真逆のコンセプト。セレッソ大阪 VS ガンバ大阪 J1第26節

日時 2020年11月3日(火)14:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-1 引分

今シーズン2度目の大阪ダービーは、ガンバ大阪2位、セレッソ大阪3位という上位対決で迎えることとなった。今シーズンのJリーグは1位の川崎が独走し、ガンバもセレッソもリーグ優勝は難しい、という中での対戦だが、今シーズンの2位確保には普段のシーズン以上の意味がある。過密日程による変則レギュレーションで、J1から天皇杯に出場できるのはリーグ戦1位と2位のチームのみとなっているからである。両チームともルヴァンカップは敗退しているため、残った最後のタイトルを獲りに行くチャンスを得るためにも地元のライバルには負けられない、という中での対戦である。

セレッソ大阪フォーメーション
25
奥埜
32
豊川
10
清武
17
坂元
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、GKがキム・ジンヒョン、DFラインが左から丸橋、木本、ヨニッチ、松田、ボランチが藤田とデサバト、左SHが清武、右SHが坂元、2トップが豊川と奥埜という4-4-2。直近の24節浦和戦からの変更点としては、右SBにレギュラーの松田が復帰し、前節スタメンだった片山がベンチに回った、という点と、左CBが瀬古から木本に変わり、前節木本が入っていたボランチの位置には藤田が入った、という点である。なお、セレッソはACLのスケジュールとの兼ね合いで25節神戸戦を9月に消化しており、26節となるこの試合は中9日で迎えている。

ガンバ大阪フォーメーション
33
宇佐美
18
パトリック
10
倉田
8
小野瀬
29
山本
15
井手口
14
福田
19
ヨングォン
13
菅沼
27
高尾
1
東口

一方のガンバ大阪は、GKが東口順昭、DFラインが左から福田湧矢、キム・ヨングォン、菅沼駿哉、髙尾瑠、ボランチが山本悠樹と井手口陽介、左SHが倉田秋、右SHが小野瀬康介、2トップが宇佐美貴史とパトリックという4-4-2。こちらは前節札幌戦から中2日の日程だが、スタメンの変更箇所はFWが渡邉千真からパトリックに変わったのみである。
ガンバの方は札幌戦の前にFWアデミウソンが酒気帯び運転で任意捜査を受けるという事件があり、現在アデミウソンは謹慎中。テクニックと得点力があり、地味に起点力もあるアデミウソンは誰とでも組めて誰の代わりにもなれるという選手だったので、ガンバとしては体面的な意味でもチーム編成的な意味でも痛恨の出来事である。札幌戦のガンバは後半15分に宇佐美を下げてパトリックを投入し、そのパトリックが決勝点を挙げて勝利しているが、この交代は得点を狙いに行くだけでなく、アデミウソンと最もスタイルが近い宇佐美を札幌戦で消耗させ過ぎてしまうと、この大阪ダービーで駒が足りなくなってしまう、という点も考慮されてのものだったと考えられる。

さて試合の流れに移る前に、両チームの現状について前説をしておきたい。
まずセレッソの方だが、シーズン中盤までは首位の川崎フロンターレを追走する形で2位に付けていたのだが、20節でその川崎との直接対決に敗れて以降は徐々に失速。川崎戦から前節浦和戦までの5戦は2勝3敗と負け越しており、2位をガンバに明け渡す格好でこの試合を迎えている。この失速の要因を一言で表すのは難しくて、悪い部分を端的に言えば失点が増えているのだが、崩されての失点というよりも、スクランブルな状態になった時に、一瞬の対応の遅れやミスで失点してしまったり、オウンゴールになってしまったり、シュートが誰かに当たってコースが変わって入ってしまったり、という失点が多い。またコンディションを落としている選手が何人かいて、上述の5戦が開催された10月は右SB松田、FW柿谷、都倉と言った選手が負傷離脱。また左SB丸橋も9月あたりから調子を落としていて、10月は片山が左SBで先発することが多くなっていたのだが、松田が負傷離脱したことでこの片山を右に回さざるを得なくなり、調子が戻り切らない丸橋がまた先発に戻る形になった。片山にしても先発が増えたのは最近だが、シーズン当初からずっとサブでは試合に出続けていた選手なので明らかに疲労は貯まっている。こうしたコンディション不良や、首位と離されてしまったことによる目的の喪失感、これらが少しずつ重なった結果が、上述の失点増加につながっている印象である。

