ユルゲン・クロップ、シティの5レーン攻撃を迎撃する。プレミアリーグ第23節 リヴァプール VS マンチェスターシティ

日時 2018年1月14日(日)25:00 ※日本時間
試合会場 アンフィールド
試合結果 4-3 リヴァプール勝利

ユルゲン・クロップ監督率いるリヴァプールが、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスターシティの無敗記録を止めた。
ペップのサッカーに対抗出来るのは、チェルシー、レアルを率いてペップのバルセロナと火花を散らしてきたモウリーニョ、もしくは、ドルトムントを率いて幾度となくペップのバイエルンと相対してきたクロップ、いずれかではないかと考えていたが、やはり、という感じで、この試合は、クロップ監督がドイツ時代から積み上げてきた、ペップのサッカーに対抗するノウハウ、そしてクロップ監督がリヴァプールの監督に就任して以降、チームに落とし込んできたサッカー哲学、この2つが十全に発揮された試合となった。

リヴァプール フォーメーション
9
フィルミーニョ
19
マネ
11
サラー
5
ワイナルドゥム
21
チェンバレン
23
チャン
26
ロバートソン
6
ロブレン
32
マティプ
12
ゴメス
1
カリウス

この試合のリヴァプールのフォーメーションは、1トップにフィルミーニョ、両ウィングにマネとサラーを置く4-1-2-3。冬の移籍マーケットでサウサンプトンから、DFとしては史上最高額の移籍金で加入したオランダ代表ヴィルギル・ファン・ダイクは、直前のFAカップでは先発したものの、この試合ではベンチ入りせず、スタンド観戦となった。

マンチェスターシティ フォーメーション
10
アグエロ
19
サネ
7
スターリング
8
ギュンドアン
17
デブライネ
25
フェルナンジーニョ
18
デルフ
30
オタメンディ
5
ストーンズ
2
ウォーカー
31
エデルソン

一方のマンチェスターシティの方も、おなじみの4-1-2-3。FWジェズスが怪我で離脱中のため、1トップにはアグエロ。また、左IH(インサイドハーフ)のレギュラーであるダビド・シルバは家族の事情(生まれた子が早産だったとのこと)でチームから離脱していたため、この試合ではベンチスタートとなり、左IHのスタメンにはギュンドアンが入った。

試合が始まるとすぐ、リヴァプールの方は明確なシティ対策を実行し始めた。
シティにボールが渡り、シティのCBがボールを持つと、リヴァプールの方はまず、トップのフィルミーニョがCBの間に入って、CB同士のパスコースを切る。
シティは最終ラインでのボール回しの時、底の位置にCB2枚がいて、両ワイド、CBより少し高い位置に両SBがいて、SBと同じ高さの中央にアンカーの選手がいる、つまりWの形になる。よって、フィルミーニョがCBの間を切ると、シティのCBの選手から見て、近場のパスコースは同サイドのSB、もしくはアンカーの選手、ということになる。
この状態になったら、今度はボールサイドのウィングの選手がCBの選手の正面に立つ。ボールを取りに行くのではなく前に立つだけ、というのがポイントで、ここでの目的はCBからボールを奪うことではなく、シティボールをシティのアンカーまたはSBの選手に誘導することである。
先ほど、シティのボール回しの時に後ろの選手はWの形になると書いたが、それは中盤より前も同じで、IHの2枚と3トップもWの形になっている。つまり、シティはボールを回す時、Wの文字を縦に重ねたような形になっている。この形はグアルディオラ監督の攻撃時の戦術のベースになっていて、「5レーン理論」と呼ばれている。ピッチを縦方向に5分割し、それぞれを1レーンと考えた時、ボールを持っている選手の1列前の選手は、1列後ろの選手と同じレーンに「いてはいけない」。逆に、ボールを持っている選手の2列前の選手は、2列後ろの選手と同じレーンに「いなければいけない」。そう決めることで、ボールを持った選手の斜め前に、必ずパスコースが出来るようになっている。
レスター戦の戦評で触れた、「Inverted Fullback(インバーティッド・フルバック)」の動きも、この5レーン理論の一つの表れに過ぎず、CBがワイドに広がり、その間にアンカーが下りた時は、SBの選手はCBと同じレーンにいてはいけないので、中に入ってくる、CBとアンカーの間のレーンに入ってくる、Wの逆でMの形になる、ということに過ぎない。
つまり、上に書いたCBの正面に立つリヴァプールのウィングの選手は、2列前の選手(ボールを持った選手と同じレーンにいる選手)への縦パスのコースを切っている、ということになる。このウィングの選手が掛けている制限により、シティのCBの選手は1列飛ばしたパス、というのは入れられなくなるので、次のパスコースはアンカーへのパス、または同サイドのSBへのパス、ということになる。
そして、リヴァプールの守備はアンカーに出た場合とSBに出た場合とで場合分けされていて、下記のようになっていた。

