マンマークの見直しと再ロストの防止。セレッソ大阪 VS 名古屋グランパス J1第4節

日時 2020年7月12日(日)19:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 0-2 名古屋グランパス勝利

開幕3連勝で首位に立ったセレッソは、中断期間以降では初となる有観客試合を、ホームであるヤンマースタジアム長居で迎えた。対戦相手は名古屋グランパス。セレッソとしては、久々にスタジアムに集ったサポーターの前で首位堅持と行きたいところだったが、結果は0-2の敗戦。内容的にも完敗と言って良いものだった。

セレッソ大阪フォーメーション
25
奥埜
20
メンデス
10
清武
17
坂元
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、GKがキム・ジンヒョン、DFラインが左から丸橋、木本、ヨニッチ、松田、ボランチが藤田とデサバト、左SHが清武、右SHが坂元、2トップがブルーノ・メンデスと奥埜という4-4-2。前節清水戦からの変更点としては、FW都倉がメンデスに、左SH柿谷が清武に、左CB瀬古が木本に変わったのみ。この3つのポジションの6名についてはスタメンとサブというよりもスタメンクラスが各々2名ずついるという感じなので、今後もターンオーバーしながら、コンディションや相手の戦い方に合わせて選手を入れ替えて行くと考えられる。

名古屋グランパスフォーメーション
44
金崎
27
相馬
11
阿部
16
マテウス
8
シミッチ
15
稲垣
23
吉田
3
丸山
4
中谷
26
成瀬
1
ランゲラック

一方の名古屋グランパスのフォーメーションは、GKランゲラック、4バックが左から吉田豊、丸山祐市、中谷進之介、成瀬竣平、ボランチがジョアン・シミッチと稲垣祥、両SHが相馬勇紀とマテウス、トップ下が阿部浩之、1トップが金崎夢生という4-2-3-1。こちらも前節ガンバ戦からの変更点は3か所で、左ボランチが米本拓司からシミッチに、トップ下がガブリエル・シャビエルから阿部に変わり、前節は阿部が務めていた左SHが相馬となっている。

さて、試合序盤はセレッソがボールを支配する展開となった。そうなった理由は、名古屋の方がセレッソのCBのところまで積極的にプレスに行く形で試合に入って来たのに対して、セレッソの方がそれを裏返すボール運びが出来ていたからである。試合が始まってすぐの時点で、名古屋の金崎と阿部はセレッソのCBとGKまでプレスに行く形を見せ、その時、左ボランチのシミッチはセレッソの右ボランチのデサバトにマンマーク気味に付くようになっていた。そして、これに気付いたデサバトがすぐに反応し、金崎と阿部の間にポジションを取るように。取った後シミッチの方を見て、どこまで付いて来るかを確認していた。名古屋の方は、ボランチが前線まで追いかけて行くと、今度は中に入って来るセレッソのSHを見れなくなるので、セレッソのボランチが下がって行く場合は放すしかない。一方セレッソのボランチは、低い位置でボールを捌いたらまた前に出て行く。名古屋のボランチからすると、セレッソのボランチが引いて行く場合はセレッソのSHを見なければならず、出て来た場合はボランチを見なければいけない。
セレッソがGKからのリスタートでボールを繋ぐ時も同様で、名古屋の方は金崎と阿部がセレッソのGKとCBを見て、ボランチがセレッソのボランチを見て、という形で前から奪いに行こうとするのだが、セレッソの方は名古屋のボランチが前に出るとSHが中に入ってきて、名古屋のボランチの裏にポジションを取るので、GKからそこに蹴られるとフリーでボールを受けられてしまう。
結局名古屋の方は、前半10分あたりからプレス位置を下げることに。嵌まらないのでやめたか、最初から時間を決めていたか、恐らく両方だと思うが、一旦やめた後も、何度か前から取りに行こうとする姿勢は見せていたので、プランとしては高い位置からプレスを掛けたかったのだと思う。

