日時 | 2018年2月17日(土)24:15 ※日本時間 |
---|---|
試合会場 | ムニシパル・デ・イプルーア |
試合結果 | 0-2 FCバルセロナ勝利 |
23節を終えた時点で勝ち点35で7位。1940年に創設され、以来2014年まで一度もプリメーラに上がったことのなかった小さなクラブ、SDエイバルは、今ヨーロッパのドアを叩ける順位につけている。今節対戦するのは、今シーズンのリーグ戦、いまだ敗戦を知らないFCバルセロナ。バルセロナは昨シーズン、第32節ソシエダ戦からリーグ無敗を続けており、この試合、エイバルに敗れることが無ければ、2010/11シーズンにグアルディオラ監督が樹立した自チームのリーグ無敗記録に並ぶ、という中での対戦である。
17 キケ |
24 ホルダン |
|||||||
8 乾 |
2 オレジャナ |
|||||||
14 ダニガルシア |
3 ディオプ |
|||||||
15 ホセアンヘル |
4 ラミス |
18 アリビラ |
11 ペーニャ |
|||||
25 ドミトロビッチ |
エイバルのフォーメーションはキケ・ガルシア、ホアン・ホルダンを2トップに置く4-4-2。日本代表の乾貴士は左SHに入った。
スターティングメンバーのうち、ボランチのパパクリ・ディオプ、そして右SHのファビアン・オレジャナは、エイバルが冬の移籍マーケットで獲得した選手。ディオプはエスパニョールからの完全移籍、オレジャナはバレンシアからの期限付き移籍である。
9 スアレス |
10 メッシ |
|||||||
8 イニエスタ |
4 ラキティッチ |
|||||||
5 ブスケツ |
15 パウリーニョ |
|||||||
18 ジョルディアルバ |
23 ウムティティ |
3 ピケ |
20 セルジロベルト |
|||||
1 テアシュテーゲン |
バルセロナの方は、ルイス・スアレスとリオネル・メッシを2トップに置く4-4-2。
リヴァプールからクラブ史上最高額の移籍金、1億6000万ユーロを費やして獲得したブラジル代表コウチーニョは、この試合ではベンチスタートとなった。
昨シーズンまでのバルセロナは、メッシ、スアレス、ネイマールの南米3トップ、いわゆる「MSN」が代名詞だったが、ネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍したことで、近年のバルセロナの代名詞だった3トップ、4-3-3のシステムを今シーズンは少し修正していて、守備時は4-4-2で構えるようになっている。攻撃時にはこの形から変化するのだが、それについては後述する。
さて、この試合は欧州を代表するビッグクラブのバルセロナと、スモールクラブのエイバルとの対戦ということで、エイバルの方が引いて守る、という展開が予想されたのだが、実際に試合が始まると、エイバルの方は前線からマンツーマンでボールを積極的に奪いに行く、という守備で戦っていた。
バルセロナは上述の通り、守備の時には4-4-2なのだが、ボールを持つと下図のように、ブスケツをアンカーの位置に落とし、CBとSBがワイドに広がって、4-1-2-3と4-1-3-2の中間のような形になる。
9 スアレス |
||||||||
10 メッシ |
4 ラキティッチ |
|||||||
8 イニエスタ |
15 パウリーニョ |
|||||||
18 ジョルディアルバ |
5 ブスケツ |
20 セルジロベルト |
||||||
23 ウムティティ |
3 ピケ |
|||||||
1 テアシュテーゲン |
これに対してエイバルは、バルセロナのSBがボールを持つとボールサイドのSHが当たり、2トップの1枚がボールサイドの相手CBを、もう1枚がブスケツを見る。更にボールサイドのボランチはボールサイドのIH(ボールがエイバルから見て左にある時はパウリーニョ、右にある時はイニエスタ)を見る。そうやってボールサイドではマンツーマンで人を当てておいて、逆サイドのSHは逆サイドの相手CBと相手SBの中間にポジションを取り、逆サイドのボランチはピッチ中央のスペースを埋める。そしてバルセロナがGKテアシュテーゲンにボールを戻したら、ボールホルダーを見ていた選手がそのまま、自分が見ていた相手とテアシュテーゲンの間を切りながらボールにプレスを掛け、最終的にはロングボールを蹴らせてボールを回収する。
