スタイルを貫くために必要なもの。J1第14節 ジュビロ磐田 VS ガンバ大阪

日時 2017年6月4日(日)15:03
試合会場 ヤマハスタジアム
試合結果 3-0 ジュビロ磐田勝利

ガンバはACLとの兼ね合いで先週はリーグ戦が組まれていなかったため、今節は2週間空いた状態でのリーグ戦。先だって、キリンチャレンジカップ、及びワールドカップアジア最終予選に臨む日本代表にガンバから5名の選手が選ばれたことで、耳目を集める試合となった。
対するジュビロは、左ハムストリングス肉離れで3週間離脱と見込まれていた中村俊輔が驚異の回復力でピッチに復帰。こちらも役者を揃えた状態でガンバを迎え撃つこととなった。

ジュビロ磐田フォーメーション
アダイウトン 川又
中村
小川 川辺 ムサエフ 櫻内
森下 大井 高橋
カミンスキー

磐田はセレッソと対戦した開幕時点では、中村俊輔をトップ下に置く4-2-3-1だったのだが、現在は3バックのフォーメーションが基本となっている。

ガンバ大阪フォーメーション
長沢 赤崎
倉田 藤本
井手口 遠藤
藤春 オジェソク
ファビオ 三浦
東口

一方のガンバは4-4-2。今シーズンのガンバは4バックにしたり、3バックにしたり、中盤を3枚にしたり、4枚にしたりとなかなか定まっていないのだが、この試合では最終ライン・中盤ともに4枚、その前に2トップを置くというオーソドックスな形でスタートした。

試合開始から、ジュビロの方はガンバのDFラインの裏を狙っていて、これは今シーズンのガンバが、前から奪いに行く守備をしている、それに伴ってDFラインも高い、ということを踏まえてのものだったと思う。ボールを奪うと、まず見るのはガンバSBの裏のスペース、またはCBの裏のスペースで、そこに向かってボールを蹴る、そして川又、アダイウトンの2トップがそのボールを追う、という形が何度か見られた。

試合は前半31分、磐田がアダイウトンのゴールで先制。磐田がクリアした浮き球を、中盤で川又が拾い、それを落ち着けることなくガンバDFラインの裏へ。山なりに送られたボールに対してアダイウトンが走り、並走していた三浦に競り勝ってゴール、という流れだった。
このシーンは2つ、ガンバのCBのミスがあって、一つは、ファビオが中盤に下がる川又を追って最終ラインから誘い出されてしまったこと。
川又はガンバゴールに対して背中を向けていたので、追い掛けても大丈夫、という判断だったのだと思うし、相手が背中を向けている時は押し上げる、前を向いている時は待機する、というのがDFの基本的なセオリーなのだが、もう一つのセオリーというか、例外事項として、ボールが浮いている時は、相手選手が後ろ向きであっても、裏のスペースにボールを放り込むことが出来るので、その時は安易に上げない、というものがあり、このシーンはそれに該当するシーンだったと思う。
ただ、出て行ったファビオに対して、三浦はちゃんと最終ラインに残っていたので、その後の対応が間違っていなければ良かったのだが、まずアダイウトンが裏に走った時の三浦の体の向きが悪くて、相手に対して背中を向けてしまっていたので、そこでまず初動が遅れてしまった。そして、背中を向けた状態から相手の方向を向くために、ゴール方向に走りながら180度体を回す必要があり、それによってバランスを崩して倒れてしまい、最終的にはアダイウトンを完全にフリーにしてしまった。

三浦は冒頭に挙げた、ガンバから選ばれた日本代表5人のうちの一人。特に代表のCBに関しては、これまでレギュラーだった森重が今回招集外だったので、吉田麻也のパートナーが誰になるのか、という話題があり、三浦はその候補の一人だった。この失点シーンは代表のCBの序列に対しても、少々影響を与えたのではないだろうか。

