戦術で匹敵し、個の力で勝る。大分トリニータ VS セレッソ大阪 J1第34節

日時 2019年12月7日(土)14:03
試合会場 昭和電工ドーム大分
試合結果 0-2 セレッソ大阪勝利

セレッソ大阪の2019年シーズンのJリーグ、最終節の相手は大分トリニータ。この試合の時点でのセレッソの順位は5位で、この試合に勝利し、かつ同時刻に行われている札幌と川崎の試合で川崎が勝ち点を落とせば4位、つまり賞金圏内に順位を上げることが出来る。また、ACLの出場権はリーグ3位までだが、3位の鹿島が天皇杯で優勝した場合、鹿島は天皇杯優勝チームとしてACLに出場することになるため、4位のチームにもACL出場の可能性がある。セレッソにとっては大きなゲームである。
一方の大分はこの試合の時点で7位につけているチーム。J2からの昇格チームであること、2016年にはJ3にいたこと、2018年のチーム人件費がJ2の中ですら上から13番目、J1を含めると上から28番目であったことを考えると、この順位は驚異的である。2016年に就任した片野坂知宏監督が4年を掛けて作り上げた大分のサッカーは、ポジショナルプレーを評価基準としたスタイル。同じスタイルを持つセレッソとの対戦となったこの試合は、今Jリーグに訪れようとしているサッカーの潮流を感じさせる内容となった。

セレッソ大阪フォーメーション
8
柿谷
25
奥埜
10
清武
7
水沼
11
ソウザ
5
藤田
14
丸橋
15
瀬古
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソ大阪のフォーメーションは、丸橋、ヨニッチ、瀬古、松田の4バック、ソウザ、藤田の2ボランチ、両SHに清武と水沼、2トップに柿谷と奥埜を置く4-4-2。左SHの清武は右ハムストリング筋損傷で9月以降欠場していたが、前々節の神戸戦に途中出場し、前節清水戦ではスタメンに復帰、この試合でもスタメンとなった。清武の復帰に伴い、それまで左SHを務めていた柿谷がFWに回っている。また、CBヨニッチのパートナーはこれまで木本が務めていたが、前節清水戦は木本が体調不良とのことで瀬古がスタメンに復帰し、この試合でも瀬古がスタメン、木本はベンチとなった。なお、木本についてはこの試合の後、FC東京が獲得を狙っているとの報道が出ており、その辺を鑑みたスタメン変更だった可能性もある。

大分トリニータフォーメーション
45
オナイウ
14
小塚
27
三平
50
田中
40
長谷川
6
小林
7
松本
3
三竿
5
鈴木
29
岩田
1
高木

一方の大分トリニータのフォーメーションは、三竿雄斗、鈴木義宜、岩田智輝の3バックに、長谷川雄志、小林裕紀の2ボランチ、両WBに田中達也と松本怜、2シャドーに小塚和季と三平和司、1トップにオナイウ阿道を置く3-4-2-1。11人のメンバーのうち、鈴木、岩田、松本、三平の4名は、2016年のJ3時代から、片野坂監督と共にカテゴリを上げてきた選手たちである。

さて、試合の流れに入る前に、まずこの試合の概観について述べたい。この試合は3-4-2-1の大分と4-4-2のセレッソの対戦だが、両チームとも、持って行きたい形というものがある。大分のほうは、両WBと2シャドーを高い位置に上げ、WBをワイドに張らせてセレッソのSHとSBを引っ張り、空いたハーフレーンをシャドーに使わせたい。大分の方を「▽」、セレッソの方を「▲」で表すと、下記のような形が大分にとっては望ましい。

↓大分側攻撃方向↓
↑セレッソ側攻撃方向↑

逆に、大分の方は押し込まれてWBが最終ラインに吸収され、シャドーがサイドに下がらざるを得なくなると、つまり5-4-1のような形になってしまうと苦しくなる。

↓大分側攻撃方向↓
↑セレッソ側攻撃方向↑

1トップの周囲のスペースでセレッソのCBとボランチに安定的にボールを持たれてしまう上、セレッソのSHは押し込んだ形になると内側、ハーフスペースに入って来るので、3バックが中央で数的不利や数的同数に陥りやすくなる。また、この状態でセレッソのボランチに前向きでボールを持たれると、そこに大分のボランチが当たりに行くとバイタルが空く、シャドーが出て行くとハーフスペースにいるセレッソのSHが空く、ということでポジションにピン止めされた状態になってしまう。つまり、セレッソとしてはこの形に持って行くのが狙いとなる。
そして、両チームとも持って行きたい形は相手を押し込んだ形、と言うことは、攻撃の時はいかにしてボールを支配して相手を押し込むか、守備の時はいかにしてボールを支配させず、押し込まれないようにするかが重要になる。