更に、エイバルはずっとマンツーマンで守っているわけではなく、前からボールを奪いに行けない時は、すぐにゾーンでの守備に移行する。乾の動きを見てもそれは明らかで、前から行けない時は絞ってボランチの横のスペースを埋めていて、奪いに行く、となったらスペースの守備を捨てて相手SBに当たりに行く。逆に言うと、SHの選手が自分の担当エリアから離れてボールに当たりに行くことが、マンツーマンで前からハメに行く守備のトリガーになっていた。
リヴァプール VS マンチェスターシティの記事や、エヴァートン VS ウェストハムでも取り上げたが、前からボールを奪いに行く時はマンツーマン、引いて守る時はゾーン、という使い分けは、今の欧州では流行り、というよりも寧ろスタンダードになっている印象である。
エイバルの前線からの守備の強度はかなり高く、バルセロナを相手に上記の前からハメに行く形で何度もボールを奪うシーンが見られた。しかしバルセロナの方も、エイバルが前からボールを奪いに来るということは、エイバルの最終ラインの背後には大きなスペースがある、ということであり、そのスペースを狙うのがスアレス、そしてそのスペースの手前には、世界で一番決定的な仕事が出来るメッシがいる、ということで、試合は序盤から、エイバルが高い位置でボールを奪ってゴールに結びつけるか、それともバルセロナがそれを掻い潜ってエイバルDFラインの背後のスペースに一気に突入するか、というスリリングな展開になった。
そして、試合は前半15分に、バルセロナが先制する。エイバルのCBラミスから左SBホセ・アンヘルへのサイドチェンジのボールに対して、アンヘルのトラップが少し大きくなってしまい、このボールをラキティッチがダイレクトで右サイドに流れていたスアレスへ。スアレスがブスケツに落とし、ブスケツがメッシにボールを預けて、メッシがドリブルを開始した。エイバルの方は、メッシにはディオプがついていて、ディオプの横にはダニ・ガルシア、後ろには最終ラインの4人がいる、つまり4-2のブロックは出来ている状態だったのだが、メッシの左足のパスは、CBの間を抜け、SBの外側から最終ラインの裏に走りこんだスアレスの右足へ。エイバルはGKドミトロビッチが飛び出したが、スアレスは冷静に縦に運んでGKを外し、無人のゴールへシュートした。
エイバルの方はもう少し、CB同士の間を狭めて守りたかった、と言葉で言うのは簡単なのだが、メッシからスアレスへのパスコースは、直線上では空いていなくて、しかしメッシの左足のパスは、CBの間(手前のCBの前、遠い側のCBの背後)を通った後、スアレスの方に向かって曲がって止まるような回転が掛かっていて、TV画面上で見ていても、そこを通せてしまうのか、というようなパスだった。もう少し強くてもCBの間は通せたと思うが、その時はドミトロビッチが飛び出して処理できたか、もしくはスアレスが追い付けても、ドミトロビッチを縦に躱すスペースは無かったと思うので、そういう意味でも絶妙だった。
エイバルの方は、メッシのパスをカットするためにCBアリビラが必死に足を伸ばしたのだが、ボールはそのほんの少し先、10cmぐらい先を通り抜けた。横幅60メートル以上あるピッチの中で、10cmのポジショニングのズレでボールを通されてしまう、というのは実質お手上げに近い。
バルセロナが先制した後も、試合の流れというのは変わらず、前からボールを奪いに行くエイバル、それを外して背後のスペースを狙うバルセロナ、という展開。エイバルの方は、前からの守備自体は狙い通りに行えていたのだが、今のバルセロナは無理に最終ラインで繋ぐことはせず、難しそうな場合はGKテアシュテーゲンがボールを蹴ってしまうので、ボールを回収できてもそれは最終ラインやボランチのところ、ということになり、そこからフィニッシュまでは行けなかったり、行けてもシュート精度を欠いたり、という感じだった。
一方のバルセロナの方は、エイバルの前からのプレスが効いていることで、綺麗な繋ぎこそ出来ていなかったのだが、前線からの守備を剥がした時には十中八九、決定的な形まで持って行く。
よって、ラインを押し上げて激しくプレスを掛けているのはエイバルの方なのだが、崩れないように耐えているのもまたエイバルの方、という相反する状況だった。
