小菊セレッソの現在地

レヴィー・クルピ監督が退任し、小菊昭雄コーチが新監督に昇格してから2カ月が過ぎた。その間、チームはリーグ戦で4勝4敗、ルヴァンカップではガンバと浦和を退けて決勝進出、という結果を残している(天皇杯にも勝ち残っているが、小菊監督下では次の名古屋戦が初戦である)。
まだまだ課題は散見されるが、少なくともコンセプトはロティーナ監督時代に回帰し、納得感のあるサッカーが戻ってきたと感じているサポーターも多いのではないだろうか。それはリーグ戦の星取りにも表れており、小菊監督の就任以降、引き分けた試合はゼロ。狙いを持って試合に臨み、それが実現できた試合では勝利し、出来なかった試合では敗れる、と言う分かりやすい構図になっている。2020年シーズン、ロティーナ監督下では34試合で引き分けが6回だったセレッソが、2021年、クルピ監督下では25試合で9回もの引き分けを数えた。ゲームをコントロールできず、リードを奪ったのに追いつかれてしまう、もしくはリードを奪われて焦り、特攻のような攻撃を繰り返して何とか追いつく、という状態だった時から比べると、現在のセレッソのサッカーは秩序を取り戻した状態と言える。

ロティーナ監督時代との違い

とは言え、小菊監督下のセレッソは、ロティーナ監督時代と異なる部分も当然ある。簡単に言えば、よりアグレッシブなサッカーになった。アグレッシブなサッカーと言うのは、相手に合わせるよりも、まず自分たちからアクションを起こすサッカーと言う意味である。もちろんロティーナ監督も、完全なリアクションサッカーと言うわけではなかったが、小菊監督の方がより、自分たちからアクションを起こして行く傾向が強くなっており、それは上述した引分の少なさにも表れている。
攻撃の枚数についても、ロティーナ監督の時は2トップ+両SH+ボールサイドのSBという5枚で攻めて、2CBと2ボランチ+ボールと逆サイドのSBの5枚で守る、というのが基本だったが、今はそれプラスボランチの片方も攻撃参加させて、6枚で攻めて4枚で守る形が多い。
小菊監督就任以降の公式戦におけるセレッソの得点数は14だが、そのうち5つはボランチまたはDFの選手が挙げたもの。内訳はDF松田陸が1得点、DF進藤が1得点、ボランチ原川が1得点、ボランチ藤田が2得点となっている。ロティーナ監督退任時に行った集計と比較すると、ボランチの得点が増えていることが分かる。

ロティーナ監督の退任を受けて、今のセレッソに足りないものを考えてみる
またボランチのレギュラーである藤田とデサバトは、藤田が2100分の出場で得点1、デサバトが2068分の出場で得点ゼロである。

選手のポジショニングの変化

選手の立ち位置にも変化が見られる。
まず1つ目は、右SHの坂元の所で1対2が出来た時に、ハーフスペースにセレッソの選手が覗く形が増えた。坂元は左利きの右SHらしく左足でのカットインやインスイングのクロスと言う形を持つ一方で、それを囮にして切り返し、縦に運んで右足でクロスと言う形も持っているので、昨シーズン後半あたりからは、相手は必ず2枚で対応するようになった。つまり、5レーンで言う大外のレーンで坂元と相手チームとの1対2が出来ることが多くなっていたのだが、セレッソの方は、坂元が2枚引き受けてくれている状況を上手く使えていなかった。しかし小菊監督就任以降は、この大外レーンで2対1が出来た時に、1つ内側のレーン、ハーフスペースに別の選手が覗く形が増えた。相手チームは坂元に対してSBとSHの2枚が対応することが多いので、ハーフスペースに入って来るセレッソの選手はCBかボランチが見ることになる。前者ならゴール前が、後者ならバイタルが空く。上述した通り今のセレッソはボランチの攻撃参加が増えているので、このボランチがハーフスペースに覗くことが多い。そしてもう一人、このスペースに入ることが多いのが、左SHの乾である。

