手探りの神戸、猛攻の川崎。J1第30節 川崎フロンターレ VS ヴィッセル神戸

日時 2018年10月20日(土)19:00
試合会場 等々力陸上競技場
試合結果 5-3 川崎フロンターレ勝利

今シーズン、FCバルセロナからアンドレス・イニエスタを獲得したヴィッセル神戸と、現時点でJ1首位を走っている川崎フロンターレの対戦。否が応にも注目が集まるカードだったが、試合は5-3で川崎が勝利。川崎の先制、神戸の逆転、川崎の再逆転と揺れ動いたゲーム内容ではあったが、最終的には川崎が神戸を突き放した格好となった。

川崎フロンターレ フォーメーション
11
小林
20
知念
37
斉藤
41
家長
10
大島
14
中村
2
登里
5
谷口
3
奈良
18
エウシーニョ
1
ソンリョン

この試合、開始時点の川崎フロンターレのフォーメーションは、小林悠と知念慶を2トップに置く4-4-2。ただし、この形で戦ったのは前半28分までだったので、その点については後述する。なお、川崎は主力メンバーのうち、SHの阿部浩之が前節鹿島戦のレッドカードにより出場停止、同じ試合でボランチの守田英正もイエローを受け、こちらは累積警告により出場停止である。

ヴィッセル神戸フォーメーション
16
古橋
17
ウェリントン
10
ポドルスキ
8
イニエスタ
7
三田
14
藤田
22
橋本
2
那須
25
大崎
34
藤谷
18
スンギュ

一方のヴィッセル神戸は、古橋亨梧とウェリントンの2トップ、トップ下にポドルスキ、IH(インサイドハーフ)にイニエスタと三田啓貴、アンカーに藤田直之という4-3-1-2で試合に入ってきた。ただしこちらも、試合の中で何度かフォーメーション変更があり、この点についても後述する。神戸のほうも出場停止選手が2名おり、前節長崎戦でレッドカードを受けた左SBのティーラトン、そしてイエローを受けて累積に達した右SBの三原雅俊がそれぞれ出場停止である。
なお神戸は、シーズン途中で吉田孝行監督を解任し、ポジショナルプレーの教祖的な存在であるフアン・マヌエル・リージョ監督を招聘している。この試合はリージョ監督就任後、2つ目の試合となる。

まず最初に、この試合開始時点の両チームの狙いから。
どちらのチームとも、自分たちでボールを支配しようとするタイプのチームなので、当然ボールを運ぶ形を持っている。そして、自分たちでボールを支配するということは、相手からすばやくボールを奪い返す必要がある、ということなので、前からプレスに行く形も準備されていた。更に、お互い相手が前から奪いに来るだろう、ということもわかっているので、相手の前からのプレスをどうやって剥がすか、という部分についても準備されていた。

川崎のほうは、ポゼッション時にはボランチの2枚が縦関係になって、後ろ側にいるボランチがCBからボールを受けて展開するところからパス回しが始まる。神戸のほうがトップ下にポドルスキを配置したのはこのためで、2トップで川崎の2CBを、トップ下のところで川崎の下がってくるほうのボランチを見る、つまり数的同数に持ち込んでハメこむプレスの形になっていた。川崎はこの神戸の前からのプレスを回避するため、試合序盤は後ろのほうのボランチをCBの間まで下げて3バックの形にする、という対策を行っていて、3バック+前のボランチの4枚で神戸の2トップ+トップ下の3枚に対して数的優位を作る、そこからワイドの高い位置を取ったSBに展開する、という順番で神戸のプレスを迂回していた。
そして、プレスを迂回したあとの川崎の攻撃の狙いは、神戸の3ボランチの端のポイント。ここに向かって右SBのエウシーニョがドリブルで仕掛けるのだが、これは抜き去るための仕掛けではなく、神戸の3ボランチの端の選手をエウシーニョの対応に引き付けるための仕掛けである(こう言う、仕掛けによって相手のポジションを固定してしまうプレーのことを「ピン止め」と言う)。
神戸は3ボランチのうち、真ん中の選手はバイタルを埋める役割があるので、あまり前には出て行けない。よって、SBで3ボランチのボールサイドの選手をピン止めし、そこに川崎のボランチ(主に中村)がフォローに上がってくることで、川崎は神戸の3ボランチの前で起点を作ることが出来ていた。また、SBが中に仕掛ける分、SHは幅を取るようになっていて、SBの仕掛けで詰まったら一旦幅を取ったSHにボールを逃がし、今度はSHが中に仕掛ける、という役割の入れ替えもスムーズだった。
更に、中に入っていくSBは攻撃から守備に切り替わったときはファーストディフェンダーの役割を担うようにもなっていて、川崎がボールを失った瞬間、エウシーニョ、もしくは逆サイドの登里がすばやくプレスをかけてボールを奪い返し、2次攻撃につなげる、というプレーが何度か見られた。

