4つの問題点。AFCアジアカップ2019 日本代表 VS サウジアラビア代表

日時 2019年1月21日(月)20:00※日本時間
試合会場 シャルジャ スタジアム
試合結果 1-0 日本代表勝利

AFCアジアカップ2019、日本代表の決勝トーナメント初戦の相手は、FIFAランク69位、グループEを2位で通過したサウジアラビアである。結果としては、日本はこの試合に勝利し、ベスト8に進むことが出来たが、内容については最悪と言って良いものだった。

日本代表フォーメーション
13
武藤
8
原口
9
南野
21
堂安
6
遠藤
7
柴崎
5
長友
22
吉田
16
冨安
19
酒井
12
権田

この試合の日本代表のフォーメーションは、武藤嘉紀を1トップに置く4-2-3-1。ひとつ前の試合、グループリーグ3戦目のウズベキスタン戦では、日本は決勝トーナメント進出を決めていたこともあり大幅なメンバー入替を行ったが、この試合のメンバーは2戦目のオマーン戦とほぼ同じで、1トップの大迫が武藤に変わったのみ。大迫は臀部の怪我の影響でまだ万全ではないためベンチスタート、それ以外のところはベストメンバーで、と言う選考となった。

サウジアラビア代表フォーメーション
19
アルムワラド
10
アルダウサリ
11
バヒブリ
16
アルモカハウィ
20
アルビシ
14
オタイフ
13
アルシャハラニ
4
アルブライヒ
23
アルファティル
2
アルブライク
21
アルオワイス

一方のサウジアラビア代表は、アルムワラドを1トップに置く4-1-2-3。サウジアラビアの試合はロシアワールドカップの開幕戦でTV観戦したが、その試合とこの試合両方に先発している選手は左SBアルシャハラニ、右SBアルブライク、アンカーのオタイフ、左ウィングのアルダウサリのみ。それ以外のメンバーは変わっている。率いるのは前チリ代表監督、フアン・アントニオ・ピッツィである。

この試合、両チーム合わせて唯一のゴールは、前半19分、日本のCB冨安がCKから挙げたもの。日本から見て左サイド、柴崎が蹴ったCKを、冨安が一旦ニアに動くと見せてファーに動きなおし、相手のマークを外してヘディングシュート、という流れだった。
サウジアラビアの方は、マーカーが冨安のフェイクにつられてマークを放してしまい、更にGKがボールに行くかゴールを守るか中途半端な感じで前に出てしまい、この2つが失点の要因となった。
冨安が挙げたゴールは、本大会のグループリーグ初戦、トルクメニスタン戦で堂安が塗り替えた日本代表のアジアカップ最年少ゴールを更に塗り替えるものだったが、この試合の喜ばしい出来事は実質これだけだった。

