ジレンマからの脱却。川崎フロンターレ VS ガンバ大阪 ゼロックススーパーカップ

日時 2021年2月20日(土)13:35
試合会場 埼玉スタジアム2002
試合結果 3-2 川崎フロンターレ勝利

2021年シーズンのJリーグ開幕に先駆けて行われるゼロックススーパーカップ。例年だとJリーグ王者と天皇杯王者が対戦するのだが、昨シーズンは川崎フロンターレがリーグと天皇杯の2冠を達成したため、J1で2位のガンバ大阪との対戦となった。ガンバは昨シーズン、ホームであるパナソニックスタジアムで川崎に敗れてリーグ優勝を決められ、天皇杯の決勝でも川崎に敗れている。三度に渡って目の前でタイトルを譲り渡すことは出来ない、という中での対戦である。一方の川崎は昨シーズン、圧倒的な強さで2冠を達成。今シーズンも当然のことながら複数タイトルを狙っており、このゼロックススーパーカップはその最初の一つとなる。

川崎フロンターレ フォーメーション
9
Lダミアン
18
三笘
41
家長
8
脇坂
25
田中
6
シミッチ
47
旗手
5
谷口
4
ジェジエウ
13
山根
1
ソンリョン

川崎フロンターレのフォーメーションは、GKチョン・ソンリョン、4バックが左から旗手怜央、谷口彰悟、ジェジエウ、山根視来、アンカーがジョアン・シミッチ、IH(インサイドハーフ)が脇坂泰斗と田中碧、左ウィングが三笘薫、右ウィングが家長昭博、1トップがレアンドロ・ダミアンという4-3-3。川崎の昨シーズンの成功はこの4-3-3が上手く嵌まったのも大きな理由で、前から積極的にプレスに行く川崎のスタイルと、3トップ+2IHというフォーメーションの親和性が高かったこと、またコロナウイルスの影響による過密日程対策として5枚替えが可能になり、この3トップ+2IHをそのまま入れ替えることで体力の低下を気にせずプレスを掛け続けられたこと、などが大きかった。そして勿論、5枚替えをしてもスタメンと同レベルを保てる選手層が一番根本的な川崎の強みであり、その中でも特に前線は豊富なタレントが揃っている。この試合でもベンチにエースの小林悠、J2福岡で11ゴールを挙げ昇格の立役者となった遠野大弥らが控えており、五輪代表候補のFW旗手を層が薄い左SBに回せるほどの陣容となっている。
唯一の不安材料は昨シーズン、アンカーとしてレギュラー出場していた守田英正がポルトガルリーグのCDサンタ・クララに移籍したこと。彼の後釜として名古屋グランパスから獲得したシミッチが、この試合ではアンカーポジションに入っている。

ガンバ大阪フォーメーション
18
パトリック
34
川崎
21
矢島
10
倉田
15
井手口
29
山本
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
8
小野瀬
1
東口

一方のガンバ大阪のフォーメーションは、GK東口順昭、4バックが左から藤春廣輝、菅沼駿哉、三浦弦太、小野瀬康介、アンカーが山本悠樹、IHが倉田秋と井手口陽介、左ウィングが川﨑修平、右ウィングが矢島慎也、1トップがパトリックというこちらも4-3-3。
ガンバは昨シーズン前半は5-3-2を主体にして戦い、シーズン後半は4-4-2を主体にして戦ったのだが、宮本監督は今シーズン、昨年とは違うサッカーにチャレンジすると明言しており、それがフォーメーションにも表れている。昨シーズンのガンバは前線のパトリックや渡邉千真に向けてロングボールを蹴ることも多い、縦に速いサッカーだったのだが、今シーズンはもう少しボールを保持した戦いをしたい、ということなのだと思われる。これまでずっと右SHとして出場していた小野瀬が右SBになっているのもその表れで、ボール保持を高めるのであればSBのボール運搬能力が重要になるため、今いるメンバーの中でその能力の高い小野瀬をコンバートするのは頷ける選択である。特にガンバは、左SBの藤春があまりボールを運ぶタイプではないし、もう一枚の左SB福田湧矢は藤春よりはSH的な選手だがやはり運ぶよりもスペースに出て行くタイプなので、右SBのボール運搬能力と言うのが重要になる。ベンチに入っている髙尾瑠も運べる選手だが、ACLを考えるともう一枚はそのタイプが欲しい、ということでこのゼロックスで小野瀬のSBを試すことにしたと想像できる。
なお、この記事で単に「川崎」と表記する箇所は全て川崎フロンターレのことを指す。ガンバの左SH川﨑修平についてはフルネームで表記する。

