Jリーグ再開に寄せて。セレッソ大阪 VS 大分トリニータ J1第1節

日時 2020年2月22日(土)15:03
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-0 セレッソ大阪勝利

今回は4か月以上前の試合を取り上げる。随分前の試合だが、セレッソにとってはいまだに「前節」である。
2020年シーズンのJリーグ開幕戦、セレッソの相手は昨シーズンの最終節で対戦した大分トリニータ。この試合の後、Jリーグは新型コロナウイルスの感染拡大の懸念から、シーズンの中断を決定。日本のみならず、ヨーロッパ、南米の国々も次々とリーグ戦やカップ戦を中断し、地球上からサッカーが消えた。
日本では5月末に新規感染者の数が落ち着いてきたこともあり、J2とJ3は6月末から、J1は7月頭からのリーグ戦再開を決定。再開当初は無観客での開催となるが、今回は再開後の試合の前に、振り返りを兼ねて開幕戦のレビューを行いたい。

セレッソ大阪フォーメーション
25
奥埜
20
メンデス
10
清武
17
坂元
3
木本
6
デサバト
14
丸橋
15
瀬古
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、GKがキム・ジンヒョン、DFラインが左から丸橋、瀬古、ヨニッチ、松田、ボランチが木本とデサバト、左SHが清武、右SHが坂元、2トップがブルーノ・メンデスと奥埜という4-4-2。昨シーズン最終節の試合ではボランチがソウザと藤田のコンビだったが、前者はサウジアラビアのアルイテファクに移籍、後者は右太腿の怪我でメンバー外となり、この試合は木本とデサバトのコンビ。また2トップも、昨シーズンの終盤は怪我で離脱していたブルーノ・メンデスが戻ってきたことにより、前回は柿谷と奥埜の2トップだったところがメンデスと奥埜の2トップとなっている。
そして右SH。昨シーズンのレギュラーだった水沼が横浜Fマリノスへと移籍したことで空いたポジションを任されたのは、今季モンテディオ山形から加入した坂元達裕。J2では屈指のドリブラーだったこと、直前のプレシーズンマッチの京都サンガFC戦で先制ゴールを挙げていること、ロティーナ監督が待望していた左利きの右SHであることなどなどから、彼に掛かる期待は大きい。ベンチには同じく左利きの攻撃的MFであり、バルセロナも獲得を狙っていたと言われる大型ルーキーの西川潤が控えており、今季のセレッソはこの2名が右SHのポジションを争うことになりそうである。
その他、ベンチにはソウザに代わる新外国人ボランチのルーカス・ミネイロ、ベルギーのオイペンから獲得したFW豊川雄太と、新しい顔ぶれが座っており、右膝前十字靭帯損傷の長期離脱から復帰したFW都倉賢もベンチ入りしている。

大分トリニータフォーメーション
9
知念
8
町田
11
田中
2
香川
6
小林
40
長谷川
7
松本
3
三竿
5
鈴木
29
岩田
1
高木

一方の大分トリニータのフォーメーションは、GK高木駿、DFラインが左から三竿雄斗、鈴木義宜、岩田智輝、左WBが香川勇気、右WBが松本怜、ボランチが小林裕紀と長谷川雄志、2シャドーが町田也真人と田中達也、1トップが知念慶という3-4-2-1。
前回の対戦時からの変更点としては、まず左WB。前回は田中達也が務めていたポジションには香川勇気が入った。上述の通り、セレッソの右SH坂元は非常にドリブル突破力のある選手なので、大分の方としては、左WBにSB的な選手(つまり香川)を置いて守備を強化する方法と、逆にアタッカー的な選手(つまり田中)を置いて坂元を守備に押し込んでしまう方法と、2つがあるわけだが、大分の片野坂監督は後者を選択した。
そして、田中は2シャドーの一角に回り、もう一枚のシャドーには町田。前回の対戦時の大分の2シャドーは小塚と三平だったわけだが、田中に関しては守備よりも攻撃にエネルギーを使ってほしいということでのシャドー起用だったと思うので、FW的な三平の代わりに、ということだったのかなと。小塚から町田への変更はちょっと分からない部分で、町田は今季、松本山雅から新たに加入した選手なので序列が変わったのかもしれないが、昨季レギュラーだった小塚がベンチにも入っていない点については理由が不明である。2シャドーの試合中の関係性としては、やはり田中がFW的、小塚がMF的に振る舞っているように見えた。
そして、一番の注目点としては1トップ。昨季の大分はシーズン前半は藤本憲明が1トップを務め、藤本がヴィッセル神戸に移籍してからはオナイウ阿道が1トップを務めることが多かったが、藤本の在籍中はリーグ戦21試合で23得点(1試合当たり1.09得点)、藤本自身は8得点だったのに対して、藤本移籍後は13試合で9得点(1試合あたり0.69得点)と数字を落とした。この課題を改善するために川崎フロンターレからレンタルで獲得したのがFW知念慶である。川崎では小林悠とレアンドロ・ダミアンというライバルを相手に出場機会が限られたが、2018年はリーグ戦の先発12試合、途中出場15試合、出場時間1118分という中で4ゴール、2019年は先発10、途中出場11、出場時間1036分という中で5ゴールを挙げており、先発フル出場が続けば2桁得点が期待できるポテンシャルはある。また、スペースで受けるタイプだった藤本、オナイウと比べると知念は中央で構える古典的な9番タイプ。ボール支配で相手を上回り、押し込めているのにゴールが奪えない、という昨季の大分の悩みを鑑みると、理に適った補強だと言える。

