不安材料はいまだ多し。AFCアジアカップ2019 日本代表 VS ウズベキスタン代表

日時 2019年1月17日(木)22:30※日本時間
試合会場 ハリファ インターナショナル スタジアム
試合結果 2-1 日本代表勝利

AFCアジアカップ2019、日本代表のグループリーグ3戦目の相手はFIFAランク95位のウズベキスタン。お互い2連勝で既にグループリーグ突破を決めており、この試合に日本が勝てば日本が首位通過、引き分けか敗れればウズベキスタンが首位通過、と言う中での対戦である。

日本代表フォーメーション
13
武藤
10
11
北川
14
伊東
18
塩谷
17
青山
4
佐々木
20
槙野
2
三浦
3
室屋
23
シュミット

この試合、日本は2戦目のオマーン戦から、FW北川航也を除く全ての選手を入れ替えてきた。北川もオマーン戦は負傷した大迫に代わっての出場だったため、1戦目から考えると、日本はGK東口を除く全ての選手がピッチに立ったことになる。
フォーメーションは、武藤嘉紀を1トップ、北川をトップ下に置く4-2-3-1。2ボランチは青山敏弘、塩谷司と言う現広島、元広島コンビとなったが、この試合の会場となったハリファインターナショナルスタジアムは塩谷が現在所属するアル・アインのホームスタジアムの1つでもあり、塩谷にとっては、本大会での初めての出場を、ホームのピッチで迎える格好となった。

ウズベキスタン代表フォーメーション
14
ショムロドフ
8
アリバエフ
17
ハムダモフ
22
シディコフ
18
ムサエフ
19
シュクロフ
4
サイフィエフ
15
クリメツ
20
トゥフタフジャエフ
6
ハシモフ
1
ネステロフ

一方のウズベキスタンは、ロシアリーグ、ロストフに所属するエルドル・ショムロドフを1トップに置く4-1-2-3。IH(インサイドハーフ)に入ったフォジル・ムサエフはJリーグ、ジュビロ磐田に所属する選手である。
率いるのは、かつてリーガエスパニョーラのバレンシアやセリエAインテルなどで指揮を執っていた、エクトル・クーペル。2000年代のヨーロッパサッカーファンにはおなじみのアルゼンチン人監督である。

さて試合の方だが、ウズベキスタンはIHの2枚、18番のムサエフと22番のシディコフのバランスが、ムサエフが守備的、シディコフが攻撃的、という役割分担になっていて、シディコフが比較的自由に動いてボールに触り、ムサエフがそのバランスを取る、と言う関係になっていた。
シディコフはウズベキスタンの攻撃が前にかかった時にはトップ下のような位置まで出て行く一方で、組み立ての時には左の低い位置、日本の2トップの脇まで下りるので、日本の方は、シディコフが下りて行った時は追い掛けずに回させ、ウズベキスタンのパス回しがDFライン+アンカーの19番シュクロフだけになった時は前からプレスを掛ける、という感じだった。

一方、ウズベキスタンの守備だが、基本的に1トップのショムロドフは日本のCBの前に立つだけ、そこから日本のボランチにボールが出たら、該当サイドのIHが前に出てきてプレスを掛ける、と言う形なので、日本の方はCBの所では自由にボールが持てる。よって、これまでの試合と同じく、日本の方は最終ラインからのロングボールを何度も狙っていた。特に右CBの三浦の右足から、左サイドの乾へ、と言うロングボールが何度も見られたが、この試合ではボールがタッチを割ったり、割らないまでもギリギリ過ぎて乾がコントロール出来なかったりと、殆ど効果が生まれなかった。
タッチラインのギリギリのボールになってしまった理由としては、ウズベキスタンの方がそう言うボールを警戒して、余りボールに対して絞り過ぎないように、つまりサイドにスペースを作ってしまわないように守っていた、と言うことと、三浦の蹴り方が素直すぎて、一度右サイドにグラウンダーで付けておいて、相手を右に引き寄せてから左へ、と言う工夫が無かったこと、その2つだったと思う。
乾は試合の最初はサイドに張った位置でプレーしていたのだが、前半の30分ぐらいからは、徐々に中の方にプレー位置を移動し、ウズベキスタンのアンカーの脇のスペースでボールを受けることが多くなった。ウズベキスタンの方は、このアンカー脇のスペースに対して、右(乾の側)はムサエフが守備的なので下がって埋めることが多いのだが、左(伊東の側)のシディコフは下がって来ないことが多いので、その時は左SBの4番サイフィエフがアンカーの脇に絞ってスペースを埋め、SBが出たことで空くサイドのスペースは、左ウィングの8番アリバエフが下がって埋める、と言う形になっていた。

