南野拓実、ダービーに参戦。リヴァプール VS エヴァートン FAカップ3回戦

日時 2020年1月5日(日)25:01 ※日本時間
試合会場 アンフィールド
試合結果 1-0 リヴァプール勝利

南野拓実のリヴァプール移籍後初の公式戦は、FAカップ3回戦。対戦相手はこの試合の会場アンフィールドからスタンリーパークを挟んで僅か600mの距離に本拠地を構えるライバル、エヴァートンである。カップ戦とは言え、マージ―サイドダービーと言う大一番で、南野は先発出場となった。

リヴァプールフォーメーション
27
オリギ
18
南野
67
エリオット
48
ジョーンズ
20
ララーナ
68
チリベジャ
7
ミルナー
12
ゴメス
47
フィリップス
76
ウィリアムズ
13
アドリアン

この試合のリヴァプールのフォーメーションは、最終ラインが左からジェイムズ・ミルナー、ジョー・ゴメス、ナサニエル・フィリップス、ネコ・ウィリアムズ、アンカーにペドロ・チリベジャ、IHにカーティス・ジョーンズとアダム・ララーナ、左ウィングにディボック・オリギ、右ウィングにハーヴェイ・エリオット、前線中央に南野拓実を置く4-3-3。
南野の役割は、1トップとトップ下を兼務する、9番の役割と10番の役割を兼務する、いわば9.5番のような役割で、これは、ベストメンバーのリヴァプールであれば、ブラジル代表のロベルト・フィルミーノが担っている役割である。同様に、左ウィングのオリギの所はベストメンバーであればセネガル代表のサディオ・マネ、右ウィングのエリオットの所はエジプト代表のモハメド・サラーになる。つまり、この試合のリヴァプールは主力のところをそれぞれサブメンバー、ないしは若手に置き換えたような構成になっていて、リーグ戦に10試合以上先発している選手はゼロ。GKアドリアン、CBゴメス、左SBミルナー、IHララーナ、左ウィングのオリギあたりが本来はサブメンバーの選手で、それ以外の選手はリーグ戦の先発は勿論、途中出場の経験もほとんどない、20代前半から10代の若手である。
リヴァプールはリーグ戦では首位を独走している一方で怪我人も多数出ており、ジョエル・マティプ、デヤン・ロヴレン、ナビ・ケイタ、ファビーニョと言った選手が離脱中。苦しい台所事情がカップ戦のメンバー選考に影を落とした格好となった。
ちなみに、数少ないベテランのミルナーも前半7分に負傷してしまい、それ以降はヤセル・ラロウチが左SBに入った。この選手もリーグ戦出場経験のない10代の選手である。

エヴァートンフォーメーション
9
ルーウィン
11
ウォルコット
7
リシャルリソン
19
シディベ
10
シグルズソン
18
シュナイデルラン
12
ディニュ
2
ホルゲイト
13
ミナ
23
コールマン
1
ピックフォード

一方のエヴァートンのフォーメーションは、最終ラインが左からリュカ・ディニュ、メイソン・ホルゲイト、ジェリー・ミナ、シーマス・コールマン、2列目が左からリシャルリソン、ギルフィ・シグルズソン、モルガン・シュナイデルラン、ジブリル・シディベ、2トップがドミニク・キャルバート・ルーウィン、セオ・ウォルコットという4-4-2。GKのジョーダン・ピックフォードも含め、エヴァートンの方は純然たる主力組でこの試合に臨んできた。
なお、試合前の表示ではコールマンが3バックの右、ディニュが左WBという3-4-3で紹介されていたが、実際には4バック。エヴァートンはリーグ戦の19節バーンリー戦から新監督のカルロ・アンチェロッティが指揮していて、20節ニューカッスル戦、21節マンチェスターシティ戦を経て、このFAカップ3回戦が新監督4試合目だが、アンチェロッティの前任であるマルコ・シウバ監督時代から3バックと4バックを併用していて、それが現在も続いている。この試合の直前のマンチェスターシティ戦でも前半は3バック、後半は4バックだった。違いは守備の時、右のコールマンの外側にSHを下ろすかどうかで、下ろす場合は5バック(3バック)になる。この試合では下ろさずに戦っていて、スローインも右からの時はコールマンが、左からの時はディニュが投げていた。

