準備は4年、破綻は3分。2018FIFAワールドカップ コロンビア代表 VS 日本代表

日時 2018年6月19日(火)21:00※日本時間
試合会場 モルドヴィアアリーナ
試合結果 1-2 日本代表 勝利

我らが日本代表のロシアワールドカップ初戦の相手は、強豪コロンビア。4年前、ブラジルワールドカップの舞台で1-4の惨敗を喫した相手である。この試合のピッチ上には、ブラジルでのあの日、ピッチに立っていた選手が5人、ベンチにいた選手が2人。
4年前の最後の試合、その相手を前に、日本のロシアワールドカップ最初の試合が幕を開けた。

日本代表フォーメーション
15
大迫
14
10
香川
8
原口
17
長谷部
7
柴崎
5
長友
3
昌子
22
吉田
19
酒井宏
1
川島

この試合の日本代表のフォーメーションは、4年前、ベンチから試合を見守った大迫勇也を1トップに置く4-2-3-1。
2列目の乾貴士、香川真司、原口元気と言う並びは予想されたものだったが、2ボランチについては、左は長谷部誠で変わらないものの、右についてはこれまでレギュラーだった山口蛍ではなく、柴崎岳をチョイス。CBにも、これまでスタメンを勤めることが多かった槙野智章に代わって、昌子源が起用された。

コロンビア代表フォーメーション
9
ファルカオ
21
イスキエルド
20
キンテーロ
11
クアドラード
6
Cサンチェス
16
レルマ
17
モヒカ
3
ムリージョ
23
Dサンチェス
4
アリアス
1
オスピナ

一方のコロンビアは、代表歴代最多スコアラーであり、4年前は膝の前十字靭帯損傷により出場が叶わなかったストライカー、ラダメル・ファルカオが1トップ。2列目にホセ・イスキエルド、フアン・キンテーロ、フアン・クアドラードを置く、4-2-3-1のフォーメーションでスタートした。ファルカオと並ぶコロンビアのエース、10番のハメス・ロドリゲスは、怪我のためベンチスタートとなった。

試合は日本ボールでキックオフ。両チームともに4-2-3-1でのスタートだったが、コロンビア代表がこのフォーメーションで戦ったのは、ほんの僅かな時間だった。
前半開始から3分。日本のゴール前に放り込まれたクロスを昌子がヘディングで跳ね返し、ボールがトップ下の香川のもとへ。香川がこのボールを右足アウトサイドで直接、コロンビアDFラインの裏へ浮き球のパス。これに大迫が走りこみ、コロンビアのCBダビンソン・サンチェスとのデュエルに競り勝って、入れ替わって、GKオスピナとの1対1。大迫のシュートはオスピナが弾いたが、詰めて来ていた香川がこのこぼれ球を再度シュート。このシュートをコロンビアのボランチ、カルロス・サンチェスが手でブロックしてしまい、日本がPKを獲得、そしてカルロス・サンチェスはレッドカードで退場となってしまった。

このシーンの日本の攻撃で良かったのは、何と言っても、香川が手数を掛けずにシンプルに、裏に走った大迫にボールを送った(言い方を変えれば大迫が良く引き出した)、ということ。それによってコロンビアの守備陣が後ろ向きに対応することになった。
大迫がデュエルで競り勝ったCBのダビンソン・サンチェスは、2017-18シーズンにアヤックスからトッテナム・ホットスパーに、クラブレコードの3660万ポンド(約53億円)の移籍金で加入した選手。このサイトの過去の記事でも取り上げたが、20歳の時点でヨーロッパリーグの決勝、ユナイテッド戦にスタメンで出て、ラシュフォードあたりをボンボン吹っ飛ばしていたような選手である。そういう選手でも、後ろ向きに走りながら相手とのデュエルに勝つ、というのはやはり難しい。
もちろんそれでも、大迫がデュエルに弱かったらサンチェスには勝てなかったので、結局のところ、「デュエルに強くなる」ということと、「デュエルに勝ちやすい状況を作る」ということ、この2つはセットである必要があり、後者については、選手個人としての駆け引きだけでなく、チームとしても、そういう状況を作り出すように設計されている必要がある。そして、「個の力を活かしたサッカー」と、「個人能力任せのサッカー」を隔てるのは、その設計図の存否である。