一方のガンバだが、こちらはセレッソとは対照的に、秋に差し掛かるあたりから調子を上げてきた。9月13日、第16節の湘南戦で敗れて以降は10戦して無敗。9勝1分と勝ち点を大きく上乗せしてこのダービーを迎えている。ただ、セレッソの不調の要因を一言で説明できないのと同様、ガンバの好調の要因も単純には説明しづらいところがあり、無敗で過ごしてきた10試合も、決して楽に勝ってきたわけではない。9勝のうち、2点差以上で勝利したのは20節鹿島戦の2-0のみで、他は全て1点差の勝利である。連勝に入る前との分かりやすい違いは布陣が5-3-2から4-4-2に変わったという点だが、5-3-2で戦っていた時の問題が布陣変更によって綺麗に解消されたというわけではなく、今でもガンバは幾つかの問題を抱えながら、それでも勝ち点を積んでいる、という印象である。
細かい点については試合の流れの中で触れるが、そうした問題がありながらもガンバが勝ち点を積めるようになったひとつの要因は一種の割り切りだと思っていて、何を割り切ったかと言うとボールを支配し続けるサッカーを目指すのを止めた。上述の通りここ10戦のガンバは9勝1分だが、この10試合でボール支配率が相手を上回ったのは9月23日の名古屋戦のみ。一方、その前の10試合、7月22日の広島戦から9月13日の湘南戦までは6試合でボール支配率が相手を上回っており、その一方で成績は4勝1分5敗だった。チームの意図が表れやすい前半だけを見ても、直近の10試合で支配率が相手を上回ったのは名古屋戦、マリノス戦、大分戦、柏戦の4試合のみで、かつ大分戦と柏戦で得点を奪ったのは支配率が下がった後半である。つまり支配率が下がったのと反比例して勝てるようになったわけだが、カウンター型のサッカーに移行したというわけではなく、今でもボールを支配してサッカーをしたいという基本方針はあり、ただそれを試合を通じて実現することがなかなか出来ないので、割り切って引いて守る時間も作るようにした、というのが今のガンバである。
ある程度割り切るようになったことで失点も減り、直近10試合の総失点は6。それ以前は16試合で22失点だったので大きく改善している。また、ガンバの守備については(これは勝ち出した時期に限ったことではないが)GK東口の貢献が非常に大きい。下記はこの記事執筆時点のガンバのシーズンスタッツの中から被ゴール期待値を抜き出したものだが、1試合平均の期待値が1.654であるのに対して実際に被ったゴールは1と差分が非常に大きい。
ガンバの被ゴール期待値
ゴール期待値というのは簡単に言うとシュートチャンスの得点確率を数値化したもので、ほぼ1点もののチャンスなら1、可能性の低いチャンスならゼロになる。被ゴール期待値に対して実際の被ゴールが少ないということは、相手が簡単なチャンスを外しているか、GKやDFが水際で防いでいるかのどちらかである。ガンバの試合を見ていると東口が決定的なシュートを止めるシーンというのが非常に多く、彼の存在が失点数の低減に大きく寄与している。
一方、セレッソの方も被ゴール期待値1.454に対して実際の被ゴールは1と差分が大きいので、こちらもGKキム・ジンヒョンの貢献というのが非常に大きく、この点については両チームとも、頼れるGKがいるという点で共通している。