名古屋がプレス位置を下げたのでセレッソの方はDFラインがボールを持てる状態に。名古屋は引いて守る時は金崎と阿部が横関係になって4-4-2のブロックを作って守るので、セレッソの方は藤田がCB左に下りて3バック化し、名古屋のブロックをずらしにかかる。セレッソは3バック的にポゼッションする時は左右のSHとSBの役割が非対象で、右はSHの坂元が大外のレーンでWB的になる一方で、左はSBの丸橋がWB的になる。そして、その一つ内側のレーンは、左サイドの場合は清武が使い、右サイドの場合は松田がボランチの位置に上がって使う。また、セレッソの方は松田が下がって3バック化する形もあるが、その場合の右サイド内側レーン、松田の前方にポジションを取るのはデサバトもしくは2トップの片方になる。
これに対して名古屋の方は、3バック的なセレッソの最終ラインには食い付かず、ブロックを作って中を閉める対応。セレッソのボランチが下りる形であれ、松田が下りる形であれ、そこには反応せず、ブロックの外にはボールを出させるが、ボールがブロックの中に入ってきた場合は潰す、という形で対応していた。セレッソとしては、名古屋が前から奪いに来ていた時間帯は寧ろチャンスが生まれていたのだが、セレッソが名古屋のプレスをいなし、名古屋が引いて守るようになったことで、逆に攻めあぐねるという状況になった。ただ、セレッソは前半0-0はOKというチームなので、この段階ではまだプラン通りに進んでいたと思う。

一方、名古屋側の攻撃は、トップ下の阿部がフリーマン的な役割を担っていて、阿部がセレッソの2トップ脇、名古屋側から見て右側に落ちて来て、大外の成瀬、ハーフスペースのマテウスにボールを供給できるポジションを取る、という形が見られた。阿部が右サイドに下りて清武を引き付け、成瀬が大外のレーンに開いて丸橋を引き付け、その結果、内側のレーンでマテウスがフリーになる、という順番になっている。また、そこで終わりではなくて、この形で右に起点が出来、そこからボールが逆サイドに移ると、阿部はゴール前に斜めに入って行く。ボールを大きく動かしてそこに相手の目線が移った後に移動するのでフリーになりやすい。
前半20分には阿部が右サイド、セレッソの2トップ脇でボールを持ち、阿部から成瀬、成瀬からハーフスペースのマテウスと繋がってマテウスがシュート、木本がブロックするが逆サイドにボールがこぼれる、というシーンがあった。阿部はボールが味方にこぼれたのを見て斜めに移動。左のハーフスペースでシミッチからパスを受けて前を向き、金崎にパス。ここでのパスの出し方が阿部らしいと言うか、川崎フロンターレっぽいパスで、わざとゴールから遠い方の足に出した。最初からゴールに近い方の足に出すと相手がブロックに来るので、わざと遠い側に出して、相手を引き付けてから前に持ち出せるようにする、というのは阿部が小林悠にパスを出す時にやっていた記憶がある。ボールを受けた金崎はボールをワンタッチでシュートポジションに置こうとしてミスしてしまったが、阿部が後ろからフォローに入っていたので、一旦ゴールを背にしてボールを止めて、阿部に落とすか、前に持ち出すかの二択を作ってからプレーを決めるのが正解で、そう言う意思疎通が出来てくるとこの2人のコンビはもっと破壊力が出そうな気がする。

