2018シーズンのガンバの補強を考える

2018シーズンのガンバ大阪の新体制発表記者会見が行われたので、セレッソに引き続き、ガンバの方も、2018シーズンのチーム編成について考えてみたい。
現在のところ、ガンバの今シーズンの新加入、および放出選手は下記のようになっている。

【主な加入選手】

選手名 前所属
FW 中村敬斗 三菱養和SCユース
FW 白井陽斗 ガンバ大阪ユース
MF 矢島慎也 浦和レッズ
MF 芝本蓮 ガンバ大阪ユース
MF 福田清矢 東福岡高校
DF 菅沼駿哉 モンテディオ山形
DF 松田陸 前橋育英高
DF 山口竜弥 東海大学附属相模原高校
GK 谷晃生 ガンバ大阪ユース

【主な放出選手】

選手名 移籍先
FW 呉屋大翔 徳島ヴォルティス ※レンタル移籍
FW 赤崎秀平 川崎フロンターレ ※1
FW 平尾壮 アビスパ福岡 ※レンタル移籍
FW 郡大夢 東京ヴェルディ ※レンタルバック
MF 井手口陽介 リーズユナイテッド(イングランド) ※2
MF 中原彰吾 コンサドーレ札幌 ※レンタルバック
MF 嫁阪翔太 グルージャ盛岡
MF 内田達也 東京ヴェルディ ※3
DF 金正也 ベガルタ仙台
GK 藤ヶ谷陽介 現役引退

※1 鹿島にレンタルバック後、川崎へ。
※2 リーズから更にリーガのレオネサにレンタル移籍。
※3 昨季はレンタルでヴェルディに在籍。

見ての通り、かなり選手の出入りが多いのだが、主力メンバーについてはそれほど多人数の動きがあったわけではなく、主力が出て行ったと捉えられるのはMFの井手口のみ、そして新加入選手のうち、即戦力と考えられるのはMF矢島、DF菅沼の2名のみとなる。
ただ、1.5~2軍クラスのメンバーに目を向けると、FW呉屋、赤崎、MF中原、内田、DF金正也という選手を放出し、また長年ガンバのゴールマウスを支えたGK藤ヶ谷も現役引退となったため、そこに昨季の夏に放出したDF丹羽大輝も含めると、リザーブの選手についてはかなり層が薄くなっている。
一方、新加入選手の方は、即戦力クラスの矢島、菅沼を除くと、全てがユース、ないしは高校からの加入選手。よって今シーズンのガンバの補強は、スタメンクラスはそのままに、リザーブクラスの選手を刷新し、若返りを図った、と捉えることが出来る。

元々ガンバの補強というのは一点豪華主義、みたいなところがあり、中途半端な実力の選手を中途半端な値段で複数取ってくるよりは、代表クラスであったり、外国人であれば他のチームで実績のある選手を、1人か2人、ピンポイントで取ってくる、という補強が多かった。そしてそれが出来ていたのは、それ以外の選手は自前で育てた選手で賄えていたからなのだが、最近のガンバは、昔と比べると自前の選手が出てこなかったり、もしくは出てきてもすぐに移籍してしまったりと、なかなか生え抜きの選手が定着しない状態だった。そうなると、目玉の選手以外も補強で取ってこないといけなくなるので、結果、補強資金が分散して、本当に欲しいレベルの選手は取れない、ということになってしまう。
よって、今回のリザーブレベルの選手の刷新、及びレヴィー・クルピ監督の就任は、そうした悪循環をリセットし、もう一度、過去の良いサイクルに戻したい、トップチームの競争力はなるべく保ちつつ、若い選手についても、育成能力に長けたクルピ監督に見てもらうことで、チームの底上げを図りたい、ということが狙いなのではないかと考えられる。

そしてそう考えると、ガンバはセレッソのように、クルピ監督に長期の指揮を任せる、ということは考えていないのではないかと予想できる。ガンバとクルピ監督の契約期間は2年間と伝えられているが、それを延長するつもりはなく、2年間だけ、という割り切った考えなのではないだろうか。補強選手を見ても、なんとなくそれが感じられる。

クルピ監督は特定の形を持っていない監督で、いる選手で、いる選手なりのチームを作る監督だが、それでもブラジル人監督らしく、必ずこだわる部分はある。
その一つが、これは良く知られている話だが、左利きのゲームメーカーを必ず置く。このゲームメーカーは、ボランチに置く場合もあるし、左SBに置く場合もある。クルピ監督が2007年にJ2のセレッソの監督に就任した時、左SBにはゼ・カルロスというブラジル人選手がいて、この選手がゲームメーカーになった。このシーズンはジェルマーノという左利きのブラジル人ボランチも置いていたのだが、あくまでもゲームメイクするのは左SBのゼ・カルロスだった。そして次の2008シーズンには尾亦弘友希という左SBを湘南から獲得して、彼がゲームメーカーになり、続く2009年にはマルチネスという左利きのブラジル人ボランチを獲得し、今度は彼がゲームメーカーになった。そしてマルチネスが退団した後は、現在マリノスに所属している扇原貴宏がそのポジションを務めた。また、ガンバに来る直前に指揮していたサントスでは、チアゴ・マイアというブラジルU23代表選手をボランチに置いており、この選手も左利きである。
このように、クルピ監督は必ず左利きのゲームメーカーを置く。しかし、ガンバはそれに類する選手を獲得していない。

