このたび、レヴィー クルピ監督とマテルコーチについて、話し合いの結果、双方合意のもと8月26日付けで契約を解除し、退任することになりましたのでお知らせいたします。
このたび、小菊 昭雄コーチが8月26日付けでセレッソ大阪の新監督に就任いたしましたので、お知らせいたします。
8月26日、セレッソからクルピ監督の退任と小菊新監督の就任が発表された。チームは既に小菊新監督の下でJ1第27節のガンバ大阪戦を戦い、新体制下での初勝利を飾っている。今回はこの監督交代について思う所を書いてみたい。
セレッソの現状について
今シーズン、クルピ監督体制下でのセレッソの成績は、リーグ戦25試合で7勝9分9敗。順位については試合数にバラつきがあるため暫定だが12位。昨シーズンの最終順位である4位から大幅に順位を落としていること、そして結果的にクルピ監督下での最後の試合となった湘南戦で1-5の大敗を喫したことを考えると、契約解除に至ったのは止むを得なかったと言える。
このサイトでも取り上げた通り、今シーズンのセレッソは、第1節の柏戦の時点でもう既にロティーナ監督の下で築き上げたものが薄まりつつあった。
愚直さが最後は実を結ぶ。セレッソ大阪 VS 柏レイソル J1第1節
実は、攻撃の時にハーフペースに人がいないであったりとか、守備の時にハーフスペースをうまく守れていないであったりとかは、随分前に同じ指摘をしたことがあって、それはユン監督が退任した時である。
つまり今季のセレッソは、もう既にロティーナ監督が就任する以前の状態が顔を覗かせつつある。
簡単に言えば今シーズンのセレッソは、ロティーナ監督がユン監督のサッカーに上乗せしたものが剥がれていて、守備面ではユン監督時代のシンプルなゾーンディフェンス、攻撃面ではロティーナ監督時代のビルドアップの残り香で戦っていた。攻撃面がユン監督時代に戻らなかったのは、ユン監督時代のダイレクトにFWに当てて行くサッカーは杉本健勇や山村和也といったロングボールを納められるFWが必要だからで、戻さなかったと言うより戻せなかったと言う方が正しい。しかし、過去の記事で取り上げた通り、ロティーナ監督時代ですら最後の方はボール支配率で相手を下回ることの方が多かったので、そこから更にグレードダウンした今シーズンのセレッソはボールを運ぶ形を殆ど持てなかった。その一方でチームとしてはボールを支配するサッカーをしようとしているので、失ったボールは即座に奪い返そうとする、しかし奪い返してもまた失う、その結果、攻守の行き来が激しい混沌としたサッカーになり、整理されていたものがどんどんバラバラになって行った。
クルピ監督について
クルピ監督を一言で表現すると、すごく即興的な監督である。料理人で例えると、素材を見極める目を持っていて、その素材を使って素晴らしい料理を作り上げる力も持っているが、そのレシピは携えずにやってくる、という監督である。
(中略)
レシピが無いのでどんな素材でも分け隔てなく評価する。一方で、レシピが無いので、素材の良し悪しの評価の基本は味見である。つまり、実戦に加えてみてどのように作用するか、を繰り返してチームを作っていく。
(中略)
したがって、クルピ監督が就任した後のガンバが、どのようなサッカーになっていくかは誰にも、「監督本人にも」分からない。
上記はクルピ監督がガンバの監督に就任した時に書いた記事だが、これを見れば分かる通り、クルピ監督は自分のサッカーの理想形というものを持たない。今いるメンバーで出来る一番良いサッカーが理想のサッカー、と言う考え方であり、それが見つかるまではメンバーや戦い方を変え続け、見つかれば固定する。唯一あるこだわりらしいこだわりは、左利きのゲームメーカーを置く、というものなのだが、今シーズンのセレッソはそれに該当する選手をとってこなかったので、今シーズンのクルピ監督は事実上、「自分自身のサッカー」というものを一切持たずに指揮を執り始めたと言える。
選手からすれば監督からのコンセプト提示がない、と言うことになるため、昨シーズンのサッカーを踏襲しようとするが、昨シーズンのサッカーを継続するための練習が行われているわけではないので、練度はどんどん落ちて行く。練度が落ちると内容が悪くなるので監督はメンバーや戦い方をいじる。すると更に練度が落ちて、またいじることになる、という流れで、今シーズンのセレッソは到達点が見えないスパイラルに陥って行った。せめてユン監督時代のサッカーに回帰出来れば良かったのだが、上述の通り杉本健勇や山村和也と言った選手はとっくにいないし、そのかわりに取って来たFWの中では都倉賢やブルーノ・メンデスや鈴木孝司と言った選手がポストワーカー的な選手たちだったが彼らも全部昨シーズン終了後に放出してしまったので、それも出来なかった。このFWの人員の問題と、左利きのゲームメーカーの不在、この2点はチームの帰着点をより複雑にしてしまっていたので、今シーズンのセレッソの問題は編成部分にもあったと思う。逆にそこを抜かりなく行えていれば、スパイラルのどこかである程度勝てる形を見つけられていたかもしれない。クルピ監督はそれを見つけること自体は上手い監督だったので。