ウズベキスタンの先制点が生まれたのは前半39分。流れとしては、ウズベキスタン陣内、日本から見て左サイドのスローインから始まったのだが、スローインの瞬間、乾がムサエフを、青山が相手17番のハムダモフを放してしまい、スローインのボールがムサエフに出る、乾が付いていないので佐々木がムサエフに当たりに行く、ムサエフから佐々木の裏に走ったハムダモフにボールが渡る、という順番で、結果的に乾、佐々木、青山の3人が置いて行かれてしまった。
ただ、まだこの時点でハーフウェーラインあたりの位置、しかもタッチライン際だったし、ボールの前には槙野、塩谷がいて、その更に後ろには三浦もカバーに来ている、それに対してウズベキスタンの方はボールより前にいるのは1トップのショムロドフだけ、と言う状況だったので、ここから失点を喫すると言うのは考えづらい状況だった。しかし、日本の方はボールを持ったハムダモフに槙野が行くか、塩谷が行くか曖昧になってしまい、横並びになった両者の間をハムダモフが縦パスを通して、このボールがサイドから槙野の裏に走ったショムロドフに通ってしまった。槙野はショムロドフに半身前に入られながらも並走して戻って、三浦が挟みに行く、と言う格好になったのだが、三浦は中を切って外に追い込めば良い所を、ショムロドフの前に入り過ぎて追走して来る槙野と縦並びのような形になってしまい、ショムロドフに間をドリブルで抜けられて、ペナルティエリアの中に切れ込んだショムロドフが右足アウトサイドでシュート、これがニアに決まった。CB2人が入れ替わられていたのでGKシュミットにとっては完全にノーチャンスだった。
この失点に関しては何も言うことは無いと言うか、上に名前が出てきた選手のうち、GK以外の選手の対応が全部悪くて、それが前から後ろまでずーっと続いたら当然失点になる、そう言うしかない失点だった。

ただ良かったのは、日本がこの失点の直後に追いつくことが出来た、と言う点。
同点ゴールをヘディングで奪ったのは武藤、武藤にクロスを上げたのは右SBの室屋だった。室屋は右サイドで相手の左ウィング、アリバエフとの1対1を制して入れ替わり、サイドをえぐってクロスを上げたのだが、上述の通り、ウズベキスタンはアンカーの脇は左SBのサイフィエフが絞って埋める、という形になっていたので、伊東が中に絞って行くとサイフィエフとアリバエフの間が空いて、アリバエフの背後をカバーする人間がいなくなる。その瞬間を狙った、室屋の好判断だった。

試合後、室屋成のコメント

けっこうサイドで孤立していたので、仕掛けるしかないなと思っていたんですけど、1回ボールを戻したときにサイドハーフの選手が食いついてきたので、食いついているなと思って、このタイミングだったら前にクッと出したらうまく引っかかってくれたので。クロスはよっちくん(武藤 嘉紀)とか、中に強い選手がいたので、GKにキャッチされないぐらいでちょっとふんわりしたボールを上げたらうまくいくなと思ったので。特別だれかに合わせたというよりはスペースに上げるイメージで出しました。

このゴールで試合は1-1となり、同点で後半へ。
そして後半12分には塩谷の素晴らしいミドルシュートが決まって日本が試合をひっくり返した。シュートまでの流れは、日本のCKがニアサイドにこぼれ、これを拾った室屋が右サイドからアーリー気味のクロス、これをCKのため前に上がっていた三浦がヘディングしたところ、ボールがバイタルにこぼれ、これを塩谷がシュート、という流れだったのだが、塩谷のシュートフォームには全く力みが無く、左足のアウトサイドでボールを綺麗にミートして、巻くようにゴールネット右に突き刺した。塩谷にとっては、自分の所属するチームのホームスタジアムでの、格別に嬉しいゴールとなった。

試合後、塩谷司のコメント

--力が抜けてアウトにかけたシュート?

あそこ、コースが見えていたので、枠だけ外さないことを意識して、低く抑えることを意識しましたが、結果アウトにかかってたんですかね?

--振り抜くよりコースを狙った?

