難敵を制す。リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ準決勝2戦目 テネリフェ VS カディス

日時 2017年6月19日(月)04:00※日本時間
試合会場 エリオドロ・ロドリゲス・ロペス
試合結果 1-0 テネリフェ勝利

(前回対戦の記事:リーガエスパニョーラ昇格プレーオフ カディス VS テネリフェ

プレーオフ1戦目はリーグ戦5位のカディスに内容で圧倒され、シュートゼロに終わったテネリフェ。しかし、結果は最小得失点差である0-1での敗戦だったため、この試合を2点差以上で勝利できれば決勝に進出できる。また、リーガエスパニョーラの昇格プレーオフは、1戦目と2戦目の結果が、アウェイゴール、得失点差ともに同じ場合は、前後半15分ずつの延長になり、それでも決着がつかなかった場合のみリーグ戦上位チームの勝ち抜けとなる(J1昇格プレーオフのように、90分終了時点で上位チームの勝ち抜けとはならない)。
つまり、リーグ戦を4位で終えたテネリフェの決勝進出条件は、2点差以上での勝利、もしくは1-0で延長戦を戦って勝利のいずれか。それ以外の結果はすべて敗退である。

テネリフェ フォーメーション
アマト ロサーノ
柴崎 スソ
アイトールサンス ビトーロ
カミーユ ヘルマン ホルヘサエンス ラウルカマラ
ダニ
カディス フォーメーション
ルベンクルス
アルバロ アケチェ サルビ
ガリード ホセマリ
ブリアン サンカレ アリダネ カピオ
シフエンテス

試合開始時点の注目点としては、大きく2つ。
1つ目は柴崎がどのポジションに入るかということ。第1戦目では、柴崎になるべくボールを触らせたい、ということで最初はボランチ、次にトップ下、その次は右SH、最後は左SHと、次々にポジションを変えられた柴崎だったが、この試合では1戦目終了時のポジションである左SHでのスタメンとなった。そのほかのメンバーやポジションも、第1戦目終了時のメンバー、ポジションそのままとなっており、1戦目の続き、というスタンスでテネリフェの方は試合に入ってきた。

2つ目は、カディスの方がどういう入り方をしてくるか、ということ。1戦目のカディスはテネリフェに対してハイプレスを仕掛け、テネリフェのボランチは勿論、DFラインにもほとんど時間を与えない、という守備をしてきた。しかし、この2戦目はアウェイでの戦いであり、引き分けでも決勝進出という状況。同じようにハイプレスをしてくるか、というところが注目点だったのだが、これについては半々というか、カディスの方は恐らく1戦目と同じように、という意識で入ったと思うのだが、テネリフェの方も、それを無効化するような入り方をしてきた。

この試合のテネリフェは、ボールを奪ったら中盤では繋がず、まず相手のサイドのスペースに長いボールを蹴る、そこにアマト、ロサーノの2トップが走る、という形を徹底していた。中盤を省略することでカディスのハイプレスを躱す、そしてサイドの高い位置で起点を作ることでハイプレスに出てきた相手を後ろ向きに走らせる、というのが狙いである。
長いボールに対して、2トップはスプリントして追わないといけない、そして、その2トップを孤立させないように、SHは猛然とフォローに走らないといけない、ということになり、体力的にはキツい。しかし現状のテネリフェがテクニックやポジショニングでカディスのハイプレスを無効化するのは難しいし、無理につなごうとしてボールを失ってしまい、アウェイゴールを奪われてしまうと、レギュレーション上、必ず2点差以上の得点が必要になる、つまり最低でも3点取らないといけなくなるので、これはテネリフェが現実的に取り得る唯一の策だったと思う。左SHに入った柴崎も、かなりの量を走ってFWをフォローしていた。
また、このプランはそもそも、1戦目で2トップに変えた段階からの続きのようなもので、その時の采配の意図というのが、中盤は飛ばして、2トップにして前で起点を増やして、ということだったので、ある意味自然な流れでテネリフェは試合に入ったと言える。

そして、この狙いが実ったのが前半33分。CBジェルマンが右サイドに蹴った長いボールを、相手SHとSBの間で受けたのは右SBのラウルカマラ。少し前残りしていたため、ここでSHやFWではなくSBが受けられたのが大きかった。カマラの前方、カディスの左SB裏のスペースに右SHのスソが走り込み、カマラからの縦パスを受けてグラウンダーのクロス。これを逆サイドから詰めていた柴崎が冷静にゴールに蹴りこみ、テネリフェが待望の、そしてこの試合の主導権の行方を決定づける先制点を挙げた。

