の低さ、とみなすべきではないかと思う。元々ユン監督時代から、セレッソの前線の決定力不足というのは指摘されていて、そこからの上積み要素が今シーズン獲得した都倉とブルーノ・メンデスだったのだが、前者は膝の怪我で長期離脱してしまい、メンデスへの依存度が高い、と言うのが現状なので、それが数字にも表れていると言える。

一方で守備面については下記のような結果だった。

被シュート数 252
 PA外 115(45.63%)
 PA内サイド 34(13.49%)
 PA内中央 103(40.87%)
失点数 12
1失点に必要な被シュート数 21.00

被シュート数は5チーム中3番目で多くも少なくも無い。ただしPA外からの被シュートの割合が5チーム中最も高い。1失点に必要な被シュート数は5チーム中最も多く、結果、5チームで最も失点が少ない。
危険でない位置からのシュートは撃たせて構わない、と言う守備だと言える。試合を見ていても、今シーズンはGKキム・ジンヒョンがシュートを正面でキャッチするシーンが増えた印象がある。
また、20節までの時点で3失点以上の試合が存在せず、守備に関しては非常に手堅いチームだと言える。

ガンバ大阪

次にガンバの結果を見てみる。20節終了時点での順位は11位。攻撃面は下記の通りだった。

シュート数 263
 PA外 110(41.83%)
 PA内サイド 66(25.10%)
 PA内中央 87(33.08%)
得点数 25
1点に必要なシュート数 10.52
平均ボール支配率 53.76%

シュート数はセレッソと1本しか違わないが、得点は5点多い。セレッソと比べると決定力が高い、とみなすことが出来る。
また、PA内中央からのシュート数およびシュート率が5チーム中最も低く、逆にPA外からのシュート率が5チーム中最も高い。つまり難しい位置からのシュートが多いわけだが、それでもそこそこの得点をたたき出していることを考えると、難しいシュートをしっかり決めている、もしくは少ない好機でしっかり決めている、とみなすことが出来るのかなと。

一方で守備面。

被シュート数 276
 PA外 105(38.04%)
 PA内サイド 63(22.83%)
 PA内中央 108(39.13%)
失点数 29
1失点に必要な被シュート数 9.52

被シュート数が5チーム中最も多く、1失点に必要な被シュート数は2番目に少ない。結果、失点が5チームで最も多い。前半5分以内の失点が4試合あり、その点も、必要な被シュート数を下げている一因になっている。つまり、あっさり失点してしまう傾向にある。
ただし、1節から10節までの失点数と、11節から20節までの失点数とを比較すると、前者は1試合平均1.9失点だったのに対し、後者は1.0と、減少傾向にある。その一方で得点も減少傾向にあり、10節までの1試合平均得点は1.4だが、11節以降は1.0となっていて、シーズン序盤の取って、取られてという傾向から、点を取られないが、自分たちも取れない、と言う傾向に変わりつつある。ここまでの20試合で、失点ゼロの試合は合計7試合だが、その7試合の合計得点は4。守備的に戦うと今度は得点が取れなくなる、と言うのが宮本監督のジレンマである。20節の名古屋戦ではドイツから復帰した宇佐美が先発を果たし、3冠時代に宇佐美と共に活躍したパトリックも広島から加入することが決定している。彼らの得点力が、残りのシーズンの鍵になりそうである。

FC東京

3番目は20節終了時点で首位に立っているFC東京である。

シュート数 235
 PA外 85(36.17%)
 PA内サイド 54(22.98%)
 PA内中央 96(40.85%)
得点数 30
1点に必要なシュート数 7.83
平均ボール支配率 45.08%

ボール支配率、シュート数ともに5チーム中最も少ない。しかし、1点に必要なシュート数が鹿島に次いで少なく、結果、得点も鹿島に次いで多い。
シュート位置の傾向で言うと、PA外からのシュート率が5チーム中最も低く、つまりミドルシュートの割合が低い。相手にボールを持たせ、カウンターから相手の裏を取って、数は少なくとも得点になりやすい状況を確実に作る、と言う傾向が見て取れる。
また、3得点以上を挙げた試合のボール支配率の平均は、全試合の平均45.08%よりも更に低い41.76%となっていて、相手がボールを持ってくれるほうが戦いやすい、典型的なカウンター型チームだと言える。

守備面にも、相手にボールを持たせて引いて守る、と言うチームの傾向が出ている。

被シュート数 262
 PA外 106(40.46%)
 PA内サイド 49(18.70%)
 PA内中央 107(40.84%)
失点数 16
1失点に必要な被シュート数 16.38

支配率が低いので必然的に被シュート数が増えており、ガンバに次いで多い。しかし、守備的に戦っている分、準備が出来ている状態が多いので、1失点に必要な被シュート数はセレッソに次いで多い。結果、失点数もセレッソに次いで少ない。