逆に、コロンビアの方の守備に目を向けると、大迫のデュエルの力を舐めていた、と言えると思う。昌子がボールを跳ね返した時、コロンビアのCBムリージョは最初、大迫のマークに付こうとしたのだが、ボールが香川の方に飛んだのを見て、大迫のマークを捨て、最終ラインから香川に向かって飛び出してしまい、大迫とダビンソン・サンチェスの1対1と言う状況を作ってしまった。香川の近くにはボランチのカルロス・サンチェスがいたので、対応はそちらに任せて最終ラインは数的優位を保つのがセオリーだったはずである。そして、大迫とダビンソン・サンチェスの競り合い、と言う状況になった後も、飛び出したムリージョ、そしてボランチのカルロス・サンチェスとレルマの3人は、ダビンソン・サンチェスのカバーに入ることもせず、ムリージョ、レルマに至っては2人の間にいた香川のマークも放してしまっていたので、完全に、ダビンソン・サンチェスが1対1で大迫に勝つ、ということを前提にした対応だったと思う。そしてその代償は、開始3分での味方の一発退場、PKの献上、そしてカルロス・サンチェスの次節出場停止と言う、余りにも高いものだった。

日本はこのPKを香川がきっちり決め、1点のリードと数的優位という、大きなアドバンテージを持って残りの時間を戦えることになった。
そしてカルロス・サンチェスを失ったコロンビアは、レルマを左ボランチに回し、キンテーロをトップ下から右ボランチに下ろして、4-4-1の形になった。

コロンビア代表フォーメーション(PK後)
9
ファルカオ
21
イスキエルド
11
クアドラード
16
レルマ
20
キンテーロ
17
モヒカ
3
ムリージョ
23
Dサンチェス
4
アリアス
1
オスピナ

リードした後の日本は、守備についてはボールをサイドに誘導し、サイドでは縦を切って、相手の攻撃を前に加速させない、ということを意識しながら守っていた。多分そこは、たとえリードしていなくても、そして相手に退場者が出ていなくても、そういう風に戦う、ということだったのだと思うが、相手に退場者が出たことで、そこはより重要になった。つまり、相手は少ない人数で攻める必要があり、自分たちは数的優位なので、良い体勢で対応できればやられることは無い、逆に、裏返されて後ろ向きの対応になると数の優位性が働かなくなってしまうので、それだけは避けたい。よって、日本としては、コロンビアのサイドのドリブル突破に対してはしっかりと縦を切って、中には行かせてもいいが縦には抜けさせない、という対応をしていた。怖かったのはコロンビアがアーリー気味に上げてくるクロスで、これはどうしても後ろ向きの対応になってしまう。そして当然、セットプレーも人数が関係ないので、日本としては、この2つが最も注意すべき攻撃だった。
また、日本がボールを奪い返した後のポゼッションについては、相手が一人減る前から、日本の方は長谷部が最終ラインに降りて、相手の2トップに対して3バック化し、数的優位な状態でボールを落ち着かせる、ということをやっていて、そこから更に相手のトップがファルカオ1枚になったので、長谷部や柴崎、もしくはCBの2枚が、ファルカオの脇のスペースでフリーでボールを持てるようになり、かなりボールを支配できるようになった。つまり攻撃においても、守備と同じく、相手の人数が減ってもやることは同じ、少しやりやすくなっただけ、と言うことだったと思う。

一方、コロンビアのペケルマン監督は、早めに動いてきた。前半31分、右ウィングのフアン・クアドラードを下げ、ウィルマル・バリオスを投入。バリオスが左のボランチに入り、レルマがもう一度右のボランチに戻って、キンテーロがクアドラードの抜けた右ウィングの位置に入った。