SBに出た場合
CBの前に立っていたウィングの選手が相手SBに寄ってパスコースを縦だけに限定し、縦に出たボールをボールサイドのIHとSBで奪い取る。
アンカーに出た場合
ボールサイドのIHがアンカーからボールを奪う。

いずれの場合も、奪い取る相手はパスを後ろ向きに受ける選手、というのがポイントで、ボールを奪いに行っても一発で躱される可能性が少ない瞬間を狙って奪いに行くようになっている。
そして、1トップ、両ウィング、IHの前からのプレスが外された場合は、最終的にアンカーのエムレ・チャンが出て行ってボールホルダーを潰す。前からのプレスの強度が高いため、アンカーのところまでボールが運ばれてくる場合でも、シティが余裕をもってボールをコントロールできる状態になっていることは少ない。
そしてボールを奪い取ったら、両ウィング、マネとサラーのスピードを活かして、手数を掛けずにフィニッシュに持ち込む。
序盤のリヴァプールのサッカーは、ほぼクロップ監督の意図通りに機能していた。

そして前半9分、リヴァプールが早くも先制ゴールを挙げる。
リヴァプールのGKカリウスが蹴ったロングボールをシティのCBオタメンディとリヴァプールの右ウィング、サラーが競り合い、このこぼれ球をフィルミーニョが回収、後ろにいたチェンバレンがボールを受け取ってドリブルを開始した。チェンバレンがドリブルを始めた時、シティの方は一番近くにアンカーのフェルナンジーニョと左SBのデルフがいて、その後ろにオタメンディ、ストーンズ、ウォーカーがいる、そしてオタメンディの外側をサラーが、ウォーカーの外側をマネが走っている、という状態だった。よって、人数は足りていたのだが、フェルナンジーニョとデルフが横並びになっていたためチェンバレンの最初のドリブルで2人両方が置いて行かれてしまい、最終ライン前で3対3の局面に晒されることになった。チェンバレンはボールを少し右に持ち出し、対角線方向、シティゴールファー側のゴールネットに向けてグラウンダーのシュート。GKエデルソンが横っ飛びで腕を伸ばしたがシュートスピードが勝り、リヴァプールの先制弾がシティゴールに突き刺さった。
チェンバレンがシュートを撃つ瞬間、オタメンディはサラーのマークを捨ててシュートコースに飛び込んだが、ストーンズは立ったまま走っていた。ここからなら入らないだろう、と思ったのかもしれない。しかし、チェンバレンは時々こういう個人技を炸裂させる選手で、年に何度かはバロンドール級のプレーを見せる。その一方でダメな時は全然ダメなので、DFからすると、どっちのプレーを想定して対応するか、ある意味で難しい選手だと言える。

リヴァプールの守備が機能しているので、シティの方は、斜めのショートパスを最終ラインから確実につないでボールを支配する、という本来の形が作れず、少しずつ、角度のない縦のボールや、長いボール、浮き球のボールといった、受け手がコントロールしにくいボールが増えていく。そうなると当然、ミスが起こる確率、奪われる確率、というものも上がる。リヴァプールの方は、そこを見逃さず、相手がミスをした時、コントロールが難しいボールが入った時、確実に潰す。奪い取る時のデュエルで負けない、そして奪ったら速く攻める、これが徹底されていた。
そして、奪ったら速く攻めるということは、自分たちもボールをすぐに失ってしまう可能性があるわけだが、そういう取って、取られてという展開、トランジションで勝負するという展開は、それ自体がリヴァプールの、そしてクロップ監督の得意とする土俵である。
最初の段階でシティのショートパス展開を封じたことで、試合はクロップ監督、そしてリヴァプールが得意とする展開に、徐々になり始めた。