試合の流れに話を移す。
前半、ゲームを支配したのはセレッソだった。大分は平均ボール支配率でリーグ3位のチームだが、この試合前半のボール支配率はセレッソが55%で大分を上回った。つまり、相手を押し込み、自分たちは押し込まれない、という形を作れていたのはセレッソの方だった。セレッソがボールを支配できたのは、セレッソの前線からのプレスが機能していたから。それは、前半4分の段階で既に表れていた。
大分はGKも含めてビルドアップを行うチームだが、このシーンではGK高木がボールを持ち、その前に3バックが立っている、という状況だった。セレッソの方は、FW奥埜がGK高木と3バック中央の鈴木の間のパスコースを切りながら、高木にプレス。この時のFW柿谷、そして両SHの水沼と清武のポジショニングが重要で、特定の選手に付くのではなく、複数の選手にパスが出ることを考慮した中間ポジションを取っていた。具体的に言うと、まず柿谷については、鈴木へのパスコースは奥埜が切っているので、大分の右CB岩田にパスが出た場合と、右ボランチの小林に出た場合、どちらでもプレスに行けるようにポジションを取る。左SHの清武は、上記の岩田、小林に加え、右WB松本に出た場合にプレスに行けるようにポジションを取る。右SHの水沼も同様に、大分の左CB三竿、左ボランチ長谷川、左WB田中、いずれに出てもプレスに行けるポジションを取る、という形だった。
中央のCBへのコースは奥埜が切っているので、GK高木から見たパスコースは、左のCB三竿に出す、右のCB岩田に出す、引いてきている右ボランチの小林に出す、この3つである。それ以外は中距離以上のパスが必要になるのでボールがずれたり、ボールが受け手に届く間に中間ポジションを取ったセレッソの選手が移動してボールを奪われる可能性がある。高木はボランチ小林へのパスを選択。すると岩田と小林の間の中間ポジションを取っていた柿谷が、小林の方に移動してプレス。ここでの柿谷は強く当たりに行くのではなく、あくまでも小林の選択肢を狭めるように、小林から岩田へのパスコースを切りながら、セレッソから見て右方向に限定するようにプレスを掛けていた。追い込まれることを嫌った小林は、GK高木にボールを戻す。もう一度奥埜が、鈴木へのパスコースを消しながら高木にプレスを掛ける。ここで、セレッソの方はボランチのソウザが左SH清武に対して右手を上げ、「プレスの位置を上げろ」と指示している。嵌まった、ということである。清武は中間ポジションから、サイドステップで大分の右CB岩田の方に移動。同時にソウザは後ろ向きにダッシュした。中央のCB鈴木へのコースは奥埜が消した、右CB岩田には清武、左CB三竿には水沼、ボランチ小林には柿谷が対応し、更にもう一枚のボランチ長谷川は藤田が見ている。残りの選択肢の中でGKから一番近いのはシャドーへのミドルパスなので、ソウザが背走したのはそこを消すためである。読み通り、GK高木は右シャドー三平へのミドルパスを選択。ソウザが足を伸ばしてボールに触り、カット出来れば敵陣数的同数の状態でそのままショートカウンターに移れたのだが、果たせずボールは三平へ。三平がトラップミスしたことでセレッソがボールを回収、という形になった。

