9番がいない。セレッソ大阪 VS ヴィッセル神戸 J1第1節

日時 2019年2月22日(金)19:30
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 1-0 セレッソ大阪勝利

2019年シーズンのJリーグ第一節、他のチームに先駆けてシーズンの幕開けを告げる金曜開催のカードは、セレッソ大阪とヴィッセル神戸の対戦となった。
ルーカス・ポドルスキ、アンドレス・イニエスタに続き、ダビド・ビジャまで獲得したヴィッセル神戸は、それだけで今シーズンの大きな耳目を集めるチーム。しかも、この日の対戦相手であるセレッソ大阪からは、2億円とも言われる移籍金を費やして、ボランチ山口蛍を獲得している。ユン監督退任のゴタゴタの中、生え抜きのゲームキャプテンを奪われたセレッソのサポーターの前で、イニエスタ、ビジャ、ポドルスキ、そして山口蛍がプレーする。否が応にも注目が集まるこの試合は、平日開催にも関わらず4万2000人もの観衆を集めてキックオフを迎えた。

セレッソ大阪フォーメーション
8
柿谷
10
清武
7
水沼
14
丸橋
11
ソウザ
25
奥埜
29
舩木
3
木本
22
ヨニッチ
23
山下
21
ジンヒョン

この試合のセレッソ大阪のフォーメーションは、柿谷曜一朗の1トップ、その下に清武弘嗣と水沼宏太の2シャドーを置く3-4-2-1。監督は、昨シーズン東京ヴェルディをJ1参入プレーオフまで導いたビルバオ人監督、ミゲル・アンヘル・ロティーナである。

ヴィッセル神戸フォーメーション
7
ビジャ
10
ポドルスキ
8
イニエスタ
14
三田
5
山口
24
三原
19
初瀬
3
渡部
25
大崎
22
西
18
スンギュ

一方のヴィッセル神戸のフォーメーションは、イニエスタをトップ下、その前、左ワイドにビジャ、右ワイドにポドルスキを置く4-3-1-2。右のIH(インサイドハーフ)に入った山口蛍は、試合を通じて、ホームのサポーターからの大ブーイングを浴びながらプレーすることとなった。

さて、この試合については書くべきことが多いので、前半のサッカーについては、神戸の攻撃の形、セレッソの守備の形、神戸の守備の形、そしてセレッソの攻撃の形、と言う風にカテゴリーを分けて先に整理をしておきたい。

神戸の攻撃の形

まず、神戸の攻撃の概要について。イニエスタ、ビジャ、ポドルスキとベテランが多い神戸は攻守の切り替えが連続するような、インテンシティの高い試合はしたくない、と言うチームなので、ボールを前から積極的に奪いに行く、ということはしない。また、自分たちがボールを持ったら急いで攻めることはせず、ゆっくり回しながら全体が押し上げる。唯一の例外は山口からのロングボールで、山口がCBの間に落ち、そこから右ワイドのポドルスキ、左ワイドのビジャに大きく展開するシーンが何度かあった。
また、神戸はトップ下のイニエスタはゴール前に入らず、ポドルスキとビジャはワイドな位置にいるので、初期状態ではゴール前、いわゆる9番のポジションに誰もいない。この前線の形は、2010-11シーズン、グアルディオラ監督の下でリーガとチャンピオンズリーグの2冠を達成した時のバルセロナの前線、ダビド・ビジャ、リオネル・メッシ、ペドロ・ロドリゲスの3トップを思い起こさせるが、メッシ役がイニエスタ、ペドロ役がポドルスキ、ビジャ役がビジャ本人、と考えると、イニエスタはメッシと違って9番の役割は出来ないので、そこが一番の違いである。9番のポジションは、ビジャやポドルスキがサイドからカットインして使うか、IHの三田が飛び込んで使う、もしくはSBの西や初瀬がサイドから中に入って使う、という風になっている。特に西は、神戸の攻撃時には本来のSBの位置にいるよりも、ポドルスキより前、ポドルスキより内側にいることの方が多いぐらいだった。GKスンギュからのロングボールも、ポドルスキではなく西が競っている、というシーンが複数回あった。