ただ、当然のことながら、リヴァプールの方も常に前からプレスを掛け続けられるわけではなく、前半20分過ぎぐらいからは(多分先制したこともあるが)リヴァプールの陣形が下がり始め、シティが押し込み始めた。押し込まれるとリヴァプールの方は、前からのプレスは出来なくなるので、完全に引いてしまうのだが、シティは押し込んでいる時にSBが中央寄りのポジションを取るので、サイドにはスペースがある。よってリヴァプールの方は、押し込まれた時にはスピードのあるウィングに向けてロングボールを蹴る、もしくはサイドからボールを運ぶ、という形で押し込み返す。
そして、陣地を回復したらもう一度、前からプレス。そうやって、リヴァプールはシティに完全に支配を奪われてしまうことなく、ゲームをコントロール出来ていた。

一方シティの方は、最終ラインからのボール運びが上手くいかないため、前半25分過ぎぐらいから、ギュンドアンがフェルナンジーニョのラインまで下りてくることが多くなった。また前半30分には負傷で左SBデルフが下がり、ダニーロを投入。デルフは24分に腿裏を痛めながら、そのままプレーを続けていたのだが、ここで交替となった。ダニーロはそのままデルフのいた左SBのポジションへ。
そしてダニーロの投入後は、シティの最終ラインからの繋ぎに少し変化が出て、ギュンドアンが下りてくる代わりに左SBのダニーロが、開いた左CBのオタメンディの右斜め前に入り、オタメンディ、ストーンズ、ウォーカーの3枚+ダニーロとフェルナンジーニョの2枚でMの形を形成する、という配置も見せるようになった。するとリヴァプールの方は、シティの最終ライン3枚を3トップで見て、ダニーロとフェルナンジーニョの2枚をIHの2人で見る、というマンツーマンのような形に。ただ、通常の人に付いていくマンツーマンと異なるのは、リヴァプールのIHは正確にはダニーロとフェルナンジーニョという個人をマークしているのではなく、Mの2つの頂点に入ってくる選手をマークしている、という点である。前述の通り、シティの方はギュンドアンが下りてくる形もあるのだが、その時でも、リヴァプールのIHが見る相手は、Mの頂点にいる選手、つまりギュンドアンが下りてくる場合はフェルナンジーニョとギュンドアン、ということになり、そういう意味ではゾーン的でもある。
いずれにせよ、クロップ監督としては、グアルディオラ監督の率いるシティが5レーンの規則に則って、DFラインの組み立てをWの形とMの形、いずれかで行うことは予め分かっていたので、Wの場合は試合序盤の形で迎撃し、Mの場合はマンツーマン気味に迎撃する、という計画でこの試合に臨んだのだと考えられる。

このように、前半はリヴァプールがやや優勢に試合を進めていたのだが、前半40分に、シティの方が同点に追いついた。
攻撃は、シティの右SBウォーカーから最前線、左ウィングのサネに対角線の長いボールが出たところから。このボールに対してリヴァプールの右SBゴメスがかぶってしまい、サネがフリーでペナルティエリア角からドリブルを始めた。リヴァプールの方はCBのマティプが中へのドリブルコースを消して縦に誘導し、マティプの後ろにはゴメスが戻ったので、サネから見ると殆どシュートコースは無かったのだが、GKカリウスがサネの左足のシュートでニア側を撃ち抜かれてしまった。
こういう失点は、DF側から見ると、GKに対してガッカリしてしまう類の失点で、草サッカーやフットサルレベルでも、必死にサイドに追い込んだのに、そこからのシュートでGKがあっさりニアを抜かれてしまうと、DFの人間はかなりの徒労感を感じてしまう。この試合でリヴァプールは、普段スタメンを務めているミニョレの代わりにあえてカリウスを起用したわけだが、このシーンでのカリウスのミスは、GKとして、やってはいけないミスだった。

1-1で試合を折り返し、後半に入っても、シティのサッカーとリヴァプールのサッカーはそれ程変わらず。
シティの方としては、各駅停車のパスに対してはリヴァプールが対策をしてきているので、1つ飛ばしたパスや、ロングボールを多用する。そうすると当然、ショートパスよりは成功率は落ちるのだが、前半、その形から1点を取れたので、続けて行こう、ということだったのかなと。
一方のリヴァプールの方もそれは同じで、シティの一番得意な形は封じている、1つ飛ばしたパスやロングボールについては奪ったり、奪われたり、つまりデュエルやインテンシティと言った、リヴァプールが得意としている勝負に持ち込めている、ということで、こちらもそれを続けて行こう、ということだったと思われる。

