勝利は目標ではなくノルマ。UEFAヨーロッパリーグ決勝 アヤックス VS マンチェスターユナイテッド

日時 2017年5月24日(水)27:45※日本時間
試合会場 フレンズ・アリーナ
試合結果 0-2 マンチェスターユナイテッド勝利

ヨーロッパリーグでの優勝は目標ではなくノルマ。今シーズンのプレミアリーグを6位で終えたユナイテッドが、来シーズンのチャンピオンズリーグに出場するためには、EL優勝枠しか残された道はない。
ヨーロッパ最高峰の舞台に立ち続けることが義務付けられたメガクラブにとって、この試合の勝利は「目指すもの」ではなく「達成しなければならないノルマ」だった。

アヤックス フォーメーション
ユネス ドルベリ トラオレ
ジイエフ クラーセン
リーデバルト シエーネ フェルトマン
デリフト サンチェス
オナナ

アヤックスのフォーメーションは、その代名詞とも言える4-3-3。攻撃時には2-3-2-3のような形になる。ポジションを崩すことは極力せず、そのかわり、ホームポジションの時点で各選手がお互い三角形を描きやすいように配置されている。
ちなみにアヤックスのスタメンの平均年齢は約22歳と非常に若く、CBのサンチェスは20歳、デリフトに至ってはなんと17歳である。

マンチェスターユナイテッド フォーメーション
ラシュフォード
ムヒタリアン フェライニ マタ
ポグバ エレーラ
ダルミアン ブリント スモーリング バレンシア
ロメロ

対するユナイテッドのフォーメーションは、ラシュフォードをワントップに、フェライニをトップ下に置く4-2-3-1。
これはアヤックスのフォーメーションにマッチアップを合わせるためで、トップのラシュフォードがアヤックスの2人のCBを、フェライニがアンカーのシエーネを見るようになっている。同じように左のムヒタリアンは相手右SBのフェルトマンを、右のマタは左SBのリーデバルトをマークし、ポグバとエレーラはクラーセンとジイエフを、バレンシアはユネス、ダルミアンはトラオレ、ブリントとスモーリングで相手ワントップのドルベリを見る、という形で完全にマッチアップが見合うようになっている。この見合った形を維持し、ほぼマンツーマンで相手をフリーにしない、というのがこの日のユナイテッドの基本方針だった。

この日のアヤックスのような「誰がどこにいるかはっきりしている」チームの試合は、その相手チームも結果的にポジショニングが決まりやすいため、ピッチ上の出来事が把握しやすい。また、お互いにどれだけポジションを崩すかで攻撃時のメリット、守備時のデメリットが変わるので、どちらのチームがどれだけリスクをかけているのか、ということも分かりやすい。
そういう意味で、この試合はサッカーの戦術の教材のような試合だった。

試合は、ユナイテッドがアヤックスにボールを持たせる→マッチアップを合わせて奪い取る→カウンターを仕掛ける、というパターンが繰り返される流れ。奪った後のユナイテッドは、アヤックスの2-3-2-3のSB裏のスペースにラシュフォードを走りこませてサイドで起点を作り、そこからボールサイドのSH(マタもしくはムヒタリアン)+フェライニ、ポグバでフィニッシュ、という形を狙っていた。ただ、ラシュフォードが相手CBのデリフトとサンチェスに潰されるシーンが多く、また、ラシュフォードに出てくるボールの質も余り良くなく、さらに、審判のジャッジも守備側に有利なものが多く、結果的に、狙った形ではほとんど起点は作れなかった。

アヤックスはポジションを基本的に崩さない、中盤を飛ばすようなパスも少ない、後ろから各駅停車のようにつないでくる、ということで、一見掴まえやすい、カウンターにつなげやすい、という風に見えるのだが、実際には、ポジションを崩していない分ボールの後ろにもしっかり人が残っていて、奪われてもフィニッシュまで持って行かれることは意外と少ない。また、裏のスペースへのCBのカバーも速く、デリフトとサンチェス、特にサンチェスの方が、裏に出たボールと人を、しっかりと潰していた。彼ら2人は、間違いなくオフシーズンにビッグクラブから狙われる存在になると思う。

