理想と現実、どちらを取るか。ヴィッセル神戸 VS ガンバ大阪 J1第21節

日時 2019年8月2日(金)19:04
試合会場 ノエビアスタジアム神戸
試合結果 2-2 引き分け

J1第21節、フライデーナイトの対戦カードは、15位ヴィッセル神戸と11位ガンバ大阪の対戦。試合はガンバ大阪が前半8分に先制、そして後半8分にも得点を奪い、2-0とリードしたものの、試合終盤に神戸が続けざまに得点を挙げ、最終的には2-2の引き分けという結果となった。

ヴィッセル神戸フォーメーション
17
ウェリントン
13
小川
8
イニエスタ
16
古橋
6
サンペール
5
山口
18
初瀬
25
大崎
33
ダンクレー
34
藤谷
18
飯倉

この試合のヴィッセル神戸のフォーメーションは、1トップにウェリントン、トップ下にイニエスタを置く4-2-3-1。
神戸はシーズン当初指揮を執っていたリージョ監督が4月に辞任し、その後しばらくは、昨シーズン途中まで指揮していた吉田孝行氏が監督に復帰して指揮を執っていたのだが、今年6月に、オーストリアのウィーンやスイスのグラスホッパーで指揮を執った経歴を持つドイツ人監督トルステン・フィンク氏を招聘。この試合はフィンク監督が就任してから数えて7試合目のリーグ戦となる。
神戸は夏の移籍市場で積極的な補強も行っており、UAEのアルナスルから左利きのDFジョアン・オマリを、横浜FマリノスからGK飯倉大樹を獲得。更に、バルセロナとの契約が切れてフリーの身となっていたベルギー代表DFトーマス・フェルマーレンも獲得している。
またその一方で、MF三田啓貴をFC東京に、韓国代表GKキム・スンギュをKリーグ蔚山現代に、いずれも完全移籍で放出。更にMF三原雅俊を柏に、DF小林友希を町田に期限付きで譲渡し、戦力が入れ替わっている。新戦力のうち、この試合のピッチに立ったのはGK飯倉のみだが、今後、選手のコンディションに応じて逐次スタメンの入れ替えが行われると考えられる。

ガンバ大阪フォーメーション
9
アデミウソン
18
パトリック
33
宇佐美
10
倉田
21
矢島
34
福田
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

一方のガンバ大阪。こちらのチームについてはフォーメーションについても人員についても神戸以上に書くことが多い。
まず人員についてだが、MF田中達也を大分に、FWファン・ウィジョをボルドーに、MF今野泰幸を磐田に完全移籍で放出。また、期限付きでDFオ・ジェソク(→FC東京)、MF藤本淳吾(→京都)、MF中村敬斗(→トゥエンテ)、FW高木彰人(→山形)、DF米倉恒貴(→千葉)を譲渡している。育成型期限付き移籍である高木、現地での評価次第の中村、この2名以外は、実質的な片道レンタルだと考えられる。更に、この試合後にはFW食野亮太郎のマンチェスターシティ移籍も決定。ガンバは実に9名がこの夏にチームを離れることになった。
その一方で、FW宇佐美貴史を独デュッセルドルフから、MF井手口陽介を英リーズから買い戻し、FWパトリックも広島からレンタルで獲得。ガンバでのタイトル獲得経験のある選手をチームに復帰させた。また、川崎からはMF鈴木雄斗をレンタルで獲得している。この試合では宇佐美、パトリックが先発。鈴木はベンチスタートとなった。
次にフォーメーションについてだが、表記上は5-3-2、もしくは3-3-2-2というような表現になると思うのだが、左WBの福田が守備的、右WBの小野瀬が攻撃的という役割分担になっていて、結果、小野瀬は高い位置を取る一方で、福田はそれよりも低い位置を取る、右肩上がりの形になっていた。また、攻撃時と守備時でも選手のポジショニングは変わっていて、その点については試合の流れの中で説明したい。