前説が長くなったが、そろそろ試合の流れに移りたい。
まず試合序盤についてはセレッソがボールを支配する展開になった。そういう展開になるのはある程度予想できたことで、セレッソの方はボールを運ぶ形が既に落とし込まれているし、ガンバの方は上述の通り割り切って引いて守ることも多いチームなので、序盤はセレッソが能動的にボールを動かす展開となった。
セレッソのビルドアップの最終目的は相手DFラインの裏に走ったFWにボールを届けること。そのための方法論というのは幾つか用意されているのだが、一番わかりやすいのはGKジンヒョンからのビルドアップである。GKからプレーを再開する時のセレッソは、ペナルティエリア内、ジンヒョンの両脇に左CBの木本と右CBのヨニッチが立ち、ヨニッチの右斜め前、ペナルティエリアの右脇に右ボランチのデサバトが開いたポジションを取る。つまりGK+両CB+デサバトの4枚でビルドアップを始めるわけだが、ガンバはこの4枚に対して最低でも3枚は出て行かないとプレスが嵌らない。GKとCBの3枚には宇佐美とパトリックの2トップが行くとして、サイドに開いたデサバトを誰が見るか。ここに左SHの倉田が行くとセレッソの右SBの松田が空く。倉田が行かずに左ボランチの山本が行くと、倉田は松田を見ることが出来るが、セレッソの右SH坂元は山本が出ると中に移動して山本が空けたスペースに入って来るので、ガンバの方は左SBの福田がポジションを上げて付いて行く必要がある。更に、セレッソのFW奥埜は福田と左CBヨングォンの間にポジションを取るので、奥埜にはヨングォンが当たることになる。この形でガンバの左SBと左CBを釣って、その裏に豊川が飛び出す、というのがセレッソのビルドアップの形になっている。
セレッソの2トップはこれまで奥埜とブルーノ・メンデスの組み合わせが多かったが、2試合前のマリノス戦の後半21分にメンデスに替わって豊川が投入され、この試合で豊川が2ゴールを決めると、その次の浦和戦では豊川が先発、そしてこの大阪ダービーでも先発は豊川となった。豊川はメンデスと比べると身長やフィジカルはないが、裏に飛び出すスピードは上回っており、上述の形で相手のCBとSBの裏を狙う時も、メンデスの場合はSBの裏に走って起点になる動きをすることが多かったが、豊川はより直線的に、CBの裏、ゴールに直結する動きをする。この豊川の奥行きを出す動き、そのスピードを活かすことが現在のセレッソの攻撃の主目的になっている。

一方のガンバ。守勢に回ることはある程度想定済みだったはずで、嵌まらない時は前プレはやめて一旦引いて守る。セレッソの方は左利きの右SH坂元が高い位置でドリブルし出すと非常に脅威で、左足でのカットイン、右足で縦に運んでのクロス、どちらもあるのでSBが1対1で対応すると高確率でチャンスを作られてしまう。よって坂元に対しては左SB福田に加えて左SH倉田も必ず守備参加して2枚で対応していた。また、福田や倉田が開いた位置の守備に出て行って空いたハーフスペースは左ボランチの山本が下がって埋める。ガンバの4-4-2は昨日今日始まったわけではなく、2シーズン前、宮本監督の就任時点では4-4-2だった、と言う所から始まっているので、このあたりの守備の約束事は昨シーズンの段階である程度完成していた部分でもある(ではなぜ3バックにしていたのか、という点については後ほど触れる)。
また、過去の4-4-2と比べて改善している部分もあり、2トップの守備参加は以前よりも増えていた。パトリックは元々守備貢献を厭わない選手だが、宇佐美については明らかに以前よりも守備意識が高まっている。また、単に守備の運動量が増えただけでなくポジショニングも良くなったように見える。この試合の序盤ではセレッソに押し込まれる中、宇佐美とパトリックの2人が自陣中ほどまで下りてファーストプレスやプレスバックをしていて、5-3-2の時、宇佐美とアデミウソンの2トップが前残りしていたり、引いて来ても効いていなかったりしていた時期と比べると、明らかに2トップの守備は改善していた。

一方、前半の序盤を過ぎると、ガンバのボール保持も少しずつ増えて行った。
ガンバのビルドアップはボランチの山本をアンカー的にCBの前に落として組み立てさせる形が基本なのだが、そこから丁寧に中盤を経由して前線に繋いでいく形というのは殆ど無く、最終的にはFWパトリックに向けて長いボールを蹴ることが多い。前説で触れた通り、ガンバはボールを安定的に保持する形というのを中々実現できておらず、3バックにしていたのもそこを安定させるためである。4-4-2だとボール保持時の選手同士の立ち位置が斜めではなく縦横になってしまってボールをスムーズに回せないので3バックにする、というのは良く見られるやり方で、セレッソもユン監督の元でボール保持型のサッカーをやろうとした時は3バックにしたし、現在のロティーナ監督もボール保持を落とし込むにあたって最初は3バックから始めた。
ただガンバの場合、3バックにすると守備が安定しないので、それを改善するために結局4バックに戻す、そうなるとボールが回らなくなるのでまた3バックに回帰する、ということを何度か繰り返している。結局今は、4バックで守備を安定化させることを優先し、ボール保持についてはある程度割り切って、シンプルにパトリックに蹴る、という形を増やすことで攻守のバランスを取っている。また、以前はGK東口から繋ぐ形というのも何度か見せていたが、少なくともこの試合では、東口からの再開時は全て前線にロングボールを蹴っていた。ただ、パトリックはこうしたロングボールの競り合いに非常に強く、また、ガンバのSHとボランチは運動量豊富にセカンドボールを拾える選手が揃っているので、蹴ってしまってもそれほど分の悪い勝負にはならない。逆にセレッソの方は、デサバトも藤田もどちらかというとポジショニングで勝負するタイプの選手で、運動量が少ないわけではないが縦横無尽に動くタイプではないので、セカンドボールの回収力は余り高くない。よって、ガンバの方は蹴ってしまっても、ある程度の確率でセレッソ陣内に起点を作ることが出来ていた。