ビハインドを背負ったガンバは、前半36分あたりから、井手口をワンボランチに残し、遠藤をトップ下に上げた4-1-3-2の形に。ベンチから指示が出た感じはなかったので、当初は遠藤個人の判断だったのかもしれない。ジュビロの2トップ+トップ下の俊輔に対して、ガンバの方は2CB+1ボランチがいればいいので、ということだったのか、とにかくこの時間以降のガンバはワンボランチで戦っていた。

しかし、次のゴールを奪ったのも磐田。
ガンバから見て左サイド、ゴールから少し遠い位置からの中村俊輔の左足FKを、ガンバの選手がヘディングで逸らしたものの、これがファーサイドにいたアダイウトンに渡ってしまい、アダイウトンからのヘディングでの折り返しを川又が押し込んでゴール。
このシーン、ガンバは磐田のFKに対して、ペナルティアークの少し外ぐらいに人を並べてゾーンで守っていたのだが、FKやCKをゾーンで守る場合、ニアサイドで先に相手にボールを触られて、ファー側に運ばれてやられる、というのが良くあるパターンで、攻撃側もゾーンの守備に対してはそれを狙うことが多い。
そして、もう一つ良くあるのは、先に触ったのは守備側の選手だったが、ボールをファーサイドに逸らしてしまい、結果的に最初のパターンと同じ形になってしまってやられる、というパターン。この試合の2点目のシーンはそれで、ボールを逸らしてしまったのは長沢だったと思うが、前方、もしくはもう少しゴールから遠くに弾けていれば、ゴールは無かったと思う。ただし、ボールを蹴ったのは中村俊輔であり、曲がる、落ちる、そして速い、というボールだったので、そこもうまく弾けなかった要因ではあったかもしれない。

試合が2-0となってしまったことで、後半、ガンバは赤崎を下げてアデミウソンを、また、オジェソクに替えてU20帰りの初瀬を投入。

ガンバ大阪 後半フォーメーション
長沢 アデミウソン
遠藤
倉田 藤本
藤春 井手口 初瀬
ファビオ 三浦
東口

しかし、次の得点も磐田。
ガンバから見て3失点目のシーンは、ハイボールの競り合いの中で落ちてきたボールを磐田の川辺がガンバDFラインの裏へ、クリア気味の浮き球のパスを送り、これに反応した川又がダッシュ、ファビオが背走しながらボールをクリアしようとしたが、川又が身体ごとボールを攫って奪い取り、シュート、という流れ。
新潟は、1点目も、この3点目も、どちらかというとアバウトなボールをゴールに繋げたわけだが、それは偶然そうなったわけではなく、ガンバの方が前から奪いに来る守備をすること、最終ラインも常に高いことを踏まえた上で、アバウトなボールでも良いので裏に蹴っていく、そういうボールに対する準備をFWの選手はしておく、という狙いをチームとして持っていたからであり、実際、ゴールにはならなかった場面でも、同じような狙いを持ったプレーというのは幾つか見られていたので、1点目、3点目のゴールというのは、磐田、そして名波監督の狙い通り、と言えるゴールだったと思う。

この後、ガンバは怪我明けの今野を藤本に替えて投入するなどして反撃を試みたが、流れを変えることは出来ず、そのまま3点差での敗戦となった。

昨シーズンまでのガンバは、どちらかというと守備時にはラインを下げて、リトリートして守る形が多かったのだが、今シーズンからはそれを変えて、ラインを押し上げる、前からボールを奪いに行く、というスタイルに変わっている。またそれによって、走る量も増えている、ということは、以前の記事、「J1第10節 ガンバ大阪 VS 清水エスパルス」でも触れた。
そういうスタイルで勝利する、ということになると、前線は背後のスペースにボールを出させないように激しくプレスをかける必要があるし、後ろの選手は背後にスペースがあったとしても、相手選手とのデュエルに勝たないといけない。

この試合のガンバのスプリント数は165。ガンバの勝利試合の平均スプリント数は195なので、明らかに少ない。そして、見てきたように、三浦とファビオのミスもあった、ということで、今のガンバのスタイルを考えれば、敗れたのは必然であった、ということが出来るのではないだろうか。