さて、前半に関してはリヴァプールの方が若手の活動量を前面に出した前プレでエヴァートンのボール保持に圧力を掛け、エヴァートンの方はロングボールでそれに対抗する、と言うのが大まかな流れだった。
リヴァプールはIHの2枚と右ウィングのエリオットが行け行けの守備で、相手ボールホルダーとの間に多少距離があってもスプリントしてプレスを掛けに行く。特にIHの2人はエヴァートンのボランチにプレスを掛けるのは勿論、そこから相手最終ラインにボールが下がると、そのまま相手のSBやCBまで突進していく。一見すると仕掛かり過ぎているようにも見えるが、どうもチームとしての共通理解の上でそうしているようで、ボールのベクトルが変わらない限りは、最初にプレスを掛けた人間がその勢いのままボールを追っていく方が良い、ということのようである。IHが上がった分のスペースはSBがポジションを上げて埋めていた。また、最悪エヴァートンがこの前プレを何とか抜けたとしても、その時点でビルドアップが不安定化していれば、アンカーのチリベジャの所でボールを回収するなり相手を潰すなり出来る、という計算になっている。
一方のエヴァートンの対抗手段はロングボール。特に、GKから前線へのロングボールが目立った。エヴァートンのGKピックフォードはイングランド代表のGKでもあるが、キックが滅茶苦茶飛ぶ。どのぐらい飛ぶかと言うと、自陣ペナルティエリア内から地面に転がった状態のボールを蹴って、相手陣内の中ほどまで飛ばせる。エヴァートンの前線のルーウィン、ウォルコット、そして左SHのリシャルリソンは、高さにそれ程強い選手では無いが、裏を取るスピードは抜群にあるので、リヴァプールの方は、プレスで前がかりになる前線をフォローする形で押しあがった最終ラインが、相手GKからのロングボールで裏返される、というシーンが多かった。
前半5分には、GKピックフォードからのロングボールをリヴァプール陣内、リヴァプールから見て右サイドでディニュとウィリアムズが競り合い、こぼれたボールをシグルズソンが拾ってリヴァプールの最終ラインの裏に走ったウォルコットに浮き球のパスを送る、というシーンがあった。リヴァプールの方は左SBのミルナーがオフサイドを取ろうとしたが失敗、ウォルコットのトラップが乱れたことでミルナーがシュートを阻害出来たが、こぼれたボールをルーウィンがシュートして、GKアドリアンが足でセーブした。この時のプレーが原因だったのかどうかは不明だが、この2分後にミルナーは左膝を痛めて退き、代わってヤセル・ラロウチが左SBに入っている。
また、前半13分にはピックフォードのパントキックをリヴァプール陣内でルーウィンとフィリップスが競り合い、こぼれたボールをリシャルリソンが拾って、リヴァプールが右SBの裏を取られる、というシーンがあった。更に前半15分にも、リヴァプールはピックフォードからのロングボールでフィリップスがルーウィンに裏を取られている。
リヴァプールのやっているサッカーを考えると、こうしたシーンが出てくるのはしょうがないことで、ではなぜリーグ戦では勝ち続けられるのかと言うと、レギュラー陣が出ている試合ではファン・ダイクやマティプと言った選手の個人能力で撥ね返せるからである。逆に言えば、いないとやられやすくなる。特にファン・ダイクが加入する以前は、この日のような形からよく失点していた。

また、エヴァートンの攻撃の形としてもう一つ見られたのは、FWのウォルコットを右奥、つまりリヴァプールの左SBの裏に走らせて、ウィングのようにプレーさせる、そこからクロスを入れる、という形。
前半26分にはサイドチェンジのボールを受けたコールマンが大外レーンのシディベにボールを預け、自らはその内側、ハーフレーンをインナーラップ、コールマンの上がりを警戒したリヴァプールの左SBラロウチがポジションを上げたタイミングで、ウォルコットがその裏に走る、というシーンがあった。相手SBの裏でボールを受けたウォルコットはカバーに出て来たジョー・ゴメスとラロウチの間を通してマイナスのクロス、これを逆サイドからニアに走り込んできたリシャルリソンがシュートしたが、GKアドリアンがまた足でセーブした。
また、前半30分にはエヴァートンのカウンターの流れから、ウォルコットがまたラロウチの裏に飛び出し、シュナイデルランからの浮き球のパスを受けてクロス、ルーウィンがダイビングヘッドで飛び込むがしっかり当たらず枠を外れる、というシーンがあった。
更に前半終了間際の46分には、エヴァートン陣内右サイドからコールマンが蹴ったロングボールをリヴァプール陣内でフィリップスが頭で撥ね返し、それをさらにルーウィンが頭で撥ね返して、このボールをウォルコットがサイド裏に走って受ける、というシーンがあった。そして、ウォルコットが逆サイドから中に入って来たリシャルリソンに浮き球のパス、リシャルリソンのシュートはリヴァプールがクリアしたが、セカンドをシュナイデルランが拾ってシディベがクロス、リシャルリソンがヘディングで飛び込んだが枠の上に外れた。
エヴァートンの方は、ウォルコットがSH的なFW、リシャルリソンがFW的なSHなので、ウォルコットが右に流れてリシャルリソンが中に入って来ることで、それぞれの良さを出すことが出来る。特にこの試合では、リヴァプールの方が右IHララーナと比べて左IHジョーンズのボールキープ力が弱く、左でボールを失うことが多かったので、エヴァートンが右から攻め込んで左のリシャルリソンでフィニッシュ、という形になることが多かった。

