神は細部に宿る。セレッソ大阪 VS 徳島ヴォルティス J1第18節

日時 2021年4月14日(水)18:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-2 徳島ヴォルティス勝利

AFCチャンピオンズリーグの延期のため、前倒し開催で行われたJ1第18節。セレッソの相手は今シーズン昇格してきた徳島ヴォルティスである。
徳島はスペイン人監督リカルド・ロドリゲスが4シーズンを掛けて作り上げ、J1昇格に導いたチームだが、そのリカルド監督は浦和レッズに引き抜かれ、また、後任のダニエル・ポヤトス監督はコロナウイルスによる入国制限の影響で合流が遅れ、現在は入国後の待機措置期間中。したがって、この試合を含むシーズン序盤はヘッドコーチである甲本偉嗣氏が指揮を執っている(ポヤトス監督は次の試合から指揮予定)。
監督不在のチームを相手に戦ったセレッソだったが、リカルド監督が落とし込んだヴォルティスのサッカーに大苦戦。結果的に1-2の敗戦となったが、内容は数字以上に完敗だった。

セレッソ大阪フォーメーション
32
豊川
20
大久保
10
清武
18
西川
5
藤田
25
奥埜
14
丸橋
33
西尾
3
進藤
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、GKがキム・ジンヒョン、DFラインが左から丸橋祐介、西尾隆矢、進藤亮佑、松田陸、ボランチが藤田直之と奥埜博亮、左SHが清武弘嗣、右SHが西川潤、2トップが大久保嘉人と豊川雄太という4-4-2。
セレッソは右SHのレギュラー坂元達裕とボランチのレギュラー原川力が故障離脱中。更に、4月4日にチーム内で新型コロナウイルスの感染者が出たことで一部の選手、スタッフが隔離期間中、と言う中でこのゲームを迎えている。隔離中のメンバーは公表されていないが、そのうちの一人はレヴィー・クルピ監督で、この試合の直前の福岡戦およびその前の横浜Fマリノス戦は小菊コーチが代わって指揮を執っていた。この試合ではクルピ監督はピッチに戻って指揮を執っている。

徳島ヴォルティス
9
河田
33
藤原
11
宮代
37
浜下
8
岩尾
13
藤田
4
ジエゴ
20
福岡
16
鈴木大
15
岸本
21
上福元

一方の徳島ヴォルティスは、GKが上福元直人、DFラインが左からジエゴ、福岡将太、鈴木大誠、岸本武流、ボランチが岩尾憲、藤田譲瑠チマ、左SHが藤原志龍、右SHが浜下瑛、トップ下が宮代大聖、1トップが河田篤秀と言う4-2-3-1。
上述の通り徳島はリカルド・ロドリゲス監督が引き抜かれ、後任のポヤトス監督もまだピッチに立てず、監督不在の中でこのゲームを迎えているが、スターティングメンバーの11人のうち、新加入選手はトップ下の宮代のみ(川崎からのレンタル加入)。CBの鈴木大誠は昨シーズンの所属こそ琉球だがいわゆるレンタルバック選手で、つまり選手の戦術浸透度に問題はない。

さて、試合は序盤から徳島のペースで進んだ。
徳島は簡単に言うと2つのタイプのサッカーを使い分けながら戦うチームで、守備面では高い位置から積極的にボールを奪い返そうとする形と、リトリートして守る形の両方があり、攻撃面ではこの2タイプの守備から繋がる形で、高い位置からボールを奪い返した時はショートカウンター的な攻撃、リトリートして奪い返した時は低い位置から繋いで行く攻撃、と言う2つが準備されている。リカルド・ロドリゲス監督就任以降の徳島のサッカーを見るのはこの試合が初めてなので、どの試合でもそうなのかは分からないが、この試合では少なくとも、高い位置から奪い返すことをまず狙っていた。つまり、高い位置からプレスを掛け、奪い返した場合はそのままショートカウンター、無理なら下がって守り、ボールを回収したらGKを含めた最終ラインからビルドアップして押上げ、高い位置まで運んで失ったらまたそこからプレス、というのがこの試合での徳島のサイクルだった。そして、この試合が徳島のペースで進んだのは、セレッソの方が徳島の2種類のサッカーいずれに対しても後手を踏んでいたからである。

