立ち位置の変化。J1第15節 セレッソ大阪 VS 清水エスパルス

日時 2017年6月17日(土)19:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-1 引き分け

この試合は、昨シーズンJ2から昇格してきたチーム同士の対戦。昨シーズンのセレッソのJ2での最終順位は4位、清水の方は2位だったので、清水の方が上位だったが、今シーズン、この試合の時点でのJ1での順位は、セレッソが2位、清水が13位。この半年で、両チームの立ち位置は大きく変化したと言える。
以下は、試合前の清水エスパルス、小林監督のコメント。

(セレッソの印象は)現時点で攻守にものすごくバランスが良くて安定しているチームと思ってます。
(今日は互いにJ1のチームとしての対戦となるが)そういうチームに対して守備の安定を図りながらボールを持ってどういう風に崩すかということが出来れば次につながると思いますし、積極的にね、そういうレベルの高い、コンディションのいいチームですけど、積極的に自分たちのパフォーマンスが出せるように頑張っていきたいと思います。

今シーズンのセレッソはレベルが高い。しかし、その相手に対して積極的に、自分たちもボールを持って、というのがこの試合の清水のプラン。逆に言うと、この小林監督のコメントは、現時点ではセレッソの方が自分たちよりも上だということを言外に認めており、この試合時点での両チームの立ち位置を物語っていると言える。

セレッソ大阪フォーメーション
杉本
柿谷 山村 水沼
山口 木本
丸橋 山下 ヨニッチ 松田
キムジンヒョン

この試合のセレッソは前節までと同じ4-2-3-1。ただし、ボランチのレギュラーのソウザがこの試合は累積警告で出場停止。代わりに木本が先発となった。

清水エスパルス フォーメーション
鄭大世 チアゴアウベス
デューク 枝村
竹内 六平
松原 二見 カヌ 鎌田
六反

清水の方は2トップに鄭大世とチアゴアウベスを置く4-4-2。左SHのミッチェル・デューク、CBのカヌは本来レギュラーの選手ではないので、セットプレーに強いセレッソの高さ対策としての起用だと考えられる(デュークは前節、レギュラーの白崎が怪我をしたというのもあるが)。

試合は前半3分、清水が鄭大世のゴールでいきなり先制した。
セレッソ陣内、セレッソから見て右サイドのコーナー付近で清水が得たスローインから、チアゴアウベスがノールックで左足クロス、ニアポストの前に入った鄭大世がボールを擦らすように頭で触ってゴール。チアゴアウベスに対応したのは木本、ボールの軌道上にいたのはヨニッチ、鄭大世についていたのは山下だったが、全員が虚を突かれた、という感じだった。特に山下は完全に鄭大世に出し抜かれてしまったので、もう少し、自陣ゴール近くにボールがあること、自分が見ている相手は敵のエースストライカーであることを自覚してほしかった。ただ、短い瞬間だったが、鄭大世はまず山下の前に入る動きを見せて山下を引き付けてから、ほんの少し下がってヘディングするスペースを作る、という動きをしており、アッサリしているように見えて実は高度なシュートだったとは思う。

先制した清水だが、戦い方としては、最終ラインは下げずにしっかりと押し上げ、センターサークルあたりにまずブロックを作る、そして、セレッソのボールを高い位置で奪ったら、まず左SHのミッチェル・デュークのところで起点を作ってセレッソの右SBである松田を引き付け、その裏にできたスペースにチアゴアウベスを走らせる、または逆にチアゴアウベスが起点になってデュークを裏に、という形を狙っていた。セレッソの右SBの裏でボールが持てると、セレッソの方は右CBのヨニッチが中央から対応に出てくるので、そうなるとセレッソのゴール前から、一番守備力のあるヨニッチを引っ張り出すことが出来る。先制点のシーンも、スローインを取った時、ゴールを奪った時、いずれもその形だった。
この辺りは、戦前の小林監督のコメント、セレッソに対して積極的に、自分たちがボールを持って、という意識を、チームとして表現できていたと思う。

