ポゼッションするリアクションサッカー。J1第26節 サンフレッチェ広島 VS セレッソ大阪

日時 2017年9月14日(土)18:33
試合会場 エディオンスタジアム広島
試合結果 1-0 サンフレッチェ広島勝利

優勝争いに付いていくために、この試合は何としても勝っておきたいセレッソ。一方の広島は、シーズン途中に森保監督が辞任し、新たにヤン・ヨンソン監督の元で再起を図っている状況。両チームとも、結果が欲しいことには変わりないが、セレッソのほうは上位を争っている、広島のほうは残留を争っている、ということで、その立場の違いと言うものが試合に少なからず影響を与えていた。

セレッソ大阪フォーメーション
9
杉本
8
柿谷
24
山村
16
水沼
6
ソウザ
10
山口
14
丸橋
23
山下
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

セレッソのフォーメーションはいつもの4-2-3-1。ただし、前節FC東京戦ではスタメンだった木本が外れ、山下が代わりに入った(木本はベンチスタート)。

サンフレッチェ広島フォーメーション
39
パトリック
18
30
柴崎
44
ロペス
2
野上
6
青山
3
高橋
4
水本
5
千葉
40
丹羽
34
中林

一方の広島は、長年の代名詞だった3-6-1のフォーメーションを、森保監督の退任と共に封印し、現在は4バックを採用。この試合は4-2-3-1でスタートした。1トップに入ったパトリック、右SBに入った丹羽大輝は、いずれも夏の移籍期間中にガンバ大阪から獲得した選手である(ただしパトリックについては所有権を持つアトレチコ・ゴイアニエンセからのレンタルと言う扱い)。

3バックから4バックに変わったとはいえ、広島のサッカーの基本は変わっていなかった。広島のサッカーは「ポゼッションするリアクションサッカー」とも言うべきもので、相手を崩すためにポゼッションするというよりも、ポゼッションしながら相手の守備のアクションを待って、相手がプレスに来たらその裏を取っていく、というサッカーである。前々監督のペトロヴィッチ監督の時からその傾向はあったが、森保監督になってそれがより顕著になり、現在に至っている。
極端に言うと、相手がアクションを起こさなければ、いつまでも勝負の縦パスは入れず、ひたすら回し続ける、と言うサッカーで、つまり、一度広島にボールが渡ると、そのボールは中々こちらに返ってこない、ということになる。もう一度マイボールにするためにはどこかで広島のパス回しを阻害してボールを回収する必要があるわけだが、勝負の縦パスを入れてこないということは、パスをカットするタイミングも限られるということであり、それでも強引に奪いに行くということは、広島の誘いに乗る、ということでもある。そういう相手なので、広島と戦う時は、必ず我慢、忍耐、集中力、という物が必要になる。

前半はまさに典型的な広島戦、という展開で、広島の方はわざと前線と最終ラインを間延びさせた状態で、パスを回しながらセレッソのアクションを待って前残りしている前線にパスを付けるタイミングを窺う、それに対してセレッソは、中盤をコンパクトにして、その誘いに乗りすぎない、広島の最終ラインでのパス回しに食いつきすぎない、というところを注意しながら戦っていた。
ただ、両チームの立場を考えると、残留争いをしている広島の方は、上位のセレッソに対しては勝ち点1でも良いという立場、それに対してセレッソの方は、首位の鹿島に付いていくために絶対に勝ち点3は欲しい、特に残留争いをしている相手ということであれば尚更、という立場なので、展開的に焦れていたのはセレッソの方だったと思う。
とは言え現状、個の力はセレッソの方が上であり、間延びしている広島に対して、セレッソは相応のチャンスは作れていたので、必ずしも悪い流れ、というわけではなかった。

前半を0-0で折り返し、後半に入ると、セレッソの方はより積極的に前から奪いに行く、得点を取りに行く、というサッカーに変化。これは上述の立場を考えれば当然だが、結果的に、後半25分にカウンターを受けて失点してしまった。ゴールを決めたのは後半23分に柴崎に代わって入ったフェリペ・シウバだった。