セレッソ陣内に起点を作ることができ、ボールがアタッキングサードに掛かると、ガンバはビルドアップモードからゴールを奪いに行くモードにスイッチする。とは言っても緻密な約束事があるわけではなく、選手同士の距離を近くして、ドリブル突破やワンツーを狙う形が基本である。ただ、パトリックはクロスに備えて必ずボールがあるサイドの逆側、ファーサイドにポジションを取る、という点は徹底されていた。また、左SHの倉田と右SHの小野瀬の役割も少し異なっている。倉田はビルドアップの段階では左サイドに張って幅を取っているのだが、ボールが右サイドの高い位置に入ると中に入ってきてトップ下やIH(インサイドハーフ)のようなポジションを取る。一方、右SHの小野瀬は左サイドにボールがあっても中に入ってくることは少なく、基本は右に張っている。よって、SBの攻撃参加も、右SBの高尾は小野瀬の内側をインナーラップすることが多く、左SBの福田は倉田の外側をオーバーラップすることが多い。小野瀬はウィング的な選手で倉田はトップ下的な選手なのでそうなっているのだと思うが、上述の通りガンバは選手同士の距離を近くしてワンツーやドリブル突破、という狙いがあるので、倉田がボールサイドに流れていく方がその形を作りやすい。よってDAZNのアタッキングサイドのスタッツを見ると、ガンバは右からの攻撃偏重であることが多い(この試合では左右同じぐらいだったが)。小野瀬が幅を取る、高尾がその内側を上がる、倉田がボールサイドに流れてくる、その形から宇佐美を絡めてワンツーやドリブル突破を狙う、出来ない時はファーサイドのパトリックに向けたクロスを狙う、これらがガンバの典型的な攻撃パターンである。