この試合の日本の問題点を大きく分けると下記の通りとなる。

  1. ロングボールの狙いが悪い。
  2. プレスの設定位置が間違っている。
  3. カウンターの手順が整理されていない。
  4. 交代采配が悪い。

まず1つめのロングボールの狙いについて。
この試合は決勝トーナメント1戦目、負ければそこで終わりということで、両チームとも、低い位置で相手のプレスを受けた時は、無理につなごうとせず前線に長いボールを蹴ってしまう、リスクを掛けない、という傾向があった。しかし、日本のロングボールがサウジに前向きに跳ね返されることが多かったのに対して、サウジのロングボールは日本を背走させることが多かった。その理由は、日本のロングボールは味方に向けて蹴られていたのに対して、サウジのロングボールはスペースに向けて蹴られていたからである。
サウジは自分たちがボールを保持すると、アンカーの14番オタイフをCBの間に落とし、日本の2トップ武藤、南野に対して数的優位を確保した上で組み立てを行うのだが、このオタイフと、CBのアルブライヒとアルファティル、そしてGKアルオワイスはいずれもキック力が有り、特にアンカーのオタイフは長いボールを左右に蹴り分けられる選手である。このオタイフが中央から日本のサイドの裏に向けて斜めにボールを入れる、もしくは、CBを開かせて、開いたCBから日本のサイドの裏に向けて縦に長いボールを入れる、と言うシーンが多く見られた。
一方の日本は、ボールを保持した瞬間にはサウジの3トップ+IH(インサイドハーフ)が積極的にゲーゲンプレスを仕掛けてくるということもあり、最終ラインがボールを蹴る時に余り余裕がない。また最終ラインから前線に蹴られるボールは裏のスペースではなく人、前線中央にいる武藤、南野に向けてなので、相手の最終ラインに前向きに跳ね返されてしまう。これは蹴る側の狙いの問題でもあるし、前の選手のボールを呼びこむ動作の問題でもある。
サウジの方は布陣の構造上、中央はCBの2枚の前にアンカーとIHがいるので、中央に蹴られたボールはセカンドボールも回収しやすい。また、サウジは前からプレスに行く前線に対して、後ろは余り押し上げず、長いボールを前向きに跳ね返せるように、あえて間延びさせて守る、そして間延びする分、中盤はマンツーマン気味に人に付く、と言う感じで守っていて、つまりサウジの方はロングボールの蹴り方、守り方にデザインがあった。
ただ、サウジの選手の個々の力で見れば、ロングボールにそれ程強いわけではなく、ワールドカップの時も、競り合いに負けてしまうシーンが多くあった。この日の日本に対しても、上述のように後ろは前向きで守れるように準備しているのに、それでも南野や武藤に対して競り負けてしまう、ファウルになってしまう、というシーンもあった。
また後半は、キックオフ直後の日本の最初の攻撃が、CB吉田からサイド裏への長いボールだった、と言う所を見ても、日本の方はサイドへのボールを増やそう、ということになったのだと思うが、サウジの方は、サイドに蹴られると殆ど撥ね返せず、左SHの原口が相手の右SBと競り合って競り勝つ、と言うシーンや、南野が右サイドに流れて、競り合いにすらならずにボールを足元に収める、と言うシーンが見られるようになった。よって、日本としては長いボールはサイドへ、と言うことで徹底しても良かったと思うのだが、後半になっても中央に蹴るロングボールは依然としてあり、GKからのパントキックやゴールキックなど余裕のある状況でもそうしていたので、そこは意図が良く分からなった。

次に、プレスの設定位置について。
サウジはグループリーグ1戦目では北朝鮮に対してボール支配率71%、2戦目ではレバノンに対して69%、3戦目ではカタールに対して73%と高い支配率を記録しており、つまりボールを保持する形が準備されているチームである。そして、自分たちに対して前からプレスを掛けてくるチームに対しては、上述のように、裏にロングボールを蹴る、と言う形も持っている。よって、日本の対サウジの守備は、次の3つのうちいずれかになる。

  1. サウジの最終ラインやGKに対し、ロングボールすら入れさせないぐらい前から強力にプレスを掛ける。
  2. 前線は前からプレスに行くが、後ろは上げないようにして、ロングボールは前向きに跳ね返す。間延びする分、中盤はマンツーマン気味に守る。
  3. 引いてブロックを作り、サウジに回させてカウンターを狙う。

上で書いたように、サウジの方はBのやり方で守っていた。トルクメニスタン戦の後半やオマーン戦では、日本はロングボールから良い形を作っていたので、それを警戒して、と言うことだったと考えられる。
一方の日本は、試合開始当初はAでもBでもCでもない、と言う感じだった。前半序盤は全体を押し上げて守備をしようとしていたので多分Aでやりたかったのではないかと思うが、サウジが後ろの3枚で日本の2トップに対して数的優位を作ってロングボール、と言う形を取ると、日本の方はサウジの3枚をどうやって見るかの対策がなく、裏にどんどん放り込まれて、全体がその都度背走する、と言う状況になった。冨安のゴールが生まれてからもそれは同じで、リードを奪ったにも関わらず日本のサッカーに変化はなかった。
結局、前半の終盤ぐらいからは、流石に疲れたのか、後ろは押し上げない、と言う形に変わり、実質的にBの形になった。ただ、Bの形になると中盤、特に遠藤と柴崎の2ボランチがカバーするエリアがどうしても広くなってしまう。遠藤はまだいいが、柴崎の方は明らかに、広い範囲を運動量豊富に動いて守る、相手をマンツーマン気味に見る、と言う守備に適していない。そういう守備をするのであれば、遠藤の相方は山口蛍や井手口陽介のような選手でなければならない。またそもそも、柴崎は全体がコンパクトになっている時ですら守備に穴を開けることが少なからずあるので、彼が見るエリアが広がれば、その欠点が及ぼす影響も広がる、と言うことに過ぎないとも言える。
いずれにせよ、日本の方はBのやり方も上手くいかなかったので、後半20分ぐらいからは、守備の開始位置を変更。2トップも自陣に引かせて、ボールがハーフウェーラインを越えた辺りから守備を始めるようになった。つまり、Cの形になった。
端的に言えば、日本はCの形で試合に入れば良かった。サウジの方はボールを回す形は持っているが、最後の決定力が高いわけではなく、試合の終盤は、引いて守る日本に対して明らかに攻めあぐねていた。日本の方はCで試合に入り、それで万が一、先に失点してしまった場合はBに移行し、それでも追いつけない場合はAに移行する、と言うのがもっともリスクの少ないシナリオだったはずだが、実際にはその逆の順番で推移して行き、結果、掛けた労力やリスクの割にメリットが乏しいサッカーになった。