さて、上述の通りガンバは5-3-2で試合をスタートさせたのだが、この5-3-2と言うのはあくまでも守備の時の形。右WBの小野瀬は守備の時には最終ラインに下りるが、攻撃の時はサイドの高い位置まで出て行く。また、左IH(インサイドハーフ)の宇佐美、右IHの倉田も、守備時は2列目に下がるが、攻撃時には前線に出て行く。つまり、小野瀬は守備時はSB、攻撃時はSHという役割、IHの2人は守備時はSH、攻撃時はFWという役割だった。
ガンバはシーズン開始当初は4バックでスタートしており、リーグ戦で5-3-2のフォーメーションを採用したのは12節のセレッソ戦、大阪ダービーの試合からである。このフォーメーションに変更して以降、それまで1試合平均2.0だった失点が0.77まで減少。守備面では明らかに改善した。しかしその一方で、攻撃力はやや低下しており、11節までは1試合平均1.36だった得点が、12節以降は1.11となっている。またシュート数についても、11節までは1試合平均13.27だったが12節以降は13.0。特にPA内中央からのシュートが減っていて、11節までは1試合平均5.45だったが、12節以降は3.0となっている。
つまり、後ろを重くした分チャンスの数も減った、ということなのだが、そこを補ってきたのがFWファン・ウィジョ、そしてシーズン途中から頭角を現してきた食野亮太郎の決定力だった。しかし、前者は仏ボルドーに移籍済み、後者はこの試合の後に英マンチェスターシティに移籍、ということで、広島から獲得したパトリックと独から復帰した宇佐美に期待が掛かる状態となっている。

ガンバの攻撃の1つ目の形は、このパトリックを相手のSBの裏のスペースに走らせる、というもの。もう一人のFW、アデミウソンが走るパターンもあり、要は、2トップの片方がサイドの高い位置で起点を作って相手を裏返し、そこにWBやIHがフォローに入ってフィニッシュまで、と言うのが1つの狙いだった。パトリックはウィジョと比べるとミドルシュートの力や相手DFラインとの駆け引きという点では劣るが、起点になる力やクロスのターゲットという点では勝るので、彼がサイドに走って起点になる、もしくはアデミウソンがサイドに走って中に残ったパトリックがクロスのターゲットになる、という攻撃の形は理に適っている。
そしてガンバの攻撃のもう一つの形は、3バックの前にアンカー矢島を置き、残りは前線に上げて、矢島、もしくは左CBのヨングォンが一気にボールを前線に配給する3-1-6の形。この攻撃の形、中盤の人数をあえて少なくして相手の中盤の守備を無力化し、数的優位の前線に一気にボールを送る、というやり方は、2012年と2013年のJリーグを連覇した広島、そして現在の大分のサッカーに良く似ている。現在の大分の監督である片野坂知宏監督は2012、2013年は広島でコーチを務め、2014、2015年にはガンバのコーチを務めている。そして、宮本監督がガンバのアカデミーコーチングスタッフに就任したのは2015年。何らかの交流があったのだろうか。それとも単純に、宮本監督が現在の大分のサッカーを参考にしたのだろうか。

前半8分、ガンバの先制点は上述の3-1-6の形からだった。WBの小野瀬と福田が両ワイドで高い位置を取り、FWパトリックとアデミウソンが引いてくる。出来た神戸DFラインの裏のスペースに倉田が2列目から飛び出して、アンカー矢島からのロングパスを受けてシュート。GK飯倉の脇を抜いてファーサイドのゴールネットを揺らした。
神戸側の選手で、倉田の近くにいたのは左SB初瀬だったが、倉田のマークにつくのか、更に外にいた小野瀬につくのか、それともラインを上げて倉田をオフサイドにするのか、迷ってしまった感じで、結局どのアクションも取れなかった。逆の言い方をすると、ガンバの方が小野瀬をワイドの高い位置に張らせたことで、初瀬はボール、倉田、小野瀬、そして味方の最終ラインの位置を同一視野で確認するのが難しくなったので、ガンバが準備してきた形が嵌まったとも言えるゴールだった。

一方、失点してしまった神戸の方だが、前半に関しては良くも悪くも、少しずつ修正していく、という感じで戦っていた。リージョ監督の時は、試合が始まる時点で細部までプランが決まっている、というチームだったが、今はどちらかと言うと、最低限の約束事は決めた上で、後は試合の中で詰めていく、選手の判断で決める、というチームに変わっている感じだった。この試合のボール運びを見ても、はっきり決まっているように見えたのは、ガンバの2トップの裏に必ず誰かがいるようにしよう、という点のみ。ここに誰かがいないと、相手は前プレをどんどん外に広げることが出来るし、神戸の方は中央を使えなくなるので、そこは徹底されていた。この相手2トップの裏にいるのはサンペールであることが多く、山口がCBの横に下りて3バック化し、相手の2トップに対して数的優位を作って、その前(相手2トップの裏)にサンペールが入る、という形が多かったのだが、固定的なわけではなく、イニエスタが下りてきて山口が相手2トップの裏に入る、というシーンもあった。また、前半18分には古橋と小川が個人で話し合い、古橋が左SH、小川が右SHに変わる、というシーンもあった。これらを見る限り、今はどちらかと言うとアドリブが許されているサッカーなのかなと。