さて試合が始まると、シーズン最初の試合らしく、どちらのチームにも今シーズン新しく取り組もうとしているプレーが見られた。
まず川崎の方は、GKソンリョンをビルドアップに参加させるプレーが以前より増えていて、GKからの再開時にPA内にCBを入れ、GKの両脇に立たせた状態からビルドアップを始める、というプレーが何度か見られた。川崎は前線からのプレスに自信を持っているチームなので、これまでは、GKから無理に繋がずに蹴ってしまっても良い、それで相手ボールになっても前からプレスを掛けて奪い返せば良い、というチームだったのだが、それだとやはり、一度はボールを捨てることになるので、捨てない選択肢も持とう、ということだと思われる。
一方、ガンバの方で大きく目を引いたのはビルドアップ時のSBの動き。味方のCBがボールを持つと、外に張るのではなく中に入って行く。ビルドアップ時にSBが中に入る形はInverted Fullback(インバーティッド・フルバック)と呼ばれ、バイエルン時代のグアルディオラ監督で有名になった形だが、バイエルンや、その後グアルディオラが就任したマンチェスターシティがやっていたのはCBをワイドに広げてアンカーをその間に落とし、SBをCBよりも更に中に入れる、アルファベットのMのような形である。一方、この試合でガンバがやっていたのは、CB2枚の前にアンカー、その更に前にSB2枚、というサイコロの5の目のような形。川崎の3トップはガンバのCBとアンカーにプレスに来るので、中に入ったガンバのSBは川崎のIHが見ることになる。つまり、理論上は川崎のアンカー脇でガンバのIHがフリーになれる。また、中央を上手く使えなかったとしても、ガンバのSBが中に入ることで川崎の中盤も中に寄るので、ガンバのウィングが大外のレーンを引いてくればそこにボールを逃がせる。
・・・というような算段だったと思うのだが、実際には上手く行かず。そもそも川崎の前線からのプレスは迫力が凄いので、フリーの味方を探す前に詰められてしまう。また、SBが中に入る動きとウィングが引いてくる動きが連動しておらず、CBから見るとただ単に幅がなくなっている、ということもあった。また、連動が上手く行ってウィングにボールを逃がした後そこでロストしてしまって、SBが中に入ったことで生まれたサイドのスペースを使われてしまう、ということもあった。
今シーズン最初の公式戦で新しいことにチャレンジしている以上、こう言うことが起こるのは当たり前で、この点については、川崎のGKからのビルドアップも同様だった。どちらのチームも、チャレンジすることでリスキーな状況は生まれていたのだが、それは多分、どちらのチームも織り込み済みだったはずである。

上記のように両チームともコンセプトを持って臨んだ前半だったが、優勢に進めていたのはやはり川崎の方だった。ガンバの方は前半序盤こそ川崎陣内深い位置まで積極的にプレスに行っていたが、押し込んでプレスを掛けても、ひとたびレアンドロ・ダミアンにボールが収まってしまえば、サイドからダミアンを追い越す三笘、家長に高確率で裏のスペースを使われてしまう。結果、前半10分を過ぎるあたりからガンバは徐々に撤退守備に変わって行き、川崎がボールを支配する展開に。ただガンバの方も、撤退守備ではあるが、引き切ってしまうのではなく、最終ラインがペナルティアークにかからないぐらいまでは押し上げて、コンパクトに守ろう、という意識は見えた。
川崎の方は、ガンバが前から取りに来るならダミアンを使ったポストプレーからのカウンター、ガンバが引いてくるならサイドやハーフスペースからの攻略を狙う、という感じだったのだが、もう一つ狙いが見えたのはCKのところだった。ガンバは相手CKの時は全員ゾーンで守り、その時ニアのストーンの位置には井手口が入る。これは昨シーズンからそうなので川崎の方もスカウティングしていた様子で、高さのない井手口の裏にボールを蹴って、そこに谷口やシミッチを飛び込ませる、という形が何度も見られた。上述の通りシミッチは守田の後釜として名古屋から獲得した選手だが、彼は守田よりも高さがあるので、その利点を活かす狙いもあったと思う。ガンバの方は一応、井手口の裏にパトリックを立たせてケアしていたが、FWなので受動的なヘディング対応は怪しいのと、そもそも井手口に高さがない以上、井手口の上を越えてパトリックとの間に良いボールが入って来る可能性も高いので、何度も危険なシーンを作られていた。この試合の川崎のCKは8本だが、ファーに合わせたのは後半46分の1本のみ。明らかに井手口の裏を狙っていた。
ガンバの方はこの試合のスタメンだと高さのある選手がパトリックとCBの2枚ぐらいなので、ここに、この試合ではベンチに座っているレアンドロ・ペレイラ、チアゴ・アウベスら身長のある外国籍選手が加わってくると、もう少し守りやすくなるのかなと。