次に、カウンターの手順整理について。
前半に日本がリードしたこともあり、この試合の日本にはカウンターのチャンスが何度もあったのだが、それを得点に結びつけることは結局出来なかった。主だったシーンを取り上げると下記のようになる。

前半26分37秒
柴崎が相手DFラインの裏に走った南野にパスを送ってカウンター。南野、堂安、武藤の3人全員が奥に走ったので詰まってしまう。最後は南野がゴール前にクロスを上げたが、最初に奥を使ったので最後は手前、遅れて入ってきた原口にマイナスのパスを送って欲しかった。
前半37分24秒
原口が左サイドでボールを持ったところからカウンター。ここでは武藤が中央で止まったことで相手のDFラインも止まり、ファー側で堂安がフリー、しかし原口からボールを受けた柴崎がダイレクトに堂安に送らずボールをコントロールしてしまい、南野にパス。南野は堂安に出そうとしたが既にオフサイドだったため、サイド裏へのパスに変更。キック直前に選択を変えたためミスになりボールがタッチを割る。
後半11分24秒
今度は武藤が引いて受け、南野と堂安が裏に走ってカウンターになる。しかし武藤はサイドの南野に出した後スピードを落としてしまい、南野が顔を上げた時にゴール前に堂安しかいない、と言う状態に。南野がキープに切り替えた段階で武藤がゴール前に入ってきたが、既に相手も戻っていた。
後半14分30秒
右サイドを原口がドリブルで持ち上がってカウンター。原口に対して堂安が引いてくることでファー側で奥に走った南野と武藤がフリーになる。原口から大外の武藤にサイドチェンジが通り、一旦引いた堂安も全力でゴール前に上がって、堂安がファー側でフリーになったが、武藤がタッチ数を増やして詰められてしまい、コーナーキックになる。
後半26分18秒
堂安が相手ボールをカットし、こぼれたボールを武藤が遠藤に落としてカウンター。奪った堂安、遠藤を追い越す形で前線に上がる南野、反転した武藤が裏に走るが、遠藤が裏に蹴らずにドリブルしてしまい、逆に奪い返される。

時系列で追って行くと、最初の前半26分の段階ではカウンターの時、誰が裏を狙って誰が引いてくるのか役割分担が出来ていなかったが、次の前半37分からはある程度整理できて、一人は引くか止まる、残りは裏を狙う、と言う形に変わっている。ただ、シンプルに終る、と言う形が徹底されておらず、いずれもどこかで手数を掛けたことで失敗に終っている。
このあたりはもう少し試合前に整理しておけなかったのかなと。これは結局プレスの設定位置とも繋がる話なのだが、サウジにボールを持たれて日本がカウンターで対抗する、と言う状況を想定をしていなかったのではないかと疑ってしまう。

最後に、交代采配について。
この試合の日本の最初の交代は後半31分、トップ下の南野を下げて伊東純也を投入、と言うもの。この投入自体は分かるのだが、問題は、伊東を右SHに入れ、それまで右SHだった堂安をトップ下に変えた、と言う点である。
まず、日本代表における堂安の右SHとしての守備は凄く効いていて、この試合においても、右サイドで相手とのデュエルを制してボールを奪う、と言うだけでなく、右SBの酒井がサイドに出た時はその内側、CBとの間のハーフスペースのカバーリングに入る、相手のSBがハーフスペースをインナーラップしてきた時は付いて行く、と言う地味な作業をずっとサボらずやっていた。そう言う選手をサイドの守備から外す、しかも勝っていて逃げ切りを図る時間帯に外すと言うことは、代わりに右SHに入る選手は更に高い守備力であったり、更にハードワーク出来る運動量がなければならない。しかし、伊東は交代で入った直後、後半34分に、インナーラップしてきた相手の左SB、アルシャハラニを放してしまい、酒井が慌ててマーカーを切り替えて後ろから追いかけたが間に合わずクロスを上げられてしまった。伊東は酒井に対してマークを受け渡すようなジェスチャーをしていたが、酒井からすれば、堂安の時はハーフスペースへのインナーラップは堂安が見ていたわけで、右SHが堂安から伊東に変わった瞬間に守備のやり方が変われば当然混乱する。
伊東はウズベキスタン戦では室屋とのコンビだったが、その時もハーフスペースのカバーに入っていないことがあった。この試合の伊東は、上記のシーン以降では大体ハーフスペースのカバーを行っていて、基準が良く分からない。所属する柏レイソルは結構かっちりしたゾーンディフェンスで戦うチームなので、そう言うポジショニングが身に付いていない、と言うことはないと思うのだが。
また、伊東は後半40分、サウジのカウンターが始まったシーンで、右サイドを1人歩いていた。