セレッソの守備の形

次に、セレッソの守備の形に付いて。ユンジョンファン監督からロティーナ監督に変わったセレッソは、守備のやり方について、かなりの変化が見受けられた。
セレッソの守備の形は、引いて守る時は5-4-1、そこから前にプレスを掛ける時は3-4-2-1の形に変わる。前者のリトリートした守備と後者の前からプレスに行く守備を状況に応じて切り替えながら守る、というのが大まかな形である。ただし、単純な数字の並びでは表現できない精密さがロティーナ監督のサッカーにはあり、ユンジョンファン監督が築いたゾーンディフェンスが4-4の2ラインの前に2トップを置く「ブロック」だとすると、ロティーナ監督のゾーンディフェンスは更に細かく、ボールにアタックする選手と、その背後のカバーに入る選手の三角形からなる「ピース」が構成単位になる。

例えば、前線からのプレスに関しては、下記のような考え方になる。

セレッソの守備の形1
18
25 3
8
22 24 19
10 7

カッコ付きの番号が神戸の選手の背番号、それ以外がセレッソの選手の背番号である。セレッソは上方向に攻めているものとする。神戸の左SB、19番の初瀬がボールを持つと、セレッソの7番水沼が初瀬に寄せ、その斜め前に8番柿谷、
柿谷の斜め後ろに10番清武と言う風に、三角形を保ってプレスを掛ける。そして、初瀬から3番のCB渡部、18番のGKスンギュとボールが下がると、下図のようになる。

セレッソの守備の形2
18
8
25 3
10 7
22 24 19

三角形を保ったまま、柿谷がスンギュにプレスを掛け、水沼と清武はCBにプレスを掛ける。また、この三角形は常にこの形ではなく、回転したり裏返ったりする。

セレッソの守備の形3
18
25 3
10 7
22 8 19
22 24 19

上記のように、柿谷がGKにプレスに行かず、アンカーの方を見る場合は、柿谷が底の位置で相手のアンカー、24番の三原を見て、その斜め前で清武と水沼が相手のCBを見る形になる。

一方、ボールを自陣に運ばれた場合。セレッソから見て右サイドから、相手の左SB、19番の初瀬がボールを持ち上がると、セレッソの方は舩木が対応する。

セレッソの守備の形4
10 *7
19
14 11 *25 29
14 7
3 22 *23

そして、初瀬から左ワイドの7番ビジャに縦にボールが出ると、下図のようになる。

セレッソの守備の形5
10
19
14 11 *7 29
14 7
3 22 *25 *23

右CB、23番の山下が対応に出て、25番、ボランチの奥埜が山下の位置に下りる。そして、7番の水沼が奥埜の位置に下りる。つまり、*印の付いた三角形が回転する。
このように、選手同士の三角形を最小構成単位として、この三角形が前後左右に動いたり、回転したり裏返ったりしながら、複雑なパズルのように守備を行うのが、ロティーナ監督のサッカーの特徴となる。

神戸の守備の形

一方の神戸の守備は、前線にビジャ、ポドルスキ、イニエスタを3トップ的に並べるところからスタートする。セレッソは奥埜とソウザがこの3人の間のスペースでボールを受けるのだが、神戸の前線の3人は、間のスペースを絞って埋めることはせず、間にボールが出た時はボールサイドのIH(山口か三田)が出てくる。つまり、4-2-4の形になって守る、と言うのが基本形だった。ただし、状況によってはIHが前に出て行く動きが間に合わないことが当然あり、その時にはセレッソのボランチが神戸の3トップの後ろでフリーになる。ただ、後述するように前半はセレッソの方がそのスペースを使うことに積極的ではなかったため、そこまで致命的な状況にはなっていなかった。

セレッソの攻撃の形

守備と同様、攻撃についても、ユンジョンファン監督からロティーナ監督に変わったセレッソは、大きくスタイルが変わっている。ユン監督の時にはどちらかと言うと繋ぎは最低限に、速めに前線に入れていくことが多かったのだが、新しいサッカーでは、後ろから丁寧に繋ぐスタイルに変わっていて、GKジンヒョンからのボールも、簡単に前線に長いボールを蹴るのではなく、最初の狙いは前に出てきた相手IHの裏、味方のシャドーの選手に向けて蹴る、と言う形で統一されていた。
ただし、つなぐと言っても前半のセレッソは極力安全志向で、サイドでボールを奪ったら同サイドで完結しようとする傾向が強かった。また、ポゼッションする場合も、攻撃時の最初の狙いはサイド。上述の通り、奥埜またはソウザが相手3トップの間に入ると神戸はIHが出てきて4-2-4のような形になるので、そこからソウザが4-2-4の「2」の横、神戸左SB初瀬の前にポジションを取った舩木に展開する、という形が複数回見られた。そして、舩木がボールを持ったら右シャドーの水沼が斜め前に抜け、舩木から縦パスを受ける。この形も何度も見られた。
一方、左サイドについては左WBの丸橋がワイドに、清武がその内側、いわゆるハーフスペースにポジションを取るのが基本形だが、清武が開いた時は丸橋がハーフスペースに入る、という形も頻繁にあった。恐らくこうした役割の交換、つまり流動性は、最終的にはピッチ上の全てで行いたいと考えているはずだが、この試合では清武と丸橋の間でのみ、こうした役割交換が行われていた。