一方、ガンバの守備の問題点はもう一つあって、それはSBがサイドの守備に出た時にCBとの間が空いてしまう、というもの。4バックの時のガンバはこれが時々起こる。言い換えれば、昨シーズン前半のガンバが5バックにしていたのは構造上それが起こらないから、というのがあったし、昨シーズン後半の4バックが安定していたのはそれが起こらなくなったから、ということでもあった。SBとCBの間のスペースを埋める方法としては、単純にCBがボールサイドにスライドする方法と、ボランチ(ガンバの場合はIHかアンカー)が下りて埋める方法があるが、ガンバの場合、それがどちらもない、ということが時々ある。
前半27分には、左サイドで川崎の右SH家長がボールを持ち、その前方に川崎の左SH三笘、そして三笘にはガンバの右SB小野瀬が対応、というシーンがあった。川崎の方は右SHの家長が実質的にはフリーマンで、左に流れてきたり、アンカーの位置に落ちてきたりする。このシーンでは左に流れてボールを持ち、その家長から三笘への足元のパスを警戒して小野瀬が三笘に寄せた。しかし家長は小野瀬が寄せたことによって出来た三浦との間のスペースに浮き球のパス、これに三笘が走りこんだ。裏を取られた小野瀬は慌てて背走し、クロスを上げようとした三笘にスライディングで飛び込んだのだが、三笘は上げずに切り返してドリブルで中に運び、バイタルでフリーになっていた田中碧にパス、これがゴール前に戻った倉田の足に当たって逆サイドにこぼれ、レアンドロダミアンがシュートするが枠の外に外れた。三笘が家長からのパスに飛び込んだスペースは、本来であれば三浦がスライドして埋めるか、アンカーの山本もしくはIHの井手口が下がって埋めていなければならず、それがないことで起こったピンチだった。

そして、前半28分に川崎が先制点を挙げるのだが、このシーンもガンバの方の問題点は27分の問題と通底していた。このシーンでは川崎のIH田中碧が左サイド(ガンバから見て右サイド)に流れてボールを受け、ガンバの方は、今度は右CBの三浦が飛び出して対応した。そうすると今度はCB間、三浦と菅沼の間が空くので、ガンバの方はそこを井手口か山本が埋めなければならなかったのだがそれがなく、また三浦が田中を潰せれば良かったのだがデュエルに負けて前を向かれてしまい、三浦が空けたスペースに飛び出した三笘に田中からパスが出て、三笘がフリーでゴールエリア角まで運んで右足でシュート、ファー側のネットに突き刺した。ガンバの方はこの試合、GK東口が再三決定的なシーンをストップしていたのだが、このシーンでは三笘に対してファー側のグラウンダーのコースを消すために体を倒して対応し、体の上を抜かれた。三笘が東口との駆け引きに勝ったとも言えるゴールだった。

