脆弱な守備で攻撃的に戦うという矛盾。J1第22節 セレッソ大阪 VS 浦和レッズ

日時 2017年7月22日(土)19:04
試合会場 ヤンマースタジアム長居
試合結果 4-2 セレッソ大阪勝利

本来、今週のJ1は休みなのだが、浦和レッズが前年のルヴァンカップ王者としてスルガ銀行チャンピオンシップに出場するため、第22節の試合を前倒しして、この日に行うこととなった。

セレッソ大阪フォーメーション
杉本
柿谷 山村 水沼
ソウザ 山口
丸橋 山下 ヨニッチ 松田
キムジンヒョン

セレッソのフォーメーションは前節と変わらず、4-2-3-1。この試合の1週間前には、スペインのセビージャとの親善試合があったのだが、その試合を恥骨付近の違和感で回避したソウザも、この試合ではスタメン復帰。よって選手についても変更はなかった。

浦和レッズ フォーメーション
興梠
ラファエル ズラタン
宇賀神 関根
阿部 柏木
槙野 遠藤 森脇
西川

対する浦和の方は、おなじみの3-4-2-1。前線は興梠、ラファエル・シルバ、ズラタンの3トップで、ズラタンのところは通常であれば武藤が務めるはずだが、ペトロヴィッチ監督いわく、セレッソのセットプレー対策として起用した、とのこと。

試合は前半6分にセレッソが先制。
セレッソから見て右サイドからのCKを西川がパンチングで逃れたボールが山口に渡り、山口からソウザへ。ソウザが上げたボールは浦和の選手に当たってこぼれ、そのボールが今度は右サイドの水沼へ。水沼が上げたクロスを、なぜかフリーになっていた杉本が押し込んだ。
浦和はCKをマンツーマン+ゾーンで守っていて、杉本に付いていたのは槙野だったのだが、西川がパンチングでボールを逃がし、浦和がラインを上げたタイミングでマークを外してしまい、杉本をフリーにしてしまった。槙野は杉本を指さして何か指示していたので、受け渡した、ということだったと思うのだが、そもそも受け渡す必要自体が無かったと思う。
また、ソウザの上げたボールが水沼にこぼれた時、水沼のポジションはオフサイド気味だったのだが、それがオフサイドと判定されなかったのは、槙野がオフサイドライン上にいたからだった。この時、槙野は杉本のマークを放した代わりにヨニッチに付いていたのだが、ソウザがボールを上げたタイミングでヨニッチに押されてポジションを後ろに動かされてしまった。結果的にそれは、オフサイド判定、という形で結果を左右したのだが、仮にそれがなかったとしても、相手に押されて距離を空けてしまう、というのは、セットプレー時の守備としては良い対応とは言えない。
また、杉本がシュートした瞬間、一番近くにいたのはズラタンだったのだが、マークがばらけた時点から、誰を見ればよいのか分からない、という状態になってしまっていて、杉本へのボールにも反応できず、棒立ちの状態だった。上述の通り、ズラタンはセットプレーの守備が期待されてスタメンとなった選手だが、タスクが決まっていない中で人だけ代えてもダメ、というのが良く分かるシーンだった。

そして前半8分、恐らく上記のゴール後、浦和ボールでの再開直後だったと思うが、セレッソが早くも2点目を奪取。浦和のビルドアップで遠藤→西川→柏木とつないだところを、遠藤に対して山村、西川に対して杉本、柏木に対して山口が順番に蓋をして、山口のところでボールを奪い取り、最後は柿谷のクロスから杉本がヘディングでゴール。このシーン、セレッソの方は、柏木のところでボールを奪う、というのが選手の共通認識になっていた。
浦和はビルドアップの時に両端のCBがワイドに広がり、後ろは下りてきたボランチ(このシーンでは阿部)、遠藤、その間に西川、という形で、GKを含めた3バックのような形になる。西川が遠藤からのボールを受けた時、杉本は西川から見て左側(阿部のいる側)からプレスをかけたのだが、この形でプレスを掛けると、西川の近くでパスコースが空いているのは柏木のところか遠藤のところしかない、そして遠藤のところは既に山村が消している、更に、左側からプレスを受けているので、西川は利き足ではない右足でボールを扱う必要がある、ということで、その次のところでボールを奪える可能性がかなり高くなる。
しかし逆に言うと、GKにまでプレスに行くということは、その後ろでは数的不利になる、ということなので、もしプレスを躱されてしまうと、ペトロヴィッチ監督のサッカー特有の、マークのズレを利用したカウンターの餌食になる可能性もある。(そもそも浦和がGKまでポゼッションに参加させているのは、その形を狙っているからでもある。)
よってこのシーンは、セレッソから見れば浦和のポゼッションからボールを奪いきれるか、浦和から見ればセレッソのプレスを躱し切れるか、という分水嶺と言えるシーンだったのだが、軍配はセレッソの方に上がった。