まず、徳島の高い位置からのプレスについてだが、それを説明するためにはまずセレッソのビルドアップの形を説明する必要がある。セレッソのビルドアップはGK+2CBの3枚で始まり、相手が前から積極的にプレスに来る場合はそこにボランチも落として数的優位を確保する、と言うのが基本形。相手の2トップ(この試合では1トップの河田とトップ下の宮代)はセレッソのGKとCBを見るので、ボランチが下りればフリーになれる。もしなれないとすれば相手のボランチがポジションを捨てて付いて来ているということで、その場合はボールサイドのSH(左なら清武、右なら西川)がサイドから中へ、相手ボランチが空けたスペースに入ることで、今度はSHがフリーになれる、と言う順番になっている。セレッソはGKのジンヒョンが、この中に入ったSHに向けてロビングのミドルパスを送るのが非常に上手く、短すぎて相手に引っかかったり、長すぎてSHの頭を越えたりすることなく精確に届けることが出来るため、この形を多用しているのだが、この試合ではこの形でSHをフリーにすることが出来なかった。
徳島の方は、前からプレスを掛ける時は岸本、ジエゴの両SBがセレッソのSHを迎撃する仕組みになっていて、セレッソのSHが開いている時は勿論、中に入って行った場合も実質マンツーマン的に付いて行って潰すタスクを担っていた。特に岸本の方は、相対するのがセレッソの攻撃の要である清武であること、古巣対決(岸本はセレッソのU23出身)であることなどもあり、鬼気迫るものを感じさせる守備で、SBの基本ポジションである5レーン大外の低い位置からハーフレーンの高い位置まで、一気に出て行ってセレッソのパスの受け手を潰しに行くシーンが何度も見られた。4-4-2や4-2-3-1で守るチームの場合、SHの内側のスペース、いわゆるハーフレーンは、ボランチが埋めようとすると中央が空いてしまい、SHが絞って埋めようとすると大外レーンで相手のSBがフリーになってしまうため、エアポケット的なスペースになってしまいがちで、セレッソの方は清武や大久保がそう言うスペースで受けるのが上手いのだが、岸本は寧ろ、そのエアポケットに進んで出て行くことでボールの刈り処にしていた。

徳島の先制点が生まれたのは前半14分。端緒を開いたのは上述のSBの守備だった。
このシーンはセレッソのGKジンヒョンのゴールキックから始まったのだが、ジンヒョンがボールを大きく前線に蹴り、これを徳島の右SB岸本がヘディングで大きく撥ね返して、ここでまずセレッソの最終ラインが背走する形になった。そしてボールはセレッソの方が回収したのだが、背走しながらの回収だったため徳島の前プレを受けることになり、中央から右SBの松田にボールを逃がしたが、松田が徳島の左SH藤原のプレスを受け、前方の西川にパスを付けたところ、西川が徳島の左SBジエゴに潰されてボールを失い、そこから徳島のショートカウンターになった。ジエゴは奪ったボールをそのまま縦に運んで中央の河田にパス、河田が逆サイドから上がって来た浜下にパス、そして浜下がゴール前中央の宮代にパス、宮代が進藤に付かれながらも右足を振り抜き、ファー側のゴールネットにシュートを決めた。
上で書いたとおり、徳島の方は前プレ時にSBがセレッソのSHを迎撃するのがチームとしての形になっている。前プレがしっかりかかっていれば、セレッソのSHは必ず後ろ向きにボールを受けることになり、徳島のSBは前向きに襲い掛かることになり、結果、徳島のSBがデュエルを制する可能性は高まる。このゴールシーンはまさにそれを体現した形だった。