一方の神戸のほうは、アンカーの藤田のところからパス回しを始めるのが攻撃の基本形。神戸は「バルセロナのようなパスサッカー」を目指しているチームで、そのための方法論として「ポジショナルプレー」を実践しようとしている。リージョ監督を招聘したのも、彼がその第一人者だからである。ポジショナルプレーの詳細な説明はここでは割愛するが、簡単に言えば「相手に対して優位に立てるポジションを取ろう」というものであり、パス回しの局面では「ボールホルダーに複数のパスコースが出来るようなポジションを取る」「相手の守備の間にポジションを取る」と言うのが基本形になる。具体的に言うと、神戸のパス回しが始まる時のポジショニングは、一番後ろにCBの2枚、その前に両SBとアンカーの藤田、その更に前にIHのイニエスタと三田がいる、という2-3-2のような形が基本形である。この形になることで、SB以外の選手には、必ず斜め前に2つのパスコースがあることになる。またこの時、アンカーは相手2トップとボランチの間、IHは相手ボランチとSHの間にポジションを取って、相手の間でパスを受けられるように準備する。
上記の神戸の基本形は川崎側も当然把握していて、まず最初に消しにいくのは2-3-2の中央にいる藤田のところである。2トップの片方が藤田に対してプレスをかけ、ボールをCBに下げさせると、今度は藤田とCBの間のパスコース上を通ってCBにプレスを掛けに行く。2トップの2枚で神戸の2CB+アンカーを見ないといけないので、アンカーを放す時にはそこへのコースを切りながら。これはFWが前からプレスに行く時の基本である。
神戸の方は、この川崎のプレスに対して、GKまでボールを戻した後、CBがワイドに広がる。川崎の2トップが広がったCBに付いて行くとアンカーの藤田が空くし、付いて行かなければCBが空く、という寸法になっている。
また、神戸の方は相手の前からのプレスを剥がせない場合はロングボール、という形も持っていて、前線のウェリントンはフィジカルの強さ、空中戦の強さがある選手なので、そう言うボールを収めたり、競り合いに勝って味方に落としたり、というプレーが期待されている。また、相方の古橋も、ロングボールが出て来そうな時は川崎のSBの裏に走ってそこで起点になったり、ウェリントンの近くに寄って落しを受けようとしたりと、精力的にボールを引き出していた。
ただ、神戸の方は上記のメソッドで川崎の前からのプレスを剥がすところまでは出来ていたのだが、そこから攻撃に仕掛かった時の形は川崎と比べると未整備な感じで、前線の選手同士でポジションが被って渋滞してしまう、というシーンも見受けられた。

試合は前半13分、川崎が小林悠のPKで先制したが、後半15分には川崎のゴール前でSBエウシーニョのクリアがCB奈良の背中に当たってゴールに入ってしまい、オウンゴールで同点に。更に神戸は28分に古橋のペナルティエリア外からのスーパーミドルで逆転に成功した。
神戸の2点目のシーン、川崎の方は、中村憲剛がバイタルを埋めておらず、実質DFラインの1列で守っている状態になっていて、ポドルスキから古橋への、バイタルを横切るパスを簡単に許してしまったので、中村のポジショニングミスも失点の一因だったと思う。

そして、この失点の後、川崎の方はフォーメーションを変えてきて、右SHだった家長がトップ下、2トップの一角だった小林が右SHに入る、4-2-3-1の形になった。

川崎フロンターレ フォーメーション(前半28分以降)
20
知念
37
斉藤
41
家長
11
小林
10
大島
14
中村
2
登里
5
谷口
3
奈良
18
エウシーニョ
1
ソンリョン