このように、各々の選手が中間ポジションからプレスを掛けて行き、大分の選択肢を順番に奪っていく、という守備がこの試合では何度も見られた。個々がはっきりとしたマークを取らないのは、「攻撃側は必ず一人多い」という大原則があるからである。ボールを保持している側はGKをボール回しに参加させることが出来るが、保持していない側のGKはゴールマウスを守らないといけないのでプレスには参加できない。大分のようにGKをボール回しに参加させるチームは、この大原則を利用することで必ず味方が一人余る状態を作り出している。こういうチームに対して一人一人が闇雲にプレスを掛けても、空いている所を使われてしまったり、奪い返せてもポジションがバラバラになったり疲弊してしまったりする。そうならないためには、まずボールホルダーにプレスを掛ける選手が一番近くの相手選手へのパスコースを切りながらプレスを掛け、それ以外の選手は残った選択肢の中から確率の高いもの2つ3つに備えた中間ポジションを取り、それを繰り返しながら順番に相手の選択肢を狭めて行かなければならない。
ちなみに、セレッソは前半は0-0で構わないというタイプのチームなので、この試合のように、前半序盤から積極的に敵陣でプレスを掛けることは珍しい。敢えてこのような戦略を採ったのは、上述したように、大分に押し込まれるとセレッソが不利、逆に押し込むことが出来ればセレッソが有利、という状況があるためである。

一方、セレッソがボールを運ぶ形については、大きく分けて2つのパターンが見られた。
1つ目は、ボランチをCBの間に下ろし、SHの片方も下ろすパターン。下図では左ボランチのソウザと左SHの清武が下りているが、藤田と水沼が下りる形もあった。この形では、CB、SB、前にいるボランチ、下ろしたボランチで菱形が一つ、そしてCB、SB、下ろしたSH、下ろしたボランチで菱形がもう一つできる。


8

25

7

10

5

14

11

2

15

22

21

2つ目は、両SHを中に入れ、CB、SB、SH、ボランチという、1つ目よりも少し大きな菱形を2つ作るという形である。


8

25

10

7

14

11

5

2

15

22

21

大分の方は、1トップのオナイウとボールサイドのシャドーで2トップ的にセレッソのCBにプレスを掛けるのが基本なのだが、上記のようにセレッソのCBには常に2つから3つのパスコースが準備されている。例えば1つ目の形で、ヨニッチがボールを持った場合、オナイウがヨニッチと瀬古の間を切って、小塚がヨニッチとソウザの間を切りながらプレスを掛けたとしても、右SB松田、右ボランチ藤田へのコースが残る。松田に左WBの田中、藤田に左ボランチの長谷川が付いても、SH水沼へのパスコースが残る。水沼に左CBの三竿が付くと、大分の最終ラインがセレッソの2トップと数的同数になる上、ラインにギャップが出来る。そして、このギャップが出来た時はセレッソの2トップはそこを狙うことになっている。ボールを持ったヨニッチは、このロジックの逆を辿れば良い。つまり、まず前線を見て、味方のFWが相手のギャップを狙っていたらそこに蹴る。相手が揃っているようなら水沼を見る。水沼に相手のWB田中が付いている場合は松田が、ボランチ長谷川が付いている場合は藤田が空いている筈である。遠くの選択肢から順番に選んでいくのは、ゴールに近いところをまず見るのがサッカーにおけるプレーのセオリーだからである。
セレッソは前半6分、上述の1つ目、ソウザがCBの間に下りる形から、ソウザのロングキックで柿谷が裏を狙う、というシーンがあり、続く前半8分には上述の2つ目の形から、丸橋が右足で前線にボールを蹴り、奥埜が裏を狙うというシーンがあった。いずれも大分の最終ラインはセレッソの前線に対して数的同数かつギャップが出来た状態になっており、この2つのキックはセレッソ側が「蹴らされた」ものではなく狙って蹴ったものである。

