トフィーズが冬の戦力増強を見せつける。プレミアリーグ第25節 エヴァートン VS レスターシティ

日時 2018年1月31日(水)28:45 ※日本時間
試合会場 グディソンパーク
試合結果 2-1 エヴァートン勝利

今シーズン、エヴァートンとレスターのリーグ戦での対戦は2度目。1度目の対戦時は、レスターもエヴァートンも監督が解任となった直後で、レスターの方がピュエル新監督の就任初戦、そしてエヴァートンの方は、暫定監督のデイヴィッド・アンズワースが指揮を採っている、という状態だった。
エヴァートンはその後、サム・アラダイスが新監督として就任。どちらのチームも、監督交代以降は順位を上げてきて、24節終了時点ではエヴァートンが9位、レスターが7位、という中での対戦である。

エヴァートン フォーメーション
19
ニアッセ
18
シグルズソン
11
ウォルコット
10
ルーニー
26
デイビス
17
ゲイェ
15
マルティナ
4
キーン
6
ジャギエルカ
23
コールマン
1
ピックフォード

この試合のエヴァートンのフォーメーションは、1トップにニアッセを置く4-1-2-3。右ウィングのポジションでは、アーセナルから加入したセオ・ウォルコットが1月20日のウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦に引き続き先発。また、右SBのポジションでは、アイルランド代表シーマス・コールマンが、10カ月ぶりに実戦復帰した。コールマンは2017年3月のワールドカップ欧州予選、アイルランドvsウェールズ戦で相手のタックルを受けて右足骨折の重傷を負い、長期離脱を強いられていた選手で、試合前には彼のバナーも大きく掲げられた。

レスターシティ フォーメーション
9
ヴァーディ
7
グレイ
20
岡崎
11
オルブライトン
22
ジェームズ
25
ヌディディ
3
チルウェル
15
マグワイア
16
ドラゴビッチ
18
アマーティ
1
シュマイケル

一方のレスターは、ヴァーディを1トップ、岡崎をトップ下に置く、おなじみの4-2-3-1。
レスターは冬のマーケットでFW3名をレンタルで放出していて、イスラム・スリマニがニューカッスル、レオナルド・ウジョアがブライトン、アーメド・ムサがCSKAモスクワに、それぞれ籍を移した。また、生え抜きのMFアンディ・キングもスウォンジーにレンタルで移籍。一方で、フランスリーグ2部のアジャクシオから加入し、1月27日のFAカップ、ピーターバラ戦では2ゴールを挙げたマリ代表FWフォッセニ・ディアバテが、この試合ではベンチに入っている。
2018年1月はワールドカップ前の最後の移籍期間ということで、プレミアリーグの中でも前述のウォルコット含め、代表に選ばれたい選手を中心に多数の選手移動があったが、レスターはそうした代表事情に加え、元々FWに関しては余剰傾向にあったため、猶更人員が動いている。
また、右SHのレギュラーのマフレズはマンチェスターシティからのオファーに対してトランスファーリクエストを出しており、この試合ではベンチ外。代わりの右SHにはオルブライトンが入り、普段オルブライトンが務めている左SHにはグレイが入った。

試合が始まると、エヴァートンの方は守備時が4-1-2-3、攻撃時が4-2-3-1、という感じの戦い方だった。
守備の時には前線3枚でレスターのDFライン4枚を見て、IHのルーニー、デイビスの2枚でレスターの2ボランチをみる、そしてトップ下の岡崎はアンカーのゲイェが見る、というマンツーマン気味、かつ前からハメに行く守備だった。
最近のレスターは後ろからつなぐサッカーを志向していて、GKシュマイケルも、以前と比べて長いボールを蹴ることが少なくなった。しかしその割に、ボールを運ぶ形というのはCBマグワイアが持ち上がるぐらいしかないので、エヴァートンのアラダイス監督としては、レスターの中途半端なポゼッション志向は寧ろ狙い目、という思惑だったのかもしれない。
そして攻撃に移ると、エヴァートンはルーニーがゲイェと横並び、つまりボランチの位置に下がって組み立てを行い、デイビスがトップ下の位置に上がる。今のルーニーは前線で起点になるよりも、間で受けたり、パスの出し手になる方が良い、FW的にプレーさせるよりもMF的にプレーさせるほうが良い、という状態なので、そのあたりも鑑みた役割分担だったのかなと。

