属人的サッカーからの脱却。プレミアリーグ第10節 レスターシティ VS エヴァートン

日時 2017年10月29日(日)25:00 ※日本時間
試合会場 キングパワー・スタジアム
試合結果 2-0 レスターシティ勝利

開幕からのリーグ戦8試合で1勝3分け4敗という成績により、シェイクスピア監督が解任となってしまったレスター。前節スウォンジー戦ではアシスタントコーチのアップルトンが指揮を執っていたが、その後、昨シーズンまでサウサンプトンを率いていたクロード・ピュエルの監督就任が決定。この試合は、新監督で臨む初めてのリーグ戦となった。

レスターシティ フォーメーション
9
ヴァーディ
3
チルウェル
26
マフレズ
7
グレイ
21
イボーラ
25
ヌディディ
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

レスターのフォーメーションは4-2-3-1。1トップはこれまでと変わらずヴァーディだが、トップ下には岡崎ではなくマフレズ、左SHはオルブライトンではなくチルウェル、そして普段マフレズが入っている右サイドにはデマライ・グレイが入り、2列目の構成は大幅に変わっている。監督が代わった直後なので、一番良かった頃の形を踏襲するか、もしくはオーナーの意向を反映して、スリマニやイヘアナチョといった、獲得にコストが掛かっているFWを起用してくることが考えられたが、そのどちらでもなかった。
これまでのレスターのサッカーというのは、ラニエリ、そしてシェイクスピア監督時代からずっと属人的で、左SHのオルブライトン、そしてトップ下の岡崎、この2人のパーソナリティやパフォーマンスが攻守をつなぐ必須要素だった。彼らがいないレスターは、前後分断的なサッカーになってしまい、「レスターらしいサッカー」が出来なくなってしまう。この試合で、あえてこの2人をスタメンから外したのは、その状態から脱却したい、という新監督(そしてもしかするとオーナー陣の)意図の表れではないだろうか。

エヴァートン フォーメーション
29
ルーウィン
11
ミララス
10
ルーニー
12
レノン
17
ゲイェ
26
デイビス
3
ベインズ
6
ジャギエルカ
5
ウィリアムズ
43
ケニー
1
ピックフォード

一方のエヴァートンは、1トップにキャルバート・ルーウィン、トップ下にウェイン・ルーニーを置く4-2-3-1でスタート。こちらのチームも開幕から苦戦しており、前節終了後にロナルド・クーマン監督を解任したばかり。この試合ではU-23の指揮官を務めていたデイヴィッド・アンズワースが暫定監督として指揮を執ることになった。
エヴァートンの苦戦の原因は明白で、13年ぶりにマンチェスターユナイテッドから復帰したウェイン・ルーニー、そして、4500万ポンドとも言われる、クラブ史上最高額の移籍金を費やしてスウォンジーから獲得したギルフィ・シグルズソン、この2人を2列目で共存させることが出来ておらず、その一方で、センターFWについてはロメル・ルカクの抜けた穴を埋めることが出来ていない。要は、2列目は同じようなキャラクターの選手がダブついているのに対して、1トップは人材がいない、ということである。
アンバランスなチーム編成の辻褄を合わせるために、ルーニーの1トップにしてシグルズソンをトップ下に置いてみたり、3バック、1トップにして2シャドーに2人を並べてみたりして来たが、ルーニーを1トップに置くと実質ゼロトップのような状態になって攻撃に奥行きが出なかったり(トップ下がシグルズソンのような飛び出していくタイプではない場合、特にそうなる)、3バックの2シャドーにすると5バック状態になった時にシャドーの選手がサイドのスペースを埋める必要があるので、結局本来得意な位置ではプレーできなかったりと、イマイチ機能せず、その間に落とした勝ち点のせいで、結局監督が解任されることになってしまった。
エヴァートンにはもう一人、ロス・バークリーというイングランド代表クラスの選手がおり、彼も純然たるトップ下タイプの選手なので、今のエヴァートンの戦力バランスの不均衡は著しいと言える。この試合でシグルズソンがベンチなのはそういった経緯からで、ルーニーとシグルズソンを共存させるプランは一旦棚上げになったと考えられる。

このような背景で試合が始まったわけだが、暫定監督であるエヴァートンに対してレスターのほうは正式監督、と言うこともあってか、監督交代の効果がより色濃く出ていたのはレスターのほうだった。
一番特徴的だったのは右SHのグレイのポジショニングで、守備の時、自身と逆サイド(レスターから見て左サイド)にボールがある時は、センターサークルを超えるぐらいまでボールサイドに絞る。そしてボールを奪ってもワイドには広がらず、そのままトップ下のような位置でボールを受けようとする。場合によっては逆サイド、左サイドまで行ってボールを受けることもあり、そうなると守備時に右サイドが空いてしまうのだが、その時はトップ下のマフレズが本来のポジションである右サイドに入れば良いので、役割の受け渡しはスムーズだった。
これまでのレスターは、サイドについては進入されても良い、という守備をしていて、ただそうなると、サイドを起点に攻撃された時に全体が押し下げられて1トップとの距離が離れてしまうので、トップ下のカバーするエリアが広くなってしまう、そしてサイドの選手が走る距離も長くなってしまう、と言う状態だった。それを変えるため、新しい監督の下では、ボールがサイドにある時にはボールサイドに圧縮して、高い位置でボールを奪う、ということをひとつのコンセプトにしているのだと考えられる。
また、陣形が押し下げられている場合は、マフレズとオルブライトンがサイドでボールを運ぶプレー、というのが防戦一方にならない為の生命線だったのだが、高い位置で奪える、ということになると、当然マフレズはサイドよりもゴールに近い位置にいた方が良い、ということになるので、積極的にプレスを掛けるサッカーと、マフレズのトップ下起用、というのは理にかなっていたと思う。
また、前線のヴァーディとマフレズの関係も、これまでのヴァーディと岡崎のように、明確な縦関係ではなく、守備の時にはヴァーディもマフレズと同じぐらいの高さまで戻って2トップ的にプレスを行っていたので、こうしたところからも、これまで岡崎の判断や運動量に依存していた前線からのプレスを、もう少し組織化したい、という意図が見て取れた。