さて試合は0-0で進み、前半37分に、セレッソがCKからヨニッチのオウンゴールで失点を喫したのだが、この失点の要因は主に2つあって、一つはCKに至るボールの失い方、もう一つはCKの守備のマンマークの分担である。
まずCKまでの流れは、セレッソの左SB丸橋が自陣ペナルティエリアやや外ぐらいでマテウスのパスをカットし、ペナルティアークの前あたりにポジションを取っていたデサバトにパス、デサバトが更に右斜め前方にいた坂元にパスを出そうとしたが、坂元が受けようとした位置とデサバトが出した位置とが合わず、名古屋の左SB吉田にボールを奪い返されてしまった、というのが発端。そこから吉田が稲垣にボールを預け、稲垣が阿部に楔を入れて阿部が左サイドの相馬に展開、相馬がサイドをえぐってファー側にクロスを上げたが丸橋が頭でクリアし、これで名古屋のCKとなった。
デサバトから坂元へのパスがズレた原因は、デサバトは坂元の足元に出そうとしたところ、坂元の方は前方のスペースに動き出そうとしていたから。デサバトは丸橋からパスを受ける直前に首を振って坂元の位置を確認し、もう一度丸橋の方を向いてボールを受けた後、2タッチで出したのだが、出す直前にもう一度坂元の位置を確認すべきだったし、坂元の方もデサバトが目を切った後に大きな動きを入れるべきではなかった。基本的に、セレッソのSHには奪い返した後一気にカウンターというのは余り求められておらず、マイボールになった後もSH、特にボールと逆サイドにいるSHは絞ったままのポジションを取って、奪い返したボールを前向きの味方に落としてボールを安定化させるプレーの方がより求められる。よって、坂元のプレーとしてはデサバトのボールを足元で受け、松田に落とす、という形を選択したほうがチームコンセプトに沿っていたし、デサバトが足元に出してしまったのもそれが念頭にあったからである。
次に、CKの守備のマンマークの分担についてだが、この試合でのセレッソのCKの守り方は、坂元がシミッチに、奥埜が丸山に、デサバトが中谷にマンマークで付いて、それ以外はゾーンで守る、というのが基本形。ただ、このシーンでの坂元は、多分GKかCBから指示があったのだと思うが、シミッチのマークを奥埜に渡して自身はペナルティエリア内のスペースに立っていた。ペナルティエリア外に一人、名古屋の選手が立っていたので、そこを見ろ、ということだったと思う。よって、このCKでは奥埜がシミッチ、デサバトが中谷を見る、という分担になっていて、デサバトと中谷の両者はゴールマウスの前、GKジンヒョンを挟んでファー側に立っていた。そしてセレッソのゾーンの分担はゴール前ファー側から丸橋、木本、ヨニッチと並べ、ヨニッチの斜め後ろに、ニアサイドのストーン役としてメンデスを立てる形だった。ここから中谷がニアサイド、メンデスの方に走って行って、また同時にシミッチ、丸山もニアへ走り、ボールがそこに蹴られて、ちょうどメンデスが背後から中谷に、前方から丸山とシミッチに競りかけられる形になった。ニアへのボールは届く範囲ならメンデスが頭でクリアするのがセオリー。ただ、この時は中谷が背後側から競りかけたためメンデスのヘディングのポイントがズレてクリアできず、ヨニッチが後ろ向きにボールに触る形になってゴールに入ってしまった。
このシーンで前向きにボールをクリアできる位置にいたのは3人で、1人は上述のメンデス、残りはGKジンヒョンと、中谷のマークに付いていたデサバトである。ジンヒョンはボールに対して飛び出して触れなかったのだが、デサバトがマークを放してしまっており、ボールと中谷に前向きにアタックに行けるのはジンヒョンのみだったので、判断としては間違っていなかったと思う。多分ヨニッチが触っていなければジンヒョンがクリアできていた。問題はデサバトで、マークを放すべきではなかった。マンマーカーが相手を放すのは、相手が前向きの味方の方に走って行った場合のみで、このシーンでは中谷はメンデスの背後から競りに行っていたので、デサバトが付いて行って中谷とボールをゴールから遠ざけるように競らなければいけなかった。元々デサバトはマンマークの時に相手を放すことが多く、以前の記事でもその点について少し触れた。

アイデンティティが生み出すジレンマ。セレッソ大阪 VS 川崎フロンターレ J1第25節

デサバトは上述の通り、右サイドの松田、水沼と共に、この試合で大きな役割を果たし、決勝点のアシストも決めたのだが、セットプレーの守備の時には相手のCB谷口をマンマークで見る係だった。個人的に、これはちょっと怖い気がする。(中略)マンマーク役の選手には、凄くハイボールに強い選手を選ぶか、逆に、ハイボールにそれほど強いわけではないが、相手にしっかり付いて行くことが出来る選手を選ぶことが多い。後者のタイプを選ぶ理由は、相手にしっかり付いて行くことで自由に走らせず、ゾーン役の選手がボールを跳ね返しやすい状況を作るためである。デサバトはいずれのタイプでもないので、マンマークは奥埜にした方が良い。

このシーンでは奥埜はシミッチに付いていたので、デサバトと役割を替われるとしたら藤田になる。藤田もあまりハイボールの競り合いには強くないのだが、まだしっかり付いて行ける分デサバトよりは良い気がする。デサバト本人がもう少し積極的になってくれるのが一番いいが。

さて、試合は名古屋の1点リードで折り返し、後半。セレッソは開始と同時にメンデスを下げて豊川雄太を投入し、更に後半7分には藤田を下げてルーカス・ミネイロ、奥埜を下げて都倉賢を投入した。ルーカスはこれまでリーグ戦の出場は第1節の大分戦での後半41分からの出場と、前節清水戦での後半ロスタイムからの出場があるのみだったので、長い時間出場機会が与えられるのはこれが初めてである。188cmと上背がある選手であること、セレッソのFKのシーンで投入されたことを考えると、セットプレーからの得点に期待して、というのが投入理由の一つだったと思う。また、前半セットプレーからやられている以上、守備面でも高さを補うというのは妥当な采配だと言える。
またもう一つの狙いとしては、ルーカスをアンカー的に置いて、そこから彼の左足の展開力を活かす形であったり、デサバトを高い位置に上げる、ないしはCBを高い位置に上げる、という形をやりたかったのではないだろうか。疑問形になってしまうのは上手く行っていなかったからで、投入してしばらくはルーカスとデサバトが横並びになってしまっていた。そうなるとセレッソのCBから見て2ボランチが相手2トップの陰に隠れた状態になってしまうし、2ボランチが相手2トップより手前に下りて来ると今度は相手2トップより自陣側に4枚いることになって前が足りなくなる。木本がルーカスに対して左に下りるよう指示しているように見えたので、木本の方はルーカスが左に落ちることで3バック化する形を想定している一方、ルーカスの方は自分は中央に残ってデサバトが右に落ちる、もしくはCBが開く、という形を想定していて、上手く意思統一が出来ていなかったのではないだろうか。

