川崎の新たな武器。川崎フロンターレ VS 浦和レッズ ゼロックススーパーカップ

日時 2019年2月16日(土)13:35
試合会場 埼玉スタジアム2002
試合結果 1-0 川崎フロンターレ勝利

Jリーグのシーズン開幕を告げるゼロックススーパーカップ、今年、2019年のカードは、昨シーズンのJリーグ王者、川崎フロンターレと、天皇杯王者の浦和レッズの対戦。試合結果は1-0で川崎の勝利と、スコア的には最小得失点差だったが、内容についてはスコア以上に川崎に分のあった試合だった。

川崎フロンターレ フォーメーション
9
Lダミアン
41
家長
14
中村
11
小林
10
大島
6
守田
7
車屋
5
谷口
3
奈良
26
マギーニョ
1
ソンリョン

この試合の川崎フロンターレのフォーメーションは、新加入のレアンドロ・ダミアンを1トップに置く4-2-3-1。川崎は昨シーズンを最後に、これまで右SBのレギュラーを務めていたエウシーニョが退団(清水エスパルスに移籍)したが、彼のいたポジションには新加入のブラジル人、マギーニョが入った。

浦和レッズフォーメーション
30
興梠
14
杉本
10
柏木
7
長澤
3
宇賀神
8
エヴェルトン
27
橋岡
5
槙野
2
マウリシオ
31
岩波
1
西川

一方、浦和レッズのフォーメーションは、新加入の杉本健勇(セレッソ大阪から獲得)と興梠慎三を2トップに置く5-3-2。アンカーに入ったエヴェルトンも、FCポルトから獲得した新加入選手である(期限付き移籍中だったため、直前の所属はポルティモネンセ)。

さて、まずこの試合の両チームの大まかな方向性について書くと、浦和の方は、川崎にボールを持たせながら守るのが基本方針、一方で川崎の方は、浦和にボールを持たせない、相手ボールになったらすぐに奪い返す、というのが基本方針だった。
下記は浦和側から見た時の両チームのマッチアップだが、浦和がボールを持った時、川崎の方は浦和の3バックに両SHと1トップ(小林と家長とレアンドロ・ダミアン)がプレスに行き、アンカーのエヴェルトンにはトップ下の中村が、IHの長澤と柏木には2ボランチの大島と守田が、そしてWBの宇賀神と橋岡には両SBのマギーニョと車屋が、と言った形でマッチアップを合わせて前から奪いに来る。

浦和側から見たマッチアップ(攻撃時)
3 5
30
興梠
14
杉本
6 10
26 10
柏木
14 7
長澤
7
3
宇賀神
8
エヴェルトン
27
橋岡
11 9 41
5
槙野
2
マウリシオ
31
岩波

前半の浦和は、この前から奪いに来る川崎の守備に対して、槙野がサイドに開いて、エヴェルトンがマウリシオと槙野の間に下りたり、同じ位置に柏木が下りたりしてマッチアップをずらそうとしていたのだが、下りたエヴェルトンがボールを捌いた後、また元のポジションに戻ってしまってプレスに捕まってしまったり、柏木が下りたのにDFが前に蹴ってしまったり、逆に、柏木が前を向いてボールを持った時に、裏に走っている前線に出さずに下げてしまったりと、繋ぐのか早めに前に入れるのか、はっきりと方針が定まっていない感じだった。
浦和の方は、長いボールを入れる時はサイドに、という形と、WBがボールを持ったら(川崎のSBがWBの対応に出てくるので)IHは川崎のSBの裏に走る、という形、この2つを何度も見せていたので、サイドを起点に、ということを狙っていたのだと思うが、この日の浦和のWBとIHのうち、起点になれる力が強いのは長澤ぐらいだし、WBがボールを受ける状況も、既に川崎側にボールのコースが限定された中で、後ろから来るボールであったり、最終ラインからの長いボールであったりを受けないといけない、という状況なので、起点を作る前にサイドで潰されてしまう、ボールがタッチを割ってしまう、というシーンが多くあった。
寧ろ、この日の前線には杉本がいたので、彼をサイドに張らせてそこで起点を作らせるとか、彼にロングボールを入れると同時に興梠を走らせて、杉本の落しから興梠に川崎のDFラインの裏を取らせるとか、長いボールを使うのであれば杉本を中心に攻撃を考えた方が良かったのではないだろうか。前半19分には、GK西川のパントキックを杉本が奈良に競り勝って興梠に落とし、興梠から柏木、柏木から宇賀神に展開して、宇賀神のクロスが相手に当たってCKになる、と言うシーンがあった。また前半35分には、浦和の最終ラインの岩波からのロングボールを杉本が谷口と競り合い、ボールが浦和の最終ラインの裏に落ちて、橋岡が裏を取れそうだったのだが、車屋がボールをクリアした、というシーンがあった。更に前半38分には、浦和のゴールキックに対して杉本が川崎の中盤まで引いてきてヘディングし、背後の興梠に落とす、というシーンがあった。浦和の方は、長いボールが杉本に向いた時はチャンスになりかけていたのだが、そもそもボールがそちらに向いていること自体が少なく、何のために杉本を獲得したのか、と思わざるを得なかった。