また、SBについても、クルピ監督はブラジル人監督らしく、必ず一定の足元の技術を求める。上述のゼ・カルロスという選手がゲームメーカーを務めていた時代、セレッソには丹羽竜平という左SBがおり、この選手は後に、ユンジョンファン監督と共にサガン鳥栖の躍進に貢献することになる選手なのだが、クルピ監督がいた時には、殆ど使ってもらえなかった。ゼ・カルロスはお世辞にも守備が良い選手とは言えず、DFとして見た時には明らかに丹羽の方が良いプレーを見せていたのだが、クルピ監督の中では、守備で何が出来るかよりも、ボールを持った時に何が出来るかの方が優先順位が高いので、結果的にそうなった。
昨季のガンバの両SBのレギュラーは、左が藤春、右がオ・ジェソクで、どちらも守備、そしてアップダウンの運動量というのが持ち味の選手。つまり明らかにクルピ監督の嗜好とは異なる選手だが、ガンバは代わりとなる選手を獲得していない。
そこから考えても、ガンバはクルピ監督の色に染まったチームを作るよりも、2年後、3年後のベースアップを見据えたチーム作りをしたい、ということなのではないだろうか。

上記を踏まえて、2018シーズンのガンバのスタメン予想をしてみたい。

2018年ガンバ大阪スタメン予想
長沢 アデミウソン
倉田 井出
(泉澤)
矢島
(遠藤)
今野
初瀬 ファビオ
(菅沼)
三浦 米倉
東口

恐らくスタートは中盤ボックス型の4-4-2になるのではないだろうか。ブラジル人監督は大体、この形が初期選択になるし、セレッソの時もそうだった。
SBについては、上述の通りテクニック優先なので、藤春、オ・ジェソクよりも、初瀬、米倉と言った選手が重用されるのではないかと予想する。左ボランチについては左利きの選手がいないので、素直に獲得した矢島を使うと思うが、現在右膝前十字靭帯断裂で離脱している藤本が戻ってきたら、彼を左ボランチで使う、ぐらいのことはやると思う。セレッソの時は家長であったり、アタッカーとして獲得したキム・ボギョンであったりをボランチにした監督でもある。また、扇原を左SBにしたこともあった。守備力よりも、ボールを持った時に何が出来るかが優先なので、そういうチョイスは当たり前にやる。

また、前線については長沢のような選手が必須になる。クルピ監督のサッカーは良く言えば前線が自由、悪く言えば前線の動きにあまり約束事がないので、どこかに収まりどころが無いとカオスな状態になる。2011年のセレッソは2010年ほど攻撃に機能性がなかったが、それは家長を失った、というところが大きく、つまり家長のような、ボールが収まる選手、ボールの基準点となれる選手がいないと、アドリブ主体の攻撃が立ち行かなくなる。今でも覚えているが、倉田がセレッソに所属していた2011年、チームの理想フォーメーションを聞かれた時、トップ下に本来ボランチのマルチネスを置いていて、「ボールが収まるので」と応えていた。つまりそういうことなのである。
ガンバの場合、良くも悪くもアデミウソンのポテンシャルがまだ未知数なので、彼がその役割を務められる可能性もあるが、現時点では、長沢が適任だと考えられる。

後は、セレッソの時の丸橋のように、クルピ監督によって抜擢される若手の選手がいるかどうか、というところになる。
良く、クルピ監督が見出した選手の代表格として香川真司の名前が上るが、彼は元々ジュニアユース時代から代表経験があり、他チームとの競争を制してセレッソが獲得した選手でもあるので、無名の状態からクルピ監督が拾い上げたわけではない。大抵、スター選手だった柿谷との比較で語られるので、分かりやすい対比として無名だった、とされてしまうのだが、実際にクルピ監督が無名の状態から育て上げたのは、寧ろSB丸橋、そしてDFの山下達也になるのではないだろうか。クルピ監督自身がDF出身なので、若い選手には口を酸っぱくして守備の個人戦術を教える傾向があり、そういう指導を受けた選手の中から誰が伸びてくるのか、というのは楽しみの一つである。また同じ意味で、現時点で既にレギュラーの三浦についても、まだ伸びる可能性はあるのではないだろうか。

最後に、ガンバが上記のスカッドで今シーズンどこまで行けるか、というところだが、正直、リーグ戦を制する、というのは難しいのかなと。トップグループにいる川崎フロンターレ、鹿島アントラーズと比べると、やはり控えレベルの選手層が薄い。特にファーストボランチとCBについては、今野、ファビオ、三浦に怪我や累積があると、途端に計算できない状態になってしまう。
そう考えると、今季のガンバの現実的な目標は、控え選手のレベルの底上げを図りつつ、天皇杯、またはルヴァンカップのタイトルを狙う、ということになると考えられる。

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