いや、でも距離もあったので、できるだけ強いシュートをって。

日本がリードを奪ったことで、当然、ウズベキスタンの方は攻勢に出ることに。ただ、この試合はウズベキスタンの方は5人、日本の方は10人、前の試合から選手を入れ替えている、つまりサブ組の選手が多い状況なので、選手のコンディションにバラつきがある。ウズベキスタンの方は、後半25分ぐらいからは走れない選手が出てきて、ライン間が空いてアンカー脇のスペースが広がってきた。一方の日本は、所属チームで試合に出ていない乾が完全にガス欠になってしまい、ボールロストを連発するようになったので、後半35分に原口と交代。
試合の終盤は、ウズベキスタンの方が主にサイドからのクロスで同点を狙う、日本はそれを跳ね返して北川、武藤、伊東を中心としたカウンターで3点目を狙う、という状況になり、日本の方はカウンターから何度もチャンスがあったのだが、突き放すには至らず。
日本は後半39分には武藤を下げて遠藤航を入れ、遠藤がアンカー、その前に青山と塩谷という3ボランチにして守備固めを行い、ロスタイムには北川を下げて冨安を投入してハイボール対策を行い、なんとか逃げ切った。

試合を見ての感想だが、やはり日本代表はサブ組、つまりJリーグ組が中心になると守備が弱くなるなと。
失点したシーンもそうだし、失点シーンには絡まなかった右サイドの伊東も、試合の終盤、室屋がサイドに出た時にカバーリングのポジションを取れていなかったり、前の人数が足りていない状況で相手GKまでプレスを掛けに行ってボールをオープンにしてしまったりしていた。
ただ、伊東については攻撃面では確実に違いを作っていて、相手を完全に置き去りにするシーンが何度もあった。そこを得点に繋げられていないのはチームとして非常に勿体ない気がする。フリーになり過ぎてその後のプレーに迷いがあるようにも見えるので、第一選択肢はサイドをえぐってクロス、と言うように限定しても良い気がする。この試合の前半43分には、伊東が相手をスピードで剥がしてクロス、中で北川がニア、ファー、ニアと動いてフリーになり、そこにクロスが来たがヘディングを枠外に外してしまった、と言うシーンがあったが、そう言う形をもっと増やしたい。

あと、これまでの記事でも何度か書いているが、やはり日本はセットプレーの守備がずっと悪い。
この試合の日本のCKの守備は、北川と武藤をニアのストーン、青山と伊東をバイタルのスペースに入れ、乾を前線に残して、残りはマンツーマン、と言う守り方だったのだが、前半27分には、ウズベキスタンがショートコーナーをしてきて、それに対してストーンの位置から北川が出て行ったが、2対1の形を作られた、というシーンがあった。ショートコーナーの時、攻撃側は出し手と受け手の2枚いることになるので、守備側も必ず2枚で対応するのがセオリーなのだが、日本の方は、北川ともう一枚は誰が行くのか、武藤が行くのか、伊東が行くのか、決まっていないのか、決まっていたが選手の頭から抜けていたのか、このシーンでは武藤が遅れて出て行って対応していたが、危険なシーンだった。
また、後半35分には日本から見て左サイドから、ウズベキスタンのFKがあり、この時日本はラインを揃えて守っていたのだが、ボールが蹴られる前に三浦がラインの後ろに動いてしまい、オフサイドラインが崩れる、と言うシーンがあった。運よく、下がった三浦の方にボールが飛んできたので良かったが、三浦よりもボールサイドにいる選手は三浦の動きが見えておらず、自分よりゴール側の相手選手はオフサイド、という認識で守っているので、そこに蹴られたら危なかった。
そして、このボールを三浦がクリアしてCKになったのだが、このCKは乾が下がった直後だったので役割が変わっていて、乾がいた時は前線に乾を残していたのだが、これが伊東に変わり、伊東と青山で守っていたバイタルのスペースには、乾と代わって入った原口と、室屋が入った。そして、元々バイタルのスペースに入っていた青山はマンツーマンで相手を見たのだが、ファー側に逃げた相手を放してしまい、この選手にボールを折り返されてしまった。中で合わなかったので良かったが、ここも失点の可能性があったシーンだった。
その後のCKでは室屋がマンツーマンに入り、青山は元の位置に戻っていたので、こう言う所もちゃんと整理しておきたいなと。
日本のグループ以外では韓国対中国の試合と、イラン対イラクの試合を見たが、このあたりのチームはセットプレーの迫力がウズベキスタンより遥かに上なので、今の日本の状態だと絶対やられる。ここからのトーナメントは負ければ終わり。セットプレーの重要度はより大きくなる。セットプレーの守備戦術の構築はGKコーチがやるはずなので、選手は勿論だが、そうしたスタッフの働きも重要になってくると思う。