コロンビア代表フォーメーション(前半31分以降)
9
ファルカオ
21
イスキエルド
20
キンテーロ
5
バリオス
16
レルマ
17
モヒカ
3
ムリージョ
23
Dサンチェス
4
アリアス
1
オスピナ

交代の意図だが、まず退場になったカルロス・サンチェスは中盤でのボール奪取や守備のフィルタ役を担う、ファーストボランチ的な選手だったので、守備のバランスを崩さないよう、同じような役割を担えるバリオスを入れた、ということが一つ。そしてもう一つは、恐らくだが、左利きのキンテーロを右ウィングに入れることで、右サイドから左足でインスイングのクロスを狙っていく、という形を増やしたかったのかなと。前述の通り、サイドからアーリー気味に入れるクロスというのは数的優位なチームであっても対応が難しいし、コロンビアにはそう言うクロスにピンポイントで合わせられるファルカオがいる。
実際、前半34分にはキンテーロのインスイングのクロスにファルカオが飛び込んでつま先で触ったが、ボールを川島がキャッチした、と言うシーンがあったし、後半にもキンテーロは何度かそう言うボールを蹴っていた。

そして前半37分。日本のペナルティエリア付近、日本から見て左の角あたりで、ファルカオが長谷部に倒され、コロンビアがFKを獲得した。
ファルカオと言う選手はファウルを貰うのが非常に上手い。このシーンの1分ほど前にも吉田が足を出したタイミングでボールを動かしてファウルを貰い、その後は大げさに痛がっていた。コロンビアに対してPK、退場と言うジャッジを下した審判が今度はコロンビア寄りのジャッジをしてくれるはず、しないのであればするように圧力を掛けて行く、そう言う狙いを持ってプレーしていた。長谷部がファウルを取られたシーンでも、長谷部とファルカオはイーブンのボールを競っただけだったので、どちらのファウルでもない筈だったが、ファルカオの演技、そしてピッチサイドから送られるコロンビアサポーターのプレッシャーを掛けるブーイング、その圧力に思わず主審が笛を吹いてしまった、という感じだった。

そしてこのFKをキンテーロが左足でキック。ジャンプした日本の壁の下をグラウンダーで抜いて、ボールは日本ゴール、ニアポストへ。GK川島が必死に手を伸ばしてボールを抑え込んだが、ボールは僅かにゴールラインを越え、1人少ないコロンビアが同点ゴールをもぎ取った。
キックの瞬間、川島は壁と反対、ファー側にポジションを取っていて、つまりニア側は壁が防いでくれる、というポジショニングだったが、壁の下をボールが抜けてきたことで、ボールのコースに入りきれなかった。壁に入ったのは昌子、吉田、大迫、長谷部の4名だったが、後日の記事では壁役の選手はジャンプしない、という約束になっていたそうで、完全に、それを違えてしまった彼らの勇み足だった。

試合後、昌子源のコメント

ミーティングでボールの質を見て、できるだけつま先立ちでギリギリ高く、(でも)飛ばんでいいって言っていたら、みんなハイジャンプをやった。ミーティングであんだけ言われていて注意して、壁に入る人は最後までボールの質を見て、蹴られた瞬間まで頑張ってみたいなという感じだった。非常にもったいない失点だった

試合は1-1の同点で前半を折り返し、後半。
コロンビアの方は前線からの守備が少し変わり、日本のボランチやCBがボールを持った時にはボールサイドのウィング(キンテーロもしくはイスキエルド)が前に出て、2トップ的な守備をするように。ただ、精力的にやる、と言うほどではなく、ボールが自分のサイドに来たら前に出るが、逆サイドに行ったら戻る、そしてもう一度ボールが来たらもうやらない、という感じだったので、日本としては、ボールを一度戻して逆サイドへ、と言うだけで相手を下げられていた。
また、前半のコロンビアの同点シーンで長谷部の軽めのコンタクトをファウルと判定したことで、審判のジャッジが全てその基準になり、コロンビアの得意とする、激しいボディコンタクトでボールを奪う、というプレーがファウルを取られやすくなったので、そこも日本の有利に働いていたように思う。コロンビアのファウルは、キンテーロの同点ゴールの時点、前半37分までは4つだったが、後半10分の時点ではその倍の8に増えている。

