半身で受けよう。柏レイソル VS セレッソ大阪 J1第10節

日時 2020年8月15日(土)19:03
試合会場 三協フロンテア柏スタジアム
試合結果 1-3 セレッソ大阪勝利

首位川崎フロンターレを勝ち点7差で追うセレッソは今節、敵地で柏レイソルと対戦。8月に入って以降のセレッソの試合は、15日に行われたこの試合で既に5試合目。リーグ戦カップ戦含め、3~4日に1回のペースで試合をしている計算になる。柏はこの試合の4日後の水曜に神戸と、セレッソも同じく4日後に首位川崎との決戦が予定されており、両チームとも、過密日程の中での対戦である。

セレッソ大阪フォーメーション
25
奥埜
20
メンデス
10
清武
17
坂元
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
15
瀬古
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

セレッソのフォーメーションはおなじみの4-4-2。直前のルヴァンカップ仙台戦から引き続きスタメンとなったのはGKジンヒョン、CBヨニッチ、右SB松田、そしてFWの奥埜とメンデスとなる(奥埜は仙台戦ではボランチで出場)。ただしこの5名についても、ヨニッチ、松田、奥埜については仙台戦は前半のみの出場で、メンデスも58分で退いたため、ジンヒョンを除けば概ねターンオーバーしたメンバーとなっている。

柏レイソルフォーメーション
14
オルンガ
18
瀬川
10
江坂
33
仲間
7
大谷
8
ヒシャルジソン
20
三丸
4
古賀
3
高橋祐
6
高橋峻
23
中村

一方の柏レイソルのフォーメーションはGK中村航輔、DFラインが左から三丸拡、古賀太陽、高橋祐治、高橋峻希、ボランチが大谷秀和とヒシャルジソン、左SHが瀬川祐輔、右SHが仲間隼斗、トップ下が江坂任、1トップがマイケル・オルンガという4-2-3-1。
両ウィングに突破力のある瀬川、仲間を配し、トップ下には起点、ラストパス、得点と何でもこなせる江坂。そして1トップには高さ、スピード、テクニック全ての面で脱Jリーグレベルのケニア人ストライカー、オルンガを配する柏の前線のスカッドは、一般的なJ1昇格チームのレベルではない。実際、得点数では川崎に次ぐリーグ2位に付けている。
一方、CBには怪我人が相次いでおり、DF山下達也と大南拓磨が前節の横浜Fマリノス戦で負傷離脱。同じくDFの鎌田次郎、染谷悠太も公式のアナウンスは出ていないものの負傷していると見られており、この試合も欠場となっている。出場可能な本職のCBは直前のルヴァンカップ大分戦で復帰した高橋祐治のみであるため、この試合では本職はサイドながらセンターもこなせる古賀が、左CBに入っている。

さて、試合は前半4分、早い段階でセレッソが先制することに成功する。
柏は試合開始から積極的に前からプレスを行っていて、まず前線のオルンガと江坂が2トップ的にセットして、そこから嵌まりそうな時はボランチのヒシャルジソンも前に出てきて4-1-4-1の形になってセレッソのGKまでプレスを掛ける、という形だった。この先制点のシーンでは、ボールを持った松田に左SHの瀬川がプレスを掛け、更に松田からの縦パスを受けに下がった坂元には左SBの三丸がハーフウェーラインを越えて捕まえに行く、という対応をしたのだが、松田はその三丸が出た背後のスペースにロングボール。そこにメンデスが斜めに走り込んで古賀と競り合いながらボールをキープし、逆サイドから上がって来た清武にパス。柏はこの清武に右SB高橋峻、右CB高橋祐、そしてボランチ大谷の3枚が引き付けられてしまい、清武がメンデスにボールを戻すとメンデスの前には古賀1枚。ここで古賀が左右のシュートコースどちらを切るか中途半端な対応をしてしまい、メンデスのシュートは古賀の背中側を抜けてゴール左に決まった。

柏としては、最初のメンデスとの競り合い、そしてシュートブロックの所で、レギュラーCBの代わりに起用した古賀の拙さが出てしまった格好になったが、セレッソとしてもこれは偶発的なものではなく狙っている形で、セレッソのSHに対して相手のSBが高い位置までプレスを掛けに来る場合は、その裏をFWが狙うことになっている。特に右SHの坂元は前を向いてドリブルを始めると止めることが難しく、どのチームも前を向かせないよう厳しくマークに来ることが多いので、その時は坂元の裏、つまり相手SBの裏を使うというのがセットになっている。
つまりセレッソは坂元の個の力をそのまま発揮させることも出来るし、それをデコイにして裏を使うことも出来るようになっているのだが、シーズン序盤はその坂元の立ち位置が良くなく、坂元が高い位置を取り過ぎるせいで裏を上手く使えていなかった。