前半の流れ

前半は基本的に、神戸がボールを支配してセレッソが守る、と言う展開だった。神戸の方はイニエスタが下がってボールに触り、ボールの周りで常に数的優位を作るので、セレッソとしてもなかなか奪いにいけない。ただ、ポドルスキとビジャがワイドに開いている状態でイニエスタがトップ下の位置から下がるということは、ゴール前、つまり9番の位置には人がいない、と言うことである。よって、神戸の方はボールを支配しているものの、決定機を迎えるシーン自体は少なかった。
前半15分には、ビジャがカットインし、バイタルエリアからシュートしたシーンがあった。左から中に入っていって、イニエスタに戻すと見せかけて更に切り返し、ペナルティアーク付近まで持ち込んでのミドルシュートだった。そして前半37分には、左SB初瀬がイニエスタとのワンツーで舩木のマークを剥がして左足でクロスを上げ、GKジンヒョンが弾いたが右SB西の前にボールが落ちてしまい、西がポドルスキに落としたが、ポドルスキに渡る前に丸橋がカットした、と言うシーンがあった。初瀬のクロスに飛び込んだのはビジャと、もう一人はIHの位置から走りこんだ三田だった。
前半の神戸の決定機はこの2つぐらい。15分のシーンはビジャが自分でボールを運んで9番の位置に入って行った、37分のシーンは三田が後ろから9番の位置に走り込んだ、と捉えることも出来、つまり神戸の方は、誰かがそこに入って行かないと、ホームポジションのままではゴール前に人がいない。実際、上記の2つのシーン以外では、ボールを運んでも中に人がいない、と言う状況が何度も見られた。

後半の流れ

後半に入ると、神戸の守備には変化が見られた。上で述べたように前半はビジャ、イニエスタ、ポドルスキの3枚を並べる、と言う対応、模式化すると下図のような並びだった。

前半の神戸の守備の形
23 22 3
7
ビジャ
25 8
イニエスタ
11 10
ポドルスキ
5
山口
14
三田
24
三原

つまり、前半はある程度セレッソの3バックにはボールを持たせても良い、と言う対応だったのだが、後半は、セレッソの山下、木本がボールを持った時には、ビジャとポドルスキが彼らに寄せるようになった。つまり、少しプレスの位置を上げて来た。