アジアカップ 日本対サウジアラビア その1

アジアカップ 日本対サウジアラビア その1

上の写真がそのシーンだが、1枚目がカウンターが始まったシーン、2枚目がカウンター終了直前のシーンである。1枚目から2枚目の間はおよそ20秒ほどだが、伊東はずっと歩いていて、右サイドのポジションを埋めていない。そして、伊東が空けたスペースではサウジアラビアの8番がフリーになっている。アジアカップの舞台で、試合終盤、1点勝っている、という状況でこれが出来ると言うのはある意味豪胆と言うか、感心すらするが、ちょっと信じられないなと。
伊東はこれ以外にも、後半ロスタイム、全員引いている時間帯で何故かGKまでプレスを掛けに行ってかわされ、ボールをオープンにしてしまったりと、終始チグハグな感じで、どう言うオーダーで送り出されたのか全く分からない。カウンターに期待していたのは勿論理解できるが、勝っている状況で守備のオーダーをしない、と言うのは考えられないので。
ちなみに伊東の投入と堂安のポジション変更については記者から見ても不可解だったのか、試合後の記者会見で質問が出ていた。

試合後、森保一監督のコメント

--南野選手を下げて伊東選手を入れたときに、堂安のポジションを中央に移動させた意図と、その評価は?

意図としては、南野が攻守ともに運動量多く走っていて、疲労が見えたということで、伊東 純也を入れようと思いました。堂安をトップ下にしたのは、彼のところで攻撃の起点を作るというところ、守備の部分も中央から貢献してほしいということで、交代のときにポジションを替えました。
効果としては、堂安のところでカウンターからチャンスができたり、タメができたりという部分で、最後に仕留めるというところまではいかなかったですけど、守から攻への起点になるプレー、そして伊東 純也にも守備からスピードに乗って攻撃に絡むことをやってもらおうと思っていました。

上記を見ると、堂安をトップ下にしてカウンターやタメを出したかった、とのことだが、上述のカウンターの手順の説明で触れたとおり、カウンター時に一人が引いてきてタメを作ったり起点を作ったり、と言うのは伊東の投入前から既に出来ていたので、堂安をトップ下に移動させる必要はなく、単純に南野のところに伊東を入れる、カウンターの時には武藤がタメや起点を作り、伊東が飛び出す、と言うことで良かったはずである。なぜ機能していた堂安を動かしてまでリスクを取ったのか全く理解できない。また、タメや起点を期待されていた堂安も後半43分には下げてしまい、2トップが柴崎と武藤に変わったため、連携がまた振り出しに戻ってしまった。後半44分の日本のカウンターのシーンでは、柴崎、武藤が2人とも裏を狙ってしまい、カウンターが不発に終った。
柴崎がトップ下に入ったのは、堂安の替わりに塩谷が投入され、中盤が塩谷と遠藤の2ボランチになったからだが、柴崎は再三危ない守備を見せていたし、カウンター主体の状況で活きる選手でもないので、塩谷を入れるなら普通に柴崎を下げれば良かった。堂安を下げ、後半ロスタイムには武藤も下げてしまったので、もしサウジが1点返して延長になっていたら、前線には武藤も南野も堂安もいない、かつ右サイドは守備がもろい、と言う状況で延長を戦うことになっていたわけで、相当危ない橋を渡ったと言える。

上記のように、この試合の日本のゲームマネジメントは最悪だったが、それでも負けなかったのは本当に良かった。
次の相手はベトナムで、恐らく今度は日本がボールを持たされる展開になるはず。よもや負けることはないだろうと思っているが、この試合を見る限り、心配は尽きない。