また、このシーンは徳島の良い部分と同じぐらいセレッソの悪い部分も原因になっていて、その悪い部分とは、GKのゴールキックの選択、FWのボールを引き出す動き、守備の優先順位の3つである。
まず一つ目、これはGKジンヒョンがどうこうと言うよりチーム編成とかチーム戦術の問題と言った方が良いのだが、今のセレッソには長いボールを相手のCBと競り合って、競り勝ったり収めたり出来るタイプの選手はいない。だから基本的にはゴールキックも低い位置から繋ごうとするのだが、この試合の徳島のように前からのプレスがしっかり整理されているチームを相手に繋ぎきるだけの力はない。このシーンでジンヒョンが長いゴールキックを選択したのは、その時点でもう既に何度か徳島の前プレに捕まるシーンがあったので、リスクを回避して、と言うことだったと思うが、長いボールを蹴って撥ね返されて、最終ラインが背走する形になると、余計難しい状況になってしまう。それだったら低い位置で繋いでから長いボールを蹴った方が、相手が前から来る分、裏を取れる可能性は高くなるし、跳ね返されたとしてもこちらも前向きに対応できる。どうしてもゴールキックから長いボールを蹴るのであれば、その場合はサイドに向けて蹴った方が良い。
2つ目については、1つ目の話ともつながっているのだが、FWに長いボールを納めるタイプがいない、そしてチームとして低い位置から繫ぎきる力もない、となった場合に、どうやって高い位置に起点を作るのか、と言う話で、その方法の一つが、FWが相手SBの裏に走ってボールを引き出し起点となる動きである。セレッソのFWにはこの動きが少ない。これは昨シーズンからそうで、寧ろ一昨シーズン、ロティーナ監督初年度の方が出来ていた。この動きを精力的にやっていたのはFWブルーノ・メンデスで、SBが積極的に前に出てプレスを掛けるようなチームに対して、そのSBの裏に走ってボールを引き出し、そこでキープして味方が押し上げる時間を作っていた。しかし昨シーズンのメンデスはコンディションが不安定だったせいかこうした動きが少なくなり、そもそも出場機会も減ってしまったので、結果的に昨シーズンのセレッソは低い位置に押し込められる試合も増えていた。この試合の徳島も、SBが積極的に前に出てくるチームであり、失点シーンで松田がボールを持った時、FW豊川が相手SBジエゴの裏に走っていれば、松田には西川に出す以外の選択肢が出来ていた。そしてこのシーンの後には、豊川がそのスペースに走るシーンが何度かあったので、恐らくベンチなり他の選手から指示があったのだと思う。豊川の場合、相手のCBを背負うとまず勝てないが、並走する形になった時はそこそこ競り勝つので、もっとスペースに走って起点になってほしい。
3つ目については、今のセレッソはロティーナ監督が整理した守備の約束事が、全く消え去ったわけではないものの少しルーズになっていて、守備の優先順位も徹底されていない。この失点シーンで河田がボールを持った時、対応したのは藤田だったのだが、河田の身体の向きに合わせて横パスを切りに行ってしまい、より危険な斜め後ろ(徳島から見ると斜め前)に走った浜下へのパスを通されてしまった。また、得点を挙げた宮代に対応したのは進藤だったが、ファー側のシュートコースを切ってニア側をGKジンヒョンに対応させるべきだったところ、ニア側のコースに足を出して股の間を抜かれてしまった。宮代の足の振り方は、最初インステップでニア側を狙うように見せておいて、腰を回しながらインフロントでファーに蹴る、と言うもの。宮代は川崎の育成出身で川崎から徳島にレンタルされている選手だが、今シーズン最初のゼロックススーパーカップで、川崎の小林悠が同じようなシュートを決めている。

ジレンマからの脱却。川崎フロンターレ VS ガンバ大阪 ゼロックススーパーカップ

三浦が飛び込まずにファー側を切る対応をしていればシュートをGK東口が止められた可能性もあるが、三浦がニア側のシュートコースに足を伸ばしたことで足の間を抜かれてファー側に決められてしまった。この辺は多分、当事者にしか分からないレベルでニアへのシュートフェイントが入っているのだと思う。食いつかせた小林が駆け引きに勝ったと言うこともできる決勝ゴールだった。

浜下にパスを出した時の河田の身体の向き、シュートを決めた時の宮代の足の振り方、いずれも本当の狙いを隠すためのフェイクだったわけだが、守備の優先順位が不明確になると、そう言うフェイクにも引っ掛かりやすくなる。

徳島ペースのまま失点してしまったセレッソだが、前半33分に追いつくことに成功する。
得点は藤田の右サイドからのロングスローにCB進藤が飛び込んでヘディング、と言う形で生まれた。徳島の方はジエゴと河田がストーン、それ以外はマンツーという守り方で、これは徳島のCKの守備と同じ守り方だったのだが、進藤がマンツーに付かれた鈴木大誠に競り勝って上からヘディングを決めた。徳島はストーン役のジエゴが少し鈴木に任せてしまって、彼の所で前向きに撥ね返せなかったのが失点の要因だった。
また、このロングスローになった流れは、前プレに出てくる徳島に対して大久保が相手のCBの間に走り、そこに進藤からロングボールが出て、大久保がPA内で倒されたがノーファウルの判定、そして倒したCB福岡がボールをタッチラインにクリア、と言う流れだった。この時大久保がCBの間に走れたのは豊川がジエゴの裏に走ってそちらに福岡が引っ張られたから。またその少し前の前半19分には、同じように豊川がジエゴの裏のスペースに走ってボールを引き出して起点になり、福岡に競り勝ってサイドからPA内に侵入、中央の大久保にクロスを送るがクリアされる、というシーンがあって、いずれも、FWが相手SBの裏のスペースに走る重要性が感じられたシーンだった。

