ロングボールのガンバ、アンカー脇を狙う鹿島。鹿島アントラーズ VS ガンバ大阪 J1第24節

日時 2019年8月23日(金)19:03
試合会場 県立カシマサッカースタジアム
試合結果 2-2 引き分け

21節広島戦、22節神戸戦、そして前節磐田戦と、3試合連続で追いつかれて引き分けているガンバ大阪。リードを奪いながら勝ちきれない試合が続いている。
今節はリーグ戦2位の鹿島アントラーズと敵地での対戦。この試合でも、ガンバは先制したものの、前半終了間際に追いつかれ、後半には伊藤翔のゴールで逆転されてビハインドに。しかしパトリックのゴールで試合をイーブンに戻し、これでガンバの直近のリーグ戦は、5試合連続で引き分けとなった。

鹿島アントラーズフォーメーション
15
伊藤
41
白崎
8
土居
18
セルジーニョ
20
三竿
30
名古
26
小池
28
町田
27
ブエノ
37
小泉
1
スンテ

この試合の鹿島アントラーズのフォーメーションは、小池裕太、町田浩樹、ブエノ、小泉慶の4バック、その前に三竿健斗と名古新太郎の2ボランチを並べる4-2-3-1。1トップには伊藤翔、両SHには白崎凌兵とセルジーニョが入った。FW土居聖真は、2トップの一角としても、SHとしてもプレーできる選手だが、この試合ではトップ下の役割。その意図については試合の流れの中で触れたい。
2019年シーズンの夏の移籍市場では、若手を中心とした大量の欧州移籍が発生したが、鹿島はその影響を最も強く受けたチーム。FW鈴木優磨がベルギーのシント・トロイデンに、MF安部裕葵がスペインのバルセロナBに、DF安西幸輝がポルトガルのポルティモネンセにそれぞれ移籍し、主力級が3人同時にいなくなった。また、FW金森健志が鳥栖に期限付きで、MF平戸太貴がJ2町田ゼルビアに完全で移籍している。
その穴埋めとして、柏からMF小泉慶を完全移籍で、名古屋からFW相馬勇紀を期限付きで獲得している。また、2021年の加入が内定していた法政大学のFW上田綺世を、1年半前倒す形で獲得。この試合では、小泉が左SBとして先発、相馬と上田はベンチスタートとなった。

ガンバ大阪フォーメーション
9
アデミウソン
18
パトリック
33
宇佐美
10
倉田
15
井手口
34
福田
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

一方のガンバ大阪のフォーメーションは、キム・ヨングォン、三浦弦太、髙尾瑠を最終ラインに置く5-3-2。前節の磐田戦では遠藤がアンカー、倉田と高江のIH(インサイドハーフ)、宇佐美とパトリックの2トップ、左WBが鈴木と言う選考だったが、この試合では倉田と宇佐美のIH、アデミウソンとパトリックの2トップ、福田が左WBと、21節の神戸戦に近い形となっている。神戸戦との違いはアンカーで、この試合では矢島ではなく、井手口が先発となった。

さて、試合はガンバボールでキックオフ。CB三浦がボールを受け、前線にロングボールを蹴る、と言う形で始まった。この三浦のプレーにも現れているが、この試合でのガンバの攻撃の主体はロングボール。3バックとアンカーの井手口を残して残りを前線に上げ、3-1-6の形にしてCB、あるいはGKから前線にロングボールを蹴る、と言う形は神戸戦でも見られた形で、実際にその形から得点も奪っている。このロングボールは相手のDFラインの裏に蹴る形と、右WBの小野瀬へ蹴る形の2つがあり、小野瀬に蹴る場合は3バック中央の三浦、あるいは左のヨングォン(彼は左利きである)からサイドチェンジ気味に大きく展開し、相手のボールサイドへのスライドが間に合う前に、小野瀬を仕掛けさせてカットインまたはクロス、と言うのが狙いになっている。鹿島側で、小野瀬に対応したのは左SB小池だが、この試合では両者がバチバチとデュエルするシーンが何度も見られた。小池の方もかなり攻撃的なSBなので、小池の方が仕掛けて小野瀬が競り合う、と言うシーンもあり、この両名の戦いは試合の見所の一つだった。
また、ガンバの方のもう一つの形としては、宇佐美と倉田の両IHが鹿島のSB、CB、ボランチ、SHの四角形の中間、いわゆるハーフスペースに立ってボールを受ける、もしくは鹿島がそれを嫌って中央に絞る場合はWBを高い位置に出してサイドからボールを運ぶ、と言う形も見られた。ただ、この形でフィニッシュまで至る手順が整理されているようには見えなかったので、こちらはあくまでも、ロングボールばかりだと疲れてしまうので、ボールを落ち着ける時間も作りたい、と言うオプションのような意味合いだったのかなと。ガンバの方は、特に左IHの宇佐美がこのハーフスペースにポジションを取ったり、場合によってはCBの横まで下りてきてボールの落ち着け処になる、という役割を担っていた。

