ファン・ハールサッカーへの再挑戦。ドルトムントのプレシーズンマッチ雑感

ボルシア・ドルトムントのプレシーズンマッチ、Jリーグワールドチャレンジ2017、及びインターナショナルチャンピオンズカップを見た感想を。

2シーズンに渡って指揮を執ったトーマス・トゥヘル監督が退任し、新たにペーター・ボス監督が就任したドルトムント。7月15日には「Jリーグワールドチャレンジ2017」で浦和レッズと対戦した。
ドルトムントは2シーズン前にも、トゥヘル監督就任時に川崎フロンターレとプレシーズンマッチを戦ったが、トゥヘル監督は前監督クロップの形を踏襲して試合に入ったのに対して、今回のボス監督は、自分のやり方をまず浸透させる、というコンセプトで試合に入っており、前回と比べると、選手たちにも少しやりづらさは見えた。

ドルトムント フォーメーション(浦和戦)
オバメヤン
シュールレ プリシッチ
カストロ ローデ
シャヒン
シュメルツァー トプラク バルトラ ピシュチェク
ヴァイデンフェラー

浦和戦のドルトムントのフォーメーションは4-1-2-3。後述するミラン戦も同じフォーメーションで、かつボス監督は昨シーズン率いていたアヤックスでも同じフォーメーションを採用していたので、恐らくこの形が、今シーズンのドルトムントの基本になると考えられる。ドルトムントはトゥヘル監督時代も4-1-2-3で戦うことは多かったが、ボス監督の4-1-2-3の戦い方はその時とは大分異なっていた。
一番違っていたのはビルドアップのところで、トゥヘル監督の時はアンカーの選手(この試合で言うとシャヒン)やインサイドハーフの選手(この試合で言うとカストロとローデ)が一旦相手のプレスの外まで下りてきたり、CBが開いたりして、まず中盤の底で起点を作る、SBはそれに対して高い位置を取る、というサッカーをしていたのに対して、ボス監督のサッカーでは、シャヒンもカストロもローデも基本的には中盤のポジションから動かず、SBの位置取りも低い。そうなると、CBからのビルドアップ時に相手のプレスの外側にいるのはCBのほかにはSBだけ、ということになるので、必然的にサイド経由での攻撃になる。浦和戦では、アンカーのシャヒンをトップ下の位置に上げ、両インサイドハーフが下りてCBからのパスコースに覗く、という形で中にも起点を作ろうとしていたが、あまりうまくいっていなかった。
また、後半からは3-4-3も試したが、並びはシャヒンとカストロを2ボランチに置く中盤フラットな3-4-3だった。

ドルトムント フォーメーション(ミラン戦)
オバメヤン
プリシッチ デンベレ
カストロ ローデ
シャヒン
ザガドゥ バルトラ ソクラテス ピシュチェク
ヴァイデンフェラー

続くインターナショナルチャンピオンズカップでは、ACミランと対戦。フォーメーションは変わらず4-1-2-3。スタメン選手に関しては、シュールレの代わりにデンベレ、シュメルツァーの代わりにザガドゥ、トプラクの代わりにソクラテス、という部分のみが変更点だった。ただ、浦和戦ではインサイドハーフとアンカーの選手の位置関係が前後することが多かったのに対して、この試合では明確に、アンカーが後ろ、インサイドハーフはその前、とはっきりしていて、ボール運びも、サイドを起点に、というのがより明確になっていた。この点については、浦和戦の内容を見て変えたのか、そもそも相手によってやり方を変える、ということなのかは現時点では不明である。

ただいずれにせよ、ポジションを余り崩さない、サイドが起点になる、という部分では浦和戦と変わっておらず、そこは今シーズンのドルトムントの基本コンセプトになると考えられる。
現在のドルトムントはウィングのところにデンベレ、エムレ・モル、プリシッチ、シュールレ、そして怪我から戻ればロイスと、個の力のある選手が揃っているので、そこを起点に、というのは理に適っているのは確かである。実際、トゥヘル監督時代もサイドを起点にした方が良い形になるケースは多かった。
サイドを起点にするということは、ボールを失う位置もサイドが多くなるし、かつポジションを崩さないということは、サイドで失った瞬間に、ボールサイドのウィング、インサイドハーフ、SBの3枚で、ボールに対してすぐにアプローチできる。また、後ろではアンカーとCBが守備の準備ができる、ということになるので、カウンターを受けるリスクは減らすことが出来る。
逆に、サイドが起点になるということは、スペースが無いところで起点を作ることになるので、当然詰まることが多くなる。詰まるとCBに戻すので、必然的にCB、そしてGKの足技が求められることになる。浦和戦、ミラン戦ではヴァイデンフェラーがGKを務めたが、あまり足技のあるGKではないので、今シーズンの出場機会は限られるかもしれない。ミラン戦の後半はGKがレイマンに代わったが、ボス監督としてはそういう足技の部分、というものも見たかったのではないだろうか。

一方、代表戦で肩を脱臼したことによりプレシーズンマッチでは出場機会のない香川真司についてだが、4-1-2-3であればインサイドハーフで、浦和戦の後半のような3-4-3であればボランチのところで起用されることになると思う。ただ、今シーズンはサイドが起点になる攻撃が多そうなので、昨シーズンのような、ゲームメーカー的なプレーをする機会よりも、サイドからのボールに飛び込んだり、サイドからのボールを受けて決定的なパスを出したり、といったピンポイントな役割が多くなるのではないだろうか。また、サイドでボールを失ってしまった場合の守備対応、というものも強く求められると思う。

後ろの選手がホームポジションを崩さない、サイドで起点を作る、ウィングの個の力で勝負する、という点において、ボス監督のサッカーは非常に「アヤックス的」で、まず想起されるのはファン・ハールのサッカーである。ファン・ハールのサッカーはアドリブを余り許さない面があり、そういう部分では香川のような、自由にプレーしたい、という選手には少し相性が悪い。半面、経験の少ない若手の選手には、やることがはっきりする、という点で親和性が高い。
香川にとって、ファン・ハールのサッカーはマンチェスターユナイテッド時代に「フィロソフィーに合わない」という烙印を押されたサッカーでもあるが、今の香川はもちろん、あの時よりも成長している。香川にとっては、「ファン・ハールのサッカーへの再挑戦」と言えるシーズンになるのではないだろうか。

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