そして前半31分には畳みかけるように川崎が2点目を奪取。左サイドでボールを持ったシミッチから、ガンバのライン間(山本の背後)に立った三笘にパスが出て、三笘が同じくライン間に走りこんできた脇坂にワンタッチで落とし、脇坂がマークに来た井手口を引き摺るようにキープして田中に預け、田中がペナルティエリア脇からクロス、これに最初に起点になった三笘が三浦と競り合いながら頭で飛び込んだが僅かに合わず、ガンバのCB菅沼が頭で逆サイドにクリアしたが、そのボールに川崎の右SB山根が走りこんできて、インステップでシュートのようなラストパス。上述の流れの後ファーポスト側に残っていた三笘がこれを押し込んで、この試合2点目を挙げた。
川崎の方はガンバの右サイド(川崎から見て左サイド)のライン間に三笘、脇坂、田中の3人が入ってきて、それに応じてガンバのアンカーとIHも右に寄ったので、ラストパスを出した山根は完全にフリーだった。菅沼は逆サイドにクリアするのではなくCKに逃げるべきだったと思うが、もしかするとボールが三笘に少し当たっていて、思った方向に弾けなかったのかもしれない。あと、川崎はこういう「シュートのようなラストパス」を時々見せるが、受け手のスキルに依存したパスを出せるのは強いチームの特徴だと言える。ガンバの方は最初の三笘のヘディングの流れで競り合った三浦がそのまま三笘の近くに立っていたのだが、山根のパスをカット出来なかった。なぜ出来なかったかと言うと、三浦は山根のシュートを警戒してファー側のゴールカバーに入っていたからで、そこに三笘への速いパスが来たので足を伸ばしたが届かなかった。山根のパスがもう少し遅かったら三浦がカット出来ていたし、逆に言うとそれだけ速いボールだったので三笘としては難しいボールだったはずだが、ショートバウンドしたボールを難なく押し込んだ。
また、この時間帯はガンバの方が川崎のボール回しに対してついて行けなくなり、4-1-4-1というよりは4-5-1のようなライン間の開いた守りになっていたので、そこも失点の遠因だったと思う。

前半は川崎の2点リードで終了し、ゲームは後半に入ったが、流れは大きく変わらず。
リードされているガンバの方は主導権を奪い返したいのでIHが前に出て高い位置でプレスをかけようとするのだが、コースをうまく切れずにアンカー脇にボールを通されてしまうことが多く、前に出ると間を使われる、引くと持たれてしまう、という状態。ただ、前半にあったCBとSBの間が空く、という問題については基本的にCBがスライドするような対応になっていた。一方、ボール保持時の変化としては、後半はIHが最終ライン付近まで下りてパスを受けるシーンが増えた。下りないと川崎のプレスに負けてボールを運べないのでそうしたのだと思うが、そうなると今度は前が足りなくなるので根本的な解決にはならない。
ただ、後半10分を過ぎたあたりから川崎の方が少しバテてきて前プレの強度が落ちたため、ガンバの方も少しボールを持てるようになった。ただガンバの方も、こちらは体というより頭がバテているという感じで、前半や後半始まってすぐは攻撃にかかった時の各選手の立ち位置に規則性が見られたのだが、この時間帯ぐらいからはアドリブ的なプレーの割合が増えて行っていた。

そして後半14分、ガンバが1点を返すのだが、この時間帯は上述の通り、ガンバが少しボールを持てるようになっていて、どちらかというと即興的なプレーで川崎のゴールを狙う形が多かったのだが、この得点シーンはボールを持ったアンカーの山本が川崎のペナルティエリア左に向けてドリブルでボールを持ち込み、川崎の守備陣を引き付けてからバイタルの井手口にパス、というところから始まった。川崎の方は井手口に外側から三笘が絞って対応したのだがコースの切り方が悪く、井手口が左IH田中と三笘の間を通して大外の小野瀬に展開、小野瀬がペナルティエリア脇からファーサイドのパトリックに向けてクロスを上げた。川崎の方はパトリックに対してCBジェジエウが競り合い、この競り合いで空中に上がったボールを右SB山根が頭で前方にクリア、このボールを山本がもう一度頭でゴール前に送り、これを外側から飛び込んだ矢島が空中でトラップして左足で反転シュート、ニア側のネットに突き刺した。
ガンバの試合を見ていると、こう言う、パトリックの頭に当ててスクランブルになった状態からゴールを決める、と言うシーンが良くある。一見、再現性がない、たまたま、と言う風に見えるのだが、何度も起こると言うことは、そう言う状況をガンバの選手が得意としていると言うことであり、プロセス的には再現性はなくとも、確率論的には再現性がある、と言うことなのだと思う。逆に言えば、ガンバと対戦するチームはそう言う状況をあまり作ってはいけない、ということであり、川崎の山根は前方にクリアするのではなくCKに逃げておくべきだった。

このガンバの得点の後、後半18分に、川崎の方はシミッチを下げてMF塚川孝輝、そして脇坂を下げてMF橘田健人を投入。左IHが橘田、右IHが塚川、アンカーが田中碧、と言う組み合わせになった。