試合は上記の状況のまま、0-1、バルセロナのリードで進み、後半へ。
そして後半18分、バルセロナはイニエスタを下げてコウチーニョを投入した。バルセロナの黄金期の象徴とも言えるイニエスタも、既に33歳になり、流石に年々フル出場は難しくなっているので、バルセロナは代替の選手を探しているのだが、その筆頭がコウチーニョ、ということで、投入後のコウチーニョのポジションはイニエスタと同じ、守備時は左SH、攻撃時は左IH、というものだった。
ただ、交代出場したコウチーニョは正直、守備が今一つ、という感じで、途中出場なので守備の運動量自体は多いのだが、3度追い、4度追いしてもボールを追い込めず、エイバルの右サイドの攻撃を制限できない。これはコウチーニョのサイドからエイバルにチャンスが生まれるのではないか、と思ったのだが、実際には、それとは逆のことが起こった。
後半20分にエイバルのボランチのディオプとバルセロナのブスケツのボールの奪い合いの中で、ディオプがブスケツの顔に手を当ててしまい、ここでディオプに対してイエローが提示されたのだが、この判定に憤慨したエイバルの右SHオレジャナが、エイバルの選手がファウル地点に戻そうとしたボールを手で弾いてしまい、これが審判への抗議、もしくは遅延行為と見做されて、オレジャナにもイエローが提示されてしまった。オレジャナは後半13分に、既に1枚目のイエローをもらっていたので、このカードで2枚目、退場となってしまった。
オレジャナはこの試合、少し入れ込み過ぎていたと言うか、熱くなり過ぎていて、相手が揃っている状況で無理目のドリブル勝負を仕掛けて奪われる、というシーンも目立ち、1枚目のイエローも、そうやって奪われたボールを奪い返そうとして、イニエスタにスライディングタックルしてファウル、という物だった。
ただ、逆に言えば精力的にプレーしていた、ということであり、彼は南米のドリブラーらしくゴリゴリ運べるので、実際に効いていたプレーも沢山あった。上述の通り、バルセロナの方はイニエスタとの交代で左SHに入ったコウチーニョの守備があまり良くなかったので、もう少し我慢出来ていれば、エイバルにも、そして右SHである彼自身にもチャンスが来たと思うので、勿体ない退場だった。
さらにエイバルは後半23分、メンディリバル監督も退席処分になってしまう。バルセロナのFWスアレスがオフサイド判定を取られた後にボールを蹴り飛ばしたのを見て激昂し、大声で何度もカードを要求したことが退席処分の理由だった。メンディリバル監督としては、スアレスのプレーもオレジャナのプレーも同じだろう、何故こっちにはカードが出たのにあっちには出ないんだ、ということだったのだと思う。
この試合の審判は、前半11分のエイバルのCKでキケがブスケツに引っ張られて倒されたのにPKを取らなかったし、その他にも、乾がボールキープした時、後ろから足を刈られて倒されたのを目の前で見ていたのにファウルを取らなかったり、ピケが競り合いの中で何度もエイバルの選手を手で抱え込んでいたのにそれも流していたりと、全体的にバルセロナ寄りのジャッジだったので、そういう物が積み重なってメンディリバル監督の感情が爆発してしまった、という感じだった。
いずれにせよ、エイバルは残り20分あまりを、10人、そして監督無しで戦うことに。こういう場合、通常はFW1枚に代えてSHを投入したり、FWをSHの位置に下げたりして中盤の人数は保つことが多いのだが、エイバルはそのまま、4-3-2の形で戦っていた。
エイバルは元々、引いてゾーンで守る時にはボールと逆サイドのSHは余らせて4-3の形で守る傾向があり、そういう意味ではSHが1人いなくなっても、引いて守る時の人数は変わらないのだが、問題は試合開始から続けていた、前から奪いに行く守備の時で、その時は当然、マンツーマンで取りに行く分、オレジャナのいなくなった影響というのは顕著に出てしまう。エイバルは前線の2トップ、そして乾が2度追い、3度追いすることで人数をカバーしようとしていたが、奪える回数は退場者が出る前と比べると、かなり減ってしまっていた。
そして後半42分。バルセロナはコウチーニョの左サイドからの右足のクロスを、右サイド、パウリーニョとの交代で入ったアレイクス・ビダルがエイバルDFラインの裏へダイレクトで折り返して、このラストパスにメッシが走りこんでシュート。エイバルの方はGKドミトロビッチが逆を取られながらも辛うじて足でセーブしたが、こぼれ球をジョルディ・アルバに押し込まれた。
