鍵は2シャドー。タジキスタン代表 VS 日本代表 ワールドカップアジア2次予選 

日時 2019年10月15日(火)21:15※日本時間
試合会場 ドゥシャンベセントラルスタジアム
試合結果 0-3 日本代表勝利

2019年の9月10日から始まった日本代表のワールドカップアジア2次予選。日本は初戦、アウェーでのミャンマー代表との試合を0-2の完封勝利で終えると、続くホームのモンゴル代表戦は6-0で勝利。相手に1本のシュートも許さないという完勝だった。
3戦目となるこの試合は、キルギス、モンゴルを相手に2連勝して勝ち点6で日本と並んでいる、タジキスタン代表とのアウェーでの一戦である。

日本代表フォーメーション
18
鎌田
9
南野
10
中島
21
堂安
7
柴崎
13
橋本
5
長友
22
吉田
2
植田
19
酒井
12
権田

この試合の日本代表のフォーメーションは、長友、吉田、植田、酒井の4バックに、柴崎、橋本の2ボランチ、両SHが中島と堂安、2トップが南野と鎌田という4-4-2。前節のモンゴル戦では植田のところが冨安、橋本のところが遠藤航、堂安のところが伊東純也、鎌田のところが永井謙佑だったので、この4か所が変更点だが、トップに関しては人員だけでなくスタイルも変わっていて、永井がトップに入った時は永井が1トップ的、南野がトップ下的、という関係だったのに対して、この試合では南野も鎌田もトップ下的な選手ということで、一人が上がれば一人が下がるというような、2トップ的、もしくはゼロトップ的な関係性だった。
日本の前線は1トップが大迫勇也、トップ下が南野という形が基本だが、大迫は9月18日、所属チームでの練習中に太腿に6週間の怪我を負って離脱中である。センターFW的な人材が今の日本には少ないため、大迫の代役探しは難しい問題だが、森保監督は前節は永井を試し、そしてこの試合では南野と鎌田というまた別の形を選択した。

タジキスタン代表フォーメーション
21
Mジャリロフ
7
ウマルバエフ
10
Aジャリロフ
17
パンシャンバ
12
エルガシェフ
20
ジュラボエフ
2
サファロフ
6
エルガシェフ
4
ベクナザロフ
19
ナザロフ
1
ヤチモフ

一方のタジキスタン代表。選手の名前は全く知らないので一人一人の名前を挙げるのは割愛するが、フォーメーションは特徴的で、4バックの前に中盤が3枚、その前に2シャドーがいて、頂点に1トップがいるというピラミッド型の4-3-2-1だった。形としては、フィッカデンティ監督が率いていた時のサガン鳥栖のフォーメーションと似ている。
(参照:躍動、エルニーニョ。J1第24節 サガン鳥栖 VS ガンバ大阪
このフォーメーションの特徴については、試合の流れの中で触れて行くことにしたい。

さて、前節モンゴル戦での日本代表は相手に1本のシュートも許さず、殆どの時間を相手陣内で過ごしたが、この試合では始まってすぐにタジキスタンがチャンスを迎えた。
前半1分、アンカーの20番ジュラボエフが日本の柴崎、橋本の前でボールを持つと、7番のパルヴィジョン・ウマルバエフと10番のアリシェル・ジャリロフの2シャドーがアンカーに寄って行き、ウマルバエフが柴崎の裏でボールを受けると、日本の最終ラインの裏にスルーパス。21番のマヌチェフル・ジャリロフが飛び出してボールを受け、ペナルティエリアの端からクロスを上げたが、吉田が身体に当ててCKになった。
このシーンからも明らかだが、タジキスタンの4-3-2-1フォーメーションの一番の特徴は、7番と10番の2シャドーのところ。上記のシーンでは、彼らがアンカーの近くに寄って行くことで日本の2ボランチに対して3対2を作ったが、サイドに寄って行けばSHの17番、12番と共に、日本のSBに対して2対1を作ることが出来るし、1トップに寄って行けば日本の2CBに対して2対2や3対2を作ることも出来る。要は、2シャドーがフリーマン的に振る舞うことで、ボール付近に数的優位を作り出せるようになっている。
その一方でデメリットもある。中盤が3枚で、かつ両SHの17番パンシャンバと12番エルガシェフはサイドの守備にも参加しないといけないので、アンカーの脇にスペースが出来る。日本の方は、中島、堂安の両SHがサイドから中に入ってきて受けるのが得意なタイプなので、ここにスペースが出来るのは非常に危険である。よってタジキスタンの方は、守備の時にはボールサイドのシャドーがアンカー脇のスペースを消しながら下がる、という形を取っていた。上述のフィッカデンティ監督指揮下のサガン鳥栖も、守備の時にはシャドーの小野をボランチの位置に落としていたので、形としては似ている。
また、そもそものスペースを小さくするために、タジキスタンの方は左右を非常にコンパクトにしていて、ボールと逆サイドのSBとSHはセンターサークルに掛かるぐらいまで絞ったポジションを取っていた。