そして後半15分、セレッソは2失点目を喫してしまったのだが、形としては、デサバトがCBの右に落ちてボールを持ちあがり、そこからアンカーの位置、ピッチ中央やや右にいたルーカスに横パス、という形からだった。ここでデサバトはルーカスの左足にパスを付けたので、ルーカスは中央ないしは左サイドを向いてトラップすべきだったのだが、右側、狭い方に後ろを向くようにボールを置いてしまい、もう一度前向きにターンしなおす間に米本が前に、更に阿部もプレスバックしてきてスペースが無くなり、挟み込まれてボールロストしてしまった。そこから名古屋のカウンターになり、これはサイドに誘導することでいったんスピードを落とさせることが出来たのだが、相馬のパスをカットしたルーカスが稲垣に寄せられて再ロストしてしまい、阿部が稲垣からボールを攫ってペナルティアーク脇に持ちだして右足でシュート、これがゴール右下隅に決まった。
ルーカスはハーフタイム中のアップの時もボールが足についてないように見えたし、出てきてから失点シーンに至る間にもボールコントロールが怪しいシーンがあり、なおかつ投入意図がチームに上手く伝播していない、という状況で、完全にゲームに入ることに失敗してしまった。セレッソは前節の清水戦で途中投入されたメンデスも上手く試合に入れていなかったし、今節はルーカスが同じ状態だったので、ブラジル人のコンディションに少々不安を覚える。心なしか、名古屋のマテウスも余り調子が良く無さそうに見えたので、ブラジルから日本への移動に負担要素があるのかもしれないし、もしそうなら起用は慎重になるべきである。特にアンカー的な役割というのはひとつのミスが即失点につながるものなので。

このゴールで試合は名古屋の2点リードとなったが、ゴール後はセレッソのボランチの配置がまた変わっていて、ルーカスが右、デサバトが左に変わっていた。そして、ここからはルーカスがCBの右、つまり3バックの右CBのような位置に落ちることが多くなったのだが、この意図も良く分からなかった。左利きの選手を右CBの位置に入れるということは、左足でインスイングのボールを前線や逆サイドに入れる、という形が考えられるが、そうしたボールは殆ど見られなかった。また、セレッソはCBが開いたりボランチが落ちたりして3バック的になる割にSB(特に右SB)の位置が低く、使うスペースが重複していたので、2点ビハインドであることも合わせて考えると、もっとSBが高い位置を取るべきだった。名古屋の方はSHも最終ラインに落として5バック的になっていて、セレッソの右SHがハーフスペースに入ってきた場合は左SBの吉田が見る、という形になっていた。SBが高い位置を取って名古屋の左SHを引っ張らないと、吉田の周囲にスペースが出来ず、セレッソの右SHがフリーになれない。
後半終盤のセレッソは、坂元と交代で入った片山のロングスローなどで力押しも試みたが実を結ばず、試合は結局0-2、名古屋の勝利で幕を閉じた。

セレッソの敗戦パターンとして、崩されていないのにセットプレーから失点し、敗れてしまうというものがある。2019年シーズン、セレッソのリーグ戦の総失点25のうち、セットプレーからの失点は7、試合数で言うと6試合である。一般的に、サッカーの得点シーンでセットプレーが占める割合は3割から4割と言われているので、特別多いわけではない。ただセレッソの場合、7つのセットプレーからの失点のうち、0-0の状態で喫したものが3つ、1点リードしている状態での1失点目が2つと、一発目をセットプレーで被弾するパターンが多い。そして、2019年シーズンは33節の清水戦を除き、セットプレーで失点した試合は全て敗れている。そしてこの試合でも、0-0からセットプレーで先制点を献上し、敗れた。
またもう一つ、セレッソで良く起こるパターンとしては、ボールを奪い返した直後に再ロストしてしまう、というものがある。この試合の1失点目、2失点目も、ボールを奪還した後の再ロストが発端になっている。セットプレーから先制点を献上してしまう、ボール奪還後の再ロストから失点してしまう、この2つは修正したいところである。