両チームとも、課題は守備。J1第1節 ガンバ大阪 VS 名古屋グランパス

日時 2018年2月24日(土)14:30
試合会場 パナソニックスタジアム吹田
試合結果 2-3 名古屋グランパス勝利

2018年のガンバ大阪のリーグ開幕戦は、2016年シーズンのJ2降格から1年でJ1復帰を果たした名古屋グランパスとの一戦。
名古屋はプレーオフでの昇格ということで、つまり一番下の順位で上がってきたわけだが、資金面では湘南、長崎を含めた昇格チーム内では群を抜いており、率いるのは攻撃サッカーの構築に手腕を発揮する風間八宏監督。そしてガンバの方も、今シーズンからはかつてセレッソを率いていたレヴィー・クルピ監督が就任し、攻撃サッカーの復活を目標に掲げている。
お互い攻撃的で、得点がたくさん入る、という試合が予想されたが、実際にそういう展開になった。

ガンバ大阪フォーメーション
20
長沢
10
倉田
7
遠藤
11
ウィジョ
34
福田
17
市丸
4
藤春
3
ファビオ
5
三浦
22
ジェソク
1
東口

ガンバの方は、プレシーズンでは3ボランチ、4-3-2-1の布陣も試していたようだが、この試合では福田湧矢と市丸瑞希の2ボランチ、両SHが倉田秋とファン・ウィジョ、トップ下が遠藤保仁、ワントップが長沢駿という4-2-3-1の布陣でスタートした。2ボランチの市丸、福田はそれぞれ20歳、18歳と非常に若いコンビだが、これは本来レギュラーの今野泰幸が怪我で離脱中ということも影響している。

名古屋グランパス フォーメーション
7
ジョー
23
青木
10
シャビエル
29
和泉
9
長谷川
4
小林
14
秋山
36
ホーシャ
41
菅原
6
宮原
22
ランゲラク

対する名古屋の方は4-1-2-3の布陣。注目はなんと言っても1トップに入ったジョーである。過去にマンチェスターシティなどでもプレーした、元ブラジル代表選手だが、昨シーズンはブラジル全国選手権で得点王とMVPに輝いており、今後代表に再招集されれば、「元」の肩書きが取れる可能性もある大物である。191cmと長身だが、フットサル経験から来る足元の上手さもあり、しかも左利き。かつては飲酒や夜遊びからコンディションを崩すことが多く、アトレチコ・ミネイロ時代には、この試合でガンバを率いるクルピ監督から干されたこともあるのだが、妻の勧めでキリスト教福音派の教会に通うようになったことで生活スタイルが改善し、それがコリンチャンスでの活躍、そして名古屋への移籍につながっている。試合前にはクルピ監督と抱き合うシーンも見られた。
名古屋には既に、昨シーズン途中加入ながら7ゴール14アシストとJ2で猛威を振るったMFガブリエル・シャビエル、そしてCB、ボランチでプレーできるワシントンというブラジル人選手がいたのだが、そこに上記のFWジョー、左利きのCBウィリアン・ホーシャ、そしてドルトムントでもプレー経験のあるオーストラリア人GKミチェル・ランゲラクを大型補強。試合に出場できるのはアジア枠を含めても4名までなので、アジア枠としてランゲラク、外国人枠としてジョー、シャビエル、ホーシャを出場させると、ワシントンはベンチ入りすら出来ない、という贅沢な外国人枠の使い方である。今シーズンはセレッソも同じような外国人枠の使い方をしているが、今後はJリーグでも、そういう国際化したチームが増えるのかもしれない。
また、名古屋はホーシャとコンビを組む右CBに菅原由勢(すがわらゆきなり)という17歳の選手を起用していて、ガンバの2ボランチと同じように、名古屋の方も、通常であればベテラン、中堅クラスの選手を配置するポジションに、非常に若い選手を置いている。このあたりは、両チームの監督が良く口にする「サッカーに年齢は関係ない」という信条が、言葉だけではないことが良く表れている。