試合は前半18分、レスター陣内でのエヴァートンボールのセットプレーの流れから、こぼれ球を拾ったグレイが圧倒的なドリブルスピードでデイビス、そしてゲイェを引きちぎり、そのままエヴァートン陣内のバイタルエリアまで侵入、グレイから右サイドのスペースに走ったマフレズに斜めのパスが出て、マフレズが右足ダイレクトで折り返し、これを逆サイドから走りこんだヴァーディが押し込んでゴール。
そして前半29分には、今度は左サイドに流れたグレイが放ったシュートを、エヴァートン右SBのケニーがクリアし損ね、ボールの軌道が変わってゴール。いずれも、レスターの戦い方が変わった事によるゴール、というものではなかったが、前半を優勢に進めていたのはレスターだったので、2-0で折り返し、というのは妥当なものだったと思う。

エヴァートン フォーメーション(後半)
19
ニアッセ
29
ルーウィン
17
ゲイェ
10
ルーニー
26
デイビス
54
バニンギメ
3
ベインズ
6
ジャギエルカ
5
ウィリアムズ
43
ケニー
1
ピックフォード

後半頭から、エヴァートンはレノンとミララスに代えて、ニアッセとバニンギメを投入。前線をニアッセとキャルバート・ルーウィンの2トップとし、その分ボランチを削って、バニンギメの1ボランチとした。
この交代にはルーニーの現状と言うものが関係していて、今のルーニーは、引いてきて受けるプレーについては問題ないが、昔のように、一番プレスの厳しいバイタルやサイドの深い位置で起点になるプレーは出来ない。よって、どうしてもFWの選手にそこを求めることになってしまうのだが、今のエヴァートンには一人でその役割を果たせる選手がおらず、前半のキャルバート・ルーウィンも何度かSBの裏に走って起点を作ろうとしていたが、その都度潰されており、そうなると2トップにするしかない。しかし、2トップにして更にトップ下も置く、ということになると3バックにするか、もしくは1ボランチにするしかなく、上記のような、守備面でリスキーな布陣にならざるを得ない。

一方のレスターだが、前半、2点を挙げた後ぐらいからは、試合序盤のような積極的なプレスはやめ、従来の引いて守る守り方に変わっていて、グレイのポジションも、通常のSHと変わりないものになっていた。多分、先制点を挙げるまでは積極的に前からプレスを掛け、リードを奪ったら引いてカウンター、というプランだったのだと思う。ただそうなると、後半はエヴァートンもボランチを削ってまで前に出てきているので、自陣に押し込められてしまう。押し込められてしまうと、前半序盤のように、ボールを奪った時にすぐにマフレズやグレイがカウンターに移れる、という状態にならず、後ろ向きでボールを受けるシーンが多くなる。つまり、高い位置で、前向きでボールが奪える時は岡崎がいなくても問題はないが、押し込まれた場合は、やはり岡崎がいないと、もしくは、岡崎のような、ボールを収めてボランチやSHに良い形でボールを落とす、という選手がいないと、レスターのカウンターは着火しない。

ということで、ピュエル監督は後半29分、マフレズに代えて岡崎を投入。そして後半37分にはチルウェルに代えてオルブライトンを投入。やはり、押し込まれた時にはこの2人が必要、と言う認識なのだと思う。そしてそれを考えると、この試合では下位に低迷しているエヴァートン相手のホームゲームだったので岡崎とオルブライトンはベンチ、と言うチョイスだったが、今後、強豪との試合や、同レベルの相手とのアウェイでの試合では、岡崎とオルブライトンが先発となる可能性も十分に考えられる。また、後半43分にはヴァーディに代えてイヘアナチョを投入したので、ピュエル監督の中では、イヘアナチョは岡崎とポジションを争うのではなく、ヴァーディと、と言う風に考えており、恐らくスリマニ、ウジョアもそうだと思うので、岡崎がポジションを争うのは、マフレズ、グレイ、そしてキングあたりになりそうである。

レスターシティ フォーメーション(試合終了時点)
8
イヘアナチョ
11
オルブライトン
20
岡崎
7
グレイ
21
イボーラ
25
ヌディディ
28
フクス
15
マグワイア
5
モーガン
2
シンプソン
1
シュマイケル

いずれにせよ、各々のキャラクター任せだったレスターというチームが、少しでも役割ごとに整理されるようになって欲しい。岡崎もそのほうが、何を目指して努力すれば良いのか分かりやすいと思うので。

試合は結局、レスターが前半に挙げた2点のリードを守りきり、2-0で勝利。エヴァートンは後半28分に、最後の交代カードとしてシグルズソンを投入したが、やはりと言うか、ルーニーとの交代だったので、この2人を並び立たせるのは難しい、というのが現状の判断なのだと思う。また、前線がどうにもこうにも、起点とかゴール以前に、存在感のあるセンターFWがいない状態なので、冬のマーケットでそういう選手を取ってくることがまず必要になると思う。正直、シグルズソンに60億もかけるぐらいであれば、レスターで燻っているスリマニやウジョアを買い取れば良かったと思うのだが・・・。

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