神戸の方としては、ガンバの前のブロックは3-2の形なので、その両脇ではボールが持てる。しかし、SHの古橋と小川は基本両ワイドに張っているので、3-2の脇でボールを持っても中につける選択肢がイニエスタしかない。そこが問題点だったのだが、少しずつ修正されていった。
まず、前半序盤はボール運びの選択肢が無くなった時に、イニエスタが3-2のブロックの外まで下りてボールを受けていたのだが、前半の35分あたりからは、イニエスタは3-2の「3」の間に立つようになった。間で受けようとすると当然、スペースであったりパスを届けるためのコースであったりが制限されるのだが、イニエスタはスペースが無くてもキープ出来るし、限定されたコースを速いパスで通してもトラップが乱れないので、特に山口などは遠慮せずにどんどんパスを付けていた。
ガンバの方としては、一番怖いイニエスタに間でボールを受けられるのは嫌なので、「3」のブロックが中に絞る。そうなると外のスペースが空くので、神戸の方はSBの初瀬が外に張ったSHと中央のイニエスタの中間、ハーフスペースに顔を出したり、逆に初瀬がワイドに張って、ハーフスペースにSHが入る、というシーンも見られるようになった。
スタッツを見ると、この時間帯(31分~45分)の神戸はボール支配率65.2%、シュート数4本と攻め立てたが、同点に追いつくことは叶わず、前半はガンバの1点リードのまま終了となった。

続く後半。開始時点で動いてきたのはリードしているガンバの方だった。選手交代はなかったものの、布陣を5-3-2から4-4-2に変更。右WBだった小野瀬を右SH、左WBだった福田を左SB、左IHだった宇佐美を左SHとし、倉田と矢島の2ボランチとした。

ガンバ大阪フォーメーション(後半開始時点)
9
アデミウソン
18
パトリック
33
宇佐美
8
小野瀬
21
矢島
10
倉田
34
福田
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

この変更の意図は当然のことながら、前半の終盤に起こった状況への対策だと考えられる。つまり、中盤の3枚が広がるとイニエスタに中で受けられてしまう、逆にそれを警戒して絞り過ぎると外やハーフスペースが空く、ということなので、中盤の枚数を1枚増やして対処しよう、ということだったのかなと。
一方の神戸の方は、前半の途中で古橋が左SH、小川が右SHに変わったが、後半開始からはまた古橋が右、小川が左と、元に戻っていた。

ガンバの2点目が生まれたのは後半7分。ガンバ陣内、ガンバから見て右サイドからの神戸のFKのこぼれ球を逆サイドで神戸の右SB藤谷が拾ったが、ガンバの左SB福田が背後からボールにチャージ、こぼれたボールを宇佐美が回収して倉田にパス、倉田がドリブルを開始してガンバのカウンターが発動した。
神戸の方は、FKの時にピッチ中央に残していた山口、その左にFKのキッカーだったイニエスタ、山口の右にサンペール、この3人がボールより自陣側にいて、下がりながらカウンターに対応する形になった。この時、山口は自分の背後のスペースをイニエスタに任せ、ボールホルダーの倉田に少し寄せたのだが、山口とイニエスタの間に走り込もうとしていたのはパトリックとアデミウソンというスピードのある2人だったので、そこは任せず、と言うかいないものとして、下がりながら時間を作るべきだった。山口が倉田に寄せ、イニエスタがパトリックとアデミウソンに振り切られたため、山口の背後でこの2人がフリー。倉田からパトリックにパスが出て、パトリックがGK飯倉をかわしてシュートを決めた。飯倉からすると、山口が早めにアタックに出たことでカバーするエリアが広がってしまい、そのせいで飛び出した背後のスペースをパトリックに使われてしまったので、山口がもう少し我慢してくれていれば防げたかもしれない失点だった。
また、神戸は失点のきっかけとなったFKの時、右のキッカーとしてイニエスタ、左のキッカーとして初瀬が、並んで立っていた。サイドからのFKの時にキッカーに2枚使ってしまうと、中央が空きやすくなり、カウンターを受けやすくなる。その対策として、右SBの藤谷はPA内に入れずにスペースを守らせていたのだが、結果的に、彼の所で奪われてカウンターが始まったので、そこは皮肉な結果になってしまった。

