日時 | 2017年6月13日(火)21:25※日本時間 |
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試合会場 | PASスタジアム |
試合結果 | 1-1 引き分け |
2018年ロシアワールドカップに向けたアジア最終予選も、残すところあと3戦。日本の所属するグループBは、日本、サウジアラビア、オーストラリアの上位3チームが同じ勝ち点で並んでおり、この3チームすべてに、3位でプレーオフに回ってしまう可能性が残されている、気の抜けない状態である。
このイラク戦は、イラク国内の政情不安を受けて、代替地であるイランでの開催となった。
順位 | チーム名 | 勝点 | 得失差 |
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1 | 日本 | 16 | 9 |
2 | サウジアラビア | 16 | 7 |
3 | オーストラリア | 16 | 6 |
日本は1試合消化が少ない状態で、得失点差で首位に立っており、この試合を除いた残り試合は、ホームでのオーストラリア戦、アウェーでのサウジアラビア戦の上位直接対決。つまり日本は、この試合で勝ち点1でも取っておけば、次のオーストラリア戦に勝つことで予選突破、ワールドカップ出場が決まる。逆に、この試合に負けてしまった場合は、次の試合に勝っても突破が決まらず、最終戦、アウェーのサウジアラビア戦まで突破が持ち越されるということになり、日本としては、それは何としても避けたいところ。
ただ、日本の方は中盤の選手に怪我人、またはコンディション不良の選手が多く、ボランチの今野は前々回の予選、UAE戦で負った左第5趾基節骨骨折から復帰したばかり、同じくボランチの山口は、直前の親善試合シリア戦で右足を負傷し、プレーできるかどうかが微妙、そして、同じ試合で香川も左肩脱臼により離脱、ということで、この試合、ハリルホジッチ監督がどのようなメンバーで臨むかが注目された。
大迫 | ||||||||
久保 | 原口 | 本田 | ||||||
井手口 | 遠藤航 | |||||||
長友 | 昌子 | 吉田 | 酒井宏 | |||||
川島 |
一番懸念されていたのは、ただでさえ層の薄い状態から、更に怪我人が出たボランチのところで、そこに誰を起用するのか、ということと、シリア戦で採用した1ボランチで行くのか、それとも2ボランチで行くのか、という部分だったが、ハリルホジッチ監督は、前回のシリア戦にワンボランチとして途中出場した井手口と、遠藤航を組ませる2ボランチを選択した。
絶対に勝ち点1は持って帰らないといけない試合であること、代替地とは言えアウェイであること、ピッチ状態が悪いこと、酷暑のイランでの日中の試合であること、これらを考えると、1ボランチよりスペースを埋めやすい、リスク管理のしやすい2ボランチを選択したことは、妥当な判断だったと思う。
前線については、大迫の1トップはシリア戦と変わらず、香川が離脱したトップ下の位置には原口を、原口が務めていた左サイドには久保を置き、右サイドには本田圭佑が入った。
試合は前半8分、日本が先制。日本から見て右サイドのCKを本田が左足で蹴り、インスイングのボールを大迫がニアサイドで頭に合わせてゴールネットを揺らした。イラクの方は、ヘディングを決められたニアサイドにはストーンとして2人の選手を置いていたのだが、本田が蹴ったボールは、その2人の選手の間に、ちょうど落ちるようなボール、しかも速く曲がり落ちるようなボールだったので、まずこのボールが素晴らしかったのと、そのボールをしっかり頭に合わせた大迫のヘディングも技術の高いプレーだったので、2つの良いプレーが合わさって生まれたゴールだったと思う。また、日本の方は、イラクのストーンの2選手のうち、コーナーに近い外側の選手に対して、遠藤が競りに行く走りを見せて引き付けていて、このプレーによって、大迫が2人に対して競る必要が無かった、また、本田のボールが大迫の前でクリアされることがなかった、ということだったので、これも隠れたファインプレーだった。恐らく、本田のキック、大迫のポジショニング、遠藤のランニングは、セットで準備してきた形だったのではないだろうか。
ただ、得点を挙げたのは前半の早い時間だったので、得点の前後で、両チームの戦い方が変わることはなかった。この試合のキーになっていたのはどちらのチームも両サイドで、日本の方は、カウンターを受けたくないということと、両SHに本田と久保という起点になれる選手がいるので、そこを活かす、という意味でもまずサイドから、という攻撃をしていて、イラクの方も、ボールを保持している時にはSBを高い位置に上げて、そこを起点に、という形や、SBからクロスという形を狙っていた。
カッラル | ||||||||
アブドゥルアミール | アブドゥルザフラ | ヤシーン | ||||||