さて、試合は大分ボールでキックオフ。大分はボールをDFラインに下げ、3バックの左の三竿と中央の鈴木の間にボランチの小林裕紀が下りてボールを受け、前線にロングボールを蹴る形で試合に入って来た。
大分のDFラインからのビルドアップは、この3バックの左と中央の選手の間、4バックで言う左CBの位置にボランチを落として繋ぐ、もしくは前線に長いボールを入れる形が基本。小林裕紀が落ちる場合が多いが、長谷川の方が落ちることもある。この両ボランチはどちらも右利きだが、左CBの位置からボールを蹴るため左足の精度も考慮して起用されており、このキックオフのシーンでも、小林は左足でロングボールを蹴ってきた。長谷川に関してはCKのキッカーでもあるが、蹴るサイドに応じて右足でのキックと左足でのキックを使い分けており、左足でも右足と同程度の精度がある。
大分の方は、小林のロングボールに対して左WB香川がセレッソの右SB松田の裏に走り込み、松田と競り合いながらボールをキープしてフォローに来た町田がボールを拾い、町田がもう一度香川に預けて香川がクロスを上げたが中央の知念には合わなかった。
そして、その約1分後には香川のクロスをデサバトが頭で弾いてCKになり、このCKを長谷川が蹴って知念がゴール前中央、ヨニッチと瀬古の間でヘディングしたが枠の上に外れる、というシーンがあった。このシーンでは大分から見て左サイドからのCKを長谷川は左足でキック。つまりアウトスイングのキックだったのだが、このシーンの後、大分から見て右側からのCKの時は長谷川は右足で蹴っていて、つまり大分の方はCKはアウトスイングで、という約束事になっていた。冒頭のキックオフ、そしてこのCKのシーンはいずれも大分のボランチの左足からハーフチャンスが生まれたシーンで、大分のボランチのチョイスの意図を感じさせるシーンだった。

前半5分、先制点を奪ったのはセレッソだった。セレッソは自チームから見て右サイドからのCKを得ると、キッカーは清武。清武はそばに奥埜を立たせたショートコーナーから奥埜を飛ばしてPA手前にいた坂元にボールを入れ、坂本が左足インスイングでクロス、これを三竿がクリアしてまたセレッソのCKになり、これも先程と同じ配置から今度は奥埜に繋いで奥埜が清武にリターン、清武がPA内の瀬古に当てて瀬古がクロス、田中の足に当たってボールが空中に上がり、これをGK高木がパンチングでクリア、丸橋が拾って撃ったシュートが長谷川に当たってまたセレッソのCK。今度は左からのCKだったが同じく清武が蹴り、ショート役の坂元から清武に戻してPA手前にいたデサバトへ。デサバトが横の松田に繋いで松田がゴール前にアーリー気味のクロス、木本がヘディングするがGK高木がボールをキャッチ、しかしライン上でのキャッチでボールがラインを越えたと判定され、またセレッソのCKになった。
3回セレッソのCKが続き、全てショートコーナー。そして4回目、セレッソから見て左サイドからのCKでも、キッカー清武のそばには坂元が立った。一方大分のCKの守備はゾーンとマンツーマンの併用で、木本に長谷川が、ヨニッチに小林がマンツーマンで対応。それ以外はゾーンで、ゴールエリアのライン上にファー側から岩田、鈴木、香川を並べ、ニア側のストーン役には知念、もうひとつ下がった所に田中を置いていた。この状態から、ヨニッチと木本が小林、長谷川と押し合いながらゴールエリアに入って行き、その後ろから遅れるように、フリーでブルーノ・メンデスがニアサイドのゴールエリア角に向かって走り込んだ。今度はショートコーナーではなかった。清武がインスイングで蹴ったボールは走り込んだメンデスの頭にピタリと合い、ボールはGK高木とニアポストの間の僅かな隙間を抜けてゴールに納まった。