一方でレスターの方は、ボランチのジェームズとヌディディの2人がルーニーとデイビスに付かれてなかなかボール回しの起点になれないので、トップ下の岡崎が降りてくるシーンが目立った。上述の通り、岡崎もゲイェにマンマーク気味に付かれていたのだが、うまく外しながらボールを受けて、味方に落とす、というプレーを何度か見せていて、そのプレーはレスターのボール回しの中で非常に効いていたと思う。

試合は前半24分にエヴァートンが先制。
エヴァートン陣内、レスターボールのCKのこぼれ球をルーニーが拾ったところから、エヴァートンのカウンターが発動。このカウンターをレスターはゴール前で食い止めたのだが、ボールをペナルティアークあたりでカットしたアマーティが、左にいたチルウェルにボールを預けたところ、チルウェルが目の前にいたニアッセを抜きに行こうとして引っ掛けられてしまい、このボールを奪ったシグルズソンがグラウンダーのクロス。レスターは右SBアマーティがカウンター対応で中央に入っていたため、ゴール前、ボールと逆サイドには誰もおらず、フリーで走りこんだウォルコットがボールを蹴りこんで、エヴァートンでの初ゴールを挙げた。
チルウェルはSBとしてはドリブルが上手い選手だが、このシーン、自陣のゴールに近い位置でニアッセを抜きに行ったのは、かなりまずい判断だったかなと。あと、ウォルコットはレスターのCKからゴールが決まる寸前まで、全く画面に映っておらず、TVで見ていると、突然現れた、という感じだった。画面に映っていなかったのは、多分CKのシーンでは前残りしていて、カウンターの中ではずっとボールと逆サイドにいたからだと思うが、安易にボールに寄らずに、フリーの状態で待っていた、というのはFWらしい、良い判断だったと思う。

更に、前半38分、エヴァートンに追加点が入る。
マグワイアがハンドを取られ、レスター陣内、レスターから見て左サイドでFK。これをルーニーがゴール前に上げると見せかけて隣にいたシグルズソンにボールを預け、シグルズソンからもう一度リターンを受けて、ゴール前にアーリークロス。このボールをゴール前、レスターから見てゴール右側にポジションを取っていたエヴァートンのCBキーンがヘディングで落とし、逆サイドから走りこんだウォルコットがシュートしてゴール。
ウォルコットには最初、チルウェルが付いていたのだが、ルーニーにリターンのボールが戻ったあたりでボールウォッチャーになってしまい、自分の背後にいるウォルコットを完全に放してしまっていた。1失点目に加え、この2失点目も、彼の責に帰するところが大きい失点だった。

後半に入っても両チームの戦い方はそれほど変わらず。そして、後半12分に、レスターは岡崎を下げて、上述の、FAカップで2ゴールを挙げたディアバテを投入した。ディアバテは右SHに入り、オルブライトンが左SHに回って、岡崎のいたトップ下の位置には、左SHだったグレイが入った。

レスターシティ フォーメーション(後半12分以降)
9
ヴァーディ
11
オルブライトン
7
グレイ
33
ディアバテ
22
ジェームズ
25
ヌディディ
3
チルウェル
15
マグワイア
16
ドラゴビッチ
18
アマーティ
1
シュマイケル

正直、この交代後もレスターのサッカーはあまり好転せず、むしろ、上述の通りレスターのつなぎの中で岡崎の降りてくるプレーというのは非常に効いていたので、それを失ってしまったことでつなぎの機能性がなくなり、交代で入ったディアバテもボールに殆ど触れない、という本末転倒の状態だった。
しかし、後半25分にレスターは1点を返すことに成功する。
エヴァートン陣内、レスターから見て右側タッチラインからのスローインのシーンで、ルーニーがPA内でヌディディを倒したとしてPKの判定(スローで見ても微妙な判定だった)。このPKをヴァーディが決めて、スコアは2-1、1点差となった。
このPKの少し前ぐらいから、エヴァートンはそれまでのような、前から奪いに行く守備が少なくなり、引いて守るようになっていて、そうした理由は2点差になったから、ということと、単純に疲れたから、という2つの理由だったと思うが、レスターが1点差に迫ったことで、レスターの選手たちは一気にテンションが上がる、逆にエヴァートンの選手たちはここまでの試合展開の中で運動量を使ってしまっているので少しテンションが落ちている、ということで、この時間以降はレスターが押し込む展開になった。