このバルセロナの攻撃につながる前、エイバルのボールを自陣深い位置でカットし、ドリブルで大きく前に運んでコウチーニョに預けたのが、得点を挙げたジョルディ・アルバだった。守備をしっかりやって、長い距離を走ったアルバの前に、最後にご褒美としてボールがこぼれてきた、というようなゴールだった。
そしてエイバルにとっては、試合が決まってしまった、というゴールだった。
試合が終わってみれば、エイバルの方は、シュート数こそバルセロナの10本を上回る13本を記録したものの、枠内シュートに限れば、バルセロナが6本に対して、エイバルは3本。より決定的な形を作れていたのは、もしくは、決定的な形でなくともボールをゴールに運べていたのはバルセロナの方、という結果だった。
試合を見ていて感じたことを幾つか。
まず乾についてはもう少し、カットインした時にシュートフェイントが欲しいな、ということを感じた。試合終盤に一回、乾が左サイドからカットインしてシュートしたがテアシュテーゲンにキャッチされた、というシーンがあった。この時、乾はボールを綺麗にミートできず、シュートに威力が無かったのだが、仮に強烈なシュートが行っていたとしても、テアシュテーゲンは弾いていたのではないかと思う。乾はシュートを撃つ時のアクションが少し大きいので、GKから見るとタイミングが読みやすいのではないか、と感じる。一つシュートフェイントを入れることでGKのタイミングを外すことも出来るし、DFがシュートブロックの方に動くことで、新しいドリブルコースも生まれる。
それと、エイバルは攻撃の時に、乾が相手SBの位置から相手ボランチとSHの間に引いてくる、その時にSBが乾についてきたら、空いたサイドのスペースをFWが流れたりSBが上がって使う、というのが一つのパターンになっていて、逆に言うと、相手SBがついてこなければ乾がフリーになるわけなのだが、この試合では、そういう状況で乾がボールを受けた時に、ボールをキープできず、失ってしまう、というシーンが何回かあった。一つは上述の通り、審判がファウルを取らなかったからなのだが、そういう状況で納められれば、FWとのワンツーで裏に抜けたり、より中央に近い位置でシュートを撃てたり、ということに繋がって行くと思う。
またエイバルの方は、冬のマーケットで獲得した2人が良かった。1人は右SHオレジャナで、この試合では退場してしまったが、間違いなく効いていたと思うし、恐らく左でもプレーできると思うので、場合によっては乾がポジションを奪われる可能性もあると思う。
もう一人はボランチのディオプで、デュエルに強いし、しかも奪ってから運べて、繋げる選手なので、かなり良い選手を取ったな、という印象を持った。彼はセネガル人で、31歳(3月生まれなのでもうすぐ32歳)ながら代表は既に引退している選手なのだが、日本代表のワールドカップのことを考えると、是非とも代表復帰はしないでもらいたい。
一方のバルセロナだが、コウチーニョの守備、というのがやはり気になった。
今シーズンのバルセロナの好調の一因として、守備時の基本フォーメーションを4-4-2にしたことで守備が安定した、という点が挙げられる。ネイマールがいた時も、4-3-3と言いつつ守備の時にはネイマールが左SHの位置に下がっていたので、実質は4-4-2だったのだが、左サイドの守備をネイマールのようなFW的な選手が行うのか、イニエスタのようなインサイドハーフ的な選手が行うのかで比較すると、やはり後者の方が安定する。
バルセロナが今シーズン獲得したウスマン・デンベレ、そしてコウチーニョは、いずれもインサイドハーフ、ウィング、いずれでもプレーできる選手だが、基本はウィングの選手だと思うので、彼らにインサイドハーフ的な守備力が備わらないと、イニエスタの代役を任せる、というのは難しいのではないだろうか。また、この試合のバルセロナは左SHが攻撃時にはインサイドハーフになる、という形だったので、デンベレやコウチーニョを入れる時は、右SHに入れて、ラキティッチを左SHに回すか、もしくは、デンベレやコウチーニョを入れる時は、攻撃時に右サイドのラキティッチの方がインサイドハーフになって、逆サイドをウィング的にプレイさせる、というほうが良い気がする。