柴崎、プリメーラに届かず。リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ決勝2戦目 ヘタフェ VS テネリフェ

日時 2017年6月25日(日)04:00※日本時間
試合会場 コリセウム・アルフォンソ・ペレス
試合結果 3-1 ヘタフェ勝利
準決勝1stLeg
リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ カディス VS テネリフェ
準決勝2ndLeg
リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ準決勝2戦目 テネリフェ VS カディス
決勝1stLeg
リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ決勝1戦目 テネリフェ VS ヘタフェ

引き分け以上であればテネリフェが昇格、1点差での敗戦でもアウェイゴールを取れれば同じく昇格、という条件だったので、正直なところ、テネリフェの昇格は固い、と考えていたのだが、ヘタフェのホームスタジアムの圧力は想像以上に凄まじく、試合序盤でまさかの2失点。そこから、柴崎のアシストで1点差となり、このまま行けば、という流れの時間帯もあったのだが、試合を通してみると、ホームのサポーターの圧倒的な声援に後押しされたヘタフェに終始押し込まれ、その圧力に押し流されてしまった、という試合だった。

テネリフェ フォーメーション
アマト ロサーノ
柴崎 スソ
ビトーロ アイトールサンス
カミーユ ヘルマン ホルヘサエンス ラウルカマラ
ダニ

テネリフェのスタメンとフォーメーションは1戦目と変わらず。柴崎も前の試合と同じく、2列目左サイドでの先発となった。メンバーが変わらないということは当然、疲労の蓄積も懸念されるわけだが、マルティ監督は、そのデメリットよりも、いつものメンバーで臨むメリットの方を取る、という判断を下した。

ヘタフェ フォーメーション
モリーナ
パチェコ ポルティージョ チュリ
モーラ フアルリン
モリネロ ゴロシト カタディアス ダミアン
グアイタ

ヘタフェの方は、昇格プレーオフに入ってから、前線については中心のモリーナとポルティージョはずっと変わっていないのだが、両SHは試合ごとに変わっていて、準決勝2戦目ではパチェコとアルバロ、決勝戦1戦目ではアルバロとフステ、そしてこの試合ではパチェコとチュリ、という組み合わせとなった。
前回の記事で、パチェコがスタメンでなかったことは意外だった、と書いたが、どうも、準決勝2戦目でカードをもらって、決勝戦の1戦目は出場停止だったようである。この試合では彼がスタメンとなり、それは結果的に、この試合の行方にも大きな影響を与えた。

試合は前半8分、ヘタフェが先制。テネリフェから見て左からのCKをモリーナがニアポスト付近で頭で落とし、それをファウルリンが左足でダイレクトに叩いてゴール。テネリフェのCKの守り方自体に大きな問題があったわけではなく、モリーナが良く競り勝った、良いボールを落とした、ということと、それに対してファウルリンもうまく合わせた、ということで、相手を褒めるべきゴールだったとは思うが、問題があったのはその前、CKを与えてしまったプレーで、相手のGKからのロングボールだったにもかかわらず、テネリフェの方は最終ラインとボランチの間にスペースが出来てしまっていた。
この試合のテネリフェは、このシーンに限らず、ラインの上げ下げのところで最終ラインとボランチが連動できておらず、最終ラインの前にスペースが出来てしまうシーンが何回もあり、このCKの失点も、遠因はそこだったと思う。
いずれにせよ、早い時間でゴールが生まれたことで、ヘタフェの選手たち、そしてサポーターが「行ける」という雰囲気になってしまい、テネリフェの選手たちが感じる心理的圧力は一気に上がってしまった。

そして前半12分、ヘタフェは早くも2つ目のゴール。柴崎から奪い取ったボールを右SBダミアンがドリブルで持ち上がり、右に流れたポルティージョに縦パス、ポルティージョから、その内側を追い越したチュリにパスが通り、チュリが更に縦に持ち出してグラウンダーでマイナスのクロス。ニア側に集まったダミアン、ポルティージョ、チュリ、そしてモリーナに、ポジション・目線ともに完全に引っ張られてしまったテネリフェ守備陣の背後、逆サイドからフリーで走りこんだパチェコが、このクロスを右足でテネリフェゴールに突き刺した。
下がりながらだったとは言え、このシーンでのテネリフェの守備陣の対応は非常に軽く、ボールサイドに寄せたにもかかわらず、ポルティージョからチュリ、チュリからパチェコと、いずれも外から内へのパス、切っておくべき方向へのパスを通させてしまった。ボールサイドに全員が寄せるのであれば、絶対に外に追いやる、最低でもCKにする、という対応が必要だった。

しかしその直後、前半16分。テネリフェの方は左サイドからのグラウンダーのクロスにロサーノが飛び込み、待望のアウェイゴールを奪取。1点差に迫ると同時に、アグリゲートスコアを2-2とし、アウェイゴール差で再び優位に立った。
このシーン、左サイドでスソからボールを呼び込み、ダイレクトで、相手DFとGKの間に流し込むようなボールを蹴ったのは柴崎だった。クロスを入れた左足のタッチが素晴らしかったのは勿論だが、その直前のシーン、ヘタフェの選手が跳ね返したボールがスソに渡った瞬間の、オフサイドポジションからオンサイドのエリアに戻る出足、判断のスピードが非常に速かった。
カディスとの準決勝2戦目でゴールを決めた時もそうだが、「チャンスになる」という直感が働いた瞬間の柴崎のボールを呼び込む動きは、やはり素晴らしいと感じる。