一方、鹿島の方は繋ぐ攻撃が主体。攻撃の開始地点はガンバの2トップの脇のスペースで、ここでSBがボールを持つ、もしくはボランチがCBの間に下りて、開いたCBがボールを持つ、と言う所からビルドアップがスタートする。
ガンバの方は、2トップの脇でボールを持たれるとボールサイドのIHが出てくるので、アンカーの脇のスペースが空く。ここのスペースでボールを受けるのがトップ下で起用された土居の役割である。ガンバはアンカー脇のスペースでボールを持たれると、今度は3バックのいずれかが飛び出して対応する。つまり最終ラインにギャップが出来るわけだが、このギャップを相手と駆け引きしながら攻略するのが1トップの伊藤、そして両SHの白崎とセルジーニョの役割である。鹿島の両SHは守備の時こそサイドに下がるが、攻撃時の役割は両者ともFWと言って良く、特に右SHのセルジーニョは体格も180cmと大柄で、相手を背負って起点になることも出来る、サイドにいるセンターFWとでも言うべき選手である。この両SHは左右が入れ替わることも頻繁にあり、彼ら2人のうちいずれかとトップ下の土居がガンバのアンカーの周りを流動的に動いてボールを引き出し、ガンバのCBが飛び出して出来たギャップをSHのもう一枚と伊藤が狙う、というのが鹿島の攻撃の大まかな形だった。
ガンバとしては、2トップ脇でボールを持たれてIHが出て行く時に、なるべくアンカー脇を使われないようにコースを切りながら出たいのだが、しっかり切れずに背後のアンカー脇に通されてしまう、というシーンが目についた。また、3-1-6で攻撃するという形のため、攻撃から守備になった時にはどうしてもアンカーだけでバイタルを守る時間が出来てしまうのだが、この時にアンカーの井手口がIHの戻りを待たずにどんどんボールに向かって出て行ってしまうので、そこもリスクになっていた。
ただ、前半の序盤は鹿島もガンバも、まずは失点しないように戦う、と言う所を念頭に置いていて、両チームとも、相手のブロックの中に慌ててボールを入れるのではなく、最終ラインでゆっくりボールを回しながら、カウンターを避けつつボールを保持する時間が長かった。

ガンバの先制点が生まれたのは前半32分。CBヨングォンが左、三浦が右に開いて、その間をGK東口がボールを持ちあがり、センターサークルの10mぐらい手前までボールを運んで前線にロングボールを送った。このボールにガンバの方はアデミウソンが走り込み、鹿島の方はCBブエノがボールを跳ね返そうとしたのだが、目測を誤ったのか、それともアデミウソンに身体を預けようとして失敗したのか、後ろ向きに倒れてしまい、ブエノに当たってこぼれたボールをアデミウソンが拾って右足でシュート。カバーに入った町田の足とGKスンテの伸ばされた手の間をボールが抜けて、ファーサイドにシュートが決まった。

ビハインドになった鹿島はリスク回避のボール回しはやめ、より積極的にガンバのブロックの中にボールを送り込むように。ただ、鹿島の方はアンカー脇で受ける、CBを釣り出す、と言う所までは出来ていても、その次、出来たギャップにSHや伊藤が飛び出す、そこにボールを送り込む、という所までは出来ていなかった。前線が呼び込んでいない、出し手が見ていない、と言うよりは単純に呼吸が合っていない感じだったのだが、鹿島の方はこの試合の後、ミッドウィークにACLの広州恒大戦が控えているため、もしかすると落とし込む時間が足りなかったのかもしれない。

ガンバとしては前半リードのまま折り返したかったところだが、鹿島が追いつく。前半42分、ガンバのアンカー井手口とIH倉田の距離が近くなり過ぎた所に土居がプレスバックし、倉田からボールを奪ってセルジーニョがボールを保持した。この時、井手口は失った倉田をボールに向かわせて自身は次どこにボールが出てもいいようなポジションを取るべきだったのだが、自分自身がセルジーニョにプレスしてしまい、更にセルジーニョが名古にはたくとそこにも行ってしまい、結局、名古からセンターサークル中央、井手口が空けたスペースにいた土居にボールが通ってしまった。土居はこのスペースでガンバゴールに向かってドリブル。更に右からは伊藤、左からは白崎がフリーランニングし、ガンバの3バックと3対3という状況になった。土居はガンバの3バック中央の三浦に向けてドリブル、三浦がラインから出て対応し、三浦が出たことで出来たギャップに伊藤が斜めに走り込む、ヨングォンがカバーのために絞る、その外側のスペースを上がって来たのはセルジーニョだった。セルジーニョは土居からの横パスを受けてペナルティエリア内にボールを持ちこむと、右足を一閃。鋭いシュートがガンバゴール、ニア上の角を撃ち抜いた。