更に、エヴァートンの方が前半チャンスを迎えた残り一つの形がセットプレー。時間は前後するが前半11分のシーンで、エヴァートンがリヴァプール陣内、エヴァートンから見て右サイド、ペナルティエリアから14~15メートルあたりの所でFKを得たのだが、このFKが非常にデザインされていた。まずエヴァートンの方は、ペナルティアーク上にリシャルリソンとルーウィンを並べ、その少し後ろに左からウォルコット、ミナ、ホルゲイトを並べた。そして、キッカーには左利きのディニュと右利きのシグルズソンを立てた。最終的にボールを蹴ったのはシグルズソンの方だったのだが、ディニュを立てたことには2つの意味があって、1つは、右サイドからのFKを左足のキッカーが蹴る場合は直接ゴールを狙いやすいので、リヴァプールの方は壁の枚数を増やさざるを得なくなる。壁は通常ニア側(エヴァートンから見て右側)に立てるので、中央とファー側のリヴァプールの選手が少なくなる。そしてもう1つは、シグルズソンが蹴る前にディニュがキックフェイントを入れることで球出しのタイミングをずらし、リヴァプールのラインコントロールを乱れさせることが出来る。具体的に言うと、まずディニュが蹴る振りをしてボールに向けて走り出す。リヴァプールの選手のうち、中央とファー側の選手たち(壁に入らなかった選手たち)はラインを形成して守っているので、ディニュのキックに合わせてラインを下げながら守ろうとするのだが、ディニュがボールを蹴らずに走り抜けると、今度はオフサイドラインをキープするためにストップしようとする。このタイミングでシグルズソンが裏に向かって蹴る。リシャルリソンとルーウィンの後ろにウォルコット、ミナ、ホルゲイトという二段構えにしていたのはこのためで、後列から飛び出すこの3名が本当のターゲットである。ラインを止めようとするリヴァプールに対して、入れ替わるようにウォルコット、ミナ、ホルゲイトが飛び込む。当然オフサイドは無い。ゴール前中央、シグルズソンからのボールをホルゲイトがドフリーでヘディングシュートしたがコースはGK正面。アドリアンがボールを弾き出して、リヴァプールは辛くも失点を逃れた。

正直、エヴァートンの方はここまで挙げたシーンのチャンスのうち、一つは決めておきたかったところだった。挙げたシーン以外にも、かなり決定的なチャンスが幾つかあったので、勿体なかったなと。
逆にリヴァプールの方の前半のチャンスは、33分にオリギが左サイド、エヴァートンのペナルティエリア角あたりから右足でインスイングのクロスを上げ、これを南野がホルゲイトとミナの間でヘディングシュートしたシーンぐらいだった。よって、チャンスの数を考えればリヴァプールが前半0点だったのは妥当なのだが、南野応援目線で見る側としては、決めてほしかったところだった。首を振り過ぎてヘディングがボールに厚く当たらず、枠外に外れてしまった感じだったので、ちょっと力んだかなと。

さて、前半は0-0のまま、ゲームは後半へ。両チームとも後半頭から何かを大きく変えるということは無かったのだが、唯一、リヴァプールの方の小さな変化として、相手GKからロングボールが出て来そうな時には最終ラインが深めのポジションを取るように変わっていた。前半はかなりGKからのロングボールで裏を取られていたので対策したと考えられる。

一方エヴァートンの方は、後半17分に2枚替え。シグルズソンとコールマンが下がり、代わってファビアン・デルフとモイゼ・ケアンが投入された。デルフはそのままシグルズソンのいたボランチの位置に入ったが、ケアンは前線へ。ウォルコットが右SHに下がり、右SHにいたシディベがコールマンのいた右SBに下がった。

