拙速は巧遅に勝る。国際親善試合 日本代表 VS パラグアイ代表

日時 2018年6月12日(火)22:05※日本時間
試合会場 チボリ シュタディオン
試合結果 4-2 日本代表 勝利

ハリルホジッチ前監督を解任した日本代表だったが、西野監督になって以降のガーナ戦、スイス戦は2連敗。未勝利でワールドカップ開幕を迎える事態も有り得たが、3戦目、ワールドカップ前の最後の親善試合となるこのパラグアイ戦では、勝利を収めることが出来た。親善試合での勝敗は本番での結果には無関係とは言え、やはり勝って出る、というのが一番なので、正直ホッとした。

日本代表フォーメーション
9
岡崎
14
10
香川
13
武藤
16
山口
7
柴崎
21
高徳
3
昌子
2
植田
6
遠藤(※)
12
東口(※)

※後半頭からは東口に代えて中村、遠藤に代えて酒井宏樹を投入。

この試合の日本代表のフォーメーションは岡崎を1トップ、香川をトップ下、左右のSHに乾と武藤を置く4-2-3-1。ワールドカップまでに全選手を使っておきたいということで、前回の試合、スイス戦のスタメンから、酒井高徳以外の10人の選手を入れ替えてこの試合に臨んだ。

パラグアイ代表フォーメーション
9
サンタンデール
21
オスカルロメロ
20
バレイロ
8
カルドーソ
15
サンチェス
6
オルティス
13
アロンソ
4
バルブエナ
3
ゴメス
2
ベニテス
1
ビジャール(※)

※GKビジャールは代表引退の記念試合としての出場だったため、前半11分にアギラールに交代。

対するパラグアイ代表の方は、4-1-2-3のフォーメーション。パラグアイにとって、この試合は来年ブラジルで開催される予定のコパ・アメリカ、そして4年後のワールドカップを目指すための土台作りという位置づけであり、ワールドカップ南米予選の最終戦、ベネズエラ戦のスタメンからは、左SBのフニオール・アロンソ、CBのグスタボ・ゴメス、左ウィングのオスカル・ロメロ以外、全て入れ替わっている。
また、GKはビジャールでスタートしたが、この試合は彼の代表引退試合という位置づけでもあったため、彼自身は前半11分に拍手と共に退き、変わってゴールマウスにはアギラールが入った。

さて試合の方だが、ボールは日本が支配する展開になった。
この試合はどちらのチームからもハリルホジッチ監督のサッカーの匂いがする(日本の方は当たり前だが)、という感じで、日本はパラグアイのアンカーが最終ラインに落ちて3バック化してボールを回そうとするのに対して、香川と岡崎が2トップ的に守備をしてボールをサイドに誘導し、そこからマンツーマン的に前からハメて行って最終的にはロングボールを蹴らせてボールを回収する、というサッカー。そしてパラグアイの方も、オーストラリア戦の日本がそうだったように、2人のIH(インサイドハーフ)が日本のボランチのところを消しに行ってボール回しを阻害しようとするサッカーだった。
ただ、ボールを奪った後の攻撃に関しては明確に違いがあり、日本の方は攻撃に手数であったり人数をかけて、ワンツーからの崩しが主体だったのに対して、パラグアイの方は、攻撃は人数も手数もかけずに、という感じで、後ろでのボール回しに対しては日本が早めにチェックに来るので、それに対してはロングボールを蹴ってしまって、サイドに起点を作ったらそこからクロス、という形が主体だった。そういう意味ではパラグアイの方が、よりハリルホジッチ監督のサッカーに近いサッカーをしていたように思う。

日本の方がボールを支配する展開になったのは、日本のボランチ、山口と柴崎がパラグアイのIHの守備に対して前を向けていたから。逆に言うと、彼らに対するパラグアイのIHの守備がルーズだったからである。特に柴崎が顔を上げて前を向くシーンが多く、そうなるとパラグアイの最終ラインは下がらざるを得ない。そして、日本の方は前線の岡崎、香川、そして乾がいずれもシャドー的な動き、相手の最終ラインと中盤の間で受ける動きが上手いので、最終ラインが下がるとそこで受けられてしまう。前半は特に、乾が相手のアンカーの脇のスペースでボールを受けて起点になるシーンが多かった。
また、右SHに入った武藤は、前述の3人とは異なる、フィジカルで起点になるプレーが出来るので、そこも効いていた。