そしてレスターは、後半29分にアマーティを下げてフクス、更にグレイを下げてケレチ・イヘアナチョを投入。フクスを左のCBに入れて3バックとし、前線はヴァーディとイヘアナチョの2トップ、トップ下がディアバテ、左WBがチルウェル、右WBがオルブライトン、という3-4-1-2の布陣になった。

レスターシティ フォーメーション(後半30分以降)
9
ヴァーディ
8
イヘアナチョ
33
ディアバテ
3
チルウェル
22
ジェームズ
25
ヌディディ
11
オルブライトン
28
フクス
15
マグワイア
16
ドラゴビッチ
1
シュマイケル

この変更で、既にレスターに傾きだしていた試合展開が、完全にレスターが支配する展開になった。
以前の記事、「マンツーマンとゾーンの使い分け。プレミアリーグ第14節 エヴァートン VS ウェストハム」でエヴァートンを取り上げた時は、まだアラダイス監督の就任前で、前任のクーマン監督のゾーンディフェンスのやり方、というものが残っていた為、前から取りに行く時はマンツーマン、引いて守る時はゾーン、という使い分けが出来ていたのだが、アラダイス監督就任以降のエヴァートンは、マンツーマンの傾向がクーマン時代よりも強くなっていて、この試合では、引いて守る時もマンツーマンになっていた。つまり、前から行く時と引いて守る時の違いは、どこから守備をするかだけ。
レスターが4-2-3-1の時は、それでも大きな問題にはならなかった。エヴァートンは4-1-2-3なので、3トップでレスターの4バックを見て、IH2枚でレスターの2ボランチを見て、アンカーでレスターのトップ下を見て、SBがレスターの両SHを、2CBがレスターの1トップのヴァーディを見る、つまり前線は1枚足りない代わりにDFラインでは1枚余ることが出来る、という理想的なマッチアップになるからである。
しかし、レスターが3-4-1-2になったことで、理想的なマッチアップにならなくなった。エヴァートンの2CBとアンカーはレスターの2トップとトップ下を見るので数的同数になる。逃げ切りたいエヴァートンのDF陣としてはそれはイヤなので、SBも中央に絞る。そうなるとレスターのWBはSHのウォルコットとシグルズソンが見ないといけなくなるので、SHが高い位置を取れない。更に、IHのルーニーとデイビスはこれまでどおり、レスターの2ボランチを見ないといけないので、レスターの3CBのうち、フクスとドラゴビッチのどちらかが1トップのニアッセの両脇から上がってくると、それを見る人間がいない。ルーニーとデイビスがレスターのCBも見つつ、ボランチへのプレスバックも出来ればいいのだが、2人とも前半からかなり飛ばしてきたので、体力的にそれも難しい。

後半31分にはレスターのCKからイヘアナチョのシュートがポストを叩いたシーンがあり、続く後半33分には、左WBチルウェルがエヴァートンのGKピックフォードと最終ラインとの間にグラウンダーの速いクロスを送り込み、そのボールにボランチのジェームズが飛び込んでシュートしたが、絞っていたマルティナが辛くもボールをクリアした、というシーンがあった。

レスターの交代から5分。明らかに雲行きが怪しくなってきたので、アラダイス監督は後半35分に2枚を同時交代。ルーニーを下げてボランチのシュナイダルランを、そしてシグルズソンに代えてFWのキャルバート・ルーウィンを投入した。そして並びの方は、前線がニアッセとデイビスの2トップ、中盤が左からルーウィン、シュナイダルラン、ゲイェ、ウォルコットとなり、4-4-2の形になった。

エヴァートン フォーメーション(後半35分以降)
19
ニアッセ
26
デイビス
29
ルーウィン
11
ウォルコット
2
シュナイダルラン
17
ゲイェ
15
マルティナ
4
キーン
6
ジャギエルカ
23
コールマン
1
ピックフォード