エヴァートンフォーメーション(後半17分時点)
9
ルーウィン
27
ケアン
7
リシャルリソン
11
ウォルコット
8
デルフ
18
シュナイデルラン
12
ディニュ
2
ホルゲイト
13
ミナ
19
シディベ
1
ピックフォード

ケアンの投入については、DFを削ってFWを入れ、FWをSHに、SHをSBにスライドさせたわけであるから、得点を奪いに行くための采配とみて間違いないが、デルフの投入については、中盤の運動量を懸念していたのではないかと想像できる。
この試合はエヴァートンの方が主力組、リヴァプールの方がサブまたは若手組なので、選手の質の面ではエヴァートンに分がある一方、運動量やスタミナの面ではリヴァプールに分がある。実際、エヴァートンの方が先に2枚替えを実行したにもかかわらず、後半20分ぐらいからは、リヴァプールの方が攻守の切り替えの所で上回るシーンが多くなった。

そして後半24分。南野拓実はここでお役御免となり、彼に代わってアレックス・オックスレイド・チェンバレンが投入された。チェンバレンは左IHに入り、左IHにいたジョーンズが左ウィングへ、そして左ウィングにいたオリギが南野のいたトップの位置に入った。

リヴァプールフォーメーション(後半25分時点)
27
オリギ
48
ジョーンズ
67
エリオット
15
チェンバレン
20
ララーナ
68
チリベジャ
7
ミルナー
12
ゴメス
47
フィリップス
76
ウィリアムズ
13
アドリアン

交代の意図としては、エヴァートンの方が右サイドを攻撃的に変えてきたのと、ボランチにデルフを入れて中盤の運動量を強化してきたので、リヴァプールの方も左IHにフレッシュな選手を入れてそれに対抗する、ということが一つと、ジョーンズは前半、繋ぎの所でミスが幾つかあったので、よりリスクの少ない位置に上げた、と言うのがもう一つ。あと、南野に関しては即戦力の選手として獲得しているので、次のリーグ戦にも使う可能性があり、フルタイムで使うつもりは元々なかった、という面もあったと思う。

そして、この交代采配の直後にリヴァプールのゴールが生まれた。
後半25分、エヴァートン陣内で左に流れたオリギが交替で入ったチェンバレンからパスを受けると、中にドリブルしてバイタルにいたジョーンズにパス。オリギはそのまま裏に抜けて、ジョーンズがそこに浮き球のパス、オリギがキープしてもう一度ジョーンズに落とし、ジョーンズがペナルティエリアのやや外、ペナルティーアークの左あたりから、右足でファーに向けて巻くようなシュートを放った。ボールはピックフォードがジャンプしながら伸ばした手の上を綺麗に越え、ファー側のゴールバーの下を掠めてゴールに吸い込まれた。

正直、ジョーンズのここまでのプレーと言うのはそこまで良くなかったのだが、やはりリヴァプールのようなレベルのチームにいる選手は、こう言うプレーを持っている。思い起こせば南野も、2013年にセレッソがマンチェスターユナイテッドと対戦した時、全く同じような位置から、同じようなシュートを決めている。ジョーンズは18歳。2013年当時の南野も18歳。そう言う水準の選手が集まるチームに、いま南野はいる。そう感じさせられるゴールだった。
一方、ゴールを決められたピックフォードの方に目を向けると、自分から見て左上に飛んできたボールに対して左手を伸ばしていたので、逆側、右手だったら届いたかもしれない、という部分はあった。
実は、ピックフォードに関しては以前にも同じような指摘をしたことがある。

ルーニーとラシュフォードの活かし方。マンチェスターユナイテッド VS エヴァートン

エヴァートンのゴールマウスを守っていたのは今シーズン、サンダーランドから移籍してきたピックフォードで、個人的にはかなり良いGKだと思っているのだが、このシュートは止められず。もちろんシュートが良かったのだが、GKから見てゴールマウス右上に決まったシュートに対して、右手を伸ばしていたので、左手であればどうだったか、というところは気になった。横っ飛びになった時、ボールサイドの腕はより外側まで届く、ボールと逆サイドの腕はより上側まで届く。スローで見るとボールはピックフォードの右手の上側を通過していたので、左手で止める、という判断をしていれば止められた可能性はある。

ゴールマウスの四つの角と言うのはGKにとって最も守りにくい部分だが、上角に関しては、逆側の手でアプローチするのがやはり基本だと思う。それでも止められた可能性は低い、と言えるぐらい良いシュートではあったが。ちなみに、南野がユナイテッドからゴールを決めた時、ゴールマウスを守っていたのはデヘアではなく、当時第二GKだったリンデゴーワだったが、彼は逆側の手でアプローチしていた。