ヘディングにおいて、「強さ」と「上手さ」は別物だと思っていて、勿論、「強くて上手い」が最高なわけだが、中には「弱いが上手い」「強いが下手」という選手も存在する。例えば元ジュビロの名波浩によると、元日本代表ボランチの福西はヘディングでボールに回転を掛けて曲げることが出来たそうだが、福西はヘディングの強い選手ではなかった。また、2018シーズンにセレッソにいたオスマル・イバニェスというスペイン人選手は身長が192cmあり、ヘディングの競り合いには強かったが、競り勝ってもボールが相手に渡ることが多く、上手いとは言えなかった。
ブルーノ・メンデスの特筆すべきところはヘディングが「上手い」ことで、身長は184cmなので勿論強さも平均点以上なのだが、それ以上に、頭でボールを意図した場所に飛ばすのが非常に上手い。それを最初に思ったのはメンデスがJ1で初ゴールを決めた2019年5月4日の松本山雅戦で、この試合でメンデスは奥埜のクロスからヘディングでゴールを決めたのだが、相手の守備者と競り合いながらボールを頭に当て、GKの頭上をループ気味に越してファー側に決めるという非常に難易度の高いゴールだった。
この大分戦でのゴールも、ゴールを決めやすい位置には知念が立っていて、メンデスはそれより更にニア側のスペースに走り込んだので、角度は殆どなかったのだが、しっかりとゴール方向のコースに飛ばしただけでなく、GK高木の直前でバウンドするようにヘディングしたため、高木がセービング出来なかった。
大分側から見ると、メンデスにもマンツーを付けた方が良かったんじゃないかとか、知念がもうちょっと何とか出来たんじゃないかとか(もう一人のストーンの田中は瀬古を見ていた)、色々出てくると思うのだが、マンツー役を増やすとどこかのゾーンを削らないといけないし、知念がニアに寄り過ぎるともっと危険なところが空くし、そもそもニアのストーンの更にニア側と言うのは「そこで凄く良いヘディングをされたら守備側はどうしようもない」みたいなところがあるので、メンデスを誉めるべきゴールだったと思う。

さて、セレッソの1点リードとなって大分ボールでの再開となったが、ここでも大分は3バック左の三竿と中央の鈴木の間に小林を下ろし、小林から鈴木、鈴木から岩田へとボールをつないで、セレッソの左SB丸橋の裏のスペースに向けてロングボールという入りだった。試合開始時のキックオフでは右SB松田の裏を狙ってきたので、セレッソのSBの裏と言うのが一つの狙いだったと考えられる。
一方、試合の方は徐々に大分がボールを支配し、セレッソが引いて守る時間が増えて行った。細かく言うと、セレッソがリードを奪った後から前半15分ぐらいまではまだセレッソの方がボールを保持していたのだが、大分の方が、相手に持たせていても埒が明かないので前から取りに行こうとなり、セレッソの方は相手が前から取りに来るなら裏に蹴って行こうとなり、そこから徐々にセレッソがボールを保持する時間が少なくなって行って、それでも前半32分にはメンデスが裏のスペースに抜け出してGKと1対1になるなどチャンスを作れていたのだが、それ以降は殆ど防戦一方になった。

セレッソのボール回しはSBをボランチの高さまで上げ、SHを中に入れる2-4-2-2のような形が基本形。CB、SB、中に絞ったSH、ボランチで菱形を作ってボール回しを安定化させる。図示すると下記のようになる。