多分この采配は、レスターの3CBを前線2枚で、レスターの2ボランチと両WBを中盤4枚で、レスターの2トップとトップ下を最終ライン4枚で見る、という形、つまり前線が一枚足りない代わりに後ろは一枚余ることが出来る、という当初の形に戻したかったのではないかと思うが、交代采配以降も、エヴァートンの選手は殴り合い上等な感じでSBも高い位置まで出て行ってしまっていたので、多分アラダイス監督が期待していた効果は得られなかったのではないだろうか。
結局、後半42分に更に処置をして、FWニアッセを下げて、CBウィリアムズを投入。自分たちも3バックにする、という選択を取った。ニアッセのいなくなったトップの位置にはルーウィンが入り、デイビスが左サイドに回って、実質的には5バックの形になった。

エヴァートン フォーメーション(後半43分以降)
29
ルーウィン
26
デイビス
11
ウォルコット
2
シュナイダルラン
17
ゲイェ
15
マルティナ
23
コールマン
4
キーン
6
ジャギエルカ
5
ウィリアムズ
1
ピックフォード

結局この形でエヴァートンが試合をクローズし、試合は2-1、エヴァートンの勝利で終わった。

レスターとしては、前半、自分たちのやりたいサッカーが出来なかった時間帯に、チルウェルのところで2つ、ミスが出てしまったのが痛かったなと。
ただ、今のレスターが、最終ラインからのつなぎにこだわっている割には、余りその実現方法が明確でないのも確かで、そこを狙われて流れを持っていかれてしまった、というのは個人というより組織の問題であると思う。
この日のエヴァートンのように、前からマンマーク気味にハメに来る相手にパスワークで対抗しようとする場合、個人の力で奪いに来る相手を剥がす、あるいはGKもフィールドプレーヤーのパス回しに参加させ、数的優位を作ってハメさせない、など、個人の足元の能力やパス回しの方法論が必要になる。しかし、レスターのCB陣のうち、足元のスキルの高い選手はマグワイアのみで、この日CBに入ったドラゴビッチや、控えに入っていたベナルアンは、平均的なプレミアのCBと比較しても、足元のスキルは低い。また、組織的に相手のマークをずらすような仕組みも今のレスターにはない。結果、マグワイアがいない時のレスターは後ろから有効なつなぎをすることが殆ど出来ない。FAカップの3回戦では3部のフリートウッド・タウン相手に0-0で引き分け、再試合に持ち込まれるという体たらくだった。

一方、エヴァートンの方は、前述の通り前線はレスターの4バックに対して1枚足りない、という状態なので、ドラゴビッチにあえてボールを持たせるように守っていた。
ドラゴビッチはあまり遠くを見れないというか、近くにいる味方、もしくは自分が身体を向けているほう、視野内にいる味方にただパスを当てる、というプレーが多く、またドリブルでもビビっている感じがある。レスターの最終ラインのパス回しにあまりメカニズムがない中、ドラゴビッチのアドリブの利かなさ、というのはどうしても目立つので、フクスを左のCBに入れて、マグワイアを右のCBに回す方が良いのではないだろうか。勿論一番良いのは、アドリブに依存しない組み立てを構築することだが。

また、エヴァートンは右ウィングが新加入のウォルコット、右SBが長期離脱から戻ってきたコールマン、ということで、つまりこの冬に新しく加わった2人で右サイドが構成されていたわけだが、この右サイドのユニットが、これまでのレノン、ケニーのユニットと比べて、攻撃においても守備においてもレベルが1つ上で、これまでの試合ではどちらかというと、右サイドはエヴァートンのウィークポイントだったのだが、この試合では完全に、右サイドがエヴァートンのストロングポイントになっていた。コールマンは試合序盤こそ、まだゲーム勘が戻っていない感じで恐る恐るプレーしていたが、後半にはかなり感覚が戻って来て、守備は勿論、攻撃でも良い持ち上がりをすることが何回かあった。そしてウォルコットは、スピード、攻守の運動量がレノンと同等にあり、かつそれに加えてFWらしく得点力、起点になる力、というものもあるので、今シーズンのエヴァートンがトップの選手の得点力、起点力に乏しいことを考えると、ウォルコットを右ウィングに置ける、もしくは1トップに置くこともできる、というのは戦力的に、非常に大きな上積みになったのではないだろうか。怪我が多い選手なので、それだけが心配だが、活躍を続けることでイングランド代表に帰り咲いて欲しい。

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