後半の神戸の守備の形
23 22 3
7
ビジャ
10
ポドルスキ
25 8
イニエスタ
11
14
三田
5
山口
24
三原

これに対してセレッソの方のボール回しも変化。1つは下図のように、清武が山口を引き付け、山口のスペースに左WBの丸橋が入ってくる、と言う形。

神戸の守備に対するセレッソの攻撃の形1
23 22 3
7
ビジャ
25 11 10
ポドルスキ
8
イニエスタ
14
14
三田
5
山口
24
三原
10

そしてもうひとつは下図のように、ボランチのソウザが前に上がって、奥埜、ソウザ、水沼の三角形でイニエスタの周囲で起点を作る、と言う形である。

神戸の守備に対するセレッソの攻撃の形2
23 22 3
7
ビジャ
25 10
ポドルスキ
7 8
イニエスタ
11
14
三田
5
山口
24
三原
10

前半のセレッソはリスク回避のため、中央は余り使わない、と言うボール回しだったのだが、後半は神戸の守備が変化したこと、そして、よりリスクを掛けて勝ち点3を取りに行こう、と言うことで、上記のようにより中央を使った攻撃が見られるようになった。
また、もう一つの変化としては、右サイドで舩木がボールを持ち、水沼が縦に抜けた時、水沼の空けたスペースに清武が入ってくるようになった。これも、よりボールサイドに人数を掛ける、ポジションを崩してリスクを掛ける、と言う変化だった。
一方の神戸の方は、上記の守備面を除けば、後半も余り大きな変化はなかった。そもそもスタメンの時点で守備面のリスクにはかなり目を瞑った構成なので、取れるリスクのマージンは多くない。時々、山口をCBの間に落として、CBが持ち上がる、と言うシーンがあったが、セレッソの方は、神戸のCBをシャドーが、IHをボランチが、SBをWBが、そしてビジャまたはポドルスキはCBの外側の選手が見る、と言う形で見ることが出来るので、ズレは起こらない。唯一、9番の位置に人がいない、と言う問題については、後半はボールが右サイドにある時にはビジャが中に入るようになっていた。ただ、ビジャが中に入っても枚数は1枚なので、状況としては「いない」から「足りない」に変わったと言うレベルだった。それを解消するために、神戸の方はゴール前にボールが入りそうな時はIHの位置から三田が走り込んで来るのだが、シュートで終われなかった場合、と言うかシュートで終われたとしても、三田はゴール前の位置から本来の守備位置まで長い距離を戻る必要があり、そこが遅れた場合、セレッソのシャドーやボランチに三田が空けたスペースを使われることになる。

上記のような変化により、後半はよりリスクを掛けるようになったセレッソにチャンスが多く生まれる展開に。後半8分には、柿谷がセレッソから見て左サイド、神戸のペナルティエリア脇で起点を作り、清武に落として自らは相手の左SB西・左CB大崎・アンカー三原の中間のスペースに移動、清武からソウザ、ソウザから前述のスペースに移動した柿谷と繋がって、柿谷が相手2CBの間にカットインすると同時に、水沼が右CB渡部の背後からDFライン裏に走り込む、と言うシーンがあった。水沼の走りはラインの裏へのラストパスを呼び込むと同時に、渡部を引き付けることで柿谷がカットインするスペースを空ける、と言う2つの意味合いがあったのだが、柿谷はどちらの選択も採らずにボールを切り返してしまい、潰されてしまった。そして後半12分には、上述の三田が上がった後、戻り切るまでスペースが空く、と言う状況が起こり、そのスペースで水沼がソウザからボールを受けて、山口の背後、渡部の前に走り込んだ清武にワンタッチでボールを落とすと、清武がドリブルで渡部を引き付け、もう一方のCB、大崎の前にポジションを取った柿谷にラストパス。柿谷が大崎との1対1からシュートを放つがGKスンギュにキャッチされる、と言うシーンがあった。

後半18分、セレッソは水沼を下げて、今シーズン、札幌から新たに獲得したFW都倉賢を投入。都倉は1トップの位置に入り、柿谷が水沼のいた右シャドーに回った。そして後半24分には清武を下げ、ブラジルのヴァスコ・ダ・ガマから獲得したアルゼンチン人ボランチ、レアンドロ・デサバトを投入した。デサバトはソウザのいた左ボランチのポジションに入り、ソウザが清武のいた左シャドーに入った。

セレッソ大阪フォーメーション(後半24分以降)
9
都倉
11
ソウザ
8
柿谷
14
丸橋
6
デサバト
25
奥埜
29
舩木
3
木本
22
ヨニッチ
23
山下
21
ジンヒョン

都倉の投入については、三田の裏が空きだしていたので、そこに柿谷を置いて、DFを背負える都倉を最前線に入れることで、柿谷と清武に前を向いて仕掛けさせたかったのかなと。後半21分には、清武が神戸のアンカー三原の背後から三原の前に移動してきて奥埜からのパスを受け、三田の前にいる柿谷に落として、柿谷が三原の裏、相手CBの前にいる都倉に縦パス、都倉が清武に落として、清武が大崎の背後に走り込んだ柿谷にラストパスを送ったが、大崎が何とか踵に当ててボールをカットした、と言うシーンがあった。
一方のデサバトについては、まず怪我明けの清武はフルタイム出場するのは難しいので下げないといけない、と言うのが一つと、後半は上述の通り、ソウザが相手のIHの前のスペースまでどんどん出て行っていたので、守備のリスク管理をしなければいけない、と言うのが一つ。また一方で、攻撃は上手く回り出していたので、その勢いは殺ぎたくない、ということもあり、それらを総合的に考えた結果、ソウザを前に上げてデサバトを入れる、と言う結論になったのかなと。