川崎フロンターレ フォーメーション(後半18分時点)
9
Lダミアン
18
三笘
41
家長
22
橘田
3
塚川
25
田中
47
旗手
5
谷口
4
ジェジエウ
13
山根
1
ソンリョン

そしてこの交代の後から、試合の流れが変わることになる。簡単に言うと、ガンバの方がボールを運べるようになった。
すでに書いたとおり、ガンバはビルドアップの時にSBを中に入れるので、川崎の方はそこにIHがつくとガンバのIHがアンカー脇でフリーになる。それを防ぐために、川崎はアンカーのシミッチとIHの片方一枚が2ボランチ的になってガンバのIHを見て、残り一枚のIHと3トップの4枚でガンバの2CB、アンカー、中に入ったSBの4枚(ボールと逆サイドのSBも中に入ってくる場合は5枚)を見る、という形で守れていた。しかし、交代後は橘田と塚川のどっちがボランチ的になり、どっちが前プレに出ていくのか、という点が曖昧になり、ガンバのアンカーや引いていくIHを捕まえられなくなっていた。また単純に、この2名は最初IHに入っていた田中や脇坂と比べると守備の強度が弱く、ガンバの選手に体を寄せているのに簡単にボールを捌かせてしまう、というシーンも目に付いた。
一方、ガンバの方も少し変化していて、この時間帯は三浦と菅沼の2CBがビルドアップの時により幅を取るようになっていた。そうすると、ボールを奪われた時のリスクは高くなるが、幅を取る分、川崎の選手が前プレで走る距離も伸びるので、CB間で山本であったりIHの2人がフリーになりやすくなる。

ということで、ボールを運べるようになったガンバだったが、それがいきなり得点に結びついた。
後半20分、川崎のマークがはっきりしない流れから、ガンバが左サイドから川崎陣内深い位置にボールを運び、ペナルティエリア角でボールを受けたガンバの左ウィング川﨑修平が大外の倉田に浮き球気味にボールを預けようとしたところ、このボールが山根の腕に当たってハンドの判定。これで得たPKをパトリックが決めて、試合は同点となった。

このゴールが決まった後、試合はそのまま後半の飲水タイムに入り、ここでガンバは川﨑修平を下げてFWチアゴ・アウベス、矢島を下げてFWレアンドロ・ペレイラを投入した。またフォーメーションも変わり、チアゴ・アウベスが右SH、レアンドロ・ペレイラとパトリックの2トップ、左SHが倉田という4-4-2になった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半24分時点)
18
パトリック
9
ペレイラ
10
倉田
32
アウベス
29
山本
15
井手口
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
8
小野瀬
1
東口

一方の川崎は、後半26分にレアンドロ・ダミアンを下げてFW小林悠、三笘を下げてMF長谷川竜也を投入。こちらはフォーメーションは変えず、2名はそのまま前任者のポジションに入った。

正直なところ、ガンバの方は選手を変えるのはともかく、布陣を4-4-2に変える必要はなかったかなと。ゼロックスの位置づけを考えると、この試合の勝敗だけを考えて采配したわけではないと思うが、3ボランチで上手くボールが回りだしていたので、そこは変えない方が良かった気がする。また、4-4-2になった後は、ガンバの2トップの裏で川崎のアンカーの田中がフリーでボールを受けるシーンが増えたし、上背のあるペレイラとアウベスが入ったにも関わらず、CKの守備時のストーンは相変わらず井手口でその裏を狙われていたので、どちらかというとリスクを増やしてしまった采配だったと思う。

ガンバの方は後半35分にパトリックを下げてFW一美和成を投入し、一美とレアンドロ・ペレイラの2トップに。そして後半44分には倉田を下げて髙尾瑠を投入し、髙尾が右SB、小野瀬が右SH、2トップがペレイラとアウベス、左SHが一美という形になった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半44分時点)
9
ペレイラ
32
アウベス
20
一美
8
小野瀬
29
山本
15
井手口
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
27
髙尾
1
東口

これだけの采配を経ても井手口のストーンの問題と2トップ裏で田中に受けられているという問題はそのままだったので、このどちらかが原因で失点する、という可能性は高かったと言える。

