唯一の危機はGKから。AFCアジアカップ2019 ベトナム代表 VS 日本代表

日時 2019年1月24日(木)22:00※日本時間
試合会場 アルマクトゥーム スタジアム
試合結果 0-1 日本代表勝利

AFCアジアカップ2019、準々決勝に進出した日本代表の相手は、ヨルダンとのPK戦を制して勝ち上がってきたベトナム代表となった。日本の方は、この試合のひとつ前、サウジアラビア戦のサッカーの内容が悪かったこともあり、心配の残る中での対戦だったが、結果は1-0の勝利。スコア的にはサウジ戦と同じではあったものの、内容的には、ゲームマネジメントに右往左往したサウジ戦よりは危なげ無い推移で勝利を納めることが出来た。勿論危険なシーンもあるにはあったが、その点については後述する。
また、この試合、準々決勝からはVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が導入されたことで、審判の判定がビデオ確認によって後から覆る、と言うことも起こるようになり、これも試合展開に影響を及ぼすこととなった。

日本代表フォーメーション
11
北川
8
原口
9
南野
21
堂安
6
遠藤
7
柴崎
5
長友
22
吉田
16
冨安
19
酒井
12
権田

この試合の日本代表のフォーメーションは、北川航也を1トップに置く4-2-3-1。
1トップのレギュラー、大迫勇也は臀部の負傷から戻ったばかりでこの試合ではベンチスタート。また、サウジ戦で1トップを務めた武藤嘉紀は累積警告で出場停止ということで、この試合ではトップ下が本職の北川が、グループリーグのオマーン戦以来となる1トップに入った。
日本代表はサウジ戦から中2日の日程だが、それ以外のメンバーは変わらず、ターンオーバーなしでこの試合に臨む、と言う選考になった。

ベトナム代表フォーメーション
10
コンフオン
20
バンドゥック
16
フンズン
7
フイフン
19
クアンハイ
5
バンハウ
8
チョンホアン
4
ティエンズン
3
ゴックハイ
2
ズイマイン
23
バンラム

一方のベトナム代表は、過去にJ2の水戸ホーリーホックに所属したこともある10番グエン・コンフオンを1トップに置く5-4-1。ベトナム代表は今大会出場チームの中で最も平均年齢が若いチームであり、その若さから来る運動量をベースに戦うチーム。率いるのは日韓ワールドカップ時の韓国代表でコーチを務めたパク・ハンソ監督である。

さて、この試合はFIFAランキング50位の日本と100位のベトナムの対戦と言うことで、基本的には日本がボールを保持する展開。ベトナムの方は1トップのコンフオンに思いのほかキープ力があり、彼に良い形でボールが入った時は全体が押し上げて人数を掛けた攻撃を見せるシーンもあったが、基本的には5-4でブロックを作ってのカウンター狙い。これは日本にとってはグループリーグ初戦のトルクメニスタン戦と似た展開、と言うことで、この試合ではその経験を踏まえた日本のゲームプランが見受けられた。

大まかに言うと、この試合の日本の攻撃プランは大きく3つのフェイズに分かれていた。

  1. 両SBのポジションを上げて両SHを中に入れ、両SB+両SH+トップ下の5枚で相手の2列目4枚に対して数的優位を作る。
  2. 上記5枚に対するボールの出し入れ、及び裏へのボールで相手を前後左右に動かす。
  3. 左右の攻略にギャップを作る。右は密集を作ってワンツーやドリブル、左は幅を取ってクロスやミドルシュート。