前半はこのまま1-1で終了したが、同点シーンを除けば終始徳島ペースだった。前半終了時点のセレッソのパス数を見ると、CB進藤が44本で最も多く、その次がCB西尾の25本、3番目に多いのはGKジンヒョンの23本。いかにボールを運べていなかったかが分かる。

後半、セレッソの方は西川に替えて中島元彦、大久保に替えて加藤陸次樹を投入。中島は右SH、加藤はトップと、いずれも前任者のいたポジションにそのまま入った。

セレッソ大阪フォーメーション(後半開始時点)
32
豊川
29
加藤
10
清武
28
中島
5
藤田
25
奥埜
14
丸橋
33
西尾
3
進藤
2
松田
21
ジンヒョン

この交代については良くなった部分と悪くなった部分があって、まず良くなった部分としては、徳島の方はロングスローで失点したことからも分かる通り、セットプレーの守備に少し不安がある感じだったので、そこにプレースキックの精度がある中島が入ったことで、セットプレーからのチャンスを増やすことが出来た。前半のセレッソは右からのCKは西川が蹴り、左からのCKはゼロだったが、後半は右からのCKのキッカーは丸橋、左からのCKのキッカーは中島になっていた。西川と丸橋両方がピッチにいる時、西川が右CKを蹴るのは、クルピ監督はセットプレーの時もホームポジションに近い形にしたがる監督だからで、自分たちが得たプレースキックでは右からのキックは右サイドの選手に、左からのキックは左サイドの選手に任せたがるし、逆に相手にプレースキックを与えた時は右サイドの選手を右側の守備に、左サイドの選手を左側の守備に置きたがる。もしこの試合の前半に左からのCKを得ていた場合は藤田が蹴っていたと思うが、藤田・西川の組み合わせよりも、中島・丸橋の組み合わせの方が得点が期待できそうな気がする。

一方、悪くなったのは前線からの守備で、交代で入った加藤は前プレの基本が全く出来ていなかった。
上述の通り、徳島の方は前線で奪ってショートカウンターと言う形と、リトリートして守ってビルドアップと言う形があり、セレッソの方の前プレが重要になるのは後者の場合である。そして徳島のビルドアップの基本形は、CBの脇もしくは間にボランチが下りる形と、左SBのジエゴと2CBで回す形とがあり、右SBの岸本はビルドアップには参加せず高い位置を取ることが多い。つまり最終ラインを3枚にして回すのが基本になるので、セレッソの2トップとしては、徳島がボランチと2CBで回す場合は自分の前方に3枚、背後に相手ボランチ1枚という4枚を意識して守る必要があるし、徳島がジエゴと2CBで回す場合は前方に3枚、背後に相手ボランチ2枚という5枚を意識して守る必要がある。サッカーでは、数的同数、ないしは相手が1枚多い状態までならひたすら追いかけても守ることは可能だが、相手の方が2枚以上多い状態になると、ただ追うだけでは守れなくなる。よって、優先順位の高いパスコース(この場合は背後のボランチへのコース)から切る、背後の味方が連動してプレスに行けることを確認してプレスを掛ける、などが必要なのだが、加藤は後ろの状況を確認せず相手5枚に単騎で突撃したり、パスコースを切らずにまっすぐボールに向かったりするので、守備として効いていないし何の制限も掛けられていない。体力的に無駄なだけでなく、結果的に相手ボランチをフリーにしてしまっており、そこから後ろの守備がズレて行くので利敵行為に近い。徳島が相手の前プレを回避するのが上手い、ということを差し引いても、ちょっと看過できないレベルだった。