一方の神戸は、後半26分にアンカーの三原を下げてFW古橋亨梧を投入。古橋がイニエスタのいたトップ下に入り、イニエスタは左IHへ。三田が右IHになり、山口がアンカーに下がった。

ヴィッセル神戸フォーメーション(後半26分以降)
7
ビジャ
10
ポドルスキ
16
古橋
8
イニエスタ
14
三田
5
山口
19
初瀬
3
渡部
25
大崎
22
西
18
スンギュ

神戸のこの選択は、当然のことながら、「9番がいない」と言う問題への対応である。神戸から見て右サイドにボールがある時は、古橋とビジャがセレッソのDFライン上に立つことで、ゴール前には最低でも2枚の選手がいることになる。
そして、この交代采配の効果が現れるシーンはすぐにやってきた。後半29分、このシーンが恐らく、神戸がもっともセレッソのゴールに迫ったシーンだった。
神戸から見て右サイドは、既に書いたように西がポドルスキの内側にポジションを取ることが多かったのだが、このシーンではポドルスキの内側で西が三田からボールを受け、外側のポドルスキに落とした。ボールを受けたポドルスキは左足で横方向、つまり中央にドリブルし、逆サイドの初瀬にパス。そして初瀬が左足でクロスを上げたのだが、クロスに飛び込んだのは古橋と、右SBの西だった。クロスを西がヘディングしたが、丸橋が前に入られながらも辛うじて体を寄せ、強いヘディングをさせなかったのでGKジンヒョンがキャッチ出来た。ゴールエリアの手前、正面でのヘディングだったため、セレッソにとってはかなり危険なシーンだった。

一方、神戸の交代采配は、セレッソにもチャンスを運んできた。左IHが三田からイニエスタになったことで、イニエスタの裏、山口の脇にスペースが出来る。
後半30分、セレッソから見て右サイド、山口の脇のスペースで柿谷がソウザからボールを受けると、神戸は左CBの渡部が飛び出して柿谷に対応。柿谷は渡部が空けたスペースに入った都倉に縦パスを送り、都倉がソウザに落として、ソウザがペナルティエリア外から右足でミドルシュート。ボールはシュートコースに飛び込んだ大崎に当たって枠を外れ、セレッソのCKになった。
CKのキッカーは丸橋。セレッソから見て右サイドから、インスイングで蹴られたボールは、GKスンギュの前で飛び上がった木本の肩口に落ちて来た。木本に当たったボールはスンギュの体を越え、ファーポストの前の空間に落下。大外を回りこんだ山下が、マークに付いた三田を振りほどきながら、このボールを押し込んだ。

この得点が生まれる布石、と言うのはこの試合の中に幾つかあった。この試合、このCKまでに、セレッソが得たCKは合計3つ。時間で言うと、前半2分、11分、そして後半5分である。
この3回のCKのシーン、全てキッカーはソウザ。ペナルティエリア内に入るセレッソの選手の数は、前半2分と11分のシーンが4枚、後半5分のシーンに至っては3枚だけだった。しかし、この後半31分のCKのシーンでは、キッカーは丸橋。そしてペナルティエリア内には、これまでキッカー役だったソウザ、ヨニッチ、木本、柿谷、そして交代で入った都倉の5枚が入った。そして、3バックの3人の中で唯一、山下だけがペナルティエリアの外にポジションを取った。
一方神戸の方は、このCKのボールがセットされてから蹴られるまでの間に、一度役割分担を変えている。最初は柿谷に初瀬、木本に西、ヨニッチに大崎、都倉に渡部、ソウザに三田、そして山下に山口を付ける、と言う分担で守ろうとしていたのだが、ヨニッチと大崎がポジションの取り合いで激しくやりあい、審判が一度プレーを止めたタイミングで、ソウザのマークを山口、ヨニッチのマークを渡部、都倉のマークを大崎に変更。そして、ペナルティエリアの外にポジションを取った山下に対しては、ペナルティアーク上に立つ三田が、中に入って来るようなら見る、と言うポジションを取った。変えた理由は恐らく、ソウザの方が山下よりもゴールに近い位置にポジションを取っていたので、そこを三田に守らせるよりも、よりフィジカル的な競り合いに慣れている山口をソウザに付けた方が良い、と言うことだったのかなと。これまでの3回のセレッソのCKの中での三田の役割は、1回目はペナルティスポット横あたりに立つだけ、2回目はキッカーの前に立ってショートコーナーの場合の準備、3回目もペナルティスポットの横に立つだけ、と言う浮いた役割だったのだが、セレッソがペナルティエリア内に入れる人数を増やしたことで、これまでよりも重要な役割が回ってきたことになる。
そしてセレッソの方は、前半11分にはこのCKと同じような形、GKスンギュの前に落とすボールと言うのをソウザが狙っていて、後半5分のCKでは、ファーサイドのペナルティエリア外から山下が走り込む、と言う形も見せている。試合の序盤、中盤で試した形を、試合終盤の得点が欲しい時間帯ではより人数を掛けて行い、それが神戸の役割分担のズレを生んだ。完全に、セレッソの狙い通りのゴールだった。

