Gagner!! ワールドカップアジア最終予選 日本代表 VS オーストラリア代表

日時 2017年8月31日(木)19:35
試合会場 埼玉スタジアム2002
試合結果 2-0 日本勝利

日本がホームでのオーストラリアとの直接対決を制し、2018年ロシアワールドカップへの切符を掴み取った。まずは、日本代表のワールドカップ出場決定を喜びたい。
この試合の結果で日本とオーストラリアの勝ち点差が4となったこと、そして、前日の試合で2位のサウジアラビアがUAEに敗れていたことで、ワールドカップアジア最終予選グループAは、1試合を残して日本の1位突破が確定。結果的に最終戦までもつれることは無かったが、今回の予選は最後まで日本、オーストラリア、そしてサウジアラビアが3強を争い、1位突破の可能性も、大陸間プレーオフに回る可能性もある、と言う展開。アジアの出場枠が4.5となったドイツワールドカップ予選以降では、もっとも苦しめられた予選だったのではないだろうか。
また、この試合の相手オーストラリアは、2006年にオセアニアからアジアに籍を移して来て、それ以降ワールドカップ予選では日本に一度も敗れていない、と言う相手。しかも日本に勝利すればオーストラリアの予選突破が確定する、と言う状況。文字通り最終決戦にふさわしい相手だったわけだが、日本は殆どつけいるスキを与えず、会心の勝利と言える内容だった。

日本代表フォーメーション
15
大迫
14
18
浅野
2
井手口
16
山口
17
長谷部
5
長友
3
昌子
22
吉田
19
酒井宏
1
川島

この試合の日本代表のフォーメーションは、長谷部をアンカー、その前に井手口と山口を置く4-1-2-3。また、左右のウィングには、これまでレギュラー格だった原口、久保、本田といった選手ではなく、乾、浅野を配置した。
この試合に臨む上での日本代表メンバー、特に海外組のコンディションにはバラつきがあり、香川は前回の召集時に受傷した左肩の脱臼が治癒しきっておらず、本田もACミランからメキシコのパチューカに移籍した後しばらく負傷離脱していて、直前に復帰したばかり。また、これまで好調を維持していた久保も、今季は所属チームのヘントで不調を託っており、原口もヘルタ・ベルリンからプレミアリーグのブライトンへの移籍を志願したものの、話が途中で頓挫し、この間までヘルタからベンチ外の処遇を受けていた、と言う状況(直前の試合では途中出場)。一方で、乾、浅野、長友、岡崎、そして(この試合での出場はなかったが)柴崎といった選手は、開幕戦や欧州のプレシーズンマッチで存在感のあるプレーを見せており、ハリルホジッチ監督の人選は、そうした状況を踏まえた上でのものだったと思う。

オーストラリア代表フォーメーション
10
クルーズ
23
ロギッチ
14
トロイージ
3
スミス
21
ルオンゴ
22
アーバイン
7
レッキー
6
スピラノビッチ
20
セインズベリー
5
ミリガン
1
ライアン

一方のオーストラリアは、3-4-2-1の布陣。かつてのオーストラリアは4-4-2のフォーメーションでロングボールを多用する、昔のイングランドサッカーで言うキックアンドラッシュが主体だったが、現在はパスサッカーを標榜しており、この試合の少し前、6月にアジアカップ王者として出場したコンフェデレーションズカップでは、この3バックのフォーメーションとパスサッカーで、ドイツ相手には2-3で敗戦、カメルーン、チリには供に1-1で引き分けと、各大陸の強豪相手に善戦を演じている。
ちなみに3バック左のスピラノビッチはかつて浦和に、右のミリガンはかつて千葉に在籍した選手である。ベンチには現在マリノスに在籍しているミロシュ・デゲネクも入っていた。