タジキスタンの方は、前半16分にアンカーの20番ジュラボエフが負傷してしまい、代わりに8番のカロマトゥロ・サイドフが入ったが、役割はそのまま変わらず。
そして前半23分には、日本陣内左サイドでスローインを受けた鎌田が、この交替で入った8番のチャージでボールを失い、ボールを拾った10番がバイタルエリアをドリブル、1トップの21番とサイドから中に入って来た17番が日本の最終ラインの裏に走り、10番が17番にパス、17番がシュートするが権田がセーブ、という決定的なシーンがあった。権田のセーブは至近距離からのシュートを左手一本で止めた、というもので、セーブの難易度的にも、敵地で先制点を奪われる事態を回避したという意味でも、ビッグセーブと言えるものだった。

一方の日本の攻撃だが、タジキスタンのアンカー脇には一見スペースがあるので中島や堂安が中に入って受けようとするのだが、相手のシャドーがアンカー脇へのパスコースを消していて、かつボールが入りそうになると相手のSHも中に絞って来るので、受けられそうで受けられない、もしくは受けても囲まれてしまう、ということが多くなり、スペースを使えているというよりは、スペースに誘い込まれている、という感じだった。
ただし、タジキスタンが鉄壁だったかと言うとそうでもなく、セットプレーの守備やクロスの対応はおざなりだった。前半9分には中島のFKをペナルティエリア内で吉田がフリーでトラップしてシュート、というシーンがあり、そのすぐ後の12分には中島のCKをニアサイドで吉田がボレーするがGKがセーブ、というシーンがあった。このシーンではタジキスタンはストーンを1枚しか置いておらず、そのせいで吉田にニアサイドでのシュートを許してしまったのだが、その一方で、10番と7番は誰のマークもせず、ペナルティアークの少し後ろあたりを漂っているだけ、という状態だった。10番と7番がゾーン守備の場合はもっと後ろ、ゴールエリア付近に立つはずなので、意図が良く分からない守備だった。
更に前半30分の日本のCKでは、タジキスタンの方は7番がストーンに入るようになっていて、ストーン役が2枚になったのだが、7番の位置が前過ぎてその後ろで吉田にヘディングされてしまっていた。
また前半44分には、タジキスタンが自陣右サイド深い位置から前線に当てようとしたボールを橋本が頭でカット、このボールが長友、そしてアンカー脇のハーフスペースにいた中島へとつながって、中島がハーフスペースをドリブル、更に、中央にいた鎌田に当ててワンツーでタジキスタンの右SBの裏へと抜けだして、左足でクロスを上げた。このクロスに対して南野が走り込んだのだが、南野はまずニアに動くと見せてタジキスタンの6番を釣り、クロスが上がる瞬間にファーに動き直して完全にフリーになってヘディングした。コースがGK正面だったためゴールにはならなかったが、1点物のシーンだった。
モンゴル代表もそうだったが、アジアの国は一部の強豪国を除くと、例外なくクロス、特にファーサイドへのクロスに弱い。このシーンのタジキスタンも、CBは南野の動き直しに全く付いて行けておらず、ファー側のSBも絞りきれておらず、クロス対応が弱点であることが良く分かるシーンだった。

さて、前半は両チーム無得点のまま、エンドが変わって後半。
タジキスタンの方は、前半よりもプレスの位置を上げ、1トップと2シャドーが日本のCBのところまでプレスに出てくるようになった。前半を0-0で終えるところまではプラン通り進んだので、後半はリードを奪いに行く、という意気込みが感じられる変化だった。
一方日本の方は、鎌田のポジショニングに変化が見られた。
まず前半始まってすぐ、40秒のところで、日本の方は長友が左サイドの高い位置を取り、中島が引いてきて、長友が空けたCBの脇の位置でボールを受けた。そして、鎌田が相手のアンカーの脇のスペース、前半は中島が使っていたスペースに入って中島から縦パスを受け、ドリブルでバイタルエリアまで運んで右足でシュートを放った。シュートはGKにキャッチされたが、この後のシーンでも、鎌田はアンカー脇のスペースに積極的に顔を出すようになっていて、後半の日本は、鎌田がトップ下的、南野が1トップ的、という形に役割分担されていた。
タジキスタンの方は、前半はアンカー脇に入って来るのが中島、堂安だけだったので、17番と12番の両SHがそのまま中に絞って行けば良く、またシャドーがアンカー脇へのパスコースを消すことも出来ていたのだが、鎌田が下りて来るとなると、シャドーの選手は消すコースが2つになるし、トップの位置から下りる鎌田にCBが付いて行くと最終ラインが空いてしまうので、誰が捕まえるのか、という問題が出てくる。結果、前半は封じることが出来ていたアンカー脇のスペースを、後半は封じることが出来なくなっていた。