1点を取り返したことでテネリフェの方は少し精神的には落ち着きが出来たのだが、その後の時間も、やはりボランチとDFラインの間にスペースが出来ることが多かった。この試合のテネリフェは基本的に、カディスとの1戦目がそうだったように、中盤は使わず、GKやDFラインからサイドに長いボールを蹴り、そこで起点を作る、というサッカーだったのだが、そのロングボールが跳ね返された時の陣形の移動が連動しておらず、ボランチは前残りしているのにDFラインは下がって行ってしまう、ということが多く、そうなるとどうしても、ボールを跳ね返されたところから、中盤のフィルタが働かずに一気にゴール前に運ばれてしまうことになる。
テネリフェとしては、それでも、何とか前半をこのままのスコアで終えることが出来れば、という状況だったのだが、残念ながら、前半36分にまたもやパチェコのゴールで失点。このシーンは1失点目と2失点目の悪かったところが両方出たような感じだった。
まずテネリフェから見て左サイドでボールを失ったところ、攻撃から守備の切り替えのところでDFラインと中盤の間にスペースが出来てしまっていたのが失点の要因の一つ目。そして、引いて受けに来たモリーナの落しを、その間のスペース、バイタルエリアでフリーになっていたポルティージョに通させてしまったのが失点の要因の2つ目だった。ボールを受けたポルティージョが、DFラインの裏に走りこんだモリーナにリターン、モリーナのシュートはGKのダニが辛くも弾いたが、こぼれ球をパチェコに押し込まれてしまった。
ゴール前にはスペースを作らない、作られてしまった時はそこにパスを出させない、どちらかが必要だったのだが、どちらも出来なかった。

そして後半。スタートは選手交代なく始まったのだが、5分を経過したところで、マルティ監督はアーロンを投入。下げられたのは柴崎だった。交替の意図というのはちょっとはっきりしないが、直前のシーンで、柴崎が左サイドのポジションにおらず、そこに出たボールに誰も触れなかった、というシーンがあり、そのタイミングで交替を決断した、という風には見えた。
ただ、柴崎がそこにいなかったのは、中央の前目にポジションを取っていたからで、そしてそうしていた理由は、柴崎が中にポジションを取ると、ヘタフェの方は人についていく守備なので、相手SBも中に絞る、そうするとサイドにスペースが出来て、そこをカミーユに使わせることが出来る、ということを考えてのものだったと思うので、疲れていてポジションを取れなかった、ということではなかったと思う。
そしてそれは監督も分かっていたと思うので、柴崎が限界にきているから代えた、ということではなく、よりフレッシュな選手を、ということと、前目にポジションを取らせるならもっとアタッカー的な選手を、ということと、その選手は守備の時にはサイドに戻らないといけないので、今以上に運動量が求められるから、ということと、その3つの理由から交代に踏み切ったのではないだろうか。

個人的には柴崎を下げてほしくなかったし、後半のテネリフェは前半と異なり、後ろからつなぐようなサッカーに変わっていたので、それであれば猶更柴崎を残しておいた方が、という気はした。また、前線のアマトはカディス戦からずっとハードワークしており、この試合ではパフォーマンスが落ちていたので、代えるのであればそこだったのでは、という気もする。

ただ、柴崎を下げた後、テネリフェが全くチャンスを作れなかったかというとそうではなく、惜しいチャンス、決定的なチャンス、というのは幾つかあった。そこを決めていればアグリゲートスコアでは同点、アウェイゴールで逆転、という状況だったので、そういうチャンスで決める、決めない、というのは結局のところ、決定力の差、ということだったのかもしれない。それはそもそも、チャンスの多かった1戦目でもう一点取れていれば、というところも含めてだが。

結果的に、後半の残り時間、テネリフェはヘタフェからゴールを奪うことは出来なかった。
両チームとも中2日、およそ1700kmの移動を挟んでの決勝戦セカンドレグは、6分間の追加タイムを経てタイムアップ。試合結果3ー1、アグリゲートスコアで3ー2。一時は2部リーグ下位に沈み込んだヘタフェがプリメーラディビジョンへの切符を掴み取った。
審判が試合終了を告げるホイッスルを吹くと同時に観客がピッチになだれ込み、テネリフェの昇格の夢は、ヘタフェのサポーターの歓喜の渦に飲み込まれた。

試合が始まる前、ヘタフェに対するテネリフェの優位性は守備の組織にあると考えていたのだが、そこが機能しなかった、DFラインとボランチのラインが連動できなかった、というのがこの試合のテネリフェの敗因の一つだったと思う。
そしてもう一つの敗因は前線の連動性で、モリーナ、ポルティージョ、パチェコのユニットに比べて、アマト、ロサーノ、スソの攻撃の連動性は低かったと思う。これまでの試合で、そこをつないでいたのは柴崎だったので、やはり、柴崎には最後までピッチに立っていて欲しかった。単なる日本人びいきかもしれないが、そういう風に感じざるを得なかった。