左右の非対称性がロティーナ時代より顕著に

今シーズン、セレッソ大阪に10年ぶりに復帰した元日本代表MF乾貴士。彼のプレースタイルなのか、それとも小菊監督のスタイルなのかは不明だが、今の乾は左SHと言うよりもIH(インサイドハーフ)、もしくはトップ下的に振る舞うことが多い。乾が左SHの位置から右に寄って行くことで、右サイドでは数的優位が、左サイドではSB丸橋の前にスペースが出来るようになっている。
また、上述した通り今のセレッソは4枚で守って6枚で攻める形が多くなっているのだが、守る4枚のうち3枚はCBと右SBの松田陸であることが多く、右SBの松田がCB的、左SBの丸橋がWB的、という左右非対称な分担になっている。これはロティーナ監督時代からそうだったのだが、乾がロティーナ監督時代の左SH清武よりも、よりはっきりと中寄り、ないしは右寄りのポジションを取る分、松田陸と丸橋の違いもより顕著になっている。

坂元と乾の親和性

そしてもう一つ見逃せないのが、乾が右サイドに寄って行くことで生まれる乾と坂元のコンビネーションである。この二人はドリブラー同士なので、乾がシーズン途中からの加入であるにも関わらず、既に相互理解が出来ている。香川真司と乾のコンビもそうだったが、プレースタイルが似ている者同士は、サポートの仕方も良く分かっており、具体的に言うと、サポートに寄って行く時に背後を回るプレーが多い。
ボールを持った味方からパスを受けようとする時、通常は相手の視界に入る位置に立ちたくなるが、ドリブラー相手にそれをやってしまうと、相手がドリブルするスペースを消してしまうことになる。よって、相手の背後を回って、相手がドリブルで切れこむことも出来るし、自分にボールを落とすことも出来る、というサポートをすることが多い。乾と香川、乾と坂元、というコンビはこう言うサポートが自然に出来る。

チームの課題

一方、小菊監督下のセレッソの課題だが、一言で言えば、ロティーナ監督時代の課題はそのまま残っている。以前いた場所から一度転げ落ちて、そこにまた戻って来たわけだから、それは当たり前のことでもある。
まず一つ目は、相手からボールを奪い返した後、すぐに失ってしまう、という問題。これについては、やはり奪い返した後のボールの納まり処が必要だし、納められないのであれば、最悪相手の裏のスペースにボールを入れて、相手のベクトルを下げることが必要になる。今のセレッソにはポストワーカー的な選手やフィジカル的に強い選手がいるわけではないので、ボールを納めるためには相手DFとの駆け引きと、味方の2列目との距離感が重要になる。
ロティーナ監督にしても、小菊監督にしても、低い位置でボールを奪還した後の基本的な形としては、FWが引いてきて、FWと2列目の距離を近づけてFWが落としたボールを2列目が受けて、そこから裏へ、というワンクッション置いたカウンターを狙うことが多い。ただ、そればかり狙うと結局相手の方も引いて行くセレッソのFWに付いて来るので、そこで潰されてしまったり、結果的に2列目の選手が使えるスペースが狭くなってしまったりする。よって、駆け引きとしてはまずFWは裏を狙って、相手DFの意識をまず裏に向けて、そこから手前のスペースに降りる方が良い。最初は裏を狙って相手を下げておいて、そこから手前のスペースを使う、と言うのは古典的な手法だが、ポジショナルプレー的なサッカーになっても、そう言う基本的な部分は変わらないと思う。
そしてもう一つは決定力の低さ。
小菊監督の就任以降のリーグ戦8試合、セレッソのゴール期待値の合計は10.624である(参照:football-lab)。それに対し、実際に奪った得点は8。合計で-2.624、試合平均では-0.328の下振れである。
ロティーナ監督時代は好調時で1試合平均+0.461、不調時で-0.135だったことを考えると、寧ろ課題は顕著化している。山田寛人や加藤陸次樹と言った20代前半かつJ1経験の少ない選手を戦力化しながら戦っているので仕方がない面もあるが、コンセプトの継続を放り出して補強費を浪費したツケがFWの戦力不足に繋がっているとも言える。この点はフロントの猛省が必要である。

シーズンの終盤に向けて

セレッソはこれから、名古屋グランパスとのカップ戦2連戦を戦うことになる。一戦目が天皇杯準々決勝、二戦目がルヴァンカップの決勝。つまりこの2試合は、今シーズンのセレッソがタイトルを取れるかどうかを決める試合になる。クローズドなサッカーを志向する名古屋は決定力勝負に持ち込まれたくないセレッソにとってはやりにくい相手だが、見方を変えれば、殻を突き破る格好の相手。2017年以来のタイトル奪取を期待したい。