大分の方は、2トップ的にプレスを掛けても嵌まらない、人数を掛けると後ろのギャップを使われる、そして何より、セレッソの中間ポジションからのプレスが機能していて自分たちがボールを保持できないので、前半10分に差し掛かるあたりからは、完全にセレッソが押し込んで、大分は5-4-1の形で守るようになった。つまり、最初に書いた狙っている形に持ち込めたのはセレッソの方だった。
既に書いたように、大分の方は5-4-1に押し込まれてしまうと、セレッソのボランチに対してボランチが当たりに行くとバイタルが、シャドーが当たりに行くとハーフスペースが空いてしまう。そして、バイタルでセレッソのFWに受けられたり、ハーフスペースでセレッソのSHに受けられたりすると、CBが出て対応しないといけないので今度は最終ラインが空いてしまい、あたかもスライドパズルのようにスペースが出来てしまう。しかも、セレッソのソウザは強力なミドルシュートを持っているので、飛び出さずに守り続けることも難しい。
前半9分40秒には、ソウザが大分の右ボランチ小林の前でボールを持ち、小林と右シャドーの三平が飛び出したことでバイタルの清武とハーフスペースの柿谷が空く、という状態になった。ここで、大分の方は柿谷に対して右CBの岩田が出て対応、セレッソの方はそのギャップを清武が狙ったのだが、ソウザからボールを受けた柿谷がボールをキープしてしまったため、大分の最終ラインが整ってしまった。ワンタッチでソウザか丸橋、もしくは更に後ろにいた瀬古に落としていれば、そこからの縦パスで清武が一気に大分の最終ラインの背後に抜け出せていた。
更にその1分後、前半10分40秒には、9分のシーンと同じエリアでソウザがボールを持ち、ミドルシュートの態勢を見せたことで、また小林が飛び出した。この時、ハーフスペースから下がっていく清武に釣られて大分の右CB岩田が少しポジションを上げ、それによって出来た最終ラインのギャップに奥埜が走りこんだ。ソウザは奥埜へのスルーパスを選択、奥埜が大分の最終ラインの裏に抜け出して、中央の柿谷に折り返そうとしたが、カバーに入った鈴木に阻まれた。

大分の方は、セレッソの前からのプレスに嵌め込まれてボールを保持出来ない、保持出来ないので押し上がらない、押し上がらないので自分たちは前からプレス出来ない、前からプレス出来ないので1トップ脇を使われて更に押し下げられる、という悪循環になっていく。
そして前半27分。セレッソがボール支配を続けた流れから清武が大分ゴール前、ペナルティアークのやや右外あたりでファウルを受け、セレッソがFKを得ると、このFKをソウザが壁の上を越すキックでゴール右上に沈め、セレッソが先制点を奪取した。
このFKの時、大分の方はニア側(ソウザから見てゴール右側)に壁を立て、セレッソの方はその壁の内側(ゴール中央側)にヨニッチと瀬古を立たせていたのだが、瀬古がソウザのキックの瞬間にしゃがみ、ファー側にボールを通してくるかのようなフェイクを見せた。GK高木は、ややファー側に立ち位置を取ったことでニア側へのキックに間に合わなかったので、このフェイクには効果があったのではないだろうか。

この後も、前半はおおむねセレッソのペースで進み、前半42分には、上述の前半9分、10分の形と同様、ソウザがボールを持ったところから、セレッソはチャンスを迎えている。このシーンでは、ソウザは右SHの水沼にパス。大分の方は水沼に対して左CBの三竿が出たため、水沼はワンタッチで奥埜にはたいて三竿の裏でワンツーのリターンを受けようとしたのだが、奥埜に対してCB鈴木がリターンのコースを切る対応をしたため、奥埜は水沼とは逆側に反転して柿谷にパス、そして柿谷が、上述の流れから中央に入って来た水沼にボールを落とした。大分の方は、柿谷に右CBの岩田が絞って対応したため、右CBと右WBの間が空いて、そのスペースで清武が完全にフリー。従って、水沼はそこに出すだけで良かったのだが、柿谷の落しをドリブルで左に運んでシュートの角度を狭めてしまい、最終的には左足でシュートを撃ったがGKに当ててしまった。
セレッソは再現性を持って大分を5-4-1の形に押し込めているので、この形になると大半がチャンスになる。それだけに、このシーンは得点を決めておきたかったところだった。