一方、浦和が守備に回った時について(実際にはこの時間の方がずっと長かった)。
最初に書いたとおり、浦和の方は川崎にボールを持たせながら守るのが基本方針なので、川崎ボールになったら前から奪いに行くことはせず、最前線をハーフウェーライン付近に設定し、引いて守る形を取る。そして、川崎の方は自分たちのボールになるとボランチの1枚を最終ラインに落としてボランチが縦関係になる。図示すると下記のようなマッチアップになる。

浦和側から見たマッチアップ(守備時)
3 6 5
30
興梠
14
杉本
7
10
26 *14 *41
3
宇賀神
10
柏木
7
長澤
27
橋岡
11 8
エヴェルトン
9
5
槙野
2
マウリシオ
31
岩波

川崎はボールを保持した時にはかなり流動的にポジションを変えるチームなので、上記はあくまでも傾向的なものなのだが、特に上記の図の中で*印を付けた14番と41番、つまり中村と家長は、同じ場所に留まっていることは殆どなく、最終ラインから中盤、最前線まで、自由にポジションを取る。
川崎のポジショニングの流動性には一つの法則があって、中村、家長がまずボールを受けに動き、それに合わせて周りがポジションを取りなおす、と言う順番になっている。例えば家長が左CBの谷口の脇に下りると、左SBの車屋は開いて高い位置を取る。中村がCBの間に下りると、両CBの谷口と奈良はサイドに広がって、2ボランチは前に上がる、と言う具合である。この二人はボールを持つと悪い奪われ方をすることがまず無いので、そこを信頼することで周りがポジションを崩せるようになっている。
浦和の方は、こうした川崎の流動的なボール保持に対して、上述の通り引いて守りながら対応する形を取っていたのだが、守り方の基本はゾーンではなくマンツーマンで、流動的に動く川崎の選手を、その都度受け渡しながら守る、という感じだったので、どうしても振り回される守備になってしまう。特に、5-3-2の「3」の部分が人に付いて行き過ぎると、一番肝心なバイタルのスペースや、バイタルへのパスコースが空いてしまう。この試合では、川崎の最終ラインやボランチから、最前線のレアンドロ・ダミアンにグラウンダーの長い縦パスが通る、と言うシーンが何度かあった。

浦和の方から見ると、自分たちがボールを持った時には川崎の方がマッチアップを合わせて来て、すぐに奪われてしまう。そして相手ボールになったら今度はマッチアップをずらされてなかなか奪い返せない。更に、これが大事な点だが、川崎の方は攻撃でポジションを崩した状態から、守備の状態に戻る切り替えが非常に速い。そうなると当然、川崎が試合を支配することになる。

後半に入ると、浦和は杉本を下げてナバウト、エヴェルトンを下げて阿部勇樹を投入。両者はどちらも前任者と同じポジションに入った。この試合は交代枠が5人まで認められているので、浦和のオリヴェイラ監督としては、この交替は戦術的な交代というよりも、杉本とエヴェルトンという新加入選手がスタメンでどこまで出来るかは見れたので、後半は違う選手を、と言う意味での交代だったのかなと。
ただ、この交替によって浦和のサッカーが好転したかと言うとそう言うことは無く、寧ろ少し悪くなった感じだった。
まずナバウトについては前からの守備の時に相方の興梠との間を締める、という意識が薄く、2人の間、もしくは背後に立った川崎の選手へのパスコースを切れていない、というシーンが多かった。
一方の阿部は、攻撃の時はアンカーのポジションに留まらずに積極的に前へ、という動きを見せていて、これは恐らく監督の指示だったと思うのだが、守備に関しては、エヴェルトンより更に2トップのそばでプレーするようになっていて、これはナバウトと興梠のところでコースを切れていないので前に出て対応せざるを得なかったのか、それとも意図的にそうしていたのか、ちょっと分からなかった。ただ、阿部がアンカーのポジションから出て行くことが多くなると、浦和の方はどうしてもバイタルのスペースが前半以上に空きやすくなるので、よりリスクの高い状態になっていたのは間違いない。
また、浦和の方は後半は柏木を最終ラインに落とす、というやり方はしなくなっていたので、恐らく、ボールを保持するよりも早めに長いボールを入れていく、という形で統一されたのかなと。