ただ、先制したのはユナイテッドだった。前半18分、アヤックスから見て左サイド低い位置でのアヤックス側のスローインをマタがカットしてラシュフォードへ、ラシュフォードがもう一度マタに落とし、そこからフェライニ、ポグバとつながって、ポグバが撃ったシュートがサンチェスの足に当たり、コースが変わってゴール、という流れだった。
ユナイテッドとしては、スローインのカットから、というのは狙っていた形、準備していた形、ということではなかったと思うが、結果的にそこから、ラシュフォードがサイドで起点になり、そこからマタ+フェライニ+ポグバという狙っていた形に繋がった、というゴールだった。

先制されたことで、アヤックスの方も少しずつポジションを崩してリスクをかけるようになっていく。
アヤックスにとって、ラシュフォードが1人で2人を見ているCBのところが唯一フリーになれるポジションなので、サンチェス、デリフトが頻繁にボールを持って上がるのだが、彼らが中盤まで持ち上がった時に、どういう形で攻撃のスイッチを入れるかがはっきりしておらず、センターFWのドルベリも受ける動きが少ない、ということで、なかなか有効な攻撃が生まれない。
ただ、前半のうちはアヤックスの方も、1点差をキープする方が優先、ということで、そこまでリスクをかけることはしていなかった。

しかし後半3分、ユナイテッドはムヒタリアンが追加点。
得点はユナイテッドのCKからスモーリングがヘディングで競り勝ったボールを、ムヒタリアンが相手選手と競り合いながらオーバーヘッド気味に蹴りこんでゴール、というもの。1点目と同じく、完全に狙った形、というわけではなかったと思うが、競り勝ったスモーリングのヘディングの強さ、そのボールに反応して難しい体勢からゴールに運んだムヒタリアンの個人技、この2つはさすがだった。また、ユナイテッドのモウリーニョ監督からしても、守備面でしっかりと我慢していれば、どこかでこういう、ユナイテッドの選手の個人能力によるゴールが生まれる可能性はある、ということは計算に入っていたのではないだろうか。

いずれにせよ、これで試合の方向性がかなり限定された。
アヤックスの方は、2点差になったことで、今まで以上にポジションを崩して(つまりリスクをかけて)得点を奪いに行くのだが、最後のところ、特にウィングの選手がユナイテッドのバレンシア、ダルミアンとマッチアップするところのデュエルで勝つことが出来ない。逆に、ユナイテッドのマタ、ムヒタリアン、ポグバあたりは単独でアヤックスの選手の守備を剥がせるので、マッチアップが噛み合っている以上、どうしてもそういうところで劣勢になってしまう。
また、ユナイテッドの選手たちは完全にマンマークで守っているわけではなく、自分のマーカーがボールから遠い位置にいる時にはスペースを埋める、といういわばマンマークとゾーンディフェンスのハイブリッドのような守り方をしており、マンマークでだれかが相手に付いて行った時には、必ず誰かがそのスペースを埋めているので、アヤックスの方がポジションを崩してもなかなかスペースが生まれない。

結局、試合は0-2でユナイテッドの勝利、内容的にも完勝、という結果だった。
アヤックス側から見ると、ユナイテッドのようなレベルのチームが、この試合を目標ではなくノルマと捉えて臨んできたこと、リーグ戦でも主力を温存し、試合の中では極力リスクを避け、あらゆる偶然要素を排除して臨んできた時点で、勝利することは難しかったのかなと。
そして、この試合のみならず、ELでの優勝をターゲットと見据えて以降の、ユナイテッドのリーグ戦を含めた戦いぶり、作戦遂行能力は、見事というほか無い。この試合には意外性、エンタメ要素、というものは余りなかったかもしれないが、逆にそれこそがユナイテッド、そしてモウリーニョ監督の、不退転の決意の表れだったように思う。