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高過ぎる、という点に関して典型的だったのは前半35分、36分、40分と短い時間で3回、セレッソがGKからボールを繋いだシーンで、最初のシーンでは、坂元はハーフウェーラインを相手陣内の方に10mぐらい越えたあたりにポジションを取っていたのだが、その次のシーンではハーフウェーライン上ぐらいになり、その次のシーンでは更に手前になっていた。多分ピッチサイドから指示があって少しずつ下がったのだと思うが、坂元の位置が高過ぎるとCBやボランチからのパスを受ける角度が無くなってしまうし、逆に坂元が上がり過ぎないことで大分のWBは前に出て守備をしないといけなくなるので、その裏をメンデスや奥埜に狙わせることが出来るようになる。

このシーンでは坂元がチームコンセプトに沿った立ち位置を取れており、それが先制点にもつながったので、戦術の浸透度が見て取れるシーンだった。

セレッソの先制後、試合は柏がボールを支配する展開に。そうなった理由の一つはもちろん柏が追いかける立場になったからだが、もう一つはセレッソの方が柏の選手の立ち位置に上手く対応出来ていなかったからだった。
柏の方はボールを持って押し込んだ時はSBがワイドの高い位置を取り、両SHは中に絞って、セレッソのCB・SB・SH・ボランチの四角形の中央、ハーフスペースにポジションを取るのが基本形。セレッソの方はこのハーフスペースを使わせたくないので、なるべく陣形を左右にコンパクトにしてスペースを消すのだが、柏のSH、特に右SHの仲間がこのスペースで受けるのが非常に上手く、そこに悩まされていた。個人的にはドリブラータイプの選手というイメージを持っていたので、こういうプレーも出来るのか、と言う意外な驚きだった。また、この仲間の受ける時間とスペースを作っていたのが右ボランチのヒシャルジソンで、彼がセレッソの左ボランチの藤田の近くに立って引き付けることで、藤田がハーフスペースを消しに行くことを阻んでいた。
普段の試合であれば、最悪ハーフスペースで受けられても瀬古やヨニッチが出て行って潰す、ということも出来るのだが、この試合にはオルンガがいる。彼には必ず2枚以上で対応したい、ということを考えると、瀬古とヨニッチはゴール前中央から離れられない。そして仲間はセレッソのCBが背中から少しでも離れると一瞬で前を向くので、かなり厄介だった。
セレッソ側の対応としては、左SHの清武が、割り切ってもっと絞るべきだったかなと。その場合、相手の右SB高橋峻はフリーになってしまうが、高い位置まで出てくるようであれば丸橋が対応すればいいし、低い位置からのアーリー気味のクロスは上げられても仕方がない。アーリー気味に上げられて、それで中央の瀬古とヨニッチの上からやられる、ということがもし起こるなら、それはもう戦術上の問題ではなく個人能力の問題なので、そこは割り切って、絞ってしまった方が良かったと思う。

そして更にもう一つ、柏のボール支配が続いた理由としては、セレッソが回収したボールを柏に高い位置から奪い返されてしまうことが多かったから。これは守備のフェイズで柏の選手の立ち位置を上手く捕まえられず、意図した形でボールを奪い返せていなかったせいもあるが、回収したボールを預けられた選手が、そこでボールをキープできずに潰されてしまうことが多かったから、というのもある。何故そうなってしまうかと言うと、キープする時の身体の向きが悪いからで、相手に対して半身にならずに背中で背負ってしまうと潰されてしまう。そして、今シーズンのJリーグはそういうプレーに対してファウルを取らない傾向があり、セレッソは今の所、その基準に上手く対応出来ていない。逆に相手のチームは、この試合の柏もそうだが、そういう基準を利用して、先に身体を当てておいて、セレッソの選手の身体を不安定化させてからボールを奪う、ということをしてきているので、それに対抗するためにも、ボールを受ける選手は必ず半身で受ける、パスを出す側も、相手から遠い方の足に付ける、ということが大事になる。

前半は柏の枠内シュート6本に対してセレッソは得点を挙げた1本のみと、かなり柏が優勢だったのだが、セレッソの方も、ヨニッチと瀬古をゴール前に固定している分、水際で防ぐことは出来ていて、また、GKジンヒョンの好セーブもあり、何とか1点リードで折り返すことが出来た。