一方の川崎の方は、前半で試合の主導権は握ったので、後半はより前がかりに。前半はどちらかというと右のマギーニョが上がる分、左の車屋は余り高い位置を取らなかったのだが、後半は車屋も高い位置を頻繁に取るようになった。
それに対して浦和の方は興梠も引いてきて、実質5-4-1のような形になる。
そして後半6分、ここで浦和は失点してしまったのだが、流れとしては、小林の引いて行く動きで槙野が最終ラインから釣り出される、レアンドロ・ダミアンが槙野が空けたスペースに動く、槙野がポジションに戻るが間に合わず、家長からのクロスをダミアンにヘディングで落とされる、このボールを中村がトラップしようとするが乱れてルーズボールになる、弾んだボールをダミアンが左足で叩いてファーに突き刺してゴール、という流れだった。
浦和の失点の要因としては、槙野のDFラインから出てまた戻る、という動きが遅かったのが一つ。そして、レアンドロ・ダミアンを最初見ていたのはマウリシオだったのだが、放してしまったのは、マウリシオの前方に中村が走り込んだから。中村を最初見ていたのは阿部だったので、阿部が最後まで付いて行くべきだった。
あと、槙野に関してはレアンドロ・ダミアンがシュート体勢に入った時のブロックの入り方も良くなかった。シュートに対して正面に入ってしまったのだが、もっとはっきりと、ファー側もしくはニア側を切るべきだった。GK西川からすると、槙野の両脇、ニア側もファー側もシュートコースがある状態だったので、一旦ニアに動いて、ファー側のシュートに間に合わず、という結果になってしまった。

失点後の浦和は、同点に追いつくためにボールを積極的に取り返しに行こうとする選手と、これまでと同じようにやろうとする選手とで意思統一が崩れてしまい、また上述のように、阿部がアンカーのポジションから離れることが多いので、ライン間が空いてしまってそこを使われる、という前後分断的な守備に。
浦和は後半20分には、長澤を下げて柴戸を、橋岡を下げて新加入の山中を入れ、山中を左のWBとし、宇賀神を右WBに回して、この時間帯ぐらいからは、引いて守るのではなく、どんどん前から追いかける形に変えた。

浦和レッズフォーメーション(後半21分以降)
30
興梠
19
ナバウト
10
柏木
29
柴戸
6
山中
22
阿部
3
宇賀神
5
槙野
2
マウリシオ
31
岩波
1
西川

一方の川崎は、後半24分にマギーニョを下げて新加入の馬渡を、そして中村を下げて斎藤学を投入。馬渡はそのまま、マギーニョのいた右SBに、斎藤は左SHに入って、家長がトップ下に回った。

川崎フロンターレ フォーメーション(後半24分以降)
9
Lダミアン
19
斎藤
41
家長
11
小林
10
大島
6
守田
7
車屋
5
谷口
3
奈良
17
馬渡
1
ソンリョン

浦和の方はマンツーマン的な守備なので、そもそも前から追うやり方の方が合っている、ということと、斎藤を入れた後の川崎は、引いて守って、斎藤のドリブルを活かしてカウンター、という形に変えたので、この時間帯ぐらいからは徐々に浦和の方も攻撃時に押し込む形も見せるようになった。ただ、同じぐらいかそれ以上に、カウンターで危険なシーンを迎えてもいたが。

試合は結局このまま、1-0でタイムアップ。2019年のゼロックススーパーカップの勝者は川崎フロンターレとなった。

この試合は、両者にとって位置づけの異なる試合ではあった。
川崎はリーグ戦は2連覇を果たしたものの、カップ戦ではいまだタイトルなし。つまり、この一発勝負のゼロックスの舞台は川崎にとって、今後、カップ戦の舞台で結果を出せるかどうかを占う場だった。一方の浦和にとっては、あくまでもプレシーズンマッチの一環、という感じだった。
ただそういう部分を加味しても、やはり浦和の戦い方はあまり良くなかったなと。守備的に戦う時に、守備一辺倒にならないためには、やはりロングボールで高い位置に起点を作り直せるか、という点が重要で、浦和はそこの精度や狙いが悪かった。また、川崎のように流動的にポジションを変えるチームに対して引いて守るのであれば、ゾーン的に守ったほうが良い。

一方の川崎に目を向けると、一昨シーズンのセレッソとのルヴァンカップ決勝や、昨シーズンの32節のセレッソ戦のように、引いてブロックを作ってゾーンで守るチームを相手にした時は苦しむ傾向にあった。
川崎はブロックを作って守るチームに対しては、SBを高い位置に上げて外からのクロス、というのが最初の狙いになるのだが、そう言うクロスのターゲットになれる選手が、これまでは知念ぐらいしかいなかった。そこに、今シーズンはレアンドロ・ダミアンというターゲットが加わったので、これは大きな上積みである。この試合の決勝点も、家長のクロスをレアンドロ・ダミアンに合わせたところから生まれているし、右の小林からのクロスが合いそうだったシーンも何度かあった。合わなかった理由も、少し遅くてオフサイドになってしまったり、レアンドロ・ダミアンは前に入ったがクロスはファーに上がってしまったり、という意識合わせの部分なので、合ってくるとかなり脅威になりそうである。また、ポストプレーヤーとしてもかなり光るプレーを見せていて、そこも大きな武器である。
不安材料については、寧ろ、この試合の選手のパフォーマンスが良すぎた、という点。これまでの川崎はどちらかというとスロースターターのイメージで、シーズン後半に上げてくる、という感じだったのだが、今シーズンは既に相当仕上がっている。それは一つ上のレベルになった、ということなのか、それとも、シーズンのどこかで落ちるタイミングが来るのか。この点については、シーズンの終わりに答えが分かることになる。