名古屋グランパス

4番目は、風間八宏監督率いる名古屋グランパス。集計を始めた時点では上位だったのだが、20節終了時点では10位と順位を落として来ている。

シュート数 315
 PA外 116(36.83%)
 PA内サイド 51(16.19%)
 PA内中央 148(46.98%)
得点数 29
1点に必要なシュート数 10.86
平均ボール支配率 57.85%

攻撃面を見ると、シュート数、PA内中央からのシュート数、ともに5チームの中で一番多く、PA内中央からのシュート率も5チームの中で一番高い。ボール支配率も5チームの中で一番高く、ボールを能動的に保持し、相手を崩しきってゴールを奪う、と言う傾向が出ている。

被シュート数 207
 PA外 77(37.20%)
 PA内サイド 43(20.77%)
 PA内中央 87(42.03%)
失点数 27
1失点に必要な被シュート数 7.67

守備面を見ると、被シュート数は5チームの中で最も少ない。一方、1失点に必要な被シュート数も最も少なく、失点数自体は5チームの中でガンバに次いで多い。また、PA内中央からの被シュート率も5チームの中で最も高い。
ボールを支配するということは攻撃を受ける回数が減るということであり、その結果として被シュート数は減る。一方、支配率を高めるためには相手ボールになったらすぐに奪い返す必要があり、そのためには前から積極的にプレスに行く必要があるが、それが交わされてしまうと即失点につながってしまう。攻撃面と合わせて、FC東京とは対極にあるサッカーだと言える。
上述の通り、集計を開始した時よりも順位が下がって来ているのだが、1節から10節までと、11節から20節までを比較すると、得点は減少傾向に、失点は増加傾向にある(10節までは18得点7失点、11節以降は11得点20失点)。前から積極的にプレスを掛けて、相手ゴールの近くで奪い返すことが出来れば、得点機会が増えると同時に失点機会も減る。逆に、奪い返せずカウンターを受けてしまうと、失点機会が増えると同時に得点機会も減る。攻守一体の名古屋のサッカーは守備と攻撃の相関関係が強く、片方が良ければもう片方も良くなり、片方が悪くなればもう片方も悪くなる。勝ち続ける時期と負け続ける時期が交互に訪れるのはそのためかもしれない。

鹿島アントラーズ

最後に鹿島アントラーズ。このチームはアジアチャンピオンズリーグの関連で16節が未消化のため暫定順位だが、3位につけている。

シュート数 242
 PA外 100(41.32%)
 PA内サイド 33(13.64%)
 PA内中央 109(45.04%)
得点数 34
1点に必要なシュート数 7.12
平均ボール支配率 49.52%

攻撃面を一言で言うと、決定力が異常に高い。
シュート数は5チーム中4番目だが、1点に必要なシュート数が7.12と最も少なく、結果的に、1試合の未消化があるにもかかわらず5チームの中で得点が最も多い。
ボール支配率は5チーム中、FC東京の次に低く、同じくカウンターの多いチームとみなせるが、FC東京との違いはPA外からのシュートの多さ。FC東京のPA外からのシュート数が85であるのに対して鹿島は100。また、これが得点にも結び付いており、34得点中5得点はPA外からのシュートで奪っている。

被シュート数 218
 PA外 90(41.28%)
 PA内サイド 38(17.43%)
 PA内中央 90(41.28%)
失点数 16
1失点に必要な被シュート数 13.63

1試合未消化であることを考慮する必要はあるが、被シュート数が5チーム中、名古屋に次いで少ない。ただし名古屋と異なり、ボール支配率は50%を切っているので、中盤ではある程度持たせるが、シュートまでは行かせない、と言う守備をしていると考えられる。

まとめ

セレッソは決定力は低いが守備は固い、ガンバはあっさり失点するが取り返す力も強い、東京はリアリスティックな試合巧者、名古屋はメリットとデメリットが表裏一体の超攻撃的サッカー、鹿島は勝負所を押さえたサッカー。正直なところ、既にある各チームのイメージそのまま、と言う結果になった。逆に言えば、各チームに漠然と抱いていたイメージは単なる先入観ではなく、客観的にもそうだった。
ただ今シーズン、この先もこのままかどうかは分からない。既に書いたように、ガンバと名古屋に関しては傾向に変化が見られる。セレッソについても、ロティーナ監督は就任して1年目なので、新しい落とし込みがあれば傾向に変化が出てくる可能性がある。鹿島は今の高い決定力を、この先も維持できるのかは不明である。そしてFC東京は、久保建英と言う絶対的エースが海外に羽ばたき、それがどのような影響を及ぼすのか、今はまだ分からない。残りのシーズン、そこに注目していきたい。
また、今回取り上げたチーム以外にも、マリノスやフロンターレ、大分、札幌、ベルマーレ、仙台、神戸など、今のJリーグには尖ったチームが本当に多いので、そう言うチームの集計も時間が許せばやってみたい。