↓大分側攻撃方向↓
↑セレッソ側攻撃方向↑

ボランチは相手FWの両脇かつシャドーの内側、SHは相手のCB、ボランチ、WBの中間のポジションを取る。試合序盤はこの形で相手の間を取れていた。この形でセレッソのCBがボールを持つと、大分の方としてはセレッソのボランチに大分のボランチが付くとセレッソのSHをCBが見なければならず、セレッソの2トップを見れなくなる。それを嫌ってシャドーが中に絞ってセレッソのSHへのパスコースを消すと、今度はセレッソのSBが空く、そこにWBが出ると、大分の3バックがセレッソの2トップとSHに対して数的同数になったり数的不利になったりする、ということで必ずどこかが空いてしまう。
ということで、大分の方としては上述の通りこれでは埒が明かないとなってプレスの位置を上げて、CBやGKのところまで積極的にプレスに行く守備に変えてきた。また、そのように変わったのは単に大分の選手たちのメンタルが切り替わった、ということだけではなくて、幾つかの要因があった。

まず一つ目の要因としては、大分のCKが多かった、という点。football LABの数値では、大分のボール支配率は前半15分までが43.3%、30分までが56.1%、45分までが69.7%となっている。一方、こちらは手元の集計になるが、CKは15分までが2本、30分までが3本、45分までが4本となっていて、支配率に比例して数が増えている。これは「支配率が上がったからCKも増えた」と捉える事も出来るし、寧ろその方が自然な捉え方だが、試合を見ていると逆の印象だった。
上述の通り、大分のセンターFWは新加入の知念で、身長は177cmとそれほど高くないが空中戦には強い。そのためか、大分は昨年の対戦時と比べるとシンプルに知念に向けてクロスを上げる形が増えていて、そうなるとセレッソがクロスをクリアしてCKになる、というシーンも増える。そしてCKが蹴られる場合、攻撃側はシュートで終わるか、終われないにせよ高い位置でボールを失うか、いずれかなので、必然的に大分のプレスの位置は上がり、セレッソのボール保持の開始位置は下がる。セレッソは陣地を回復するために長いボールを蹴って一気に押し上げる、みたいなことはあまりやらないチームなので、一旦陣形が落ちるとその時間が続く傾向がある。よって、セレッソが低い位置からボール保持を開始する→大分が高い位置からプレスを掛ける→セレッソがプレスを抜け出す前に引っ掛けられる→大分がシュート、またはCKを得る→最初に戻る、という感じで大分の時間が長くなって行った。

そして2つ目の要因としては、セレッソの右SH坂元のポジショニング。高過ぎる、もしくは開き過ぎている、ということが多かった。
高過ぎる、という点に関して典型的だったのは前半35分、36分、40分と短い時間で3回、セレッソがGKからボールを繋いだシーンで、最初のシーンでは、坂元はハーフウェーラインを相手陣内の方に10mぐらい越えたあたりにポジションを取っていたのだが、その次のシーンではハーフウェーライン上ぐらいになり、その次のシーンでは更に手前になっていた。多分ピッチサイドから指示があって少しずつ下がったのだと思うが、坂元の位置が高過ぎるとCBやボランチからのパスを受ける角度が無くなってしまうし、逆に坂元が上がり過ぎないことで大分のWBは前に出て守備をしないといけなくなるので、その裏をメンデスや奥埜に狙わせることが出来るようになる。
一方、開き過ぎている、と言う点については、上で示した通り、セレッソのSHは中に絞ったポジションを取り、大外のレーンはSBに使わせるのが基本。坂元からもそのオーダーを守りながらプレーしよう、という気配は見えたのだが、元々はサイドのドリブラータイプの選手なので、自分の得意な位置で受けたいと言う意識が働くと、どうしてもポジショニングがサイド寄りになってしまう。しかしそうなると、右SBの松田の方は(坂元とエリアが重複してしまう為)サイドの高い位置を取れなくなる。松田が高い位置を取れなくなると、セレッソは瀬古、ヨニッチ、松田という3バック的な立ち位置になってしまい、大分の方は1トップ2シャドーでCB2枚と松田を見て、WBは丸橋と坂元を見て、ボランチはデサバトと木本を見て、という風にマークを決めやすくなってしまう。これはボランチがCBの脇に下りる場合も同じで、フォーメーションの噛み合わせ上、セレッソが3バック的になると大分の方はマークを決めやすくなる。
ただ、これについては逆の考え方もあって、坂元は1対1の勝負が凄く強い選手なので、あえてマッチアップを合わせて、大分のWBに対して1対1をガンガン仕掛けさせた方が良い、と考えることも出来るし、個人的にはそちらの方が良い気がする。坂元が1対1に勝てば大分の方はCBがカバーに出てくるので、中央でメンデスや奥埜、逆サイドで清武がフリーになる可能性が高くなる。また、ベンチに入っている西川はどちらかと言うとトップ下タイプの選手で、サイドに張らせずに中にポジションさせた方が良いので、両者の使い分けという意味でも、坂元がスタメンの場合は仕掛けられる局面をもっと作った方が良いように思う。
それと、坂元については守備面でも、相手のCBの左、三竿に食い付き過ぎる傾向があった。前半序盤は三竿がボールを持ったらそこに飛び出して行き、そこから左WB香川にボールが移ったらそこにも行く、と言う二度追いを常にやっていて非効率だった。ただ、この点については前半32分の時点で修正されて、三竿がボールを持っても坂元はハーフスペースを閉めながら下がるようになった。恐らくベンチからの指示があったのだと思われる。