さて試合のほうだが、先制したのはガンバのほうだった。
前半13分、ガンバのCBファビオが名古屋DFラインの裏、サイドに向けて蹴った山なりのボールに対して、名古屋のDF陣は裏にいた遠藤のオフサイドを手を挙げてアピールしたのだが、遠藤はボールに反応せず、代わりに後ろから倉田がボールに向けてダッシュ。名古屋はCB菅原が慌てて走って、タッチライン際でスライディングで倉田を止めようとしたが、倉田は菅原のスライディングを躱しながらボールをタッチラインギリギリで残し、名古屋ゴールのペナルティエリア横で完全にフリーになった。
サイドをえぐった倉田は、シュート、もしくはクロスと見せかけて、遅れてペナルティエリア前に入ってきた遠藤に右足アウトサイドでマイナスのパス。名古屋は最初のオフサイドアピールのシーンでラインを上げようとしていて、倉田に裏を取られたことで今度は慌ててラインを下げたため、遠藤はフリー。遠藤は右足インサイドで冷静に(解説の戸田和幸の言葉を借りれば、ゴールにパスするように)、ゴールのニアサイドに向けてグラウンダーのシュート。名古屋はGKランゲラクがわずかにボールに触れたが、ゴールマウス外に弾くまでには至らず、ボールがネットを揺らした。
このゴールシーンの倉田のプレーは素晴らしかった。トップスピードで走りながら菅原のスライディングを避けつつボールを残す、というのも相当な身体能力だし、最後のアシストのプレーも、目の前にゴールがある状況で、斜め後ろをしっかり見ている、という冷静さが光った。
ゴールを決めた遠藤のプレーも、まさに遠藤、という感じで、オフサイドポジションにいた時、そして最後にペナルティエリアの前に入ってきた時も、遠藤のプレースピードは他の選手より一歩遅れていて、狙ってそうしたのか、単にチンタラしていただけなのか、多分半々だと思うのだが、結果的に、周りのプレースピードに合わせないことで最後はフリーになっているので、そこは流石だなと。
また、倉田がサイドをえぐった時に、ガンバの方は中央に長沢、逆サイドからはファン・ウィジョがゴール前に詰めていて、つまりニアに倉田、中央に長沢、ファーにウィジョ、そしてマイナス方向には遠藤、というサイドを攻略した時の理想的な形になっていたので、それもゴールが生まれた大きな要因だった。
一方の名古屋の方は、菅原の判断が少し悪かったなと。オフサイドだと判断した時点で集中力を切ったように見えたし、その後のプレーも、倉田がダッシュを開始した瞬間には菅原のほうがボールには近かったので、まっすぐボールに向かうのではなく、倉田の走るコースに入れば良かった。その方が、最後のタックルも深く行けたと思う。

先制したガンバだったが、リードは長く続かず、前半26分には名古屋が同点に追いついた。
バイタルでボールを受けた名古屋のIH和泉から、ガンバの右SBの裏のスペースに走ったジョーにパスが出て、ジョーがボールを中央に折り返してシャビエルがゴール。
このシーンはガンバの守備の未整備な部分が出てしまったのかなと。
ガンバは長谷川監督時代はマンツーマンが基本だったのだが、クルピ監督はゾーンを基本にしている監督なので、約束事が変わっている。しかし、この試合のガンバはSHやSBがポジショニングで相手に引っ張られていることが多く、SBがボールに当たりに行っているのにSHはその背後をカバーせず、前にいたり、サイドに張っていたり、というシーンが目についた。この失点シーンでも、右CB三浦と右SBオ・ジェソクが同時にボールに当たりに行ってしまい、更に右SHファン・ウィジョはサイドに張っていて、結果的に右SBの裏のスペースをジョーに使われて失点してしまった。この辺の守備組織はもう少し整備しないと厳しい。

前半はそのまま、1-1のイーブンで終了したのだが、後半に入って6分、名古屋がガンバ陣内、名古屋から見て左サイドからのシャビエルの左足のFKをゴール前でホーシャが競り合い、こぼれたボールを自ら押し込んで、再びリードを奪うと、ガンバのクルピ監督は後半14分に福田を下げて矢島を投入。矢島はそのまま福田が入っていたボランチのポジションに入ったが、並びは左が市丸、右が矢島になった。そして更に、後半24分にはウィジョを下げて高校生ルーキー、17歳の中村敬斗を投入。
ファン・ウィジョはガツガツしている、シュートを貪欲に狙っていく、という面で良さもあるのだが、プレーがちょっとFW的過ぎるというか、裏を狙って、受けたらシュート、というプレーが大部分で、つなぎのプレー、アシストを狙うプレー、というものが希薄だったので、4-3-3のウィングとしてならまだしも、4-2-3-1もしくは4-4-2のSHとしては適性が低いのかなと。そういうあたりを見ての中村投入だったように思う。