前半は1-1の同点で折り返し、後半。試合の流れは大きく変わらず、ガンバはロングボールが主体、鹿島はアンカー脇のスペースを狙う、という流れだった。
鹿島の方は、アンカー脇で受ける、相手CBが出てくる、その裏に別の選手が走る、そこに中盤やDFラインからパスが出る、という一連の動きが一つのタイミングで噛み合わず、連動がまだしっくり行かない、という感じだったのだが、後半12分、追加点を奪ったのはその鹿島の方だった。

追加点のシーンでは、かなりボールと人が動いたのだが、まず鹿島の方は、引いてきた左SH白崎がガンバのアンカー脇のスペースにポジションを取った名古に縦パス、ガンバの方は名古に対して高尾が出た。名古は左SB小池にボールを落として自らは高尾が出たことで空いた裏のスペースにダッシュ。小池はそこには出さず、中にドリブルして井手口の右(ガンバから見ると左)にいた土居にパス。パスを受けた土居は今度は井手口の左側に回り込むようにドリブルし、もう一度開いた名古にパス、名古が土居に戻して、土居は今度は逆サイドのセルジーニョへパス。セルジーニョが右SB小泉にボールを展開し、小泉が縦に仕掛けようとしたが、もう一度戻して、セルジーニョがファーサイドにクロスを上げた。鹿島の方はファー側で白崎が構えていて、ガンバの方は右WB小野瀬が対応、高尾が白崎の手前でクロスを頭で撥ね返したが、セカンドボールを小池が拾った。ここで、ガンバの3バックはラインを上げる対応をしたのだが、クロスの時に白崎に付いていた小野瀬が逆モーションになっていてラインを上げきれず、3バックの背後にオンサイドのスペースが出来た。小池はこのスペースに向けてシュートのようなパス。これに飛び込んだ伊藤が右足で綺麗に合わせ、ゴールネットを揺らした。
ガンバの方は小池がボールを拾った時に3バックが3人ともボールウォッチャーになってしまった。特に、一番外側のヨングォンからは小野瀬の位置が見えた筈なので、ラインを上げずに伊藤に付くべきだった。また、得点前の鹿島のボール回しは、ガンバのアンカーの周囲、そしてその更に外側、IHの周囲をかき回すようなボール回しだったのだが、ガンバの中盤は3枚なので、こういう状況になるとスライドが間に合わなくなってボールに規制が掛からなくなったり、セカンドを拾えなくなったりする。そういう状況を減らすためには、IHが前に出る時、アンカー脇のスペースに蓋をしながら出る、ということが必要で、それでもスクランブルな状態になってしまった時は、トップの選手を1枚下ろして中盤を4枚にする、ということも必要だと思う。

この得点の直後、試合再開の前に、鹿島は名古を下げてレオ・シルバを投入。レオシルバは名古のいた左ボランチにそのまま入った。名古は今年6月のセレッソ戦からスタメンを掴み出した選手で、それ以降7試合に出場しているが、フル出場は2回のみ。この試合でも途中交代となったので、スタミナ面が課題とみなされているのかもしれない。

ビハインドになったガンバは、よりIHの2枚が前がかりになって行く。彼らがどんどん出て行くとボランチ脇のスペースが更に空きやすくなり、カウンターのリスクも高まるのだが、このままだと負けてしまうので、そこは致し方ないリスクだった。
そして、ガンバは後半25分に倉田を下げてFW渡邉を投入。パトリックと渡邉の2トップとし、宇佐美が右IH、アデミウソンが左のIHとなった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半25分時点)
39
渡邉
18
パトリック
9
アデミウソン
33
宇佐美
15
井手口
34
福田
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

2トップとIHの中で一番守備の仕事が多い倉田を下げて渡邉ということで、この交代の意図は単純に、リスクを掛けて得点を奪いに行く采配だったと思うのだが、興味深かったのは鹿島の方の反応で、この交代以降、左ボランチだったレオシルバが右に、右ボランチだった三竿が左に回った。ここの意図は何だったのか知りたいなと。単純に、試合開始時点から宇佐美は三竿が見ていたので、そこを変えたくなかったのか、それとも、アデミウソンが最も警戒すべき選手なので、そこをフレッシュなレオシルバに見させたかったのか、または、攻撃面で何か意図があったのか。