一方前半には、セレッソ側のピンチのシーンも幾つか存在した。
1つ目は前半6分、セレッソから見て左サイドからの大分のCKのシーン。この時セレッソはニアポストの前に松田、ゴールライン上にニア側から丸橋、ヨニッチ、水沼を並べ、丸橋とヨニッチの前に藤田、ヨニッチと水沼の前に瀬古を置き、更に藤田の前に清武を置く、というゾーンで守っていた。残りの3枚のうち、ソウザと奥埜はそれぞれオナイウと鈴木をマンツーで見て、柿谷は特定のマークを取らずに清武の更にニア側、斜め前方に立つ、という分担だった。この形から、大分の方は清武と藤田の間を通って選手がニア側に走ってきて、そこにボールが蹴られた。清武は自分のゾーンから下がって頭に当てたのだが、そのボールがファー側にいた岩田に渡ってシュートを撃たれてしまった。
前半の大分のCKは上記のもの含めて3回あり、2回目、前半31分のCKではファー側のオナイウに蹴られたボールをマンツーで付いたソウザがクリアしたが、3回目、前半45分のCKは1回目と同様ニア側に蹴られて、このシーンでは相手にニアでボールを擦らされている(擦らしたボールが丸橋に当たったためピンチには至らなかった)。3回目のシーンでは、セレッソは1回目の時と少し配置を変え、1回目は丸橋とヨニッチの前にいた藤田を、丸橋とヨニッチと同じラインの一番ニア側に下ろしていた。つまり、よりニアサイドを警戒する形に変えたのだが、それでも先に触られてしまった。この点については、後半からはソウザをニアサイドに立たせ、藤田をマンツー役にする、という形で修正されていた。オナイウへのマンマークを少し弱めてでも、ニアで擦らされてスクランブルな状態にされるのを防ぎたかったのだと思われる。
もう一つのピンチのシーンは前半40分。このシーンでは、大分の左ボランチ長谷川が大分陣内でボールを持ち、その前方、ハーフウェーラインを越えたあたりの大外のレーンに左WBの田中が立っている、そしてその内側、センターサークル脇あたり、いわゆるハーフレーンに左シャドーの小塚が立っている、という状態だった。一方、セレッソの方は長谷川に奥埜がプレスし、その後ろの2列目には右から順に水沼、ソウザ、藤田、清武と並んでいて、田中は水沼の外側、小塚は水沼とソウザの間に立っている、という状態だった。この状態はつまり、最初に挙げた大分有利の形、WBがワイドにいて、シャドーがハーフレーンにいる形である。この形から、小塚にパスが通って前を向かれ、小塚が裏のスペースに走ったオナイウに浮き球のパス、ヨニッチが裏を取られたのでGKジンヒョンが飛び出し、オナイウがループを狙ったが枠の上に外れた。
セレッソはこの1分前の前半39分にも似たような形を作られていて、この時は大分の左CB三竿からハーフレーンの小塚にパスが通ってドリブルで運ばれたが、その後小塚がパスミスをしたため、ピンチには至らなかった。セレッソの4-4-2と大分の3-4-2-1の組み合わせ上、セレッソの方はCB・SB・ボランチ・SHの中間のスペースで大分のシャドーにボールを持たれると、SBは相手WBを見なければならず、CBは相手1トップを見なければならないので、ボランチが戻るまで下がるしかなくなる。逆に大分としては、この形が作りたい形である。
セレッソの右SH水沼は前半序盤から、大分の左ボランチや左CBがボールを持った時には、ボールホルダーと左WB田中の間を切る立ち位置を取っていた。田中は大分の中では最も個で違いを作れる選手なので、まずそこを消す、という対応だったのだと思うが、前半40分のピンチ以降は、水沼はまず絞ったポジションを取ってシャドーへのコースを消し、WBに出たら水沼か松田が対応に出る、という形に変えていた。

さてハーフタイムが終わると、大分はボランチの小林に替わりティティパンがピッチへ。長谷川がアンカー、左IH(インサイドハーフ)が小塚、右IHがティティパン、三平とオナイウの2トップという5-3-2に布陣を変更した。

大分トリニータフォーメーション(後半開始時点)
45
オナイウ
27
三平
14
小塚
44
ティティパン
50
田中
40
長谷川
7
松本
3
三竿
5
鈴木
29
岩田
1
高木