結局、前半のセレッソは大分に押し込まれながらも得点は許さず、リードを保って折り返すことに成功。前半の43分からはGKから繫ぐことも諦め、前線に長いボールを入れる形に変えて、寧ろその形で前線に起点も出来ていたのでそこは割り切って正解だったと思う。また、大分の方は右で持ち上がって左WBに大きくサイドチェンジという形が多かったのだが、坂元が前に出過ぎないようになったことで、このサイドチェンジに余裕を持って対応できるようになったことも大きかった。
DAZNの集計によると、前半の大分のアタッキングサイドは左が51%に対して右は35%で左偏重。冒頭で、大分が左WBにSB的な香川を起用したのは坂元の突破力を警戒したからではと書いたが、実際には、大分の方は左CBの三竿で坂元を釣り出して左WBの香川へ、という形であったり、右で持ち上がって大きくサイドチェンジして香川へ、という展開が多く、寧ろ左のアタックで坂元を押し込んだ。
一方、セレッソのアタッキングサイドは左が51%に対して右は32%。上述した通り前半の右サイドは機能不全なところがあり、それが数字にも表れた格好になった。

さて後半。両チームとも選手交代は無かったが、大分の方はシャドーの左右が入れ替わっていて、左が田中、右が町田になっていた。これは前半の29分あたりからそうだったのだが、ハーフタイムを過ぎてもそのままだったということは、片野坂監督が指示した、もしくは選手の判断を認めた上でのポジションチェンジだったと思われる。前からのプレスの掛け方も同時に変化していて、知念と町田が2トップ的にセレッソのCBにプレスを掛けて、田中の方は左に下がる傾向が強くなっていた。
この変化の狙いだが、まず一番の理由としては前半の試合内容で述べたとおり、セレッソのボール回しはSBをボランチの高さまで上げ、SHを中に入れる2-4-2-2のような形が基本形なので、セレッソの2CBに対して2トップ的にプレスを掛けた方が嵌まりやすいから、と言うのがあったと思う。そして、田中はサイドアタッカー的なプレースタイルの選手なので、シャドーのどちらかをトップに上げるのであれば町田を上げた方が良い。前半はどちらかと言うと田中がFW的、町田が下がり目、という感じだったので、役割を逆にした。ただ、役割を逆にするだけなら左右を入れ替える必要はなく、単に右の田中が下がって左の町田が前に出れば良いので、それをあえて逆にしたのは、もしかするとセレッソの右CBのヨニッチの方にボールを持たせたかったのではないだろうか。

football LABのマッチレポートを見ると、前半のセレッソのボールタッチ位置は自陣では右サイドが多く、敵陣では左サイドが多い。これはDAZNのアタッキングサイドの数値とも一致する。