ただ、先制点を奪われたことで、セレッソが積極的に前に出てくるようになり、清水の方はそれに対して完全に崩される、というシーンは無かったのだが、ボールを奪ったり、奪われたりという中で、セレッソは攻守の切り替えが非常に速いため、清水はそれについていくことが出来ず、徐々に高いラインを保てなくなっていった。

しかし、ブロックを落としながらも清水の方は守り切れており、前半は0-1、清水のリードで終了、セレッソは後半から、木本に替えて清武を投入し、山村がボランチの位置に入った。

セレッソ大阪 後半フォーメーション
杉本
柿谷 清武 水沼
山口 山村
丸橋 山下 ヨニッチ 松田
キムジンヒョン

木本はソウザと較べると、どうしても相手を一枚剥がしたり、リズムを変えたり、というテクニックの部分で見劣りするし、また守備の部分でも、少しだけ読みが追いついておらず、後追いになるところが見られたので、前半の終了間際に足を痛めた、というシーンはあったが、替えられた原因はそこではなく、攻守のパフォーマンス、という部分だったと思う。

そして一方の清水。後半に入る小林監督のコメントはどうだったかというと。

点を取って、余りにもリアクションになっているので、セットするのはいいんだけど、ボールを取りに行くことと、守備についてクロスの対応がちょっと悪いので、特に左が、我々の右側を使われて左のクロスが甘いので、そこの徹底ですね。
あとはボールを取った時に枚数が少ないので落ち着いて回せれば2点目が入ると思うんですね。そこを狙いに行くということですね。

コンセプトとしてはあくまでも変わらず、守備は積極的に、そして自分たちがボールを持ったら、フォローの人数を増やして、落ち着いて回して、というコメントである。

こうしてセレッソは後半の戦いに入ったのだが、清武を入れて、彼が組み立てから崩しの部分まで積極的に関わるようになったことで、前半はボランチのところで相手を動かせていなかったのに対して、後半はかなり相手を動かすことが出来るようになり、清水の方は、もっと積極的に守備を、自分たちもボールを持って、ということで入った後半だったが、実際には、殆どの時間で自陣に張り付けられることになった。
ただ、セレッソから見て、そうした中盤の良さがフィニッシュのところまで通じていたかというとそうではなく、自分たちが積極的に攻め込む分、相手のブロックも落ちる、それによってゴール前はスペースが無くなる、ということになり、なかなか決定的なシーンにつなげられない。

セレッソ大阪 フォーメーション(後半36分から)
柿谷(澤上) 杉本
丸橋 清武 山村 水沼
山口
山下 ヨニッチ 藤本
キムジンヒョン

そんなこんなで試合終盤まで来てしまい、セレッソの方は後半36分に松田に替えて藤本を投入し、3バック、山口をワンボランチに、その前に清武と山村を置く3-1-4-2の形に。さらに後半43分には柿谷に替えて澤上を投入。ここからは殆どパワープレーの展開になった。
そして後半ロスタイム、セレッソから見て相手陣内右サイドで得たフリーキックの流れから、ペナルティエリア内で清水の松原が藤本との競り合いで手を上げたところにボールが当たってしまい、PKの判定。このPKを清武が決め、セレッソが土壇場で追いついた。
後半のロスタイムは5分と長く、更にPKで止まっていた時間も加味されたため、そこからさらに逆転まで持って行きたかったセレッソだったが、それは叶わず、1-1の引き分けで試合終了となった。

この試合のセレッソは、押し込みながら試合終盤まで得点を奪えなかったわけだが、要因としては、シュートであったり、クロスのタイミングが少し単調であったように感じた(清武が入るまでは中盤のつなぎに関してもそうだった)。相手の守備が整っていなかったり、下がりながらの対応になっているのであれば、全て早め、早めで良いと思うが、相手が待ち受けている状態なのであれば、一つタイミングを外して、というのも重要になってくる。