しかし、先制したのはパラグアイで、ロングスローの流れから浮き球のボールをオスカル・ロメロがボレーで蹴り込んでゴール。ロメロに付いていたのは柴崎だったのだが、競り合って浮き球になった時点でボールを見失ってしまい、足を振らせてしまった。また、GK東口も、シュートの瞬間に少し下がったので、下がらずに留まるか、前に出ていればシュートコースを消すことが出来ていたと思う。

一方の日本は、後半6分に乾のゴールで同点。前述の通り、日本は香川、岡崎、乾が相手DFラインと中盤の間でボールを受けることが出来ていたのだが、このシーンでは香川が昌子からの縦パスをバイタルで受け、サイドから寄ってきた乾に落として、自らは乾の背後を回ってサイドへ。この動きで乾が中にドリブルするコースが出来、乾がボールを横に運びながらインサイドでファー側に巻くようなシュート。これが見事に決まった。
エイバルの試合の戦評でも触れたが、リーガでプレーしている時の乾は、カットインしてインステップで思いっきりニアを狙う、というシュートが多く、力み過ぎて外してしまったり、フォームが大きくなってGKに読まれてしまったり、というのが課題だった。このシーンではニア側に蹴るような足の振り、目線から、ドリブルを入れて小さいモーションでファー側にシュート、という流れだったので、やはりそのほうが、GKの読みを外す、ということにつながるし、結果、強いシュートを撃たなくてもゴールは決まる。前半にも、外してしまったが同じようなシュートを狙っていたので、乾自身の課題への意識が見えたゴールだった。

そして後半17分には、サイドで起点を作った武藤が中央の香川に落とし、香川が更に背後の乾に落として、乾がゴール。日本が逆転に成功する。
セレッソでコンビを組んでいた時からそうだったが、この2人は相方の背中を使う、相方の背中側を回る、というプレーが好きで、1点目は香川が乾の背後を回ってシュートコースを作り、2点目は乾が香川の背後に寄って行ってパスを受けている。普通はボールホルダーの背中側から近づいたり、追い越したりすると、ボールホルダーから見えないので、どうしても前に入りたくなるのだが、そうするとボールホルダーのドリブルのコースも消してしまう。そうしないために背後からサポートに入るのだが、この2人は、そういう相方のサポートを背中越しによく見ている。このゴールシーンでも、香川は2回ほど、背後の乾を「いるよな?いるよな?」という感じで首を振って見ていて、2人の意思疎通の高さをうかがわせるゴールだった。

試合はこの後、柴崎のFKをパラグアイのFWサンタンデールがオウンゴールしてしまい、日本が2点のリード。しかし後半44分にパラグアイのFKのこぼれ球をオルティスが拾って豪快なミドルを突き刺して1点差、その直後に日本が香川のゴールで突き放して、最終的には4-2で日本の勝利、という結果だった。

久々に勝てて良かった。そして、普段セレッソのサッカーを見ている人間からすると、久々に香川と乾のコンビネーションを見れて良かった、という試合だった。
ただ、この日の試合からワールドカップ本番の試合結果を占うのはまず無理だし、この日の試合内容をワールドカップ本番でも再現する、というのもまず無理なのかなと。
戦評の中でも触れたが、日本は攻撃に人数を掛け過ぎているし、手数も掛け過ぎている、と感じる。日本はフィニッシュのシーンで、前線の4人+ボランチ、もしくはボールサイドのSB、合計5人が相手ペナルティエリアの付近まで入って行くのだが、そうなると必然的に、奪われた後は残りのフィールドプレーヤー5人で守備をすることになる。相手ペナルティエリア付近以外の広大なスペースを5人で守る、というのは、今の日本には正直厳しい。
逆にパラグアイの方は、いかに人数を掛けずにフィニッシュに持ち込むか、というところから逆算して攻撃が組み立てられていて、フィニッシュに絡むのは多くても4人。それでも、フィニッシュの形はグラウンダーのクロスが主体なので、クロスを入れる選手+ニアに1人、中央に1人、ファーに1人で成立する。手数も掛けないので、相手が後ろ向きになっていれば、クロスを入れる選手と飛び込む選手、2人だけでも成立する。そして、相手が戻り切る前にクロスを入れる、相手に後ろ向きに守備をさせる、という攻撃でフィニッシュする場合、カウンターを受けるリスクも少ない。
本番では日本も、そういう攻撃を主体にするべきだと思う。攻撃に人数を掛ける、手数を掛ける、というのは、ビハインドの状況に限ってそうする、という風に限定すべきで、それ以外の状況では、いかに人数を掛けずにフィニッシュに持ち込むか、というところから攻撃を逆算するべきである。

拙速は巧遅に勝る。

日本代表のロシアワールドカップでの健闘を祈る。