カミル | ヌーリ | |||||||
アドナン | サリム | |||||||
スラカ | イブラヒム | |||||||
カッシド |
イラクの方は、ボールを保持するとボランチが下りてきてCBが開き、両SBのアドナンとサリムが高い位置、日本のSHとSBの間のスペースにポジションを取る。これに対して日本は当初、SHの本田と久保が守備時にも高い位置を取り、開いたCBを見る、という形で守っていたのだが、そうなるとどうしても、SBとSHの間(本田と酒井の間、久保と長友の間)が空いてしまい、イラクのSBにそこで起点を作られたり、クロスを上げられたりしてしまう。もちろん、その形で逆に日本ボールになった時は、前残りしている本田と久保を起点にカウンターを始めることが出来るので、悪いことばかりではないのだが、1点リードを奪ったこと、酷暑の中で行ったり来たりのサッカーはしたくない、ということから、ハリルホジッチ監督は前半で守備の形を修正してきた。
上述の通り、この試合は非常に暑い気候の中だったので、前半30分に給水タイムが設けられたのだが、修正したのは恐らくその時で、その時間以降、日本の方は、本田と久保がイラクのSBを見る、CBについては大迫と原口が見る、という形に変わっていた。
上記の形に変えてからの日本は、攻撃面では本田、久保を起点としたカウンターの頻度が減ってしまった一方で、守備面では危ないシーンは殆ど作らせなかったので、修正は的確だったと思う。前半を1点リードで終え、後半もこのまま、試合を塩漬けに出来ればミッション成功、という流れだったのだが、複数の選手に故障が出てしまい、それが試合の分岐点になってしまった。
まず、後半17分に井手口が相手選手との交錯時に頭をピッチに打ち付けてしまい、脳震盪を起こして交代。これについては温存していた今野で代替できたのだが、その後、今度は右SBの酒井宏樹が足を痛めてプレーが出来ない状態になった。自陣PA内でダッシュした時に痛めたように見えたので、肉離れか、もしくは膝を押さえていたので半月板あたりか、後者の方が重篤なので前者であってほしいが、とにかく、そこから走れなくなった。
そして、酒井がプレーできない、という状態のまま、ボールが切れることなく繋がって、ゴール前の混戦からイラクにボールを押し込まれてしまったのだが、このシーンで、一旦はCBの吉田にボールをクリアできるチャンスがあり、そこで吉田はGKの川島にボールを任せてしまったのだが、あそこはクリアするべきだったと思う。また、任された川島の方も、ボールをこぼしてしまい、それを押し込まれたので、もっとしっかりボールを抱え込んでほしかった。
また、傷んだ酒井宏樹だが、プレー続行が難しかったのであれば、ボールが切れていなくても、倒れこむなりしてアラートを上げるべきだったと思う。そういう意思表示をしていれば、周りの選手も、まずプレーを切ることを優先していたはずなので。
結局、日本の方は交代カードを2つ、怪我人で切ることになってしまい、意図的な交代は原口を倉田に代えた1枚のみ(原口は前半から攻守に奮闘して消耗していたので、交代は妥当だったと思う)。試合終盤は久保も、足を痛めて走れない状態になっており、そのような状況下で日本がもう一度スコアを動かす、というのは難しかった。試合はそのまま、1-1の引き分けでタイムアップ。日本は勝ち点1を得るにとどまった。
試合を総括すると、勝ちたかったし、勝てた試合だったと思うが、例え引き分けであっても、持ち帰ったものは決して小さくなかった試合だったと思う。まず、勝ち点1を得たことで、次のホームでのオーストラリア戦に勝てば予選を突破できる、という状況を得ることが出来た。
また、層の薄かったボランチ、CBのところに、井手口、遠藤、昌子といった新戦力を起用し、プレッシャーのかかる試合で経験を積ませることも出来たし、先制点をアシストした本田についても、FKのキレや、起点になるプレーなどを見るにつけ、日本にとって重要な選手にもう一度戻りつつある、ということを感じさせてくれた。この後の上位直接対決を迎えるにあたって、そうした人材の台頭は間違いなく明るい材料だと言える。
一つだけ疑義を呈するとすれば、それはトップ下の人選で、この日のような試合であれば、岡崎を起用しても良かったのではないだろうか。トップ下の位置で守備に貢献できる、という意味では岡崎も原口も同じだが、そこからカウンター時の起点になったり、フィニッシュに絡んだり、という部分では、やはり岡崎の方が一日の長があると思う。
代表での岡崎は、どちらかというとストライカーとしての期待が高いが、レスターでは中盤と前線を繋ぐ役割も担っているので、そういう部分を活かせれば、もっと戦術に幅が出ると思う。
とにかく、大事なのは次の試合。相手は予選無敗のオーストラリア。この難敵にホームで打ち勝つことが出来れば、日本のワールドカップ出場が決まる。