前半31分、先制したのはガンバの方だった。上で、ガンバの攻撃が最終ラインから綺麗に繋がることはあまりない、と書いたのだが、このシーンはガンバのビルドアップが後ろから繋がったことが発端だった。
流れはガンバ陣内低い位置で左SB福田がボールを持ち、左ボランチの山本に預けたところから。ここで山本は最初、福田にリターンするような体の向きを見せていて、これに釣られてセレッソの右SH坂元が福田の方のパスコースを切りに行ってしまった。実際に切るべきだったのは山本の前方、ガンバから見て左サイドに張った倉田へのコースである。山本はパスを受ける瞬間に体を回転させ、恐らくトーキックではないかと思うが、つつくように倉田にパス。セレッソの方は右SB松田が、坂元がコースを空けた時点で危険を察知して倉田に当たりに行ったのだが間に合わず、倉田から、セレッソのCBの前にポジションを取った宇佐美に斜めの楔が通った。パスを出した倉田は当たりに来た松田と入れ替わるようにパス&ゴーでダッシュし、松田の裏で宇佐美からのリターンを受けてセレッソのペナルティエリア角までボールを運ぶと、オーバーラップしてきた福田に展開、福田がファーサイドにポジションを取ったパトリックにクロスを上げた。このクロスはパトリックには合わず、セレッソの左SB丸橋が頭でクリアしたのだが、セカンドをガンバの右SB高尾が拾い、高尾は開いた小野瀬にボールを預けて自らはエリア内に走り込んだ。セレッソの左SH清武は高尾へのパスコースを切るために絞り、高尾のランニングで前方にスペースをもらった小野瀬が、またファーサイド(先ほどとは逆サイド)に流れたパトリックに向けてクロスを上げた。ここでセレッソの方に2つ目のミスがあり、CBヨニッチがパトリックに対してジャンプしながら対応してしまった。なぜ飛んだのか良く分からないが、もしかすると頭で競ってくると思ったのだろうか。実際にはパトリックはボールを胸トラップ。ジャンプしたことで次の対応が遅れたヨニッチは、慌てて胸トラップしたボールを頭で触りに行ったのだが、パトリックがつま先でヨニッチの頭の上を越すようにボールを浮かす、いわゆるソンブレイロでヨニッチと入れ替わった。パトリックがボールをトラップした位置はゴールエリアやや外側。セレッソはヨニッチがそこに出て行って入れ替わられたので、ゴールエリア内には松田、そしてヨニッチの空けたスペースを埋めるために下がってきたデサバト、デサバトの横には倉田。パトリックは倉田にパスを送ろうとしたのだが、ボールが松田に当たってゴール前にこぼれ、これをフリーで走り込んできた井手口がシュートしてガンバの先制点となった。
セレッソはGKジンヒョンがニアを抜かれてしまったのだが、最初ジンヒョンはパトリックのシュート、及びパトリックから倉田に渡った時のシュートを警戒してニアに寄っていて、ボールが松田に当たってこぼれたために慌ててポジションを取り直そうとした結果ニアが空いた、という流れだったのでちょっと責められないかなと。井手口のマークについては、デサバトはヨニッチの出たスペースのカバーと倉田のマークをしていたので、捕まえられる可能性があったのはもう一枚のボランチである藤田なのだが、藤田は井手口には付かずにファー側のゴールマウスの前のスペースを埋めた。セレッソはゾーンで守っているので約束事としては間違っていないが、結果的には間違ったプレーになった。最初の坂元のパスコースを切る判断、ヨニッチのジャンプしてしまった判断、そして藤田のマーキングの判断。こうした小さな判断ミスが重なってしまうのが、今のセレッソを象徴している。

しかし、セレッソは失点の直後に追いつくことに成功する。
前半32分、セレッソの左SH清武が個人技でガンバのボランチとSHの間のスペースにボールを持ち込むと、ガンバのボランチ山本がたまらずファウル。ガンバ陣内中程、中央からやや左寄りでセレッソがFKを得た。
FKのキッカーは左SBの丸橋。ガンバの方はペナルティーエリアのライン上に選手を並べてゾーンで対応したのだが、並びはファー側から宇佐美、高尾、小野瀬、菅沼、ヨングォン、パトリック、井手口、福田の8枚で、FKの壁役が倉田と山本だった。丸橋は左足でファー側、ガンバの形成したラインとGK東口の間のスペースにボールを蹴り込み、これにセレッソのCB木本が走り込んだ。木本が完全フリーで右足に捉えたシュートはバーに当たってしまったが、地面にバウンドしたボールにいち速く反応したのは豊川。頭でゴールに押し込んで、今シーズンリーグ4得点目を挙げた。
全体的にコンディションが下降線にあるセレッソにおいて、唯一豊川は、周りとは逆方向のベクトルで調子を上げて来た選手。シーズン中盤は負傷で離脱していたのだが、9月下旬にベンチに復帰すると、10月17日のマリノス戦では途中出場で2得点、その次の浦和戦では先発して1得点を挙げている。このゴールシーンのこぼれ球への反応速度も、調子の良さを感じさせるものだった。
ガンバの守備について言うと、木本が走り込んだコースはファー側に立っていた宇佐美と高尾の間だったにもかかわらず両名とも全く競れていなかった(宇佐美は右手を挙げていたので多分オフサイドを取りに行ったのだと思う)。選手としてのキャラクターを考えると、宇佐美の位置には倉田を入れて、壁役が宇佐美の方が良かったのではないだろうか。