時系列で言うと、1と2を前半に行い、3を後半に行った。
具体論で言うと、まず前半の日本は2CBが相手の1トップの両脇、2ボランチが相手ボランチの前にポジションを取り、この四角形でボールを回すところから始めた。そして、このパス回しに対してベトナムの2ボランチが前に出てくると、当然ライン間を空けたくない、という心理からベトナムの最終ラインは押し上がるので、その時は裏を狙う。ベトナムがボランチを残して両ワイドが前に出てくる場合は日本のSBの所が空くのでそこを使う。どちらもせずに5-4のブロックをキープする場合は、中盤は日本の方が数的優位なので中に絞ったSHやトップ下への縦パスを入れる。日本はこの形でボールを握りながら、ベトナムを消耗させていった。
勿論、中盤は日本が数的優位にあるとは言え、SHやトップ下に縦パスを入れる時は相手にカットされることもあるわけだが、日本は味方2ボランチを相手2ボランチの前に立たせているので、パスがカットされた場合は遠藤、柴崎が飛んで行って潰す。前半は基本的に上記のような流れだった。

実際には、1と2を行っている最中に日本のCKからCB吉田麻也がヘディングでゴール、と言うシーンがあったのだが、これは一旦認められたものの、VARにより吉田のハンド(頭に当たった後、腕に当たっていた)を取られて、後から取り消されてしまった。日本としては、ベトナムの平均身長は日本よりも大分低い、ということでセットプレーでの得点は狙い通りだったはずだが、得点が取り消された後のリアクションは当の吉田が一番冷静で、すぐにポジションの取り直しを味方に指示していた。腕に当たったのは本人も自覚があったと思うので、取り消される予感があったのかもしれない。

そして後半には、日本は上記の3の段階に入り、組み立ては2CB+1ボランチの三角形で行われるようになって、もう一人のボランチはより前に出て行くようになった。そして、右は堂安、酒井、南野、そして前に出たボランチで密集を作ってワンツーやドリブル突破、と言う形を見せるようになった一方で、左サイドは原口が外に広がって幅を取るようになった。更に、原口が幅を取る分、長友は内側、ボランチのようなポジションを取って、相手のカウンターに備えるようになった。また、長友は原口にボールが渡った時には原口の内側をインナーラップして相手を引っ張り、原口のカットインするスペースを作る、という動きもしていて、つまり原口が外に張った時は長友は中へ、原口が中に入る時は長友はインナーラップから外へ、と言う形で左サイドに流動性が出るようになった。これらはトルクメニスタン戦の後半の形を想起させるものだった。
また、ボランチの1枚が前に、つまり相手の2列目の前にポジションを取るようになったことで、前半は相手の2列目のライン上にポジションを取っていた南野、堂安、北川が、もう一列前、相手の最終ラインと2列目の間、もしくは最終ライン上、つまりより決定機を迎えやすいポジションを取るようになった。

そして後半7分、相手2列目の前でボールを持った遠藤がバイタルに入ってきた原口にパス。ベトナムは原口の対応に5バックの右から2番目、ズイマインが前に出て、残りは4枚。最終ラインの両ワイド、左の5番バンハウと右の8番チョンホアンは大外にポジションを取った長友と酒井を気にして絞り切れず、中央に残った3番ゴックハイ、4番ティエンズンの脇にスペースが出来た。このスペース、ティエンズンとバンハウの間でボールを受けた堂安がペナルティエリア内にボールを持ち込み、相手に倒された。当初、堂安へのチャージはファウルを取られなかったが、VARでこの判定が覆り、PKの判定。倒された堂安が自らPKを蹴り込み、これが決勝点となった。

試合の内容としては上記のように、日本がおおむねコントロールしていたのだが、冒頭に書いた通り、日本にも危険なシーンがあった。前半37分、CB吉田からGK権田へのバックパスでピンチを迎えたシーンである。
元々日本はDFラインとGKのバックパスの連携に問題があり、この点については今大会のオマーン戦の戦評でも触れた。

鍵はロングボール。AFCアジアカップ2019 オマーン代表 VS 日本代表

まず一つは、日本はDFラインからGKにバックパスを出す時の連携が悪い、と言う点。この試合だけでなく、トルクメニスタン戦でも危ないシーンがあった。DFの選手の返し方が悪い、と言うパターンもあるし、パスを受ける時にGK権田がマウスを外していない、と言うパターンもある。単純に意識があっていない、と言うのもあると思う。いずれにせよ、ここは重要な修正点である。