どこで間違ったのか
とは言え、問題の根本は監督人事に帰結すると思う。個人的には、ロティーナ監督との契約を更新しない、という点については反対でも賛成でもなく、後任人事次第だと思っていた。
自分の中で、ロティーナ監督時代の一番最高のサッカーは一昨シーズンの最終節の大分戦で、それは何故かと言うと、相手のビルドアップをチーム全体で連動して囲い込んでボールを奪い、そして自分たちのボールは相手に渡さず、ゲームを支配していたから。そして、ソウザというスペシャルな異分子の力を戦術面の強みとして完全に落とし込めていたから。つまり強いチームの勝ち方だったからである。しかしソウザは翌年チーム構想から外れて放出され、そして2020年のセレッソは、ボールの支配率は2019年のサッカーに劣るものの、成熟した守備組織で手堅く試合をものにするチームになっていた。しかしながら、ロースコアゲームになる分、事故的な失点でプランが破綻することも少なからずあり、崩されていないのにスクランブルな状態から失点する→取り返すために前から奪いに行く→ロングボールを蹴られてセカンドを拾われ、またスクランブルな状態から失点する、と言うのが2020年のセレッソの負けパターンだった。2020年に優勝した川崎は「少なくとも3点取る」ということをコンセプトにしており、また実際それだけの得点力を有していて、事故的な失点に対する耐性がセレッソとの大きな差だった。
個人的には、そこにチームとしての成長の踊り場的なものを感じていて、ロティーナ監督の退任時には、守備面では前から奪いに行った時に広いスペースをカバーしてセカンドを拾える選手が必要ではないか、ということと、攻撃面では3列目から攻撃参加して局面を打開できる選手が必要ではないか、ということ、そしてそれは結局ソウザや山口蛍のような、セレッソが放出した選手ではないか、ということを書いた。また、負けている時にはロングボールで相手陣内に急ぐのではなく、プレスの位置を上げて(2019年シーズンの大分戦のように)相手を押し込むことが必要ではないか、と言うことを書いた。
つまり今シーズンのセレッソに必要だったのはそうした課題を克服できる監督で、ロティーナ監督がいなくなったとしても、それを実行してくれる監督がやって来るのであればそれで良かったし、言い方を変えれば、課題が明確になっていたのはロティーナ監督のサッカーがそれだけ整理されていたと言うことでもある。クルピ監督の招聘は結果的に、その課題を混ぜ返して複雑化することにしかならなかった。
個人的には今シーズンのセレッソが課題をどうやって克服するのかが見たかったし、注目していたのだが、開幕から数試合を見て、チームがそう言う次元にないことはすぐに分かったので、そこからはそう言う目線で試合を見ることを止めた。
小菊監督に期待する事
小菊監督の初采配となったガンバ戦では、2トップとSHが相手ボールに無闇に食い付くのをやめ、まず陣形をコンパクトにして、引く時は全員で我慢する、前へ出てプレスを掛ける時は全員で出る、という形で意思統一されていたように見えた。
また、自分たちがボールを持った時はFWが相手SBの裏のスペースに走って起点になる動きが頻繁に見られた。この点については徳島戦のレビューでも触れたが、今シーズンのセレッソは杉本健勇や山村和也のようなポストワーカーはいないものの、豊川雄太やアダム・タガート、加藤陸次樹と言ったスペースに動けるFWは複数いるので、FWがスペースに走って起点になる動きは大事になると思う。この点についてはクルピ監督は勿論、ロティーナ監督時代にも不足していた部分だと思うので、改善を期待したい。
サッカーの大枠としてはロティーナ監督時代を踏襲しようとしているように見えたし、そこの継続性は大切にしてほしい。今シーズンはサポーターから見てもチームのコンセプトが激変していたので、選手たちはもっと大きな差を感じていたと思う。監督は変わるものだし、変わればそれに従うのが選手だが、彼らも人間なので、これまでやってきたこと、特にこれまでやってきて結果が出ていたことを変えてしまうと混乱するし、場合によっては徒労感も生まれる。そうなれば結局良いサッカーは出来ないので、小菊監督には、もっと言えばセレッソと言うチームそのものに、コンセプトの継続性を強く期待したい。