セレッソ前半ボールタッチ
攻撃方向 >>

一方、後半については敵陣でのボールタッチが左右均一化しているのに対し、自陣でのボールタッチはより右サイドに集まっている。

セレッソ後半ボールタッチ
攻撃方向 >>

町田と知念のプレスの掛け方を見ても、町田は瀬古に対して縦を切り、知念はヨニッチに対して中を切る対応をしていたように見えた。フィード面でより脅威があるのが瀬古、守備面でより脅威があるのがヨニッチなので、ヨニッチがボールを運ぶよう仕向けることには妥当性がある。
あと、大分は後半17分に町田を下げて渡を投入したのだが、これも、MF的な町田に2トップ的な役割をやらせるよりも、FWの選手にやらせた方が良い、という判断だったのかなと。

ということで、後半のセレッソはどちらかと言うと右サイドからボールを運ぶ形が多かったのだが、前半で述べたように坂元がまだ戦術的にフィットしきっておらず、攻撃の機能性はいまひとつだった。坂元が開いた位置でパスを待ってしまって松田に対して蓋になってしまう、というのは既に書いたが、逆に、坂元が中のレーンで待っている時の問題というのもあった。セレッソの方は、右CBヨニッチがボールを持った時は、右SHの坂元が中寄り、相手ボランチの脇あたりにポジションを取ってCBからの縦パスに覗くのが決まり。このCBからSHへの縦パスを嫌って相手左シャドーの田中が絞れば右SBの松田が空く。ここまでは坂元もやっていることが多かったのだが、ヨニッチから松田にパスが出た後、同じポジションを取り続けてしまって、奥埜、メンデスとプレーエリアが被ってしまうことがあった。松田にパスが出たら、大分の方はWBが前に出て松田に対応することになるので、坂元はWBの裏、今度は大外のレーンに向けて斜めに走ることで、松田に対して縦(坂元)と斜め(メンデスと奥埜)という選択肢を作る必要がある。
後半7分に、ゴール前を狙った松田のクロスが手前にいた坂元の背中に当たってしまう、というシーンがあった。坂元が中のレーンで待ってしまったことで、松田のクロスに対してメンデス、奥埜と同一ライン上に並んでしまったことが原因だが、その少し前、後半4分のシーンでは坂元はWBの裏に抜ける動きをちゃんとしていた。7分のシーンでそれをしなかったのは、4分のシーンでパスが出てこなかったので変えてみた、ということだと思うが、大事なのはボールホルダーに対して選択肢を作ることであり、選択肢を作るということは選ばれない可能性もあるということなので、出てこなかったからと言って変える必要はない。
更に後半17分にも同じようなシーンがあり、今度は裏抜けした坂元のところに松田からパスが出た。坂元はカバーに出て来た三竿、裏を取られた後もう一度下がって来た香川の2人を左足キックフェイントで釣って右足でクロス。三竿の足に僅かに当たったことで中には合わなかったが、個人技の高さを見せた。坂元は右足でも左足でもクロスを上げることが出来、ドリブルもあるので、相手ペナルティエリア脇のスペースであれば何でも出来るし、そのエリアなら取られても構わないので、何をやってもいいと思う。