オマーン戦の戦評では連携が悪い原因を幾つか挙げたが、この試合の37分のシーンは権田がバックパスを受ける時にゴールマウスを外す(自分が守るゴールから離れる)動きをしていないことが原因だった。
フィールドプレーヤーからのバックパスを受ける時、GKはゴールマウスを外す、と言うのは基本なのだが、権田はそれをしていないことが多い。問題のシーンが起こる直前、前半35分にも吉田から権田にバックパス、と言うシーンがあったのだが、この時も権田はゴールマウスを外していなかった。
GKがバックパスを受ける時にゴールマウスを外すことには大きく3つの目的があって、1つ目は当然、パスをコントロールミスしてしまった時に、ボールがゴールの中に入ってしまう、というのを防ぐのが目的。2つ目は、パスを出そうとしている味方に対して、バックパスを受ける準備をしている、と言う意思表示をするのが目的。そして3つ目は、バックパスされたボールにプレッシャーを掛ける相手選手が、ボールとゴールに同時に向かうことが出来る、と言う状況を防ぐことが目的である。
3つ目については実際の画像を見た方が分かりやすい。

アジアカップ2019 日本対ベトナム その1

上記が吉田から権田にパスが出たシーンだが、権田はマウスを外していない。本来であれば画像内の白丸のあたりにポジションを取るべきである。

アジアカップ2019 日本対ベトナム その2

吉田はマウスを外してパスしたため、権田の受ける位置はゴールマウスやや外になっているが、それでもまだゴールに近い。結果的に、ベトナムの選手からすると、ボールにプレッシャーを掛けるとゴールにも近づく、と言うコース取りになる。

アジアカップ2019 日本対ベトナム その3

外を切られて安全なパスコースがなくなる。
この後、権田が吉田にボールを戻して、この段階で吉田もクリアすれば良かったのだが、コントロールしようとしてトラップミスしてしまい、ボールが相手に渡ってシュートを撃たれてしまった。
この試合、日本がベトナムに対してペナルティエリア内から許した枠内シュートは3本。そのうち1本がこれ。もう一本は、このシュートを権田が弾いたボールがサイドに流れ、そこからクロスを上げられてヘディングシュートされたもの。つまり日本がこの試合で迎えたほぼ唯一のピンチは、自分たちで生み出したものだった。

同じようなシーンは後半28分にもあった。
アジアカップ2019 日本対ベトナム その4

吉田は自陣ゴールに向いた状態で相手に背後からプレッシャーを受けていて、GKへのバックパスしか選択肢がない。しかし権田はマウスを外していない。

アジアカップ2019 日本対ベトナム その5

マウスを外していないので、ベトナムの選手がゴールとボールに同時に向かえる。結果、権田はプレッシャーを受けながらクリアすることになり、キックミスになる。この後、画像中央の9番の選手にボールが渡り、相手にセカンドチャンスを許してしまった。

一方、権田がゴールマウスを外していたシーンもあった。下記は後半34分のシーン。

アジアカップ2019 日本対ベトナム その6

右SB酒井から権田にバックパスが出たシーンだが、ゴールマウスを外したことで、ボールに向かうベトナムの選手は、ボールに行くほど日本のゴール正面から離れることになる。当然、GKが受ける心理的プレッシャーも減る。このシーンでは権田のクリアボールが前線の大迫(後半途中から投入)に渡った。

既に書いたように、上述のシーン以外には日本にピンチらしいピンチは無かったので、だからこそ猶更、こういうシーンは減らしたい。準決勝の相手はイランに決まったが、イランの準々決勝、中国戦を見る限り、DFラインにはプレッシャーを掛けて来そうなので、GKとDFの連携、という部分は充分な注意が必要になると考えられる。