ガンバ大阪フォーメーション(後半24分以降)
20
長沢
10
倉田
7
遠藤
38
中村
17
市丸
21
矢島
4
藤春
3
ファビオ
5
三浦
22
ジェソク
1
東口

そして後半34分、この中村のプレーから、ガンバが同点に追いつく。
右に流れてきた倉田からのパスを中村が名古屋のSBとウィングの間で受けて、もう一度倉田に落とし、倉田がオジェソクへ。ジェソクが中村に預けて裏にダッシュ、中村がワンタッチで裏に出して、ジェソクがクロス、これをニアサイドで長沢がヘッドで合わせた。
中村のプレーは初めて見たが、間で受けるプレーが凄く上手い。そしてボールタッチが柔らかい。得点シーンに至る流れの前でも中村は一つ起点になっていて、矢島からのかなり速い縦パスをセンターサークルあたりで柔らかくトラップ・キープして、そこで起点になったことが最後、右サイドの崩しにつながった。次の試合ではもっと長い時間、プレー機会が与えられるのではないだろうか。

ガンバとしては、そこから更に逆転まで持って行きたかったところだったが、後半39分に、逆に3点目を奪われてしまった。
このシーンでガンバは全体的に前がかりになっていて、ボランチが両方ゴール前に上がってしまっていた。当初の形としては矢島が前、市丸が後ろ、ということだったと思うが、市丸がイーブンボールを奪おうとして自分も前に入って、ボールには触れたのだが、そのボールが味方の長沢に当たって背後にこぼれてしまい、これを名古屋の長谷川アーリアジャスールが奪って、ガンバのボランチがいなくなった中盤のスペースを独走する形になってしまった。ガンバのペナルティエリア前まで持ち上がったアーリアが左から上がった八反田(後半36分に左SB秋山に代わって入っていた)にボールを預け、八反田が裏のスペースに落として、最後はジョーがGK東口の股の間を通してゴールを挙げた。
ガンバの方は名古屋に対して4バックが残っていて、名古屋はボールを持ったアーリア、左サイドに八反田、中央にジョー、右にシャビエル、という4対4の状況だったのだが、ガンバは4バックが1列で守っていたので、そうではなく、CBの片方がアーリアに当たりに行った方が良かったのかなと。そうするとジョーをもう一枚のCBが1対1で見ることになってしまうが、アーリアが完全にフリーでいるよりは良い、相手のスピードを落とさせるほうが良い、4人一列で守るよりも、1+3の2列で守るほうが良い、という判断をした方が良かったと思う。

結局これが決勝点となり、試合は2-3で名古屋が勝利した。
試合を振り返ると、両チームとも、攻撃面では新加入の選手を中心に良いプレーがたくさん見られたが、守備面では少なくない不安要素も見られた、という試合だった。
ガンバの方は、上述の通り、SHとSBの連携やポジショニングが良くなく、前半はサイドから名古屋に崩されるシーンが目立ったのだが、後半からは遠藤がボールサイドの守備に下りてくるようになって安定し、サイドから崩されるシーンが減った。ただ、後半の終盤は全体的に前がかりになっていたので、単純に後ろの人数が足りなくて危なくなる、というシーンが増えた。そういう状況下では結局、組織よりも個の力なので、そういう状況に耐えうるようにするためには、補強なり、選手の成長なりで個の力を伸ばす必要があるし、また、そもそもそういう状況にならないようにする、というバランスの調整も必要になるのかなと。

一方の名古屋の方は、4-1-2-3の基本形を崩さないように守りたい、という意図は見えたのだが、そうなるとどうしても、かなりコンパクトにしないと、ワンボランチの脇のスペースが空いてしまう。ガンバは遠藤がそのスペースで何度かボールを受けていたが、ガンバのボランチの機能性がもっと高かったら、その回数を更に増やされていた可能性もある。
ただ名古屋の守備は、そのまま4-3-3のように見える時もあれば、ボールサイドのウィングが出て、逆サイドのウィングが下がる4-4-2のような形に見える時もあり、また、アンカーがDFラインに下がって5バックのように見える時もあり、正直、この試合を見ただけではルールが良く分からないところがあった。この試合ではDAZNの映像切り替えの質が悪くて、全然ボールが無いところが映っていたり、試合が動いているのにリプレイが流れ続けていたり、サイドの攻防をドアップで映して中央の状況が全然映っていなかったり、という感じで選手のポジショニングの確認も難しかったので、名古屋についてはもう少し、今後の試合も見てみたいなと。