日時 | 2017年11月15日(水)04:45 ※日本時間 |
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試合会場 | ヤン・ブレイデルスタディオン |
試合結果 | 0-1 ベルギー代表 勝利 |
欧州遠征の2戦目、日本代表はFIFAランキング5位のベルギー代表と対戦。善戦はしたものの、後半27分にナセル・シャドリのクロスからルカクのヘッドで失点、0-1の惜敗となった。
15 大迫 |
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8 原口 |
18 浅野 |
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2 井手口 |
25 長澤 |
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16 山口 |
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5 長友 |
20 槙野 |
22 吉田 |
19 酒井 |
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1 川島 |
この試合の日本代表のスタメンは、前回のブラジル戦から2名が変更となり、久保に代わって浅野、長谷部に代わって長澤が入った。また、フォーメーションについては、ブラジル戦では井手口をトップ下に置く4-2-3-1だったのに対して、この試合では山口をアンカー、その前に井手口と長澤を置く4-1-2-3だった。
9 ルカク |
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18 トルガン・アザール |
14 メルテンス |
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22 シャドリ |
6 ビツェル |
7 デブライネ |
15 ムニエ |
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5 フェルトンゲン |
24 カバセレ |
3 フェルメーレン |
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12 ミニョレ |
一方のベルギー代表は、ルカクを1トップに置く3-4-2-1。ベルギー代表のワールドカップ予選は見ていないので、普段から3バックなのか、それともこの試合で始めて試したのかは分からないが、ベルギー代表監督のロベルト・マルティネスはプレミアリーグのウィガン・アスレティックで監督を務めていた時も、当時のプレミアは殆どが4バックだったにも関わらず3バックのシステムを採用していた監督なので、監督の嗜好で選択している面もあると思う。
メンバーについては、個人的に楽しみにしていたエデン・アザールはベンチ外(スタメンのアザールは弟)。また、GKもクルトワではなくミニョレだったので、コンディション的な理由なのか、テスト的な理由なのかは分からないが、本来のスカッドからは少し落として来ている。それでも十分に豪華なメンバーなのが恐ろしいところだが。
両チームのフォーメーションを見ても分かる通り、この試合は3-4-2-1の相手に対して、日本は4-1-2-3で戦う、ということで、 埼玉スタジアムで行われたワールドカップアジア最終予選のオーストラリア戦と同じマッチアップ。つまり、快勝したオーストラリア戦の戦い方が、FIFAランキング5位の強豪にもそのまま通じるのかを試す舞台となった。(オーストラリア戦のレビューは下記を参照)
Gagner!! ワールドカップアジア最終予選 日本代表 VS オーストラリア代表
この試合、日本はオーストラリア戦と同じく、マンツーマン守備で前からハメに行く、そして奪ったら手数を掛けず、相手3バックの脇のスペースを使う、という戦い方だった。基本的には、センターFWの大迫と、原口・浅野の両ウィングが相手3バックを、井手口と長澤のインサイドハーフが相手の2ボランチをマンマーク気味に見る、という形なのだが、ベルギーはオーストラリアよりもCBの攻撃参加が多いので、その分日本の守り方も少し複雑になっていた。大まかに言うと、ベルギーの左右のCBがサイドから上がってきた場合は原口、浅野のウィングが見る、中から上がってきた場合は井手口、長澤のインサイドハーフが見る、という形になっていて、前者の場合は相手のWB(ウィングバック)は日本のSBが見る、後者の場合は本来インサイドハーフが見る相手のボランチがフリーになるので、アンカーの山口がそこを見る、という形になっていた。
また、オーストラリア戦がそうだったように、相手の2シャドー(この試合で言うとメルテンスとトルガン・アザールのところ)がフリーになりやすいので、そこをどう抑えるか、という問題については、CBの一人はルカクを見る、もう一枚はボールサイドのシャドーを見る、そして、2枚のCBが相手に付いて行くことによって空いたスペースは、アンカーの山口がDFラインに入って埋める、という形で守っていた。