後半14分、コロンビアはキンテーロを下げ、怪我のため温存していた10番、ハメス・ロドリゲスを投入。ハメスはそのまま、キンテーロのいた右ウィングのポジションに入った。
交代で入ったハメスは、少し守備の運動量が少ない感じで、ボールが中央にある時はファルカオの近くに寄って行って2トップ的に守備をするのだが、その後、ボールが動いても右サイドのポジションに戻らず前に残っているので、右SBのアリアスの前にスペースが出来、日本が乾、長友を起点にコロンビアの右サイドを崩すシーンが多くなった。

そして後半25分、日本は香川を下げて本田を、同じタイミングでコロンビアはイスキエルドを下げてバッカを投入。本田はそのまま、香川のいたトップ下のポジションへ。バッカは右サイドに入り、ハメスが左に回った。ぺケルマン監督としては、右サイドのハメスの裏のスペースを使われていたので、手当てをした、ということだったのかもしれないが、ハメスが左に回ると、今度は左サイドにスペースが出来る。
後半26分、日本は交代で入った本田が左サイドに移ったハメスの裏、ボランチの脇のスペースで受けて、オーバーラップして来た右SB、酒井宏樹に展開。酒井がペナルティエリア内の大迫にクサビを入れて、大迫がムリージョに付かれながらもキープし、もう一度酒井に落として、酒井がシュート。ボールがダビンソン・サンチェスの足に当たったことでゴール左に外れたが、日本がCKを獲得した。

CKのキッカーは本田。ここまでの時間帯、日本のCKは全て右利きの選手が蹴っていたが、本田は左利き。日本から見て左サイドから、左足で蹴られたアウトスイングのボールは、コロンビアのGKオスピナから逃げるように飛び、アリアス、ファルカオと競り合いながら空中に飛び上がった大迫の頭上にピタリと落ちてきた。大迫がこのボールをコロンビアゴールに叩き込み、日本が2点目。ハンパないキープからコーナーを奪った大迫による、ハンパないヘディングで日本がふたたびリードを奪った。

日本は後半35分、疲れの見えた柴崎を下げて、山口を投入。山口はそのまま右ボランチのポジションへ。そして後半40分には大迫を下げ、岡崎を投入。岡崎もそのまま、大迫のいた1トップのポジションへ。

日本代表フォーメーション(後半40分時点)
9
岡崎
14
4
本田
8
原口
17
長谷部
16
山口
5
長友
3
昌子
22
吉田
19
酒井宏
1
川島

一方のコロンビアは、ビハインドになったことで、よりサイドのバッカとハメスが前に出てきて、4-2-3のような形になって行ったが、元々数的不利である上、交代で入ったこの2人にあまり運動量が無いので、日本の最終ラインのパス回しに対してどうしても後追いになってしまい、なかなかボールを奪い返せず押し下げられてしまう。
最後の5分間、そしてロスタイムは流石に運動量を出してきて、日本がロングボールを蹴らされる場面も増え、また審判のジャッジ基準がまた元に戻ってコロンビアのコンタクトがファウルを取られなくなり、10人のコロンビア相手に日本はかなり押し込まれたが、何とか凌ぎ切って、試合は1-2、日本の勝利でタイムアップ。日本は強敵コロンビア相手に、貴重な勝ち点3を挙げた。そしてこの勝利は、ワールドカップの歴史で初めての、アジアの国が南米の国相手に納めた勝利となった。


コロンビアは油断していたと思う。そしてその油断が、開始3分の味方の退場、そしてPK献上という最悪の形で表出してしまった。ぺケルマン監督はその綻びを補うために、様々な手立てを講じたが、打った手立てがまた別の綻びを生んでしまう、と言う状態で、最後まで持ち直すことは出来なかった。
4年間の準備が、3分間の油断で破綻する。ワールドカップはそう言う舞台なのだと、改めて認識させられた。