後半に入ると柏の方はボランチ大谷を下げて神谷優太を投入。ヒシャルジソンがアンカー、江坂と神谷がIHという4-1-4-1に変えてきた。

柏レイソルフォーメーション(後半開始時点)
14
オルンガ
18
瀬川
33
仲間
10
江坂
39
神谷
8
ヒシャルジソン
20
三丸
4
古賀
3
高橋祐
6
高橋峻
23
中村

元々前半の柏も4-1-4-1的なサッカーだったので、大谷よりも攻撃的な神谷を入れてより明確に、ということと、神谷は後半のプレースキッカーも担っていたので、そのキック精度にも期待して、ということだったと思う。

しかし、次の得点もセレッソの方に生まれた。後半9分、柏陣内、セレッソから見てアタッキングサードに入るあたりの中央やや左からのFKを清武が右足でキック。インスイングで蹴られたボールはファー側、GK中村と柏の守備ラインのちょうど間のスペースに吸い込まれるように落ちて来て、柏のDF古賀が背走しながら頭でクリアしようとしたのだが、クリアボールがゴールに入ってしまい、オウンゴールとなった。
柏の方は古賀が背後から押されたとアピールしていたが認められず。セレッソの方は清武の蹴ったボールが素晴らしく、セレッソの選手が触った場合は勿論、柏の選手が触っても、もしくは誰も触らなくてもゴールに入る、という質のボールだったので、その質が呼び込んだと言えるゴールだった。

この得点を受けて、柏の方は後半13分に更に交代カードを切り、右ウィングの仲間を下げてFW呉屋大翔を投入。オルンガと呉屋を2トップに置く4-1-3-2に布陣を変更した。

柏レイソルフォーメーション(後半14分以降)
14
オルンガ
19
呉屋
10
江坂
18
瀬川
39
神谷
8
ヒシャルジソン
20
三丸
4
古賀
3
高橋祐
6
高橋峻
23
中村

上述の通り、セレッソの方は柏の右ウィング仲間のハーフスペースでのパスレシーブにかなり手を焼いていて、そのことは柏のネルシーニョ監督も分かっていたと思うのだが、2点のビハインドになったので、崩す形どうこうよりも、もっと直接的に得点を狙いに行こう、ゴール前でセレッソの瀬古とヨニッチに対してオルンガと呉屋をぶつけよう、という采配だったと思う。こういう、割り切ってどんどん手持ちのカードを切って行く采配は非常にネルシーニョ監督らしい。

一方のセレッソの方は、後半20分に奥埜を下げて高木俊幸を投入し、更に後半30分には坂元を下げて柿谷曜一朗、メンデスを下げて鈴木孝司を投入。ここまでは同じポジション同士の交代だったのだが、後半37分には左足太腿裏を痛めた清武に変わって西川潤を投入し、右SHだった柿谷が左SHに回って、西川が右SHに入った。

セレッソ大阪フォーメーション(後半37分時点)
13
高木
18
鈴木
8
柿谷
49
西川
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
15
瀬古
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

そして後半41分、柏のCKの流れからセレッソのペナルティアーク付近で藤田がボールをカットすると、このボールを受けた柿谷が右方向にフリーでドリブルを開始。柏の方はこの柿谷のドリブルに選手が3枚サイドに引っ張られてしまい、中央の空いたスペースに西川が走り込んだ。柿谷はハーフウェーラインを越えたあたりで引っ張った3枚の選手の頭を越える浮き球のパス。柏の方は、ペナルティエリアやや外でバウンドしたボールに対してGK中村が出てきたが、走り込んだ西川が左足を伸ばして先にボールに触り、中村の頭上を越すループシュート。これが決まってセレッソの3点リードとなり、試合の行方は決した。
この得点の直後には、セレッソのGKジンヒョンがキックミスしたボールがオルンガに当たり、オルンガがこのボールをゴールに蹴り込んで柏が1点を返したが、スコアがそれ以上動くことは無く、1-3でセレッソの勝利となった。

スコア上は快勝だったが、セレッソとしてはかなり苦しんだ試合だったと思う。この後のミッドウィークには首位川崎フロンターレとの決戦が予定されているが、川崎と柏は戦い方が似ているので、同じように苦しい試合になるのではないだろうか。この試合では柏のDFラインの人材不足という部分に上手くつけこめたが、川崎には今の所、そう言う不安材料は見受けられないので、この試合で出た問題点は修正しておかないと、勝利出来る可能性は低い。言い方を変えれば、この順番で当たれるのはセレッソにとっては幸いなのかもしれない。