一方、後半の大分の攻撃に目を向けると、サイドで数的優位を作る攻撃を多用してきた。
後半3分には、左ボランチ小林を最終ライン左に落とし、左CB三竿を大外に開かせ、三竿と左WB香川でセレッソの右SH坂元・SB松田に対して数的同数を作った上で、更に松田の裏に左シャドーの田中を走り込ませてサイドで3対2を作る、というシーンがあった。このシーンでは三竿から田中へのパスが弱く、松田にカットされてしまったのだが、続く後半14分のシーンでは、同じパターンで田中が松田の裏を取ってクロス、逆サイドから走り込んだ右WB松本がヘディングシュートするがポストに当たる、という際どいチャンスになった。更に、後半19分には逆サイドで同じパターンがあり、右CB岩田と右WB松本でセレッソの左SH清武、SB丸橋に対して数的同数を作った上で、丸橋の裏に交代で入った渡が飛び出す、というシーンがあった。ここでは瀬古がカバーに出たが、渡が松本に戻し、松本のクロスをヨニッチがクリアして大分のCKになった。そして後半27分には3分、14分と同じパターンで左サイドで数的同数を作り、今度は田中と交代で入っていた野村が松田の裏に飛び出して左足でクロス、ボールは中央では合わずに逆サイドに抜けて右WB松本がシュート、瀬古が頭でクリア、というシーンがあった。
パターンとしてはどれも同じで、ボールサイドのCBとWBを開かせてサイドでセレッソのSH・SBに対して数的同数を作った上で、セレッソのSBの裏にシャドーを走り込ませるというやり方。SBの裏を取るとセレッソの方はCBがカバーに出てくるので、ゴール前で知念が残りのCBと1対1になれる。そしてそれを嫌ってセレッソの逆サイドのSBが絞ると、今度は大分の逆サイドのWBがフリーになる、という仕組みになっている。
また大分の方は、ボランチを最終ラインに落とし、4-1-4-1のような形にして、更に、最終ラインの4と2列目の4をあえて間延びさせる、というやり方もセットになっていて、これ自体は片野坂監督のサッカーのいわゆる定番なのだが、前回の対戦時にも書いたとおり、セレッソの前プレは中間ポジションを取って相手の選択肢を一つずつ奪っていくやり方が基本なので、相手選手が間延びして距離が遠いと中間ポジションからプレスに行く距離も遠くなって間に合わないシーンが出てくる。そして、遠い距離を頑張って前に出て詰めようとすると、最終的にSBの裏にスペースが出来てしまう。
じゃあセレッソはどうすれば良かったのか、ということになるのだが、一言で言えば、勝っているのだから前からプレスに行く必要はなかったと思う。下がれば相手のシャドーが飛び出すスペースも減るし、スペースが減るのであれば走る距離も減るのでボランチが相手シャドーに付いて行けば良い(もしくはCBが対応に出てボランチがカバーしても良い)。大分の方はCBをサイドの高い位置に上げているので、ボールを奪えば当然カウンターのチャンスがある。その辺を鑑みて、もう少し割り切ったサッカーをした方が良かったように思う。

セレッソの方は後半18分に奥埜を下げて柿谷を投入。柿谷はそのまま奥埜のいた2トップの一角に入ったが、後半29分に清武が下がってFW豊川が入ると、柿谷が左SHに回って前線は豊川とメンデスの2トップとなった。そして後半40分には木本を下げて新加入のブラジル人ボランチ、ルーカス・ミネイロを投入。大分のあえて間延びさせた4-1-4-1に対して前からプレスしようとするとFW、SH、ボランチあたりはどうしても運動量が必要になるので、そこを手当てした采配だったと思う。奥埜の走行距離は63分間で8.949kmだったので90分換算だと13km弱。清武は74分間で9.690kmだったので90分換算だと12km弱。木本も85分間で11.068km。かなり走っていた。

セレッソ大阪フォーメーション(後半40分時点)
32
豊川
20
メンデス
8
柿谷
17
坂元
11
L・ミネイロ
6
デサバト
14
丸橋
15
瀬古
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

試合は結局、1-0の状態からスコアが動くことなくタイムアップ。セレッソは無事開幕戦を勝利で終えることが出来たが、試合の終了間際には知念の左足のスーパーミドルがポストを叩くなど、完勝だった昨年の最終節と比べると薄氷の勝利と言えるものだった。
試合後のスタッツを見ると、スプリント回数が丸橋は17、瀬古が16、ヨニッチが11、松田が13、デサバトが13と、守備的な選手の方が多くなっている。それだけ後ろ向きに走らされる回数が多かったということだろう。

やはり、進化して行かないと現状維持すら難しいんだなと感じさせられた試合だった。昨季は大分のビルドアップを前プレで殆ど封じ込めたが、今回は脱出されて背走させられるシーンが何度もあった。逆に、セレッソのビルドアップは前回は狙い通りの形に持ち込めたが、今回は大分の前プレを受けてハーフウェーラインを越える前に失敗するシーンも多かった。前回一番違いを作っていたソウザが抜け、戦術的にフィットしていた水沼も抜けたので、そこの差が出たとも言えるが、逆に、そのポジションには坂元とルーカス・ミネイロと言う新しい選手がおり、FWには豊川、怪我から復帰した都倉もいるので、セレッソの伸びしろはまだまだある。彼らがコロナウイルスによる中断期間を経てどこまでチームにフィットしているか、それを見るのが今から楽しみである。
シーズン再開後の相手はガンバ大阪に決まった。移動による感染拡大リスクを最小限に抑えるために近隣チームとの対戦を優先した結果、いきなりダービーと言う大一番でシーズンの再開を迎えることになった。また、同じく感染拡大防止のために無観客での開催となる。正直、何が飛び出すか全く予想が出来ないが、それも含めて試合が待ち遠しい。