この試合は、ポゼッションではオーストラリアが上回っていたものの、主導権を握っていたのは常に日本、という展開で、それだけ日本の守備がハマっていた。アウェイの対戦時にはどちらかというと引いて守ってカウンター、という戦いを日本は選択したのだが、この試合では、同じく狙いはカウンターであるものの、プレスの位置はアウェイでの対戦時よりもずっと高かった。
基本的な戦い方としては、4-1-2-3でマンマーク気味に前からハメに行く、ゴールに近い位置でボールを奪う、と言う形を狙っていて、オーストラリアの3CBがボールを持ったら、乾、大迫、浅野の3人でプレスを掛ける、同時にIH(インサイドハーフ)の山口と井手口も前に出て相手2ボランチのところを潰す、ボールサイドのCBとSBもボールを中心に押し上げて相手のシャドーとボールサイドのWBを潰す、そして逆サイドのSBは絞る、と言う形で、たとえ低い位置であっても、オーストラリアには時間も選択肢も与えない、と言う守備だった。そして、前からハメに行く守備でボールを奪ったら、その勢いのまま、両サイドの乾、浅野やIHの山口、井手口がオーストラリアの3CBの脇、もしくは間のスペースを狙っていく。試合開始直後から終了まで、日本はこの形で何度もチャンスを作った。

また、日本のほうは前で潰せなかった時や相手ボールでプレーが切れた時には4-1-4-1で引いてゾーンを埋める、という形もあり、この形と前述の前からハメに行く形を状況に応じて使い分けながら守っていた。4-1-4-1の時には両ウィングの乾、浅野は相手のWBのレッキー、スミスを見ているのだが、そこから彼らがWBのマークを捨てて相手CBのところにプレスを掛けに行く、と言うプレーが、前からハメに行く守備への移行のトリガーとなっていて、特に右ウィングの浅野が、後ろの状況を見ながらスミスのマークを捨ててスピラノビッチにプレスを掛けに行く、それを見て全体が押し上がる、というシーンが何度も見られた。

オーストラリアのほうは、こうした日本の積極的なプレスに対して、シャドーの選手を使いながらボールを回す、と言う形を持っていて、23番のロギッチ、14番のトロイージが引いてボールを受ける形が多かった。引いて受けるシャドーの選手に対して、日本のCBはどこまでも付いていくことは出来ないのでいったん離す、日本は長谷部のワンボランチなので、その脇にはスペースがある、そして、IHの山口と井手口は基本的にはオーストラリアのボランチを見ている、ということで、日本としては長谷部の脇のスペースで受けるオーストラリアのシャドーの選手への守備が浮いた状態になることが多かった。
ただ、日本は山口と井手口の両IHの運動量がそこをカバーしていて、この2人が相手ボランチのところにプレスに出て行く、そして後ろのシャドーの選手に出たら今度はプレスバックする、という守備を繰り返し行っていた。この2人のところ、そしてウィングの乾、浅野のところの守備の献身性は、日本の守備の生命線になっていたと思う。

日本としては、守備のミッションは遂行できていたので、後はどこかで1点取れれば、という展開だった。全体練習の時間が殆ど取れないスケジュールの中、流石に奪った後の連携までは整理されておらず、せっかく良い形で奪っても、それを良いフィニッシュに繋げられない、選手同士の意思疎通が合わない、という時間帯が続いたのだが、前半の41分、ついに先制に成功。得点は左SB長友の右足のクロスからだった。相手DFラインの裏のスペースに送られたボールに、右サイド、相手左WBのスミスと左CBのスピラノビッチの間から浅野が斜めに走り込み、左足で丁寧に合わせてゴール。
このゴールシーンは長友のクロスが完璧だった。左サイドから中央にカットインしながらの右足のクロスで、長友にはオーストラリアの選手が2枚付いてきていたのだが、そのマーク越しにファーサイドにいる浅野の動き出しをしっかり見ている、そこにドリブルと変わらない小さな足の振りでドンピシャでクロスを合わせる、というのは正しくワールドクラスのプレーだったと思う。
クロスの瞬間、オーストラリアの最終ラインは押し上げようとしていて、それによって裏に走った浅野がフリーになったわけだが、「2枚付いているので押し上げても大丈夫」という意識だったオーストラリアと、「付いていても上げてくる」という意識だった浅野、という風に考えると、想定しているプレーレベルの差が生み出したゴール、だったとも言えるのではないだろうか。