そして後半6分。日本のチャンスはピンチの後にやってきた。
このシーンの始まりは、タジキスタンの7番ウマルバエフが日本陣内、左サイドに開いた位置でボールを受けてドリブルを始めたところから。上述の通り、タジキスタンのフォーメーションはシャドーがサイドに開くとサイドで数的優位が出来る。ここでは日本の右SB酒井に対してウマルバエフと17番の左SHパンシャンバが2対1の状態。酒井はウマルバエフに当たりに行くとパンシャンバがフリーになるので出ることが出来ない。ウマルバエフがフリーでドリブルを続けることを警戒した植田が一歩寄った瞬間、植田の背後、吉田との間にいた10番Aジャリロフにウマルバエフからパスが通った。ゴール前中央でパスを受けられたのでかなり危ないシーンだったが、吉田が絞ってシュートを撃たせず、最後はGK権田がボールを抱え込んでセーブした。
そして、セーブした権田からのスローを柴崎が受け、鎌田がセンターサークル内で柴崎からボールを受けて中央をドリブル、左サイドの中島に展開し、中島が右足でインスイングのクロス、南野が中央からファーに逃げる動きでフリーになり、今度はしっかりとゴールネットを揺らした。
このシーンは鎌田がトップ下的になっていたこと、そして前半44分の南野のチャンスシーンが伏線になったゴールだったが、もう一つ素晴らしかったのは中島の動きだった。鎌田が中央でボールを受けられたのは、柴崎がボールを持った時、中島が中央からサイドに逃げる動きでタジキスタンのアンカー、8番のサイドフを中央から釣り出したから。そして、鎌田がボールを持つと中島はサイドを走って鎌田からボールを引き出し、最後は南野のファーへの動き直しをしっかり予知してクロスを上げた。中島にとっては、頭に描いたことがそのまま形になったゴールだったのではないだろうか。

更に後半9分、日本は追加点を挙げる。
タジキスタンの前線へのパスを吉田がカットし、タジキスタンのアンカー脇にポジションを取った堂安にパス。堂安がドリブルで運んで右サイドの酒井に展開、酒井からバイタルの鎌田、鎌田が中に入って来た堂安にボールを落とした。この鎌田の落しが良ければ堂安がダイレクトでシュート、もしくは南野にラストパスを出せたと思うのだが、落しが少し堂安の後ろになったので、堂安がボールをキープして柴崎に下げ、柴崎が改めて右サイドの酒井に展開した。酒井はタジキスタンのDFラインの裏にグラウンダーの速いクロス。飛び込んだ南野はボールに対して少し前になってしまったが、軸足の後ろで上手くボールにタッチしてファーに運び、ゴールネットを揺らした。1点目は前がかりになった相手の裏で鎌田がボールを受けて起点になったが、この2点目も、前がかりになった相手の裏で堂安が起点になった、というゴールだった。

2点をリードした日本は後半18分、中島を下げて浅野を投入。浅野は中島のいた左SHにそのまま入った。
一方のタジキスタンの方は、アンカー脇に下りる鎌田を捕捉できないので、徐々に2ボランチ的な形に変化していく。タジキスタンの10番と7番は、10番がFW的、7番がボランチ的、というキャラクターのようで、7番がアンカー脇に下り、10番が前残りして、実質的には4-4-2、という形になることが多くなって行った。

日本の方は、後半35分には鎌田を下げ、永井謙佑を投入。この交代で、日本は永井の1トップ、南野のトップ下という形に変わった。

日本代表フォーメーション(後半35分時点)
11
永井
15
浅野
9
南野
21
堂安
7
柴崎
13
橋本
5
長友
22
吉田
16
冨安
19
酒井
12
権田