失点シーンはソウザがボールを奪われたところから始まったのだが、その後の山口の守備対応が悪かった。
奪われたボールがフェリペ・シウバに渡り、広島のカウンターが始まった時、セレッソの方はボールより後ろにCBのヨニッチと山下、そしてボランチの山口が残っていて、広島の方はパトリックひとりが前残りしている状態だった。そこから山口がボールを持ったフェリペ・シウバに寄せたのだが、フェリペ・シウバからパトリックに縦パスが通った。この縦パスを通してしまったのはしょうがないし、寧ろ、ここで縦パスを出してしまったのはフェリペ・シウバの選択ミスだったと言える。カウンターの時、最前線にいる選手に早めにボールを付けてしまうと、ボールを受けた選手の前には誰もいないので、必ず詰まってしまう。パスを出したフェリペ・シウバとパトリックの間には距離があったので、パトリックからすると、山下、ヨニッチを相手に独力でシュートまで持って行くしかない、という状態に一瞬なった。カウンターのセオリーとしては、フェリペ・シウバはパスを出さずにドリブルすべきで、それをしながらパトリックがシュートできる位置に動きなおす時間や、味方がフォローに上がってくる時間を作るべきだったのだが、早めに出してしまったことで、セレッソの方としてはパトリックへの注意はヨニッチと山下に任せ、フォローに入る選手だけ押さえておけば良い、という状況になった。
よって、山口の対応としては、そのままフェリペ・シウバに付いていけば良かったのだが、何故かボールを追いかけてパトリックの方に寄せてしまい、結果、パトリックからフェリペ・シウバにパスが出て、山口は慌ててそちらに寄せ直したのだが間に合わず、シュートを打たれてしまった。
山口は日本代表のボランチでもあるので、こういうプレーを見ると、二重の意味で暗澹とした気持ちになってしまう。前回の広島戦でも山口はスペースを埋めるべき場面でボールを追いかけてしまって失点の原因を作っているので、厳しい言い方をすると、何も進歩していない、ということになる。今はまだ、日本代表自体がボランチに関しては人材難なので山口が選ばれているが、山口が今のレベルに留まっている限り、ロシアワールドカップのピッチに別の誰かが立つ可能性は、日に日に高まっていると言わざるを得ない。

セレッソは失点の後、山村、ソウザに代えて澤上、木本、その後、柿谷に代えて福満を投入し、同点を狙いに行ったが、ゴールを奪うことは叶わず、手痛い敗戦となった。

結果的に、広島は勝ち点1でも良い、セレッソは3欲しい、という立場を上手く利用されてしまったのかなと。ただ、前がかりになっていた時間帯、相応のチャンスをセレッソは作れていたので、そのどれかを決めることが出来ていれば、という試合でもあった。
また、全体が前がかりになっている時こそ後ろの選手の力が問われることになるので、そこで今回のように、ソウザが一発でボールを攫われてしまう、山口が守備対応を間違ってしまう、と言う風にボランチのところでミスが出てしまうと、やはり厳しい。

一方の広島だが、上述の通り、森保監督時代は3バックで、「ポゼッションするリアクションサッカー」というかなり特殊なサッカーをしていたのだが、監督が代わり、4バックになり、サッカーのスタイルも、この試合の終盤では(リードを奪ったと言うこともあると思うが)ポゼッションはセレッソに渡して普通のカウンターサッカーをしていたので、徐々にオーソドックスなサッカーに戻っていくのかな、と言う印象だった。今は若い選手をたくさんレンタルに出していたり、けが人がいたり、と言う状況なので、そういう選手が戻ってきて、さらに、新しい監督の下で攻守のバランスも改善されて、ということになれば、また強い広島が戻ってくるのかもしれない。

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