トップ下に入った家長は、攻撃時にはフリーマンのような役割で、組み立ての時にはボランチのところまで下りてきたり、神戸のディフェンスの間に立ったりと、ボール回しをスムーズにする役割を担っていた。川崎の方としては、神戸の前からのプレスを剥がす方法として、上述の通りボランチを最終ラインに落とし、CBを開かせる方法を採っていたのだが、それだと守備に切り替わった時にリスクがあるので、より単純に、組み立て時には家長をヘルプに下ろす、というやり方に変えた。また、この方法にはもう一つメリットがあって、家長が低い位置でボールを触って、そこでボールを落ち着かせてまたスルスルと前線に上がって行くと、神戸の選手に補足されずにフリーになりやすい。
逆に神戸の方は、家長が下りてくることによって前からのプレスでハメられない、更にその後の家長の動きを捕まえられない、という状態になり、徐々に押し込まれる展開に。トップのウェリントンがサイドの低い位置まで下りて守備を助けることでしのいでいた。

しかし、次の得点を奪ったのは神戸だった。前半34分、カウンターでポドルスキが左サイドをドリブルで持ち上がり、右サイドを上がった三田にサイドチェンジ。ボールを受けた三田がペナルティエリア角に持ち込んで左足でファーサイドにシュート、これが見事に決まった。シュートの瞬間、三田の正面に立っていたのは登里だったが、3~4メートルぐらい間を空けていたので、ちょっとフリーにしすぎだったかなと。それと、ドリブルを始めたポドルスキにスライディングで飛び込んで交わされたのは多分奈良だったと思うのだが、ポドルスキはそれ程スピードのある選手では無いし、ボールの位置もまだ神戸陣内だったので、一か八かで飛び込むようなシーンでは無かったと思う。並走しながら遅らせれば十分対応出来たはずだった。

2点のリードとなった神戸は前半39分、リージョ監督から指示が出て、布陣を変更。2トップに入っていた古橋が左SHに下りて、ボランチがイニエスタと藤田、右SHが三田、前線がウェリントンとポドルスキの2トップと言う4-4-2の形になった。

ヴィッセル神戸フォーメーション(前半39分以降)
10
ポドルスキ
17
ウェリントン
16
古橋
8
イニエスタ
14
藤田
7
三田
22
橋本
2
那須
25
大崎
34
藤谷
18
スンギュ

上述の通り神戸は、家長のポジション変更を機に押し込まれる時間が続いていて、ウェリントンがサイドに下りて守備を助けていたのだが、彼は神戸にとっては川崎の前からのプレスを回避するためのロングボールのターゲットなので、前にいてくれないと困る、ということでの布陣変更だったと思う。また、川崎の狙いはSBエウシーニョによる神戸のIHのピン止め、それによって中村憲剛や大島を中盤高い位置でフリーにして配球、という物だったので、古橋を左に落としてエウシーニョに対応させて、その狙いを防ぐ、という意図もあったはずである。古橋は守備時にはサイドに下りてエウシーニョと対峙、攻撃時にはこれまでと同じく高い位置を取ってFWとして振る舞う、という風にプレーしていた。

この変更によって神戸の方は、エウシーニョの攻撃参加への対応、ウェリントンのポジションが下がってしまうことへの対応は出来たのだが、家長を捕まえられていない、という部分については人の配置を変えてどうにかなる問題ではないので変わらず。そして前半42分に、川崎は大島のクロスに家長が左足で合わせて1点を返したのだが、やはりこのシーンでも神戸は家長を補足できていなかった。また、クロスの直前に大島がドリブルでボールを運んだコースは、神戸のボランチとSHの間、そこからCBとSBの間、という風に、いわゆるハーフスペースを直進するコースだったのだが、このスペースは試合開始時の布陣であれば3ボランチの端の選手がいるスペースである。布陣変更によってそのスペースが空いたことを利用した、大島の素晴らしいチャンスメークだった。

前半終了間際に川崎が1点を返したことで、試合は2-3、神戸の1点リードで後半へ。
この後半序盤の神戸の試合運びの内容が、結果的に試合の趨勢を決めたのではないだろうか。
前半の内容で述べたとおり、神戸の方は前半途中から4-4-2に布陣を変更し、後半もその形で入ったのだが、布陣を変えたことで、攻撃の時のポジショニングがフラットな横並びになってしまうことが多くなっていた。リージョ監督としては恐らく、4-4-2にしたのは守備を安定させるためで、攻撃の時には前半序盤と同じような形でやってほしい、ということだったと思うのだが、実際には、ボールホルダーの斜め前にポジションを取る、相手の間にポジションを取る、というポジショナルプレーが、後半は失われていた。