この布陣変更の意図だが、前半はオナイウの脇のスペースをソウザに散々使われていたので、2トップにして、引かされた時でもセレッソのボランチにスペースを使われないようにしたい、と言うのが一番の理由だったと考えられる。2トップの並びも、基本はオナイウが左で三平が右だったので、FW的なオナイウよりも、MF的な三平にソウザをマークさせたい、という意図が感じられた。また、3バックのまま2トップにする場合は3-4-1-2にする手もあるわけだが、前半何度か出来ていた、セレッソ陣内のハーフレーンを使う攻撃を後半も続けるのであれば、IHを置いてハーフレーンを使わせるほうが良いので、それも5-3-2を選択した理由だったと考えられる。
また、2トップにした理由はもう一つあって、それは後半開始直後の大分のプレーに表れていた。
後半は大分のキックオフで始まったのだが、大分はボールを右CB岩田に下げ、そこから左CB三竿に展開して、三竿が前線にロングボールを蹴った。大分は中盤をあえて間延びさせて(つまり中盤の人員も前線に寄せて)、中盤を飛ばして一気にロングボール、というサッカーをよくやるチームで、前線を2枚にしたのはそのターゲットを増やしたかったから。前半、セレッソのプレスにかなり苦しめられたので、無理に繋ぐよりも、相手が前からプレスに来ることを逆に利用して、前線に蹴ってその裏を取ろう、ということだったと思われる。大分は上述の後半開始直後、そして後半1分と、前半は殆どなかったCBからのロングボールを立て続けに蹴ってきて、「後半はこれで行くぞ」というような入りだった。

前半使われていた1トップ脇のスペースを消す、ハーフレーンを使う形は残す、ターゲットを2枚にしてロングボールを増やし、セレッソのプレスの裏を取る。片野坂監督の采配は合理的だったと思うが、大分にとって不幸だったのは(つまりセレッソにとって幸運だったのは)、後半の早い時間にセレッソに追加点が生まれたことだった。
後半7分、センターサークルから10mほど大分陣内に入ったところのピッチ中央で藤田がファウルを受け、セレッソがFKを得た。キッカーはソウザ。大分はペナルティエリアのライン上に選手を並べ、セレッソも同様にターゲットの選手を並べたのだが、一人、松田だけは右ワイドに張った位置に立っていた。ソウザは前線には入れずに松田にパス。ボールを受けた松田はペナルティエリア角あたりからクロスを入れたが、走って来た三平に当たってボールが空中へ上がり、コーナーフラッグ付近に落ちてきて、これを先ほどの三平が回収した。三平はこのボールを前線に大きく蹴ろうとして上手く当たらなかったのか、それとも繋ごうとしてコースがずれたのかは分からないが、ボールを松田の方に蹴ってしまい、ボールをもう一度保持した松田が再度ペナルティエリアの角付近まで運んでクロスを上げた。これは三竿が頭でクリアしたが、セカンドを清武が回収してソウザに落とし、ソウザが大分ゴール前に浮き球のボールを入れ、これに、最初クロスを上げた松田が走り込んだ。松田は三竿に競り勝ってボールを頭で柿谷に落とし、柿谷はワンタッチでゴール前中央にポトリと置くようにラストパス。お膳立てのパスを奥埜がゴール左に蹴り込み、セレッソが2点目を挙げた。

前半からセレッソは、何度も再現性のあるチャンスを作っていたが、しかしだからと言って、その形から得点が生まれるわけではない。それがサッカーの難しさであり面白さでもある。ただ、大分の失点のきっかけは三平のキックミスであり、三竿に競り勝ったのは松田のフィジカルであり、奥埜がフリーであることを把握していたのは柿谷の認知力であり、空いたコースに正確に蹴り込めたのは奥埜の技術力である。そういう意味では、両チームの個の力の差が出たともいえるゴールだった。

さて、試合がセレッソの2点リードとなったため、セレッソの方は前半序盤と同じように前からプレスを掛けて行っても良いし、引いて守っても良い、という状況になった。大分の方はCBの前がアンカー1枚に変わっているため、セレッソの2トップとしてはCBからアンカーへのパスに制限を掛けておけば良い。よって、基本的にはCBまではプレスに行かないが、嵌まりそうならプレスの位置を上げて、それをトリガーに後ろも押し上げる、というような形になっていった。一方の大分も、1アンカーにすれば低い位置からボールを運ぶ経路が制限されることは承知の上であり、後半はロングボールを増やすつもりで入っているので、そこは割り切ってやる、ということだったと思われる。
セレッソの方は、大分のロングボールに対してはCBが頭で跳ね返さず、背後のスペースにボールが落ちてからカバーに入る、という対応が目立った。たまたまだったのかもしれないが、もしかすると、頭で跳ね返してセカンドを拾われる、という形を嫌ってそうしていたのかもしれない。