上述の形で日本はそこそこ守れていたので、守備が機能していなかった、というわけではないのだが、個人的には、ベルギーやブラジルのようなワールドカップのグループリーグで第一シードとなるような国相手には、この守備戦術で90分間戦うのは厳しい、という印象を受けた。
理由はいくつかあるのだが、まず第一に選手が疲れる。
特にインサイドハーフとウィングの選手がきつい。インサイドハーフの選手は相手のCBを見るか、ボランチを見るかをその都度切り替えないといけないし、ウィングの選手も相手CBを見るか、WBを見るかをその都度切り替える必要がある。また、ウィングの選手は相手WBに付いていく場合、場合によっては自陣最終ラインまで戻らないといけない。つまり、頭も身体も疲れる。
この試合ではベルギーが先制したが、仮に日本が先に点を取れていたとしても、最後には追い付かれていたのではないか、という気がするぐらい、日本の方は終盤に走れなくなっている選手がかなりいた。6人交代できる親善試合でそうなのであれば、3人までしか交代できない、しかも連戦になる本番ではより厳しい。
2つ目として、アンカーのタスクが多すぎる。
この試合は山口がアンカーを務めていたが、本来のバイタルのスペースを埋める仕事だけでなく、インサイドハーフが相手CBのマークに出て行った時は相手のボランチのマークを引き受ける必要があり、CBやSBが相手に付いて行って前に出た時にはDFラインに下りてカバーする必要がある。その都度優先順位を判断する必要があるし、ひとつでも判断を誤ると、失点に直結するエリアで相手がフリーになったり、スペースを誰も埋めていない、ということが起こってしまう。
3つ目として、1人が剥がされると全員が裏返される。
オールコートでマンツーマン守備をしているということは、誰かが剥がされても、誰もカバーに行けない、ということである。この試合の前半に、井手口が滑ってデブライネをフリーにしてしまう、というシーンがあったが、全員が自分のマークを受け持っている以上、誰もそこのカバーに行けない。結果、自分のマークとフリーになった選手の両方を見ながら背走するしかない、という状態になる。そして、そうした状況は相手の個人能力が高ければ高いほど起こりやすい。
4つ目として、相手がフォーメーションを崩して攻撃してきた時にマークがずれやすい。
この試合では前半27分にも、ベルギーの右WBのムニエが中に入ってきた時、ムニエを見ていた原口、ビツェルを見ていた井手口との間でマークの受け渡しが上手くいかず、原口がビツェルをファウルで止めた、というシーンがあった。
そして後半の失点シーンでは、中に入ってきた左WBシャドリを誰が見るのかがはっきりせず、ペナルティエリア内まで進入させてしまい、結果的にシャドリのクロスから失点してしまった。失点シーンだけで言うと、シャドリは山口が見るべきだったと思うが、上述のように、山口のタスクとしてはバイタルのスペースのケア、CBやSBがDFラインから出た時のカバー、インサイドハーフが放した相手ボランチのマーク、というタスクが既にあり、そこに4つ目のタスクまで入り込んでくると、状況判断を正確に行うのは相当難しくなる。
また、これは結局のところ、全体がマンマークで守るとイレギュラーな事態に対応しにくい、ということであり、相手がフォーメーションを変えてきたり、味方が怪我で一時的にピッチを出たりした場合にも、同じ問題が起こると思う。
5つ目として、守備から攻撃への切り替えの時にバラバラになる。
オーストラリア戦のように、前から守備をして即座に奪い返せれば、そのまま攻撃に移れるので問題ないが、ベルギーやブラジルのように、一発で奪えない、2度追い、3度追いをする必要がある、という相手の場合、それだけボールを奪い返した後の各選手のポジションは崩れてしまう。そうなると、奪い返した後、誰がどこにいるのか、という確認から始めないといけないので、スムーズに攻撃に移れない。
そして最後に、これは山口をアンカーに使う場合、という前提だが、アンカーのところでミスマッチを作られやすい。
相手チームからすると、FWがサイドに流れるなり、引いてくるなりして日本のCBを最終ラインからおびき出すことが出来れば、最終ラインに山口が入るように誘導することが出来る。そこに身長のある選手を送り込めば、吉田や槙野、昌子といった選手ではなく、山口とのハイボール勝負に持ち込める。
この試合ではそういう形はなかったが、アンカーにCB的な選手ではなくボランチ的な選手を起用する限り、相手がそこを狙ってくる可能性はつきまとう。
ネガティブなことばかり書いたが、全然ダメだった、ということではなく、チャンスもそれなりに作れたし、親善試合でリスクも洗い出せた、という意味で、有意義なチャレンジだったと思う。ただ、この戦いを強豪に対して90分間行うのは無理、ある程度の時間帯は、相手に回させて危険なゾーンだけ埋めるという守備が必要、というのが結論になると思う。
次の代表戦は12月の東アジアE-1選手権。ここは国内組のみの招集になるため、次にフルメンバーで強豪と戦えるのは来年3月の国際Aマッチデーになる。アルゼンチン代表と調整している、という記事も出ているが、どうなるだろうか。