前半はこのまま1-1で終了し、ハーフタイムを挟んだ後半。両チームとも選手交代は無かったが、ボールはガンバが支配する展開になった。
そうなった理由というのは、単純にガンバの方が後半開始からギアを上げてプレスに来るようになり、セレッソの方はそれに対して無理に繋がず蹴って行くことが多かったから、というのが一つ。そしてもう一つは、トップが豊川という、起点となるよりは直接的にゴールを目指す選手だからで、豊川をセンターFW的に起用する場合のセレッソは必然的に、ボールを回すより直接的にゴールを目指すサッカーになりやすい。
ただガンバの方も、押し込んではいるが、リスクマネジメントは考えながら戦っていて、ボールより前に上がるのは2トップ+両SH+ボールサイドのSBの5枚まで。残りの5枚、特に2ボランチは前に掛かり過ぎずに守備を意識したポジションを取っていた。この辺のバランスが5-3-2だった時と比べると改善された部分なのかなと。5-3-2の時は3人のCB以外は全員BoxToBoxのようなサッカーだった。またガンバはCKを得た時も、セレッソが全員ゴール前に戻しているにもかかわらず後ろに4枚残すというかなり慎重な姿勢だった。

ガンバは後半8分にヨングォンが足を痛め、一旦はプレーを続けたが結局後半12分に三浦弦太と交代。一方セレッソは後半17分に豊川を下げて柿谷を投入した。
この試合に限らず、ガンバは最終ラインがかなり高い。そこに負傷離脱から戻ったばかりの三浦が入ったので、セレッソとしては、豊川が狙っていた裏を突くプレーというのは続けたい。その一方で、そればかりだと安定的にボールを持てないので、ある程度ボールをキープするプレーあったり、2列目と連携して中盤に厚みを持たせるプレーも欲しい。ということで、その両方が出来る柿谷を、ということだったと思う。そしてその狙いは実現できた。後半15分から30分までのセレッソのボール支配率は62.7%。柿谷の投入によってFWがボールに関わるプレーが増え、そのことで支配率が上昇した。また後半36分には柿谷が中盤に引いてきてボールを受け、右サイドに展開、ボールを受けた右SB松田が、今度は相手最終ラインの裏に走った柿谷にアーリー気味のパスを送り、柿谷がシュートしようとしたが三浦に阻まれる、というシーンがあった。中盤でタメが出来るようになったことで、裏ばかり狙う形よりも寧ろ相手にとっては守りにくい攻撃になっていたと思う。

一方のガンバは後半34分に小野瀬を下げてMF矢島慎也、福田を下げてDF藤春廣輝を投入。両者とも前任者のいたポジションにそのまま入った。

ガンバ大阪フォーメーション(後半34分時点)
33
宇佐美
18
パトリック
10
倉田
21
矢島
29
山本
15
井手口
4
藤春
13
菅沼
5
三浦
27
高尾
1
東口

ガンバの方はセレッソが徐々に攻撃回数を増やしている中、運動量が落ちてしまうとやられてしまうので、一番消耗が激しいサイドの選手を手当てしてきた。ただ、ガンバの方は藤春はともかく矢島の方は明らかにサイドアタッカー的な選手ではない。ガンバはマルチロールプレーヤーである小野裕二が右膝前十字靭帯損傷で長期離脱中で、複数ポジションをこなせる彼の不在がベンチワークを難しくしている。

更にガンバは後半43分に宇佐美を下げてFW渡邉千真、倉田を下げてMF川﨑修平を投入し、セレッソの方も同じタイミングで右SHの坂元を下げて片山を投入。各員とも、前任者のいたポジションにそのまま入った。

セレッソ大阪フォーメーション(後半43分時点)
25
奥埜
8
柿谷
10
清武
16
片山
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

ガンバの方は宇佐美を渡邊に替えることでよりはっきりと長いボールを使って行く、そのセカンドを狙う役割としてフレッシュな川崎を、という交代だったと思う。セレッソの方もその狙いは分かっていて、川崎のところにフレッシュな片山をぶつけてきた。また、試合終盤は相手のCKやFKのシーンが増えることも予想される中、相手には高さのある渡邊が入ったので、それに対抗するために強さのある片山を、という狙いもあったと思う。

試合終盤はガンバもセレッソも、自重していたボランチの攻撃参加を増やしていって勝ち点3を狙いに行ったが、結局決勝点は生まれず。後半ロスタイムの47分には片山のロングスローから清武がオーバーヘッドでシュートを狙う、というシーンもあったが惜しくも枠の右に外れ、試合は1-1でタイムアップとなった。