セレッソが試合の序盤に立て続けに得点を奪ったことで、セレッソが試合をコントロールする流れになるかと思われたが、試合はここから点の取り合いに。
前半18分、浦和は森脇のクロスをラファエル・シルバがヘディングで折り返し、興梠がボレーシュート、ジンヒョンが弾いたボールをズラタンが押し込んでゴール。興梠のシュートはヨニッチの股の間を抜けてきたので、ジンヒョンとしては反応が難しいシュートだったし、ヨニッチとしても、ボレーで体を倒した体勢から、ニアサイドではなく股間を通してファーサイドを狙ってくる、というのは予想外だったのではないだろうか。いずれにせよこのシーンは、セレッソの守り方に根本的な問題があったというよりも、ラファエルのヘディングのところで松田がもう少し競りたい、興梠のシュートにもう少しヨニッチが寄せたい、ジンヒョンのセーブはもっと外、または遠くに、山下は自分の背後にいたズラタンへの反応をもう少し速く、といった、ひとつひとつのプレーの精度の問題だったのかなと。

しかし、失点後もセレッソの優勢は変わらず、前半27分には山口が興梠から奪い取ったボールをそのままミドルシュートで浦和ゴールに蹴りこんで3点目。更に35分には水沼の左足のクロスに飛び込んだ丸橋が胸トラップからの左足シュートで4点目。

そして前半のロスタイムには、今度はラファエル・シルバがバイタルエリアで右足を振りぬいてグラウンダーのミドルをセレッソゴールに突き刺し、浦和が2点目。このシーンはセレッソの低い位置でのポゼッションの流れで、ソウザと山口が左サイドに出て行ったタイミングで柿谷のボールがカットされたところが発端だったのだが、ボランチがバイタルから出ていて、かつボールも安定化していない状態で右SHの水沼が上がっており、ボールを失った時点でバイタルに誰もいなかった、というのが失点の一つ目の原因だった。負けている状況ならまだしも、3点リードしていて、しかも前半終了間際だったわけなので、あのシーンでは水沼は絞ったポジションに留まらないといけなかった。また、慌てて戻った山口がラファエルに対して寄せすぎてしまい、右足アウトサイドの切り返しで背中側にボールを運ばれて、シュートに対応できなかったので、そこはもっと冷静に、左足の方にボールを持たせる対応が必要だったと思う。

浦和は後半、宇賀神に代えて駒井を、森脇に代えて那須を投入。前半が点の取り合いになったことで、後半はさらに、ということも考えられたがそうはならず、後半は両チームとも得点なし。後半15分過ぎにはいつも通り、セレッソの方は山村をCBに下げて3バックに移行し、2点のリードを保ったまま逃げ切った。

セレッソとしては4点は奪ったが、狙い通りの形で取ったのは2点目ぐらいで、どちらかというと浦和の守備の悪さが目立った、という試合だった。浦和の1失点目はCKの守備でマンマークなのに受け渡してしまい、その受け渡しもうまくいかず、という失点で、3失点目は奪われた瞬間に山口の一番近くにいた柏木が守備対応をせず、それを見て慌てて後ろの選手が出て行ったが間に合わず、という失点。そして4失点目は森脇が水沼のクロスに対してジャンプしたがかぶってしまい、ボールにも触れない、丸橋にも行けない、という最悪の対応。今の浦和は明らかに、組織としても、個人としても、守備対応が悪い。

浦和が何故ドルトムントに対して善戦できたかというと、それは5-4-1で守備から入る、という試合をしたからで、その試合も前半は良かったが、後半、3バックになったドルトムントに対して浦和の3トップが前から行くようになると、失点を重ねてしまった。
そして得点については、ドルトムントとの試合では2点ともセットプレーからで、この試合では興梠とラファエル・シルバの個人技から。つまり今の浦和は、守備については前がかりになっても守り切れるだけの守備力を有しておらず、逆に攻撃に関しては少ない人数でも得点は取れる、という状態なので、普通に守備的に戦った方が、5-4-1にしてカウンター気味に戦った方が、結果は望めると思う。そういう判断をペトロヴィッチ監督が下せるかどうか、という点が、浦和の今後の浮沈のカギを握っているのではないだろうか。