日本としては、準備してきたプランは遂行できている、そして先制点も奪うことが出来た、という理想の展開で後半へ。
ただ、これまでの予選でも、日本は準備してきたプランは実行できているのに、怪我人が出たり、誤審があったり、最後にミスが出てしまったりして勝ち点を落としてきたので、たとえ理想の展開であっても、絶対に気を抜くことは出来ない、という後半だった。
日本にとって幸運だったのは、後半のオーストラリアがやり方を殆ど変えずに臨んできた、ということで、例えば前述の通り、日本は引いて守る時は4-1-4-1の形になるので、オーストラリアとしては3CBの一枚を上げても、まだ最終ラインでは大迫に対して2-1の数的優位なのだが、CBを攻撃参加させるプレーは殆ど見られなかった。また、前半は(浦和や広島がよくやるような)CBの間にボランチが下りてきてボールを受ける、というプレーをオーストラリアの方がした時に、日本の選手はマンマーク気味に付いているので、どこまで付いていくか迷う、というシーンが見られたのだが、そういうプレーを後半は増やす、ということもなかった。
日本としては、4-1-2-3で前からハメに行く守備をした時にズラされてしまうことと、逆に4-1-4-1で引いて守る守備をした時に自陣に張り付けられてしまうこと、その2つが怖かったわけだが、結果的にその2つの状況は殆ど起こることはなかった。
ただ、後半は前半と較べてオーストラリアの方がサイドを起点にした攻撃を増やすようになり、そうなると日本の方はウィングの2人のポジションが下がってしまい、1トップの大迫が孤立しがちになったのだが、大迫は孤立しても、そして複数の選手相手でも、ボールを収めることが出来るので、そのプレーが、日本の陣形を前に引き上げる大きな力になっていて、自陣に張り付けられてしまう、という状況が起こらなかったのは、それが大きかった。

状況が動かないので、オーストラリアのアンジェ・ポステコグルー監督は、後半15分には14番トロイージを下げて9番ユリッチを、後半24分には23番ロギッチを下げて「日本キラー」4番ティム・ケーヒルを投入。10番クルーズをトップ下に置く3-4-1-2にフォーメーションを変えた。

オーストラリア代表フォーメーション(後半24分以降)
9
ユリッチ
4
ケーヒル
10
クルーズ
3
スミス
21
ルオンゴ
22
アーバイン
7
レッキー
6
スピラノビッチ
20
セインズベリー
5
ミリガン
1
ライアン

ただ、この変更は結果的に、オーストラリアにとって悪手だったのではないだろうか。前述の通り、オーストラリアのパス回しの中で、日本のプレスに対して唯一フリーになれる箇所が2シャドーのところだったので、そこを1枚にしてしまうと日本のワンボランチに対しての優位性が失われてしまう。そうなると、中盤より後ろと2トップをつなぐプレーが出来なくなってしまうので、2トップに変更して以降のオーストラリアは、少しずつ前後分断的なサッカーになって行った。以前のオーストラリアであれば、前後分断になってもFWに向かってロングボールを蹴る、というサッカーだったので問題は無かったのだが、今のオーストラリアはグラウンダーのパスを繋いでいくスタイルなので、選手同士の距離が離れてしまうと、パスがカットされてしまう、そしてカウンターを受けてしまう、というリスクは高まることになる。