一方の川崎の方は後半37分に家長を下げてFW遠野大弥を投入。遠野はそのまま家長のいた右ウィングに入り、これで交代枠5枚は使い切ったのだが、後半ロスタイムに塚川が脳震盪を起こしてしまい、今シーズンから始まった「交代枠を使い切った後でも、脳震盪が起きた時は追加で選手交代ができる」というルールが早くも適用されて、塚川に代わってDF車屋紳太郎が投入された。車屋は左SBに入り、元々左SBだった旗手が右IHに回った。

川崎フロンターレ フォーメーション(後半46分時点)
11
小林
16
長谷川
19
遠野
22
橘田
47
旗手
25
田中
7
車屋
5
谷口
4
ジェジエウ
13
山根
1
ソンリョン

川崎の方は、レアンドロ・ダミアンがいた時はダミアンがポスト役で、そこで納めて両サイドから家長、三笘が飛び出す、という形が多かったのだが、小林が入ると、より直接的に、小林が飛び出す、という形が増えていた。ガンバの最終ラインは試合を通じて高かったので、そこに後半途中からフレッシュな小林が入って裏を狙う、というのはかなり脅威になっていた。

そして後半50分。川崎の決勝ゴールのシーンはGKソンリョンがスローでCB谷口にボールを繋いだところから始まった。谷口にはペレイラが寄せたがボールはその裏にいた田中へ。やはりここが空いている。田中はフリーでセンターサークル付近まで運び、それと同時に右IHの旗手が中央から大外にフリーラン。旗手は左SBだった時も、右ウィングの家長がゴール前でボールを持つと、左サイドから右斜めに長い距離を走って家長の前を横切り、家長のシュートコースと選択肢を作っていて、フリーランの判断・質・量が凄く良い選手だと思う。ガンバの方は、この旗手のフリーランに山本と菅沼の2枚が注意を引き付けられてしまい、山本と井手口の間にポジションを取った遠野がフリーに。田中から遠野に、センターサークルを貫くように縦パスが出て、同時に小林が三浦の裏のスペースに走りこむ。小林はペナルティエリアやや右に侵入しながら遠野からのパスを引き出し、右足でシュート。ガンバは三浦がスライディングで飛び込んだが触れず、ファーサイドにシュートが決まった。
三浦が飛び込まずにファー側を切る対応をしていればシュートをGK東口が止められた可能性もあるが、三浦がニア側のシュートコースに足を伸ばしたことで足の間を抜かれてファー側に決められてしまった。この辺は多分、当事者にしか分からないレベルでニアへのシュートフェイントが入っているのだと思う。食いつかせた小林が駆け引きに勝ったと言うこともできる決勝ゴールだった。

試合をまとめると、後半ロスタイムのゴールで勝利した川崎については、今シーズンもやはり強いな、と感じさせられる出来だった。決勝ゴールは交代で入った小林、その小林にアシストを送った遠野も交代で入った選手、そして田中から遠野へのパスコースを作ったのは、塚川の脳震盪というハプニングで急遽IHに入った旗手だった。こういう、誰がどこに入っても、集団として正しい判断が出来る、風間前監督の言葉で表すなら「目を揃えることが出来る」のが川崎の強みである。一方、ネックになりそうなのはシミッチのところで、昨シーズンの守田の守備強度や運動量は川崎のサッカーを底支えしていたと思うので、それを維持できるか、というところ。あと今シーズンはACLがあり、5枚替え出来るとは言え昨シーズンと同じように前プレの運動量を維持できるかは未知数なので、そこも注目点になりそうである。
一方のガンバだが、敗れたとは言えある程度ボールを運ぶ形が見えたことは好材料である。宮本監督就任以降のガンバは、ボールを保持するサッカーにこだわると勝てなくなる、割り切ったサッカーをすると勝てるようになる、という繰り返しだったが、そのジレンマから抜け出せるかどうか。ネックになりそうなのはこちらもアンカーのところで、山本は攻撃面では申し分ないが守備面が不安である。特に、この試合の後半のように、CBが幅を取るサッカーをすると、ボールを失った時にゴール前にいるのはCBではなくアンカーということになるので、アンカーの守備力は凄く大事になる。ただ、この試合ではベンチに韓国代表のチュ・セジョンが入っており、彼は昨シーズンからガンバがオファーをかけ続けていた選手。こちらがアンカーの本命である。彼が入った時にガンバのサッカーがどうなるのか、という点は大きな注目点である。