試合を見た上での両チームの感想を。
まずガンバの方だが、今のガンバは井手口のチームだと言える。この試合の井手口の走行距離はチームトップの11.5Km。スプリント回数はチーム3位の15回。そして敵陣パス成功率は97%。彼のプレーの質と量がガンバのサッカーを底上げしている。また、ロングボールが増えて行ったり来たりの展開になってもハードワークを続けて献身的にセカンドを狙う彼のキャラクターが、そのままチームのキャラクターにもなっている。
また試合の中で触れた通り、2トップの守備意識が高くなっている点も好調の要因だと感じた。特に宇佐美については向上が見られる。前が悪すぎただけで今が普通のレベルだとも言えるが、「誰にも出来ないプレーが出来る、しかし誰でも出来るプレーが出来ない」と言われていた選手だけに、宮本監督の強い働きかけがあったことは想像に難くない。ただ、宇佐美については守備強度を上げると攻撃力が落ちてしまったり試合終盤まで体力が持たなかったりする、というのが課題で、ガンバが4-4-2になってからの10戦では先発フル出場が1試合もなく、サブに回った試合も多い。それ以前は常に先発していたことを考えると、方針転換の煽りを食っていると言える。ただ、今やっているプレーを続けながらも如何に攻撃力を落とさないか、試合を通じてフィジカルを維持するか、という所から始めるのが本来の道筋であり、「誰でも出来るプレーは自分も出来る」という選手に宇佐美はそろそろなるべきである。逆にそうなれなければ、いずれはガンバでも出場機会を失ってしまうと思う。

一方のセレッソ。ここ最近の試合では、上手く行かなくなると清武が下りて来すぎる傾向があったのだが、この試合での清武は相手のボランチ脇にポジションを取る、という基本を守っていて、やはりその方が良い。左ボランチの藤田がボールを持った時に、清武が相手ボランチとSHの間にポジションを取ることで、相手が絞れば丸橋が空き、絞らなければ清武が空く。相手ボランチが清武に来るならバイタルが空く。藤田が清武に当ててデサバトに戻して逆サイドへ、という形も取れる。この試合の後半44分には清武がガンバのボランチ井手口と右SH矢島の間に立ち、矢島が絞ったことで空いたサイドで丸橋が藤田からパスを受けて、ゴール前中央から外側に斜めに走り込んだ奥埜にパス、三浦が奥埜をファウルで止める、というシーンがあった。このシーンで清武はボールを触っていないが、攻撃が成立したのは清武の立ち位置があったからで、ボールを触るだけでなく立ち位置で相手が嫌がるプレーをする、というのが今のセレッソのコンセプトである。
一方、セレッソの課題としてはロングボールのセカンドを回収する力が弱い点が挙げられる。この試合でも、前からのプレスは機能していたにもかかわらず、パトリックへのロングボールのセカンドをガンバに拾われてしまい、主導権を握り続けることが出来なかった。勝っている時は前プレを掛けず、引いて跳ね返せばいいだけだが、一旦リードを奪われると前からプレスを掛けざるを得ない。そうなるとロングボールに対しては後ろ向きに対応する必要があり、また間延びしやすくもなるので、そういう時にセレッソのセカンドボールの回収力の弱さというのは顕在化しやすい。崩されていないのにスクランブルな状態からゴールを奪われる→取り返すために前から奪いに行く→ロングボールを蹴られてセカンドを拾われ、またスクランブルな状態から失点する、というのが良くあるセレッソの負けパターンである。この点についてはボランチの人選も影響していて、藤田とデサバトはどちらもポジショニングの良さに強みがあるファーストボランチ的な選手なので、やはり一人は、ソウザや山口蛍、井手口のような、幅広く動き回れてフィニッシュにも関われるセカンドボランチ的な選手が欲しい。特に負けている時は上述の通り間延びしがちになるので、そうした選手の必要性を感じる。セカンドボールの拾い合いと言うサッカーはセレッソのコンセプトとは異なるが、相手がある以上そう言うサッカーにも勝って行けるようにならないと今以上の順位にはなれない。
それを何故この大阪ダービーで思ったかと言うと、セレッソとガンバは真逆の方法論で作られているチームで、お互いがお互いの持っていないものを持っているからである。ガンバは今のサッカーでセレッソが敗れた名古屋、鹿島、FC東京と言ったチームに勝っている。そこには一つのヒントがあるように思う。