そして後半14分、リヴァプールが再びリードを奪うことに成功する。
シティの右SBウォーカーのロングボールを、リヴァプール陣内、リヴァプールから見て左サイドで、シティの右ウィングのスターリングと、リヴァプールの左SBロバートソンが競り合い、こぼれたボールをデブライネが回収しようとしたが、ワイナルドゥムとチェンバレンに挟まれてボールを奪われてしまった。
シティの方は、ボールより後ろにフェルナンジーニョと最終ラインの4枚が残っていたのだが、フェルナンジーニョはボールが奪われた瞬間、中央にいたリヴァプールのアンカー、チャンへのパスを警戒して中央に寄ったので、最終ラインの前のサイドのスペースがぽっかり空いた状態に。そしてチェンバレンがこのスペースを使い、縦にドリブルを開始した。リヴァプールの前線は、中央にフィルミーニョ、両ワイドにマネとサラーがいて、一直線になったシティの最終ラインと並走。そして、フィルミーニョがシティの右CBストーンズの背後のスペースに加速し、そこにチェンバレンからパスが出た。最初、パスはストーンズがカットしそうだったのだが、フィルミーニョとの競り合いで押し負けてしまい、フィルミーニョの方がボールを手に入れてファーサイドにループ気味のシュート。ボールがGKエデルソンの伸ばした手の上を越えて、ポスト内側に跳ね返りながらもゴールに収まった。

この失点でシティの方は、かなり動揺した感じだった。もう少し正確に言うと、失点した直後は、もう一度落ち着いて得点を奪い返しに行く、というつもりでプレーを再開したのだが、1点リードして引いてくると思われたリヴァプールが、同点の時以上に激しくプレスを掛けに来て、それに対して動揺した、という感じだった。
失点後の再開直後、後半15分にフェルナンジーニョからストーンズへのバックパスをマネに引っ掛けられてシュートを撃たれ、これは辛うじてポストに弾かれて失点にならなかったが、その1分後にはオタメンディが浮き球でパスしようとしたボールをサラーに当ててしまい、サラーがオタメンディと入れ替わって逆サイドから上がってきたマネに横パス、これをマネが左足でシティゴール、ニア側のネットに突き刺して、リヴァプールが3点目を挙げた。そしてこのゴールは、今シーズンのシティが公式戦で始めて喫した3失点目だった。

この失点で流石に焦りが出たのか、シティの方も前がかりになり出した。ただ、攻め急ぎの感が強く、後ろの押上げよりも早く前線が仕掛けに入ってしまう為、徐々に後ろと前の間が開いて、4-1-0-5のような形になっていく。そして、プレースピードを必要以上に上げたり、無理目の縦パスを通そうとしたりすると、当然ミスしたり、引っ掛けられてしまう可能性も高まる。
そして後半22分、ギュンドアンが前線でボールを奪われ、このボールがリヴァプールのアンカー、エムレ・チャンに渡ると、シティは3トップと両IHの5名がボールの後ろに置き去りにされてしまった。チャンに対してシティはフェルナンジーニョが前に出て対応し、チャンがボールを運ぶのを阻止したが、こぼれたボールをワイナルドゥムが拾い、フェルナンジーニョの頭を越す浮き球のパス。シティは4-1-0-5の状態からフェルナンジーニョが前に出たので、4-0-1-5のような状態になっていて、フェルナンジーニョの背後のスペースでサラーがこの浮き球のパスを胸トラップでコントロールすると、ワンバウンドしたボールを落ち着けることなく、ボレー気味にシティ最終ライン裏のスペースへ。このキラーパスにマネ、フィルミーニョが走りこんだが、シティの方はGKエデルソンがゴールマウスから飛び出してボールをクリア。しかし、クリアボールが上がり切らず、ボールを再度サラーにカットされてしまい、サラーがエデルソンが空けた無人のゴールにロングシュート。リヴァプールが9分間で3点を奪い、試合を4-1とした。

この失点の後、シティの方はスターリングを下げ、ベルナルド・シウバを投入。シウバはそのままスターリングのいた右ウィングのポジションへ。

マンチェスターシティ フォーメーション(後半26分時点)
10
アグエロ
19
サネ
20
シウバ
8
ギュンドアン
17
デブライネ
25
フェルナンジーニョ
3
ダニーロ
30
オタメンディ
5
ストーンズ
2
ウォーカー
31
エデルソン

この後、試合は終盤まで4-1で進み、試合の最後にシティが、上記の交替で入ったシウバの得点、そしてロスタイムのギュンドアンの得点で2点を返し、1点差にまで詰め寄ったが、3点差を追いつくまでには至らず、4-3でリヴァプールの勝利となった。