神戸の方は、前半の終盤は押し込まれていたので、後半はもう一度押し返す、攻撃的に戦う、という意識で入ったと思うのだが、各選手が川崎のDFラインやMFのライン上に立ってしまっていて、中間ポジションに誰もいない状態なので、どこにパスを付けても相手が近くにいる、と言う球際の連続のようなパス回しになってしまう。そして、前がかりになっている、かつ横並びのポジショニングになっているので、奪われると全体が一気に置いて行かれてしまう。
神戸はリードしている側なので、そう言うサッカーはしたくない。特に、イニエスタやポドルスキという選手は、取って、取られて、という攻守の切り替えが連続するサッカーに向いている選手では無いので、猶更そうだったと思うのだが、結果的に、自分たちでそう言うサッカーにしてしまった。

一方の川崎は、後半の攻撃の最初の狙いはサイドからのクロスだった。神戸の方が布陣を変更し、守備時には4-4のブロックを作るようになったので、前半のように3ボランチの横を起点に、という攻撃は出来ない。その代わりに、FWの知念が流れてサイドの深い位置で起点を作り、神戸のブロックをペナルティエリア内まで下げさせて、そこから斎藤のクロス、という形であったり、逆サイドでは家長とエウシーニョのコンビネーションでサイドを深い位置までえぐってクロス、という形が見られるようになった。

そして後半10分ぐらいからは、神戸の方は攻撃だけでなく守備でも、4-4-2の未整備なところが頻出するようになって行く。パターンとしては全て同じで、トップに入ったポドルスキの守備の時のポジショニングが悪い→イニエスタがその分前に出て守備をする→イニエスタの空けたスペースを使われる、というパターンだった。
神戸の方はポドルスキが2トップ的にプレーするのか、トップ下的にプレーするのかが曖昧で、前者であればポドルスキは川崎のCBやボランチに対してもっと前に立つ、パスコースを切る、という動きをしなければいけないし、後者であればイニエスタが前に出た時はイニエスタが空けたスペースを埋める動きをしなければならない。
正直なところ、この時点でポドルスキを下げても良かったように思う。既に2アシストしており、彼のメリットは十分引き出したわけなので、後は交代の選手に託しても良かったのかなと。

そして後半19分、神戸は同点に追いつかれてしまう。得点の流れとしては、神戸がFKのロングボールを前線に入れる→川崎が自陣内でボールを回収→神戸が前から奪いに行く→外されてカウンター、という流れだったのだが、この失点に関しては神戸側に大きな問題があった、とは言えないものだったと思う。しいて言うなら、前から奪いに行った時、神戸の方は4-1-5(1のところがイニエスタ)のような形になっていて、イニエスタが縦方向の家長へのパスコースを切るか、ボールと逆サイドの斎藤へのパスコースを切るか、二者択一の状態になってしまっていたので、そこはボールと逆サイドにいた三田が絞っていれば、三田が斎藤へのコースを切る、イニエスタが家長へのコースを切る、という形で食い止められたと思う。
結果的に、三田が絞っていなかったことでイニエスタが斎藤のサイドに寄り、それによって家長へのコースが空き、そこにパスが通ってカウンターが発動した。
神戸の方は後ろに4枚残っていたので、CBの一枚が前に出て、3-1の2ラインになって家長に対応。サイドを上がってきた斎藤にパスを誘導した。ここまではカウンター対応として間違っていなかったと思う。しかし、パスを受けた斎藤のプレーが素晴らしかった。ドリブルでペナルティエリア内に進入すると、神戸の右SB藤谷と対峙しながら左足でファーサイドにシュート、これが見事に決まった。藤谷はシュートの瞬間、斎藤に対してドリブルコースに入る対応をしていて、つまり、まだ撃ってこない、もしくは撃っても入らない、という対応だったと思うのだが、斎藤は逆足で撃ってファーサイドに決めてしまった。川崎が今シーズン、斎藤を獲得したのは、こういう、周りとの連携とは関係なく個人の力で相手を剥がす、得点を取ってしまう、というプレーを期待してのことだったと思うのだが、そう言うプレーが正に出た、と言えるゴールだった。

この失点の後、神戸は再び布陣を変更。ポドルスキをIHに下し、ウェリントンの1トップ、両ウィングが三田と古橋という4-1-2-3の形にした。

ヴィッセル神戸フォーメーション(前半20分以降)
17
ウェリントン
7
三田
16
古橋
8
イニエスタ
10
ポドルスキ
14
藤田
22
橋本
2
那須
25
大崎
34
藤谷
18
スンギュ