そして、この交代の1分後にガンバの同点ゴールが生まれた。ガンバのCB三浦がセンターサークルの手前あたりから左サイドに向けてロングボール。左WBの福田がこのボールに走り込んだ。鹿島の方は右SBの小泉が下がりながら対応したのだが、ボールを自分の背後に落としてしまい、ボールをコントロールした福田を後ろから倒してしまってPKの判定。このPKをパトリックがしっかり決め、ガンバが同点に追いついた。
鹿島の方は、1失点目もブエノがロングボールの目測を誤ったことが原因、そしてこのシーンは小泉が同じようなミスをして、更に前半にももう一つ、ブエノがロングボールの目測を誤るシーンがあった。前半と後半でサイドも変わっている以上、照明とか風とか、特定の原因でそうなったわけではないと思うので、もしかすると鹿島のDFラインはロングボールに弱い傾向にあるのかなと。逆に言うと、ガンバの方がそういう傾向を折り込んでロングボール主体の攻撃を仕掛けていたのかもしれない。また、ガンバの方は福田が長いボールをワントラップで小泉の背後に落とし、ボールと小泉の間に身体を入れてボールを隠したので、そこが非常に巧みだった。

同点に追いつかれた鹿島は後半28分、1トップの伊藤を下げ、法政大学から獲得した上田を投入。上田はそのまま1トップのポジションに入った。
そしてガンバの方なのだが、同点に追いついて以降、守備が少し安定した。その理由は2つあって、まず左IHに回ったアデミウソンが宇佐美より守備が上手い。アデミウソンは守備でそれ程運動量を出すわけではないが、自分の背後のスペースや相手の受け手を意識しながらコースを切れるので、危険なパスを通されにくい。また、右に回った宇佐美が、疲れてきたのか守備の時に余り前に出なくなったので、そこも逆にアンカー脇にスペースを生まない要因になっていた。
更に、ガンバの方は後半34分に宇佐美を下げて矢島を投入し、矢島が右IHに。これでかなり安定して、アンカーのカバーする範囲が減ったことで、井手口が良いインターセプトを見せるシーンも増えた。逆に鹿島の方は、ガンバの守備の穴が減ったことで、ゴリ押し的な攻撃が増えていく。ただ、鹿島は元々ゴリ押し上等のチーム。ポジショナルプレー的に間、間を取って行くプレーよりも、デュエルで競り勝って行くプレーに評価基準を置いているチームなので、もっとゴリ押せる選手を、ということで後半39分には白崎を下げて名古屋から獲得したウィンガー、相馬を投入。相馬は左SHに入った。
ガンバの右WB小野瀬は前半から鹿島の左SB小池と何度もデュエルし、更にこの時間からはそこに相馬も加わったので相当きつかったと思うが、守備でもかなり奮闘していた。この試合の小野瀬の走行距離は11.08Km。ガンバの中では井手口に次いで大きい数字である。そして、スプリント数はパトリックと並んで最も多い20回。一方、鹿島の小池のスプリント数は24回。この数字は両チーム通じて最多である。
結局、試合はこのまま引き分けに終わったが、もしこの試合のマンオブザマッチを選ぶとするならば、この両者のどちらかになるのではないだろうか。

さて、この試合ではガンバがこの夏に獲得した宇佐美と井手口、そしてパトリックの3名が先発し、宇佐美が後半34分まで、残りの2名はフル出場したわけだが、チームに上手く嵌まっているのは今の所パトリックのみである。井手口の方は、チームとしてアンカー脇のスペースを使わせない守備がもう少し出来れば、本人のプレーも安定するのかもしれないが、少なくともこの試合では、出てはいけない状況で前に出てバイタルを空けてしまう、というシーンが複数回あり、それが前半最後の失点にも繋がってしまった。本人の適応次第だが、少なくとも現時点での適正ポジションはIHなのかなと。
一方の宇佐美だが、やはりIHとしては守備が悪い。コースを切れていなかったり、相手ボールになった時の帰陣が遅れてアンカー脇を空けてしまったり、というシーンが目につく。既に書いたとおり、IHとしての守備はアデミウソンの方が上手くこなしていた。そうなると、宇佐美がトップで、アデミウソンがIHの方が良いのではないか、ということになるのだが、攻撃で一番違いを作れるアデミウソンをゴールから遠い位置に移す、と言うのも難しい。となるとやはり、2トップはパトリックとアデミウソン、IHが倉田と井手口、アンカーが矢島もしくは遠藤、と言うのが一番バランスの取れる形で、より攻撃的に戦いたい場合のみ、倉田と井手口のどちらかを下げてアデミウソンをIHとし、宇佐美をトップに入れる、と言うのが良いのかなと。
次の相手のマリノスは、鹿島よりももっとロジカルにスペースを突いてくるチームなので、新加入選手の適正ポジションの見極め、及び守備の整理は急務である。