また、この試合では前へ前へ、というイケイケの時間が長かったが、それで相手をゴール前に集めてしまって、結果的に攻撃を難しくしてしまった面があり、逆に守備面では、相手にはカウンターのスペースやタイミングを与えてしまった、という面もあった。
この試合、清水の最終ラインの選手や、GKの六反が一番ストレスを感じたシーンは、前半8分にヨニッチのロングフィードから水沼がDFラインの裏に抜け出し、杉本にクロスを上げたシーンや、前半17分に山口のロングフィードから杉本がゴール前に走り込み、六反が飛び出してパンチングでクリアしたシーン、あとは、時間は忘れたが後半、右サイドから大きなサイドチェンジで柿谷が左サイドでフリーでボールを受け、カットインからミドルシュートを放ったシーンだったと思う。つまり、中盤やDFラインから一気に裏へ、と言うボールであったり、清水を片方サイドに集めておいて、一気に逆へ、と言うボール。後半開始時の小林監督のコメントにもあるように、清水のほうは、リードを奪った後も、前から守備をしたい、自分達でボールを保持したい、と言う意識を持っていたわけなので、中盤を支配するよりも、そこを逆手にとって、相手を引き込んで、と言う攻撃がもっと必要だったし、そのほうが、ローリスク、ハイリターンだったのかなと。

最後に、試合終了後の清武、及び小林監督のコメントを紹介したい。

清武コメント
前半からチャンスがあった中で、なかなか点が入らず、後半から自分が入った。後半もチャンスはたくさんあったので、勝ちたかった。今日はトップ下として入った。このポジションは自分が一番したいポジションだし、流れを変えることができるポジション。なので、楽しかったと言えば楽しかったけど、その分結果も欲しかった。チームの流れが良い中で、今日のような内容の試合では勝点3を取りたかったけど、この勝点1を無駄にせずやっていきたい。

小林監督コメント
いい形が入れて上手く取れたんですけど、やっぱりボールを奪った後、前に行くのばっかりで、ボールをちょっと回せなかった、それはやっぱり守備から攻撃になった時に、それぞれがちょっとしたポジションを動かせなかったというのが、プレッシャーを受けたと思うんですね。それはちょっと残念だったなというのと、やっぱりメンバーがセンターが久しぶりっていうのと、初めてなんで、そこはよく頑張ってくれたというところと、そうですね、最後あんなに押し込まれた時にはちょっときつかったかなと思います。あれがそのままひっくり返らなかったので、勝ちたかったですけど勝ち点1取って帰れたというのは、好調のセレッソさんについては良くやったと思います。ちょっと残念なんですけど、勝ち点1取れたというのは、良しとして、次につなげていきたいと思います。

この稿の最初にも書いたが、これらのコメントを見るにつけ、セレッソの立ち位置は変わってきていると感じる。シーズンの最初、プレーオフで昇格してきたセレッソに対して、勝ち点1で良しとしたい、などというチームは存在しなかった。セレッソの方も、守備を固めて、セットプレーでも何でも、どこかで1点取れればよい、そういう手堅いサッカーをしていた。
しかし今は、前節の新潟もそうだが、セレッソに対して下位に位置するチームは、まず守備から、引き分けでも勝ち点を取れれば、というサッカーをしていて、この試合の清水も、最初は積極的に、勝ち点3を取る、というサッカーで入ってきたが、次第に守備的なサッカーに変わっていった。またセレッソの選手の意識も、ロスタイムで同点に追いついた、という試合の後であっても、それでは満足できない、という風に変わってきている。

そういう流れの中、セレッソがシーズンの後半戦を戦っていくためには、前半戦の守備の堅牢さを維持しながらも、引いた相手に対してはどうやってゴールを奪うのか、というところが重要になってくると思う。セットプレーはそれに対する重要な武器だし、それは後半戦も変わらないと思うが、それ以外の部分、というのが問われてくるのかなと。