リージョ監督としては、4-4-2の形だとポジショナルプレーが実現できていなかったので、もう一度、斜めの関係や間のポジションを取りやすい3ボランチに戻した、ただし、試合開始時点の形に戻してしまうとまた3ボランチの端を狙われることになるので、守備時は4-1-4-1、攻撃時は4-1-2-3、という形にしたかったのかなと。

しかし、この布陣変更によってIHのところがイニエスタとポドルスキという運動量の少ない2人になったため、神戸は守備時にアンカーの藤田の周りにスペースが生まれるようになってしまう。スタメンから選手は変わっていないので、配置を変えてもどこかに穴が出来てしまうのはある意味当然なのだが、それだけでなく、後半の序盤に切り替えの多いサッカーになっていたことで、この時間はポドルスキ、イニエスタ共に、本来以上に動けなくなってしまっていて、後ろにボールを通されてもプレスバックできず、前残りしてしまっていた。そうなると神戸の方は、前にウェリントン、イニエスタ、ポドルスキが残っているが、両ウィングは押し下げられている、という6-1-3のような形になってしまい、藤田がDFラインの前のバイタルを一人だけで埋めなければならなくなる。
そして後半23分、藤田の背後、ペナルティアーク付近にポジションを取った家長にエウシーニョから斜めのパスが通り、家長がこのボールをヒールで背後に落とすと、背後から走り込んできた大島がこのボールを受けて小林とワンツー、これで大島が神戸DFラインの背後に抜け出して、最後は左足でフィニッシュ。川崎が逆転に成功した。神戸としては、藤田の周囲のスペースを家長と大島に使われての失点だったのだが、布陣を変更して以降、そこにはずっとスペースが出来ていたので、決壊するのは時間の問題だったと言える。

結局、神戸は後半30分にもエウシーニョのシュートで失点してしまい、試合は5-3に。神戸の方は守備時の4-1-4-1の形が未整備のまま、得点を取り返そうとして前から行くので、完全にポジションがバラバラになってしまっていて、2点差が付いた時点で勝負ありだったかなと。最後の方は、IHのイニエスタとポドルスキが前にいて、FWのウェリントンの方がサイドに下りて守備をしている、という状態だった。
試合はこのままタイムアップを迎え、一時的には2点のビハインドを背負った川崎が、見事に逆転、というゲームになった。

試合を見た後の率直な感想を言うと、やはり川崎は強いなと。守備では結構脆いところもあって、特にこの試合のように、ボランチの所に大島と中村憲剛という攻撃的なキャラクターを置くと、そう言う面が見え隠れはするのだが、それでも、その守備の脆さを塗り潰せるぐらいの攻撃力が川崎にはある。
この試合の川崎の攻撃の狙いは、前半はSBを使っての相手IHのピン止め、後半はサイドからのクロスだったが、結果的には、その2つの形からは点を取っていない。しかしそれでも5点取った。特に2点目の大島のドリブルからの家長の得点と、4点目の藤田の周囲のスペースを使っての大島の得点は、完全に相手のやり方が変わったことを察知して奪ったもの。川崎の選手たちはピッチ上でそういう判断が出来る。そして、選手の判断能力のボリュームが大きいチームは、常に強い。

一方の神戸。現時点では、イニエスタとポドルスキの個人能力をどのようにチームに落とし込むのか、その最適解が見つけられていない。攻撃面では間違いなく2人とも違いを作っているのだが、この試合のように、押し込まれてしまう、それだけでなく守備のバランスも悪い、という状況になると、彼らの運動量の少なさというのはどうしてもデメリットになってしまう。記事の途中でも書いたが、この試合、少なくともポドルスキは後半の早い時間で下げても良かったのかなと。サッカーの采配や選手起用には株取引と似た側面があって、メリットが最大になった時点で手じまいする判断も必要だと思う。

正直、ポドルスキ、イニエスタ以外の選手を見ても、神戸の選手の個人能力の総和は高いと思うのだが、今の神戸には「バルサのようなサッカーでなければならない」かつ「そのサッカーの中でイニエスタ、ポドルスキが輝いていなければならない」と言う2つの制約がある。言ってみれば、目指すサッカーと起用する選手、両方に制約がある状態なので、そのハードルはやはり高い。
ただ、セレッソが2014年にフォルランとカカウを獲得して降格してしまったし、今シーズン、トーレスを獲得した鳥栖も低迷しているし、これで神戸までダメだと、Jリーグにビッグネームを連れてくる機運が下火になってしまいかねないので、個人的には、神戸の成功を強く願っている。