今週見た記事の中で、2人の人物がイングランドの現状について、よく似た意見を述べていたのでその感想を。
要約すると、クロップはプレミア勢がUEFAチャンピオンズリーグ(以下UCL)で勝てないのは国内リーグ戦がタフだから、と述べていて、P・ネビルはイングランド代表が国際大会でタイトルを取れないのはプレミアリーグやUCLが重要視されているから、と述べている。2つの意見を合わせると、イングランド内での重要度の順番はプレミアリーグ>UCL>代表戦ということになる。つまり、国際的な試合での勝敗よりも、国内の試合での勝敗のほうがより重要視される、ということである。(イングランドは創設当初のワールドカップにも参加しなかったような国なので、昔からこのような傾向がある。)
私見を先に述べると、プレミアリーグ勢、またはイングランド代表が国際試合でなかなか勝てない理由は下記の3つだと考えている。
- 試合数が多いので疲弊する
- 下位チームが強いので休めない
- 戦術的な柔軟性に欠ける
イングランド国内の試合というのは確かにタフである。リーグ戦38試合に加えてリーグカップとFAカップがあり、ただでさえ試合数が多い上、FAカップについては伝統的に、試合がドローに終わると再試合になるため、さらに試合数が増える。また、そうした量的な負担に加えて、ボディコンタクトのファウルの基準がゆるかったり、観客がゴール前の攻防が繰り返されるダイナミックなサッカーを好む傾向があったりといった、質的な負担もある。
こうした国内の試合を戦いながらヨーロッパの大会も同時に戦うのは大変な労力を要するし、それに加えてイングランド代表選手としても戦うとなると、試合に勝てるレベルのコンディションを保つのは相当難しくなる。
また、プレミアリーグでは下位チームも資金が潤沢で、非常に強い競争力を持っている。これは国外向けの放映権料と広告収入料が完全に均等に分配されるようになっていて、順位による収入格差が少ないためである。順位によって変わってくるのは国内向けの放映権料収入で、これは1位のチームと最下位のチームであれば、現在のレートで30億円ぐらい違ってくるのだが、それでも国外向けの放映権料収入が非常に多いため、プレミアリーグに所属するだけで、膨大な金額を手にすることが出来る。
2015-16シーズン、プレミアリーグで最下位だったのはアストンビラだが、そのアストンビラですら、6600万ポンド、つまり約95億円の収入を得ている。日本人の感覚からすると、最下位のチームが100億円近くの収入を得る、というのは信じられない話である。ちなみに同シーズンで最も収入が多かったのはアーセナルで、金額は約1億ポンドだった。優勝したレスターの方が金額が少なく、彼らの得た金額は9300万ポンドである。これは放映された試合数に応じて支払われる金額が変わるためで、シーズン当初のレスターは優勝争いをするチームとは目されていなかったため、結果的に順位が下位だったアーセナルの方が放映回数が多く、このような現象が起こった。ここからもプレミアリーグの順位による収入格差が少ないことが伺える。
プレミアリーグの下位チームは、こうして得た金額を、リーグに残留するために(つまり、この収入をこれからも得続けるために)投資する。そうして必然的に、プレミアリーグの戦いは熾烈になっていき、結果、プレミア勢やイングランド代表は、国際試合に割けるリソースが少なくなる。
最後に挙げたいのは、プレミアリーグのチーム、及びイングランド人の戦術的な柔軟性の少なさである。
この点については、クロップ、フィル・ネビル共に、意図的に言及を避けていると思うのだが、プレミアリーグのチームやイングランド代表は、昔から相手に合わせるサッカーをせず、自分たちのサッカーを貫く、という傾向があり、そうなると、UCLやワールドカップの決勝トーナメントのような、一発勝負の試合では難しくなる。
また伝統的に、国内では4-4-2のチーム同士の試合が大半だったため、相手に合わせてフォーメーションを変えたり、逆に相手のポジションチェンジに振り回されないようにゾーンディフェンスを整備したり、ということが求められなかった面もある。
そうした背景は、戦術的な柔軟性を持つ選手を生まれにくくするし、そういう選手が引退後に良い監督になっていく、ということを考えると、プレミアリーグの上位チームにイングランド人監督がいない、というのもその流れの結果であると言える。
ただ、直近のプレミアリーグでは3バックのチームも増えてきたり、コンテやモウリーニョのような、相手の良さを消すサッカーを得意にする監督が海外から就任するようになってきたりと、少しずつ変わってきている。
こうした変化が、最終的にプレミア勢やイングランド代表の国際試合での復権につながることを、個人的には期待している。