さて、2点のビハインドとなった神戸だが、少し時計を巻き戻すと、後半開始の時点からビルドアップ時に山口をCBの間に落とすように変わっていた。前半の段階では、山口はCBの脇に下りることが多かったのだが、後半からは、山口をCBの間に落としてCBを広げ、イニエスタとサンペールがガンバの2トップの裏にポジションを取るようになった。想像なのだが、神戸のフィンク監督はガンバが後半も5-3-2で来るだろう、と考えていたのではないだろうか。相手が5-3-2の場合、味方のCBを広げると相手2トップの脇でボールが持てる。そして、CBが広がるとその分SBは高い位置を取れるので、両SBとイニエスタ、サンペールの4枚で相手中盤の3枚の両脇と間にポジションを取れる。

想定していた形
× × ×
× ×
× × ×
× ×

しかし実際には、後半開始からガンバは4-4-2に変えてきたので、中盤での数的優位が作れなくなった。

実際の形
× × × ×
× × × ×
× ×

ということで、フィンク監督は後半15分にサンペールを下げてFW田中順也を投入。ウェリントンと田中の2トップ、山口とイニエスタの2ボランチとした。相手の間を取るプランは崩れたので、ポジショニングで勝負するタイプのサンペールは捨て、前線の枚数を増やす、と言う選択だったように思う。更に、後半20分には小川を下げて増山朝陽を投入。増山はそのまま小川のいた左SH入った。

ヴィッセル神戸フォーメーション(後半20分以降)
17
ウェリントン
21
田中
20
増山
16
古橋
8
イニエスタ
5
山口
18
初瀬
25
大崎
33
ダンクレー
34
藤谷
18
飯倉

一方のガンバの方は、後半19分にFWパトリックを下げてボランチ遠藤を投入。遠藤と矢島の2ボランチとし、ボランチだった倉田を左SHに、左SHだった宇佐美をトップに変更した。

ガンバ大阪フォーメーション(後半19分以降)
9
アデミウソン
33
宇佐美
10
倉田
8
小野瀬
7
遠藤
21
矢島
34
福田
19
ヨングォン
5
三浦
27
高尾
1
東口

この交代の意図としては、倉田のボランチは運動量と言う意味では申し分ない一方、どうしても縦に早いサッカーになりがちなので、少し落ち着けたかった、と言うのが1つ。また、既に2点のリードがあるので、守備に不安のある宇佐美はトップに回して、サイドに倉田を置きたかった、と言うのがもう1つ。最後に、パトリックはガンバに移籍してくる前の広島ではサブとレギュラーの中間ぐらいの選手だったので、暑い中フル出場は厳しい、と言う判断もあったのかなと。パトリックのスプリント数は19回で、これはフル出場した選手を含め、ガンバで2番目に多い数字だった。
ただ、パトリックを下げたことで前線の起点になる力であったり、単純な高さであったりは失われてしまったので、下げるのはアデミウソンでも良かった気はする。

神戸の方は、4-2-3-1から4-4-2に変わったわけだが、パス回し的には寧ろ変更前より厳しくなった。2トップになったので、山口をCBの間に下ろすと中盤中央にはイニエスタ一人。ガンバの方はそこに2ボランチをつける。また、神戸のSHは相変わらずワイドに張っていることが多いので、神戸の方から見ると、ガンバのブロックの中にボールを入れるための選択肢が少ない状態だった。
ただ恐らく、これは折り込み済みだったのではないだろうか。2点負けている状態なので、なりふり構わず、デュエルや攻守の切り替えのスピード、セットプレーなどで、泥臭く競り勝って得点を奪いに行こう、そのために4-4-2で相手とマッチアップを合わせて、その代償として、自分たちのパス回しも窮屈になる点は許容しよう、と言うことだったのかなと。

そして、これは実際のところ効果的だった。
5-3-2だった時のガンバは、矢島を中心に各選手が斜めの関係でポジションを取れていた。また、戦い方自体も、5-3-2の時はパトリックとアデミウソンをサイドの深い位置に走らせてそこに長いボールを入れたり、3-1-6の形にして前線に一気にボールを入れたりと言った、ロングボールが主体だったので、細かいポジショニングが問題になることもなかった。しかし、4-4-2になって、ボールを落ち着ける、ショートパス主体で戦う、と言うことになると、そこが問題になる。特に、2CBと2ボランチのところが、最初の立ち位置のままだと斜めの関係にならないのでプレスを受けやすくなる。神戸が2トップにしてマッチアップを合わせて来ているので尚更である。また、パトリックがいた時はロングボールで彼にボールを逃がせたのだが、その選択肢も無くなっている。