2点ビハインドの大分は、後半15分ぐらいからは前線のプレスの人数を増やしてきて、前半は1トップとボールサイドのシャドーで2トップ的だったプレスを、2トップ+ボールサイドのIHで3トップ的に掛ける、という形に変えてきた。セレッソの方も、無理に追加点を狙わなくとも良い状況であるためボールを相手に持たせて引いて守る形が多くなり、この時間帯あたりは大分がボールを支配する展開に。
上述のとおり、大分の方は押し込んだ形からIHがセレッソ陣内のハーフレーンを使いたいのだが、セレッソはSHが絞って対応する形に変わっている上、最初から引いてしまっている場合は2トップもハーフレーンを埋める対応をしてくるので、大分の攻撃は手詰まりになって行く。WB田中を左サイドに張らせて、中央や右サイドからそこに大きく展開することで田中の個人突破を促す攻撃が何度か見られたが、少しでも時間がかかるとセレッソの方は松田のヘルプに水沼が下りてくるのでこれも難しい。大分は後半20分に三平を下げてFW後藤を投入し、攻撃の活性化を図ったが、それでも状況は変わらなかった。大分のサッカーは間を取っていくか、後ろで回して取りに来させて疑似カウンターというスタイルなので、リードされて引いて中を固められると打開策が少ない。
そして、後半25分を過ぎたあたりから、大分が前線からのプレスの枚数を増やしたことで、大分の最終ラインの前が空き、そこをセレッソがロングボールで使って疑似カウンターという形が増えていく。大分が本来やりたい形をセレッソがやっている、という感じだった。

セレッソは後半32分に清武を下げて田中亜土夢を投入。左SHを入れ替えてサイドの守備の活性化を図ると、後半44分にはソウザを下げてFW鈴木孝司を投入し、奥埜をボランチへ移動。ソウザは攻撃面では違いの作れる選手だが、仕掛かり過ぎてボールロストの起点になったりすることも多い選手なので、奥埜でバランスを取りたい、ということだったと思われる。そして、後半ロスタイムにはFW柿谷を下げて片山瑛一を投入。片山はDF登録の選手だが、柿谷のいた前線にそのまま入っていた。恐らく大分のセットプレー時の守備対策として投入されたのではないだろうか。片山はこれで今シーズン、CB、SB、WB、SH、そしてFWと、ボランチとGK以外の全てのポジションで出場したことになる。

結局、試合は0-2、セレッソの勝利で幕を閉じた。同時刻に行われていた札幌と川崎の試合が川崎の勝利に終わったため、セレッソの今シーズンの最終順位は5位。前年より2つ順位を上げることは出来たものの、賞金圏内でのフィニッシュ、及びACL出場は叶わなかった。

試合を総括すると、セレッソとしては、試合開始前から思い描いていたであろう形、相手を5-4-1に押し込め、相手1トップの脇でソウザをパスの起点にして2トップ+両SHで大分の3バックを攻略する、という形に持って行くことが出来、ゲームプランの遂行という意味では会心の内容だった。しかし一方で、その狙っていた形から奪った得点は無かった。なので、もし前半を0-0で折り返して、その状況で大分が後半から2トップにしてきた場合は、今シーズンのセレッソにたびたびあった、ゲームプラン的には上手く行っていたが得点は奪えず、後半は相手が対策してきて勝ち点を落とす、という試合になっていた可能性もある。
逆に言えば、そうならなかったのはセレッソの選手たちが戦術的に用意されたシナリオ以外のところで大分の選手を上回ったから。最近のJリーグにおいて、ポジショナルプレー的な概念を導入したサッカーと言うのは一種のブルーオーシャン状態で、対策が根付いていないので大分のような予算が限られているチームでも勝ち点を多く稼ぐチャンスがある。ただ、いずれは対策されるし、対策されれば結局個の力の強い方が勝つ。この試合は、セレッソが戦術的な練度で大分に匹敵し、個の力では上回った、だから勝てた、という試合だったように思う。