ハリルホジッチ監督は、後半30分、疲れから動きの落ちてきた乾に代えて原口を投入。
そして37分に、試合を決定づける井手口のゴールが決まった。ゴールは完全に、試合開始から日本が狙い続けていた形で、FW・両ウィングの3人+IHの2人でオーストラリアの3CBと2ボランチを前からハメに行き、奪い取ったらその勢いのままカウンター、という形。オーストラリアの方は上述の通り、2トップ化したことによって前後分断的なサッカーになっていて、それでも繋ごうとしていたので、こういう局面が生まれたのはある意味必然だったのかもしれない。
奪い取ったボールを良い形で井手口に落としたのは交代で入った原口で、フレッシュな状態の彼を入れたことで、前線のプレスの強度がまた上がった、そして攻撃に移った局面でも一つ良い仕事をしてくれた、ということで、ハリルホジッチ監督としては、試合前からの狙い、そして試合中の交代采配、その2つをしっかりと結果に結びつけることが出来た、と言えるゴールだったのではないだろうか。
井手口のシュートも素晴らしかった。上述の通り、IHの2人は相手ボランチへのプレスと相手2シャドーへのプレスバックを試合中繰り返しており、特に井手口の方は、役割分担的に、山口・長谷部がバランスを取って、井手口が大きく動く、という形になることが多かったので、この時間帯まで相当走っていたと思うのだが、その状況で前から奪い取る守備をして、最後にはドリブルで中に入って行って、ミドルシュートを突き刺す、それだけのプレーができる余裕がまだある、というのは、良い意味で、この試合最大の驚きだった。

後半40分、オーストラリアは22番アーバインを下げて15番アミニを投入。それに対して日本は、41分に大迫を下げて岡崎を、42分に浅野を下げて久保を投入。そして日本が2点のリードを保ったまま、3分のロスタイムが経過し、主審がホイッスル。この瞬間、日本の2018年ロシアワールドカップへの出場が決まった。
この試合でハリルホジッチ監督が交代カードを切ったのは全て前線の選手。それだけ前からの守備を重視していた、ということだと思う。

結局オーストラリアは、最後までロングボールは使わず、「繋ぐサッカー」を変えることはなかった。また、日本の1トップに対して3CBである優位性を活かしてCBの1枚を高く上げるとか、日本のIHのプレスに対してボランチをDFラインまで落としてプレスに来させないようにするとか、そういう日本のプレスをズラすメソッドも、余り持っていなかった。日本は最後まで、試合前から準備してきた形を行い続ければ良く、それが、この試合が日本の完勝で終わった一番の要因だったと思う。オーストラリアも日本と同じく、海外組が中心なので、集まって練習できる時間が少ない中で出来る最大限のサッカーが今のサッカー、ということだったのかもしれない。

ただ、日本がワールドカップに行けば、「そうではないチーム」との戦いが待っている。ドイツやイタリア、スペインと言った強豪リーグを抱える国は、国内組だけで代表が組めるし、ベルギーやフランス、南米の強豪国といった国は、集まる時間が少なくても、個々の判断で相手のプレスを無効化するようなプレーができる。また、アフリカのチームには、たとえ相手のプレスがハマっていても、個の力だけで前を向けるような超人的な選手がいる。
そういう国々相手に、日本がどれだけのサッカーができるか、というのは未知の部分であり、そしてそれは、アジア予選と本大会のレベル差という、これまでも、そしてこれからも存在し続ける問題なので、本大会までにそこをどうやって埋めていくか、というのが今後の日本の課題になると思う。

最後に、この試合のマンオブザマッチには、酒井宏樹を挙げたい。
この試合では日本の守備がプラン通りに行っていたこともあり、危ないシーンというのは殆どなかったのだが、何度か日本のペナルティエリアの脇のスペースに侵入されたシーンがあり、それが数少ない危険なシーンだった。しかし、その時の酒井宏樹の対応、自分と同サイドでそれが起こった時には相手ボールプレーヤーへの対応、自分と逆サイドでそれが起こった時には絞ってCBをカバーする対応、それが非常に良くて、彼のプレーが何度も日本を助けていた。
これまでの予選中の試合のように、「プラン通りに行っていたが最後にはやられてしまった」という試合にならなかったのは、彼のプレーによるところが大きかったと思う。

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