スソのクロスは相手GKが触ってコースが変わっていたので、柴崎の前に転がって来たのは幸運な面もあったと思う。ただ、こういうシーンで逆サイドのSHがゴール前に詰めているのは大事なことであるし、もうひとつ大事なプレーとして、柴崎はこのシーンで最初、もっとゴール前に深く入って行こうとしたのだが、思いとどまって止まる、という動きをしていた。多分それは、シュートを打つためのスペースを残す、という意識だったと思うのだが、もしそれをしていなければ、ボールが流れてきても、足元に入りすぎてしまったり、背後を通り抜けてしまったりしたと思うので、深く入り過ぎずに止まった、というのは大きな判断だったと思う。

アグリゲートスコアを1-1にしたことにより、テネリフェの方は、残りの時間得点を奪えなくても、そのまま延長戦まで無失点で終われれば良い、という状況になったので、この先制点の持つ意味は大きかった。テネリフェにとってみれば、カディスのハイプレスを無効化できたわけではなく、しのいでいたに過ぎないので、そこから得点に繋げないといけない、という制約がなくなっただけでも、精神的には楽になったと思う。

そして後半。テネリフェがリードを奪ったことで、テネリフェが引いて守る、カディスの方がボールを支配する、という傾向がより顕著になった。カディスの方は、左サイドのアルバロ、ブリアンからのサイド突破、クロス、という攻撃が主体だったのだが、テネリフェとして怖かったのは、その左サイドからの攻撃自体よりも、その攻撃に対してファウルをしてしまったり、CKを与えてしまった場合に飛んでくる、アヘル・アケチェの左足のプレースキックだった。
この選手は2017年にアスレティック・ビルバオからローンで加入した選手なのだが、プレースタイルとしては、左利きのコウチーニョのようなスタイルで、強烈なミドルがあり、プレースキックにも精度、速さがあり、ボールを持ったら自分で切り込んでいくことも出来る。
テネリフェは1戦目でも彼のブレ球のシュートで失点し、また、誤審により取り消されはしたが、CKでゴールを揺らされたのも彼のキックからだった。カディスは今シーズン、CKからの得点がリーグで一番多かったそうだが、それは彼のキック精度によるところが大きいのではないだろうか。この試合でも、CK、FK両方でかなり際どいボールを何度も蹴っていて、またそれだけでなく、自ら切り込んでいってチャンスメイクする、というシーンもあった。

一方の柴崎だが、リードを奪ったことで、後半は主に守備のタスクが多く、また、攻撃は上述したようにロングボール主体だったので、長い距離を走る必要もあり、かなり体力的にはきつかったと思うのだが、そういう縦の行き来の激しいサッカーの中、柴崎にボールが入ると、彼のキープ力で少し時間が作れたり、タメが出来たりするので、そこはテネリフェにとって大きなアクセスントになっていた。

結局テネリフェの方は、カディスの猛攻を身体を張って止める、奪ったらサイドの高い位置に蹴ってそこで起点を作ってカウンター、というサッカーを後半、そして延長戦に入っても最後までやりきり、1-0の勝利。カディスに得点を奪われなかったのは、本当にギリギリのところだったと思うし、もし奪われていれば、2点取りに行く必要が出てくるので、恐らく敗退していたと思うが、よく耐えた、という試合だった。
GKのダニを始めとした、無失点で終えた守備陣が頑張ったのは勿論だが、前半からずっと、相手のSB裏のスペースに走り続けたFW、特にアマトはもの凄い運動量で前線の起点になり続けていたので、そこも称賛されるべきポイントだったと思う。
そして、1-0で突破できたのは、リーグ順位をカディスより1つ上で終えたからであり、そういう意味では、テネリフェのシーズンを通じた戦いが呼び込んだ勝利だったと言える。

柴崎については、この試合のように縦の行き来の激しい、やや間延びした展開になると、かなり運動量を求められる反面、自身の活きるスペースも生まれてくるので、キツい代わりに、1戦目と較べると良さを出しやすい展開ではあったと思う。そういう意味では、決勝の2戦も同じように戦うのであれば、柴崎個人としても、テネリフェ全体としても、決勝戦までにどれだけフィジカルコンディションを回復できるか、というのが一つの鍵になるのではないだろうか。