リードを奪ったセレッソは、後半42分には足の攣った柿谷を下げ、松田陸を投入。松田の本職は右SBだが、ここでは柿谷のいた右シャドーに入った。
松田はファーストプレーでいきなりゴール前、丸橋からの横パスを受けると、ソウザに預けて自分は裏に抜け、ソウザのカットインのコースを作る、と言う動きを披露。後半45分には丸橋の自陣深い位置からのロングフィードを相手CB渡部の前で絶妙なトラップで収め、味方の上がりを待たずにミドルシュートを放つなど、短い時間の出場ではあったが、本職のFWと見紛うようなプレーだった。

試合はこのまま、1-0でタイムアップ。2019年シーズンのJリーグは、セレッソの勝利で幕を開けることになった。

セレッソの課題

試合を見た中で見えた、両チームの課題について書くと、セレッソの方は、左利きの右WB、舩木のカットインの形をもっと増やしたい。前半19分に、右サイドで舩木がボールを持ち、その内側に立った水沼が相手DFを引き連れて縦に抜ける、と言うシーンがあった。水沼が相手のDFを引き付けることで舩木が左足でカットインするコースを作ったわけだが、舩木はカットインせずに戻してしまった。少し勇気がないプレーだったと思う。たとえ失敗したとしても、チャレンジしないと課題は見えてこないし、もっと言うと、チャレンジできる機会はもう二度と来ないかもしれない。そう言う危機感と、自分なら出来る、と言う自分を信じる勇気と、その2つが舩木には必要だと思う。
一方守備面では、前半17分ぐらいに、水沼が相手左CBの渡部にプレスに行ったが渡部から左SB初瀬に展開される、というシーンがあった。セレッソの方は初瀬に対して舩木が出て、初瀬が舩木の裏のビジャに縦パスを入れると、ビジャに対しては右CBの山下が対応、という形で順番にズレて対応したのだが、山下がサイドに出たことで、山下のいたハーフスペースに三田が飛び込んできて、三田とビジャのワンツーでシュートを撃たれそうになった。前から嵌めに行く場合はこの対応でも良いと思うのだが、守備的に戦う場合はCBはなるべく動かしたくない。CBを動かさずに5バックを保つ場合は、相手のSBがオープンになってもWBは前に出ず、ボランチがサイドに出て対応し、ボランチが空けたスペースにシャドーもしくは1トップの選手が戻る方が良い(その方がシャドーの選手の動く距離が短くて済む)。17分のシーンの直後、18分に同じようなシーンがあり、その時は奥埜が初瀬に対応したのだが、水沼は奥埜が空けたスペースではなくサイドに戻ろうとしたので、そこは上記のように変えた方が良い。

神戸の課題

一方の神戸。試合後のインタビューでは、9番の位置に選手を置かない、と言う選択についての言及があった。

試合後、リージョ監督のコメント

Q:イニエスタ選手を最前線の真ん中で起用し、ビジャ選手とポドルスキ選手をゴールから遠いウィングで起用した意図を教えてください。

(略)チーム全体で目指していたのは、ビジャとポドルスキで相手の5人を引き付けるということです。その上で、イニエスタに関してはトップではプレーしていないのですが、相手のセンターバックからより遠くでプレーさせることで、相手のセンターバックは常に両サイドからビジャやポドルスキが裏を狙ってくるという恐怖にさらされながら、どうやってイニエスタに対応するか反応を見ながらプレーするのが今日の狙いでした。そういったプレーをすると、だんだん攻撃のベクトルが中央に向かっていき、相手も中央に集まってきます。そうすると、結果的にチャンスを作っていたのは誰かというと、初瀬や西が外から現れたときが実際にチャンスができていたシーンです。西に関しては決定的なヘディングシュートもありましたが、シュートまで到達できていました。

