トレーニングコンペンセーションについての補足

昨年、12月29日にトレーニングコンペンセーションについての記事を投稿したところ、下記のような質問をいただいた。

12/29のトレーニングコンペセーションの記事を大変興味深く読ませていただきました。
要するに、今オフ完全移籍をした温井選手と池田選手のTC費が400万円ずつ移籍先からセレッソの臨時収入として入ってくるという認識であってますでしょうか?

記事の内容に少し分かりにくい部分もあったかもしれないので、今回は前回の記事を補足する形で、もう少し詳しくトレーニングコンペンセーション(以下TC)について書いてみたい。

まず最初に、温井選手と池田選手のTC費がセレッソに支払われたかどうかは、外部からは分からない。
何故分からないか、理由は幾つかあるが、第一に、TCは所属元チームが該当選手に対して、契約延長のオファーをした場合にのみ請求権が発生することになっている。請求額については、選手の契約がプロA契約なのか、それともBまたはCなのかによっても条件が変わってくるので、詳しくは前回も取り上げたJFAの公開文書「プロサッカー選手の契約、登録及び移籍に関する規則」の中、「7.トレーニングコンペンセーション」の項を見ていただきたいのだが、とにかく、まずは延長オファーをしないと請求できない。TCはあくまでも、「選手が契約延長を拒否して出て行った」場合にのみ請求権が発生するのである。しかしこれは、TCという制度が発足した経緯を考えれば、ある意味当然であると言える。

そもそも過去のサッカー界、正確には1995年12月以前のサッカー界では、たとえ選手との契約が切れたとしても、その選手の所有権は、所属元のチームが有する、つまり、移籍する場合は移籍金が発生する、という考え方だった。しかし、1995年12月に、欧州司法裁判所において、契約を満了した選手については、所属元のチームはその所有権を失う、という判決が下された。この判決は、その訴訟を起こした選手の名前にちなんで「ボスマン判決」と呼ばれ、2001年7月にFIFAが移籍市場の公式ルールとして採用したことで、世界の共通ルールとなった。

「契約が満了すればその選手はフリー」というのは、現在では移籍市場の大前提なのだが、過去はそうではなく、契約期間に関わらず移籍金を得ることが出来た。しかしそれが、契約満了の選手からは移籍金が取れない、ということになると、真っ先に困るのは選手を育成し、その選手をビッグクラブに売却することで生計を立てているクラブである。育成元のチームで頭角を現した選手は、当然のことながら、より高いレベルのチームを目指す。結果、育成元のチームとの契約延長には応じない。そして契約期間が切れてしまうと、コストをかけて育成した選手が、フリーで他のチームに移籍してしまう。
これを救済するために生まれたのがTCである。つまりTCはあくまでも「育成したチームの意に反して選手が出て行った」場合にのみ適用される救済措置なのである。
そもそも、ボスマン判決の訴訟を起こした当事者であるボスマンは、所属元のRFCリエージュ(当時ベルギーリーグ2部)から見れば構想外の選手だった。にもかかわらず移籍を制限されたことで訴訟を起こした、というのがあらましであり、彼が勝ちとった判決をFIFAが尊重している以上、TCについても、戦力外の選手については適用されない、ということは自然である。

よって、温井選手と池田選手に対してセレッソが延長オファーをしたかどうか、ということが分からない限り、TC費がセレッソに支払われたかどうかは分からない、ということになる。ただし、彼らの移籍時のコメントから、ある程度推察することは出来る。

移籍時の池田樹雷人選手のコメント

この度、愛媛FCに移籍することになりました。たくさんの時間、悩んで考えて決めました。セレッソでの2年間は怪我の時間が長くて悔しさと申し訳ない気持ちでいっぱいです。今年はタイでプレーさせてもらい、濃い時間を過ごせました。色んな経験をさせてもらったセレッソに、とても感謝しています。新しい環境で勝負したいと思います。セレッソに携わる全ての方々ありがとうございました。元旦、みんなで勝ちましょう!!!

移籍時の温井駿斗選手のコメント

ユース時代からの6年間、セレッソ大阪にはお世話になりました。監督、スタッフ、選手、サポーターの皆様、関わったすべての方々に感謝し、このセレッソ大阪で得た経験を糧に、新天地である栃木SCでも頑張りたいと思います。

上記を見ると、池田選手は移籍に際して悩んだ、と書いている。つまり、セレッソから何らかの延長オファーはあったものと考えられる。よって、TCの請求権が発生している可能性は高い。一方で、温井選手についてはセレッソからの延長オファーを匂わせるようなコメントは無い。単に言及しなかっただけなのかもしれないが、こちらはもしかすると、フリーで放出したのかもしれない。
また、TCの請求権が発生した場合でも、それは結局、通常の移籍金と同じように、所属元チーム、移籍先のチーム、そして当事者である選手の間の交渉次第で、満額が支払われるのか、それとも、ある程度ディスカウントした金額になるのかが変わってくるはずで、そういう意味でも、TCの金額が幾らか、というのは外部から知る術は無いと言える。

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