後半27分には、ガンバのCB三浦に神戸の2トップがプレス、三浦から縦のボールを受けた遠藤に山口がプレス、と言う形で神戸が高い位置でボールを奪取し、山口がイニエスタにパス、イニエスタから古橋にボールが渡って、古橋がカットインしてシュートしたが左に外れる、と言うシーンがあった。ガンバはCBとボランチ両方が中央のレーンに縦に並んでいるので、ボランチからするとボールは背後から、相手のプレスは前から来る、と言う形になって、どうしても失いやすくなる。

ガンバの方は、後半29分、神戸のCKのタイミングで小野瀬を下げて、新加入の鈴木雄斗を投入。鈴木はボランチやWBとしてプレーできる、180cmの長身選手だが、パトリックが下がってセットプレーの守備で高さが減っていたので、そこを補うための投入だったと考えられる。鈴木はCKの守備ではゴール前中央のゾーンに入り、通常時のポジションでは小野瀬がいた右SHに入っていた。

そして後半31分、形としては前述の後半27分のシーンとよく似ていた。ガンバのCB、ボランチが縦ならびになったところを田中とウェリントンがCBに向けてプレス。三浦が矢島に縦パスを通すが、パスが僅かにずれて矢島がトラップできず、ボールを山口が回収してイニエスタへ。イニエスタは右サイド、ガンバのCBヨングォンとSB福田の間のスペースに走り込んだ古橋にスルーパス。ガンバの方は、絞って対応しようとした福田が、ペナルティエリア内で背後から古橋を引っ掛けてしまい、神戸にPKが与えられた。福田は古橋をヨングォンと共に前後から挟んで対応するような形になったのだが、こういう形になると間を抜けられて2人とも置いていかれたり、それを阻もうとして引っ掛けてしまったりと、DF側にとって悪い結果になることが多い。ヨングォンに対応させて、自分はヨングォンの背後をカバーするようにしたほうが良かった。
神戸の方は、このPKをイニエスタがキック。ガンバはGK東口がコースを読みきってシュートブロックしたのだが、跳ね返りのボールをイニエスタが拾い、もう一度シュート、これが決まって、神戸のビハインドは1点となった。
また、神戸の方はPKの後、右SB藤谷を下げて西大伍を投入。西は藤谷のいたポジションにそのまま入った。

ガンバはこの失点の後、もう一度3バック的なボール回しに戻したような、つまり三浦を中央に、その両脇に高尾とヨングォンを置くやり方に変えたような風にも見えたのだが、この時間帯あたりから、同点に追いつきたい神戸がイケイケになり、その分ガンバの方にもカウンターのチャンスが出来、ポゼッションどうこうよりも行ったり来たりの展開になってしまって、はっきりとは確認できなかった。

そして後半38分。このシーンもガンバが4バックにしたことが遠因になっていると思うのだが、まず神戸の左SH増山がボールを回収してイニエスタに預け、自らはガンバのSH、ボランチ、CB、SBの四角形の中間のスペースへ。シーズン当初から、4バックの時のガンバはこのスペースが空きがちである。増山がこのスペースでイニエスタからボールを引き出して外側を上がって来た初瀬に落とし、初瀬がクロス。しかしこのクロスは誰にも合わず、逆サイドの西に渡った。西は対応に出てきた倉田に対してワンフェイク入れ、ボールを体半分持ち出してファーサイドにクロス。神戸はファー側に起点となった増山と田中がいて、ガンバの方は右SB高尾がいたが、増山は田中と高尾、両方を吹き飛ばしながらヘディングシュート。これが決まって、神戸が同点に追いついた。

残りの時間帯は、完全に両チームともリスク覚悟で勝ち点3を奪いに行くという、カウンターの打ち合いのようなサッカーになってしまい、ガンバの方は、宮本監督の当初の采配の意図とは全く逆の展開になってしまった、と言う感じだった。結局、どちらのチームも追加点は奪えず、試合は2-2、引き分けでタイムアップとなった。

ガンバはどうしても、4バックで、パスを繋いで、と言うサッカーをしようとすると、守備でも攻撃でも立ち位置の悪さが見え隠れする。その悪癖と、神戸のマッチアップを合わせる戦術変更が噛み合わさって、途中まではガンバの勝利に向いていた流れを、神戸の方に持っていかれてしまった。恐らく、4バックにして遠藤を入れた後のサッカーが、ガンバが本来やりたいサッカーのはずで、そこをあくまでも求めていくのか、それとも前半の現実路線のサッカーに徹するのか、そこが大きな分かれ道になりそうである。