更にセレッソは後半20分に清武を下げて松本泰志を投入。松本は清武のいた左SHにそのまま入った。松本については守備のオーダーがあった様子で、清武がいた時は左SHは中に絞ってハーフスペースを消す、ゾーンディフェンス的な対応をしていたのだが、松本が入ってからは、松本は大外、丸橋より更に外に開いて相手の右SB岸本を見て、ハーフスペースは丸橋が見る、というマンツー的な対応に変わっていた。徳島は岸本が高い位置を取るため、ゾーン的に中を閉める対応だと大外で岸本が空く、そこにSHが引っ張られるとハーフスペースで徳島の右SH浜下が空く、と言う状態だったので、松本を大外のレーンに下ろして5バック的にして役割分担を明確にする、と言うのは理に適った采配だったと思う。

後ろの役割分担は明確になったので、後は前からの追い方さえ明確になれば守備を整理できたと思うのだが、後半36分には豊川に代わって松田力が入り、この選手も前プレの時のコースの切り方が悪かったので、結局セレッソは試合開始時点の大久保・豊川のコンビが守備的には一番マシで、そこから少しずつ悪くして行った形になってしまい、最後まで守備を立て直すことが出来なかった。

一方、徳島の方は後半15分に左SH藤原を下げて杉森考起を投入。後半29分にはボランチ藤田譲瑠を下げて鈴木徳真、右SH浜下を下げて渡井理己を投入し、更に後半37分にはFW河田を下げて垣田裕暉を投入した。いずれの選手も前任者のポジションにそのまま入った。

徳島ヴォルティス(後半37分時点)
19
垣田
45
杉森
11
宮代
10
渡井
8
岩尾
23
鈴木徳
4
ジエゴ
20
福岡
16
鈴木大
15
岸本
21
上福元

そして後半44分。徳島は自陣ペナルティエリア前で回収したボールをSB岸本がドリブルでセレッソ陣内まで持ち上がり、左サイドの杉森に展開、杉森から更に縦、ペナルティエリア脇のスペースに抜けた渡井にパスが出て、渡井がそこからマイナスのクロスを上げるがセレッソの方は松本がクリア、このこぼれ球を徳島の岩尾が回収して鈴木徳に繋ぎ、鈴木徳が右サイド、最初にドリブルでボールを持ちあがった岸本に展開した。岸本はセレッソゴール前、ニア側のスペースに向けてクロス、ここに飛び込んだ選手はいなかったが、セレッソのCB西尾がこのボールのバウンドを見誤ってクリアが背後に飛んでしまい、そのままゴールに入ってしまった。
西尾は前半34分には相手の左SBジエゴが蹴ったロングボールに対して目測を誤ってしまったり、後半開始直後にはセンターサークルあたりから蹴られた浮き球のミドルパスのクリアを誤って相手に落としてしまったり、後半12分には相手のクロスの目測を誤ってかぶってしまったりしていて、この試合ではロングボールやバウンドしたボールに上手く合わせられていない感じで、予兆はあった。J1のレギュラーとして初めて過ごすシーズンであること、コロナで色々な選手やスタッフが離脱していること、連戦であること、などから想像以上にストレスや疲れが溜まっているのかもしれない。

結局このオウンゴールが決勝点となり、セレッソは1-2で敗戦。西尾のミスで負けた、と言うことになるし、それを否定もしないが、それが無かったとして引分や勝ちに値する内容だったかと言われるとそれも違う気がする。また、ロティーナ監督と契約延長しなかったからだ、と言う意見もあると思うし、それについては半分賛成なのだが、もう半分の気持ちとしては、監督が変わってもサッカーのセオリーが変わるわけではないので、そこは監督関係なくちゃんとやってほしい、という気持ちもある。DFラインがボールを持ったらスペースに走って選択肢を作る、シュートフェイントに釣られて足を出さない、前プレを正しく行う、クリアミスをしない。これらは監督が誰であろうと変わらないはずで、そう言う細かい部分の積み重ねが最終的にチームの強弱になる。

この試合の前半12分に、西尾が大久保にパスを出したところ、大久保が背後から岸本にボールを奪われる、と言うシーンがあった。このシーンの後、大久保は西尾に対して「左足に出せ」と言うジェスチャーをしていた。大久保は自陣側を向いていたので左足が岸本から見て遠い脚、右足が近い脚になる。つまり右足側に出すと言うことは岸本がプレスに来ていない、と言うメッセージになる。実際は逆だったわけだが。大久保はパスにメッセージを込めろと言っているわけで、そう言う細部へのこだわり、細かい積み重ねは監督が誰であろうとやらなければいけないことだと思う。神は細部に宿る。