さて、前半何度もゴールチャンスをフイにしていたエヴァートンは、一発のスーパーゴールでビハインドを背負うことに。失点以降、と言うよりデルフ投入以降は、ビルドアップの時にデルフが最終ラインに下りる形を見せるようになっていて、恐らく、トップ下的なシグルズソンを下げて、SBやアンカーとしてもプレーできるデルフを入れたのは、こういう最終ラインに下りるプレー、リヴァプールの前プレに対して数的優位を作るプレーを期待されていた部分もあったと思うのだが、リヴァプールの方は、リードを奪ったことで前からプレスに行く必要がなくなり、エヴァートンの方としては意図が空振りに終わった形になってしまった。

エヴァートンは後半33分にウォルコットを下げてベルナルドを投入し、ベルナルドが左SH、リシャルリソンが右SHという形に変更。一方のリヴァプールは同じく33分に右ウィングのエリオットを下げてブリュースターを投入し、ベルナルドが入ったサイドをフレッシュな選手に替えて対抗。結局この後両チームに得点は生まれず。試合は1-0、リヴァプールの勝利でタイムアップとなった。

試合を振り返って、まず南野について述べると、やはりと言うか、予想通りと言うか、縦パスが出てこないなと。ボールホルダーに対して何度も縦に覗いたり裏に走って要求したりしていたのだが、南野を選んでくれない。これは香川がユナイテッドに行った時にもあったことで、香川がライン間で受けるために覗いてもキャリックがパスを付けてくれない、ということが良くあった。パスを付ける側からすると、南野や香川のような選手は相手に潰されてしまうかもしれない、という不安がどうしてもあるので、躊躇が生まれるのはやむを得ない。結局そこは、パスを貰った時にプレーを成功させて信頼を勝ち取るしかない。
この試合では後半5分に右SBのフィリップスからハーフスペースの南野にパスが出たシーンがあって、恐らくこれが唯一南野に縦パスが出たシーンだった。この時、南野はボールを受けて中にターンしたので、ドリブルしてシュート、ないしは追い越してきたジョーンズにラストパス、というプレーを狙える状況だったが、逆サイドから絞って来たシディベに阻まれた。通常であれば右SHが左サイドまで守備に来ることはあまりないのだが、プレミアレベルだと、特にマージサイドダービーのような試合だと、選手の執念が尋常ではないので、フリーになれる時間と言うのは僅かしかない。そこは香川も岡崎も苦労した部分なので、南野にも同じような試練が待っていると思う。
一方、リヴァプール全体に目を移すと、やはりファン・ダイク不在だと相手のロングボールやセットプレーに対して弱さが出るし、逆に味方セットプレーの時には怖さが出ない。この試合では味方FKやCKの時にジョー・ゴメスを後ろに残していたので、ターゲットは実質オリギとフィリップスの2枚。試合を通じてCKは12回、FKは3回あったがチャンスの数はゼロだった。ただこの点に関してはメンバーを落とした以上、止むを得ないと言うか、クロップ監督の中では最悪、負けてもしょうがないと言う面はあったと思う。何しろリーグ戦では30年ぶりの優勝に手が届きそうなので、FAカップでの勝ち負けよりも、主力の休養を優先させるのは当然でもある。
ただその一方で、控え組中心であっても、リヴァプールの選手たちのサボらない守備と言うのは素晴らしく、特に、相手にシュートを撃たれそうになった時に、GK正面のコースだけを残して周りは消す、という部分は徹底されていた。この試合ではリヴァプールのGKアドリアンが何度も好セーブを見せていたが、それはフィールドプレーヤーの協力があってこそのものだったと思う。

一方のエヴァートン。彼らの試合は年に数回見る程度で、監督も頻繁に変わっているので、その都度印象は変わるし、上手く行っている時も、行っていない時もあるのだが、ここ最近の印象で共通するのは、軸になるFWがいないという点である。ロメル・ルカクをユナイテッドに売却して以降、その後釜をなかなか見つけられないでいる、という気がする。この試合も決定機自体はエヴァートンの方が多かったのだが、それを決めきることが出来ず、ジョーンズの一発に沈んでいる。ただし、今シーズンのリーグ戦ではキャルバート・ルーウィンがここまで8ゴール、同じくリシャルリソンも8ゴールと悪くない数字なので、彼らが主軸として計算できるようになれば、より安定した成績になるのではないだろうか。