この試合を見て、シティとリヴァプールのサッカーで気付いたことを一つずつ。

前半31分、シティの方は、ゴールキックの時に特徴的なサインプレーをしていた。キックを蹴る時、GKの脇にCBを下げ、アンカーのフェルナンジーニョの近くまでIHの2人も下げる。そうするとリヴァプールはIHの2人が前に出てくるので、その後ろは最終ラインの4人+アンカーのチャンのみとなる。また、リヴァプールは全体が前に出ているので、それに合わせて最終ラインも、リヴァプール陣内ギリギリぐらいまで上がることになる。この高さだと、シティのGKエデルソンはゴールキックをリヴァプールの最終ラインの裏まで蹴ることが出来る。そして、ゴールキックはオフサイドを取られないので、最前線のアグエロはリヴァプールの最終ラインの裏からプレーを始めることが出来る。逆に、リヴァプールの最終ラインは下がりながらアグエロへのボールを跳ね返す必要が出てくる。更に、リヴァプールの最終ラインの前にはチャン1枚だけなので、シティの方はウィングの2枚がアグエロに寄って行くとセカンドボールを拾える可能性が高くなる。このシーンで、エデルソンのキックの瞬間にはアグエロはリヴァプールの最終ラインの裏にいて、サネはアグエロへのボールのセカンドを回収するためにシティから見て左サイドから右サイドに走っていた。そして狙い通りサネがボールを回収し、ドリブルを開始。直接チャンスにつなげることは出来なかったが、CKを奪うことに成功した。シティは前半35分にも同じようなプレーがあり、また後半には、前半と同じ形から、アグエロではなく手前のスペースにいるサネを狙う、というプレーもあった。
それ以外にもシティの方は、リヴァプールが前から積極的にプレスを掛けてくることを利用して、最終ラインのサイドから、最前線の逆サイドにいるウィングに対角線の長いボールを入れる、という形も多かった。1-1に追いついたシーンは、右SBのウォーカーから左ウィングのサネへのロングボールが発端だったし、逆に左CBのオタメンディや左SBのデルフから右ウィングのスターリングに長いボールを入れる形も狙っていた。つまりシティはショートパスをつないで崩していくことを主なスタイルとしつつも、それに拘泥するようなことは無く、ロングボールについてもデザインされた形を持っている。そしてそれが、シティのサッカーが簡単に対策されない、大きな要因になっていると感じた。

一方のリヴァプール。このシティとの試合に臨むにあたってのクロップ監督の戦術の大枠は、下記のようなものだったと考えられる。

  1. シティのショートパスについては、最終ラインがWの形の場合とMの形の場合、それぞれについて対策を設ける。
  2. ショートパスを封じた上で、1つ飛ばしたパス及びロングボールに対して、デュエル、インテンシティ勝負に持ち込む。
  3. 奪ったらサイドの選手のスピードを活かして手数を掛けずにフィニッシュに持ち込む。
  4. 押し込まれて前からプレスに行けなくなった場合はサイドから陣地を回復する。

一番難しいのは2の部分で、そこで勝てないと、どんな対策も無駄になってしまう。シティの選手は決して、デュエル、インテンシティが弱いわけではなく、寧ろ非常に強い。しかしそこで勝つ、というのが選手に求められる部分で、監督に出来るのは、勝つ確率が高まるように試合をオーガナイズするところまで。なんとなく、日本代表のハリルホジッチ監督が目指すサッカーに似ている気がする。前からどんどんボールを奪いに行く時は良いが、引いて守る時には危うい、というところも似ている。実際、この試合のリヴァプールの終盤の2失点は、リードを奪って引いてしまったところから生まれた。
ただ、そういうサッカーがハマる相手はシティであったり、オーストラリア代表であったり、ベルギー代表であったり、つまりは攻撃的な、もっと言うと理想主義的なサッカーをする相手で、そうではない相手の場合は、リヴァプールも苦戦することが多い。
日本代表がワールドカップで戦う相手は、いずれも日本を勝ち点3を奪う相手と見做している筈で、攻撃的に戦ってくれることは期待できる。ただ、日本が先制された場合はそうではなくなるので、その時にどうするか、というヒントは、リヴァプールが先制された時、もしくはリヴァプールが格下のチームと戦う時に、見つけられるのではないだろうか。

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