上記を見ると、9番の位置に選手を置かない、と言うのは意図的なものであったと。そして、SBの初瀬や西が外から中に入っていくことでチャンスを作る、と言う点については、実際に試合中に起こっていたことと一致している。この試合の神戸の最大のチャンスは、ハーフスペースに入ってきた初瀬のクロスに、ゴール前で西が飛び込む、と言う形から生まれている。SBの2名だけでなく、IHの三田も、試合を通じて何度もゴール前に飛び込んでいた。
しかし、9番の位置に西や初瀬、三田が入る、と言うのは良いとして、それをした後、彼らが自分のポジションに戻るまで、3トップの選手が彼らの代わりを務めるかと言うと、恐らくイニエスタは三田の代わりを務めると思うが、ビジャやポドルスキがSBの仕事をするか、と言うとしないので、問題はそこではないだろうか。上述の、西が最大のチャンスを迎えたシーンでも、その直後に神戸は西の上がったスペースを使われてソウザに危険なシュートを撃たれている。やはり、9番がいない、と言う問題を解決するために、SBの選手をそこに飛び込ませるよりも、もっとシンプルに、ボールが左にある時にはポドルスキが9番の位置に入る、右にある時にはビジャが9番の位置に入る、と言う方が良い。特に、ポドルスキの方は試合を通じて、ペナルティエリアの中に入って来ることが殆どなかったので、そこは修正点だと思う。
勿論、更に単純に、ストライカータイプの選手をトップ下に入れれば良い、イニエスタはIHにすれば良い、と言う考え方もある。この試合で古橋を投入したのはそれだった。しかし、イニエスタがIHに入ると、彼の裏、アンカーの脇がどうしても空きやすくなってしまう。この試合の失点の遠因もそこだったので、そう言う選択は最後の手段、と言うことになると思う。
また、神戸は山口と三原がアンカーの役割を交代しながらプレーする感じだったのだが、山口がアンカーに入った時の方が守備のカバーや攻撃時の配球は安定していたように見えたので、山口をアンカーにして、IHには9番的なプレーができる選手、イメージで言うとフェライニやポグバのような選手を入れた方が良い気がする。タイプ的には郷家がそれに近いのではないだろうか。この試合では三田が9番の位置に入って行くことが多かったが、クロスに対して三田が競り負けてしまったり、そもそも味方が三田へのクロスを選択しない、と言うシーンが再三見られた。恐らく味方の選手から見ても、三田はそう言うタイプではない、ということなのだと思う。三田は間違いなく良い選手なので、そこは強調しておきたいが。

山口と柿谷

山口が移籍するにあたって、友人である柿谷と相当揉めたであろうことは想像に難くない。
前半41分には、柿谷が山口に対して後ろからタックルしてファウル気味にプレーを阻害するシーンがあった。柿谷はどちらかと言うとスマートに守備をしたがるタイプなので、このシーンは両者の因縁を感じさせるシーンだった。そして後半25分には、都倉の落しを受けた柿谷を山口が止めに行ったが、柿谷がメイア・ルア(いわゆる裏街道)で山口を抜き去って都倉にラストパスを送る、と言うシーンがあった。この二人は同じチームにいるよりも、お互いライバルでいた方が成長できるのかもしれない。
そして、セレッソの先制点が決まった直後に映った山口の表情。
セレッソを出てプレーする姿を見て改めて思うが、やはり良い選手だなと。山口がセレッソの攻撃を水際で防いだシーンは何度もあり、間違いなく神戸の守備を一つ上のレベルに上げていたと思う。セレッソにいた時以上に、神戸では山口の守備が試合の行方を左右すると思うので、それは山口にとっても成長のチャンスになる筈である。

最後に

セレッソも神戸も、お互いが相手だったからこそ接戦になった、とも言える試合だった。どちらも構築途中で危うさのあるチームなので、まずは自分たちのサッカーをしっかり確認しながら戦う、という感じだった。これが、昇格組とか湘南のような、相手の嫌がるプレーをガンガンやってやろう、みたいなチームが相手だったら、セレッソも神戸も、あっさり大敗してしまいそうな危うさがまだある。安定した強さを発揮できるチームになれるかどうか。それを占うシーズンが、この2チームには待っている。

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