そしてこの交替の直後に日本の3点目が生まれた。
後半36分、柴崎が長友からボールを受けてタジキスタンの8番、アンカーのサイドフに向けてドリブル。南野は最初、サイドフの脇で柴崎からボールを受けようとしたのだが、柴崎がドリブルを始めたのを見てサイドフの裏に動き直した。サイドフは柴崎と南野の間を切りながら下がるべきだったのだが、柴崎から南野へのパスを許してしまった。ボールを受けた南野は一つ右を上がって来た堂安に横パス。更に堂安が右大外の酒井に展開し、酒井がファーサイドにクロス。これに浅野が頭で飛び込んでゴールを挙げた。

このゴールで実質的に勝負は決まった。タジキスタンとしては、1点目も2点目も3点目もクロスからの失点、特に1点目と3点目はファーへのクロスということで、前半で既に見えていた弱点が露呈した形となった。
また、もう一つ感じさせられたのはアンカーを置くシステムを機能させることの難しさ。8番のサイドフは1失点目では中島のサイドに逃げる動きに、3失点目では柴崎のドリブルに釣られてバイタルを空けてしまった。アンカーの選手の守備と言うのは、動かなければアンカー脇を使われてしまうし、かといって動き過ぎればバイタルエリアを空けてしまう。その状況判断を常に正しく行える選手と言うのは、日本にも殆どいない。怪我で下がった20番ジュラボエフがいればどうだったのか、と言うのは見てみたいところではあるが。

一方の日本だが、アウェーでの3点差の勝利と言う結果については素晴らしかったが、内容については幾つか問題点も見受けられた。
1つ目は、タジキスタンのアンカーを誰が見るか、という問題。この試合ではタジキスタンの2シャドーがアンカーに寄って行くことで日本の2ボランチのマークをずらすシーンが多く見られたので、アンカーへのマークを早めに決めたかった。後半からは鎌田が攻撃時にはトップ下的に振る舞うようになったが、それならばトップ下が相手のアンカーを見る、という形で整理すべきだったかなと。後半の25分過ぎぐらいからはそこが整理されてきて、トップ下が鎌田から南野に変わった後も南野が相手のアンカーを見るようになっていたが、2点のリードを奪ったのは後半の9分だったので、遅くともその段階で、試合をクローズするためにトップ下を相手のアンカーに付けるべきだったと思う。
もう一つはボランチの柴崎とCB植田の守備で、ここは戦術的な問題というより個人能力の問題だった。
後半12分には、バイタルに進入してきた相手の7番に柴崎が当たるが横の10番にパスを通されてしまい、今度は10番に当たりに行ったところ切り返しで入れ替わられてしまい、バイタルからミドルシュートを撃たれる、というシーンがあった。
そして後半の17分には、吉田から中島へのパスを相手の7番にカットされ、柴崎が慌てて戻ったのだが、吉田と柴崎どちらが7番に当たるのかはっきりせず、間を通されて1トップの21番にボールが渡った。そして、21番には植田がマークに付いたのだが、身体を外に向けていた21番のシュートフェイントに引っかかって中を向かれてしまい、左足でシュートを撃たれてしまった。シュートは権田がセーブしたが、逆サイドから17番がフリーで走り込んでいたので、そこに出されたら危なかった。
更に後半27分には、中に入ってボールを受けたタジキスタンの17番に酒井が絞ってコースを限定したにもかかわらず、柴崎が自身の裏にポジションを取った相手の10番へのコースを消し切れておらず、17番から10番にパスが通る、というシーンがあった。そして、柴崎の裏でボールを受けた10番に対して、植田はディレイしながら酒井がカバーに戻る時間を稼ぐべきだったのだが飛び出して当たりに行ってしまい、10番にサイドのスペースに大きく運ばれて一気に入れ替わられてしまった。
植田に関しては冨安の怪我によって出番が回って来た控えの選手なので、現時点で守備のクオリティがやや落ちるのはある意味しょうがないのだが、柴崎の方は、どうにもムラがある。アジアカップの時も、グループリーグや決勝トーナメント初戦ぐらいまでは守備が悪くて、そこから段々良くなって行った。コパアメリカの時は全体的に良かった印象がある。人間なので、コンディションが悪い時に当たりが弱くなったり、ボールが奪えなくなったりするのはしょうがないと思うのだが、柴崎の場合、悪い時はコースを切る守備も出来なくなって、背後にボールを通されてしまうシーンが多くなる。逆に、良い時は当たりそのものも強くなる。柴崎はどちらかと言うとセカンドボランチ的な選手で、場合によってはトップ下に入ることもある選手なので、どちらかと言うとコースを切る守備の方を求められる傾向にある。よって、少なくともそのプレーの質は落とさないようにしたい。そしてそれが、所属チームで定位置を掴むことにもつながって行くと思う。